短編映画を観たようなライブ。それは音楽に限らず─立ち振る舞い、ファッションなんかを含んだ─生き方を称して言うのではないだろうか。安易でありきたりな表現かもしれないが、尾崎リノのライブを観てそう感じざるおえなかったし、こんなに似合う表現はないとも思った。彼女の音楽を聴くことで自分の中にある思い出が、部屋の隙間からふとしたタイミングで出てきた写真のようにパッと思い出される。それらの思い出は大それたものではなく、本当に些細なものであるところがまたなんともいえなく良い。
彼女の作品に多い恋愛というテーマ─それが一番書きやすいからと言っていたが─は他のアーティストにはない感性が含まれていると思う。一言で言うのであれば、それは視点の自在さである。詳しくは本編に譲りたいが、カップルのささやかな日常を優しく包みこむ地球という共同体から俯瞰したような眼差しを彼女は持っている。その世界観を存分に体感してもらうために、今回はインタビューの合間に3つの短いエッセイと写真を挟み込んだ。
部屋と地球儀、同時にステキな視点と映画とSNS(これは場合によるけれど)。それと尾崎リノの音楽が日常にあればいいなと思う。
(企画・構成・文)オヤマダ(45)
(サポート)すみ
目次
付き合わないと物語ってできないじゃないですか。
─前回出ていただいたCody・Lee(李)の高橋さんが尾崎さんの詞の世界を探求してほしいって言ってたんですけど、僕的にはぼんやりしたままの方がいいんじゃないかなと思っていて。なんとなくですけど。なので今回はただインタビューをするだけでなく、尾崎さんのエッセイと写真を交えながら、読んでいる方に尾崎さんの世界観を存分に感じてもらおうと思っています。そもそも、なんで尾崎さんは音楽だけではなく、映像監督や作家として活動していこうと思ったんですか?
尾崎:私は今、映像関係の学校に通っているんです。そこで私の映像関係をサポートしてくれている三浦さんと出会って「せっかくだから映像もやってみれば?」と言われたのがきっかけです。文章は単純に本を読むのが好きだったからですね。
尾崎リノ(おざき りの )
1999年生 20歳シンガーソングライター。下北沢を中心として数々のフェスやライブハウスでのライブ活動を行う。現在Cody・Lee(李)のサポートメンバーとしても活躍の場を広げる。
─なるほど。歌詞はどのように書いていますか?
尾崎:小説の中のいい文章から引用したり、散歩をした時にふと思いついたフレーズをメモしたりしています。それか自分で物語を作って、そこから歌詞を作ることも多いです。
─物語から歌詞ができるのは面白いですね。
尾崎:そうですか?(笑)
─そう思います。僕が尾崎さんの歌詞を見て思ったのが、「もしも明日世界が終わるならって/月末の公共料金かゴミ出しの曜日」「冷蔵庫に貼った「2人の約束」/この部屋の法律で/「宇宙戦争や革命が起きればいいのに」」みたいに、視点が激しく移り変わる表現が多いんですよね。村上春樹とか橋本治とかが良い例だと思うんですけど、小説家は視点の切り替え自由な眼差しを持っていると僕は思います。そんな視点の切り替え自由な眼差しが尾崎さんにも備わっている気がしたんですよね。文学的な歌詞っていうと流石に安直だとは思うんですけど(笑)そういう視点の切り替わりは歌詞を書く際に意識していますか?
尾崎:そうですね。曲を作る時にキーワード、核になる言葉がいくつかあって。全部の言葉が強かったら一番伝えたい言葉の威力が薄まるので、言葉の強弱のバランスに気を付けています。それでメリハリはできてると思う。
─なるほど。キメやアクセントをつけやすいバンドと違って、弾き語りでは盛り上がりを作るのが難しいと思っていたのですが、歌詞でメリハリをつけていたんですね。「部屋と地球儀」のポエトリーディングはどのような発想で生まれたんですか?
尾崎:元々MOROHAが好きで。そこからポエトリーディングを聴き始めて、やってみようかなってなりました。実験の一環で作ってみたんですけど、それだけが話題になっちゃって。
─そうだったんですね。
尾崎:普通なのはありきたりかなって思ったんですよね。
─歌詞はご自身の経験ですか?
尾崎:いや全然そんなことはなくて(笑)友達から聞いた話とかが多いです。ライブを観に来てくれるファンが、恋愛相談をしてくれたりもするんですよ。話すのが苦手なので、うまい返しがその場ではできないけど(笑)
─素敵なファンですね (笑)恋愛の曲が多いのは、尾崎さんにとって大事なテーマだからですか?
尾崎:そんなことはないですね。恋愛の曲が多いのは自分が体験しなくても、想像がしやすいからっていうのがあります。周りであった話とかを聞いた結果、そうなることが多いんですよね。
─尾崎さんの恋愛の歌は、同棲している長い付き合いのカップルを描いていることが多いですよね。逆に、付き合う前とか出会ったばかりのカップルとかはあまり描かれていない。
尾崎:付き合わないと物語ってできないじゃないですか。だから自然とそうなっちゃいますね。「夜中のライブハウスに」は、私のイメージではまだ付き合ってはいない。だけど曲のテーマに「恋愛」というより、まず「夜中のライブハウス」があって。どういう人たちが夜中のライブハウスに忍び込むのかなって考えました。
ことばをひろうこと
街を歩くと色々な人々の会話が聞こえてくる。耳をすますと彼氏の愚痴だったり友達と行く旅行の話、政治経済について、いろんな話を自分と全く関係のないところから聞く事ができる。
たまにイヤフォンをしながら、なんの音楽も流さずに隣にいる人の会話を盗み聞きする事がある。会話というのは不思議で、いざ歌詞を書こうとしても何時間も考えても出てこないような言葉を普通に使っている。わたしはそれを逃したくないなと思った。そこから、iPhoneのメモに生きている中で少し引っかかるような単語や初めて知った漢字、その読み方、形容詞などを書く癖がついた。
最近の1番新しいメモを見返すと、「スクラップ・アンド・ビルド」だった。確か小説かなんかの背表紙で見てなんだろう?と普通に疑問に思い後で調べようとメモしたもの。こういう単語だけの小さいメモの点と点をつなげて、一個の大きい歌の歌詞になる時がある。
歌詞はどうやって書いているんですか?と質問される事があるが、私にとって歌詞は書くものではなく集めるものという感覚に近い。人と人の会話、半径1mの日常生活の中、中吊り広告、映画の台詞、ピロートークまで全てが歌詞になる材料だと思う。
生活の中を猛スピードで駆け回る言葉達を必死でつかんでポケットに入れる作業、これが私の歌詞の作り方でもあり世界の捉え方でもあり趣味でもある。
映画を観ているとき、音楽はあんまり気にしてないかもしれない。
─「夜中のライブハウスに」は映像と音楽が幸福な出会いをしていますよね。PVってサブスクが登場して以来、個人的に見なくなった印象があったんですが、この曲はPVで観た方が絶対にいいって思える作品でした。まだ(音源の)配信はされていないんですよね?
尾崎:出てないですね。私は三浦さんに映像関係はお任せしているんですけど、あいみょんと山田智和みたいにアーティストと映像クリエイターが一緒に成長していくのに憧れています。一緒に売れていこうみたいな。三浦さんとは打ち合わせも長いことやっているから、上手くいったのかなって思います。
─短いPVですけど、映画を観終わったみたいな満足感があります。PVから映画に話を移したいんですけど、数年前まで映画に音楽は必要か?みたいなところまで行ったような気がするんですよ。特に日本は。でもここ最近、尾崎さんがおっしゃったみたいなアーティストと映像クリエイターの関係性であったり、「愛がなんだ」の今泉監督みたいに音楽を大事にしている監督が出てきたりして、また自分の考えも変わってきています。尾崎さんにとって映画音楽は大事ですか?
尾崎:そうですね…。映画を観ているとき、音楽はあんまり気にしてないかもしれない。
─そうなんですか!
尾崎:エンディングはもちろんちゃんと聴くんですけど。劇中歌とかは気にしてないですね。映画はオチがこうなるだろうなと、ストーリーを見通しながら観るのが好きなので。
─映画の間に自身の弾き語りを入れた上映会をしていたので意外です…。
尾崎: あれは映画ですけど、脚本も音楽も自分で作ったのでできました。いつも音楽にするときに削っている部分が映像として残っていて、それを映画にしました。だからこそ普段の曲作りの感覚でできたんですけど。ただ脚本を書くのは難しいですね…。
音楽の自由
私は音楽に詳しくない。
ギターのコードもよく知らないし、曲を作る時は適当にギターを触ったり撫でたりたたいてみたりして音を紡いでいる。紡ぐ、というとかっこよく聞こえるかもしれないけれど、要するにギターで遊んでいる中で偶然生まれたメロディなどを録音しておいて、然るべき時に引っ張り出して色を足して曲にしている。
聴く方の音楽に対してもわたしはあまり詳しいとは言えない。
Cody・Lee(李)をはじめてから、周りの人間の音楽の詳しさに驚いた。しっかりと自分の音楽のルーツを持っているのも憧れた。わたしは適当にやってみようかな、みたいな感じだったから。かといって音楽を勉強しようともあまり思わない。ギターに例えると(またギターの話になってしまうのだけれど)例えば綺麗なメロディが生まれたとして、そこに勉強した音楽理論が挟まってくると「あ、でもこのコード進行はあまり良しとされていないやつだ」みたいに、悪くいうと教科書に沿ったようなものしか生まれない。
勉強しないことは自由で、自由が音楽だとおもう。なのであまりわたしは音楽について勉強をしようとは思わない。あくまでわたしの考えですが。
SNSに安心を求めてはいけない。
─尾崎さんってたくさんの言葉を発信していますけど、なんとなく根幹には「言葉に対する不信感」のようなものを感じます。
尾崎:うーん、言葉って伝わりづらいですよね。だからSNS嫌いなんですけど(笑)
─でも尾崎さんって定期的にバズってますよね(笑)
尾崎:どういうツイートにみんなが良いっていうのがわからないんですけど。
─Twitterみたいな短文でもバズっちゃうのはすごいですよ。そういえば、最近椎名林檎二世ってワードが話題になっていましたけど、誰々二世みたいな安易な紹介の仕方どう思います?
尾崎:私なんかパクリって言われますよ。 MOROHAのパクリ。そんなに気にしないようにはしてますけど。二世ならまだ良いんじゃないですか、子供だから(笑)
─ひどい話ですね。パクリって言われるのってどうなんですか?
尾崎:アンチには言わせとけって感じですね。MOROHAのパクリって言う人は「部屋と地球儀」しか聴いていない。ポエトリーディングじゃなくて普通の曲も作っているんで。一部しか見てないで批判されるのは嫌ですよね。
─浅い人が批判するんですよね、一部だけ切り取って。
尾崎:すごい嫌だな。SNSに安心を求めてはいけない。
─(笑)
画面の中でいきる
SNSは嫌いだ。というより向いていない。
空が綺麗だとか、今日食べたものが美味しかっただとか、近所を散歩している犬だとか、そういうものばかりで溢れている場所だとしたらここまで嫌悪しなかったとおもう。つい最近もSNSが原因で朝から気分が沈んでしまう事があった。そういう時はいつも、わたしはこんなもの(SNS)にとらわれなくてもいいんだという感情と共にぬぐいきれないどんよりとした汚れのようなものが心につっかかり、一日中気分が落ちてしまう。わたしはSNSで言われる言葉にたとえ相手の顔が見えないとしても、ちゃんとしっかり傷ついてしまう。だから、SNSは向いていない。SNSに囚われるあの時間は本当に無駄だと思う。しかし自分の音楽を広めるツールとして必要不可欠なものなのは承知しているので、ぱったりと断つ事ができないのがまたややこしいところである。
よく質問される、Instagramに鍵をつけている理由。Instagramに鍵をつけているのは、自分の顔や行った場所、思考などがTwitterのフォロワー6000人もの人間の前に晒すという行為が恐ろしいから。Twitterに載せるものとInstagramに載せるものは明確に区別するようにしている。Instagramの方がディープにわたしを知れる、といったところだとおもう(興味があるのなら)。数としての6000はあまり身近に感じないかもしれないけれど、6000個もの脳みそがそこにあると考えるとゾッとする。6000通りの考え方や意見がわたし1人に注がれると考えるとやっぱりどうも自撮り写真を気軽に載せたりなどできないのだ。
私は結局表に立つような人間ではないので人の評価だったり見え方だったりを人並みに、もしかしたら人一倍気にしてしまうように感じる。わたしの目標として、SNSをやらなくてもわたしの音楽をいいと言ってくれる人達がネット社会ではなく現実で手を広げて待ってくれているような音楽を作る人間になりたい。大きい舞台に立つ、とかではなくまずそこを目指していきたいなとおもう。
私はリスナーに自分の音楽が届けばいいと思っているので、そういったことにあまり興味がないです。
─今後、どういう活動をしていきたいですか?
尾崎:映像は大変だけど、文章は続けていきたいな。
─CDと短編集(文学のすゝめ)でのリリースがありましたよね。
尾崎:そうですね。あれは元々文学のすゝめという曲を書いていたら、マネージャーに小説も書いてみなよって言われて。ええーって思ったんですけど、書いてみました。でも私的にはまだ納得がいってなくて。作った短編を映像することが元々決まっていたので、かなり制約がある中で書いたんですよ。
─そうだったんですね。映像化という条件があったから、書きたいものではなく、書けるもの(映像にできるもの)になったんですね。他にもTwitterで言っていた本を入場費としてやるライブとか、面白い企画を考えてますよね。
尾崎:企画は私と三浦さんで考えていて、マネジャーに頼むって感じです(笑)本を入場費にするライブは、ライブハウスを無料で使える券があって、お客さんからチケ代とるのもどうかなと思って考えました。
─そのフレキシブルさが素敵ですよね。今のアーティストはお金では還元できない体験を大事にしている印象があります。最後にこれは自説なんですけど、ギター女子って言葉があったじゃないですか。あれ僕、嫌いで。ギター男子って言葉はあるなら良いんだけど、アーティストの一括りでいいんじゃないかって思っていました。でも最近はあいみょんやカネコアヤノが出てきたことで、ギター女子という言葉は消えて、アーティストに統合されていってる感じがします。そういった流れがある中で、尾崎さんはどうなっていきたいですか?
尾崎:確かに。でもギター女子って言われるのをプラスに取って、アイドル路線で行く人もいますよね。全然目指していないですけど(笑)私はリスナーに自分の音楽が届けばいいと思っているので、そういったことにあまり興味がないです。
─なるほど。本日は長いお時間ありがとうございました!
[尾崎リノ リンク]
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