最近「これからのビジネスは“デザイン思考”が重要になる」というフレーズをよく耳にしませんか?実際に欧米では、デザインを重視して経営を行った企業の業績が著しく伸びたというデータがあります。そして日本でも、採用する大学生に「デザイン思考」を求める企業が増えています。
でも…結局デザイン思考って何?
検索したり、本を読んだりしてもピンとこない。そこで、グッドデザイン賞を受賞した製品から「デザイン思考」を考えてみようというのが今回の企画です。グッドデザイン賞は製品の見た目だけでなく、製品を作る過程の考えが評価される賞…。きっと何か見えてくるものがあるはず…!
そして今回の記事で取り上げるのは2016年に北海道有数の観光地にオープンした「小樽芸術村」。
小樽芸術村の学芸員 金澤聡美(かなざわさとみ)さんに小樽芸術村のデザインのこだわりや、美術館に込められた想いについてお聞きしました。
目次
価値のあるものを守りたいという想いが込められた小樽芸術村
―小樽芸術村がうまれた背景を教えてください。
(金澤)株式会社ニトリは家具を中心に扱う会社ですが、社会貢献活動の一環として近代建築の保全や復原を行ってきました。ニトリホールディングス会長で公益財団法人似鳥文化財団代表理事を務める北海道出身の似鳥昭雄(にとりあきお)が美術に強い関心を持っており、近代建築の保全と、国内外の優れた美術工芸品の価値を伝えたいと考えたのが小樽芸術村のうまれた背景です。
―なぜ、株式会社ニトリや似鳥文化財団では、美術工芸品や古い建物の保全を行っているのですか?
(金澤)小樽芸術村の建物は元々銀行、会社事務所、倉庫などの用途で20世紀の初頭に建てられたもので、持ち主が手放すタイミングでニトリが購入し、美術館にしました。古い建物や美術工芸品にはとても価値があるのですが、それを綺麗に維持するためには莫大なお金が必要になります。買い手がつかないと建物が解体されるなど、価値のある物でも簡単に失われてしまいます。似鳥文化財団は建物が失われることは街の景観が失われることだと考えているので、北日本随一の経済都市として栄えていた当時の面影がのこる小樽の街の景観を保全したい、価値のあるものを後世に残したいという想いで活動を行っています。
―美術館をつくる際にどんなことを意識しましたか?
(金澤)4つの建物が作られたのは、どれも20世紀初頭と同じ年代です。また、展示している作品の多くも20世紀初頭に作られたものが多いです。そのため、ただその作品の良さを鑑賞するだけでなく、小樽芸術村にある作品を通じて20世紀初頭の近代という時代を感じ取れる空間にすることを意識しました。
小樽芸術村×デザイン
―美術館のデザインに関するこだわりなどはありますか?
(金澤)元々は別々のオーナーが別々の用途で使用するために建てた建物なので、美術館の出入り口が全て外側を向いているんです。建物の立っている位置を変えることはできないので、中心に広い中庭を作って3つの施設を繋ぎました。
(金澤)また、小樽は街の中心部に公園のような開けたスペースが少ないんです。そのため、この中庭はただ建物同士を繋ぐだけでなく、憩いの場として小樽市民同士を、そして市民と美術館とを繋げる空間にするということも意識しています。新型コロナウイルスの発生前は、ここで夏祭りやイベントなどを行っていました。
―小樽芸術村は「近代建築の保全」というところから作られていますが、建物のデザインに関してこだわったことはありますか?
(金澤)やはりこの建物が唯一無二のものなので、展示品も建物を活かす見せ方にすることにはこだわっています。また、似鳥美術館の建物は当初は銀行として使われていましたが、のちにホテルに改築されました。ホテルから美術館にする際には、もとの銀行建築へと修復するためにエスカレーターなどを撤去する必要がありました。改築というよりは、建物をなるべく当時の姿に戻すための立て直しといった感じですね。
―金澤さんは「デザイン思考」とはどんなものだと考えていますか?
(金澤)既成概念や偏見、思い込みなどを一度取り払って、何が最適かを一から考えていくことだと考えています。
唯一無二の美術館
―小樽芸術村の「ここが他の美術館と違う!」という特徴はありますか?
(金澤)小樽がガラス工芸の有名な地域ということも理由の一つですが、ガラスで作られた作品が充実しています。特にステンドグラスの展示は国内随一です。3館にそれぞれステンドグラスの作品があるのですが、似鳥美術館はアメリカ、ステンドグラス美術館はイギリス、旧三井銀行小樽支店はフランスと、どれも19世紀後半から20世紀初頭の作品ですが制作された国が異なります。同年代に作られたステンドグラスを比較しながら観ることができるというのが小樽芸術村の他と異なる大きな特徴です。
学芸員という仕事
―ここからは金澤さんご自身のことについてお聞きします。学芸員というお仕事につかれているのはなぜですか?
(金澤)小さいころから絵を描くのは好きだったのですが、中学生くらいの時から自分で絵を描くよりも絵を見る方が好きだなと思うようになりました。母に「この絵はこういう絵で、ここがすごい!」ということをよく話していたのですが、その時に自分の好きな絵について人に知ってもらうのが嬉しいと感じました。そこから自分が「すごい!」と思った作品を人に伝える仕事がしたいと思うようになりました。
―そもそも学芸員というのは、どんなお仕事をされているのですか?
(金澤)これは美術館によってさまざまなのですが、作品の収集、保管、調査研究、展示というのが一般的な学芸員の仕事です。また、一般の方に美術館や美術品について知ってもらう企画やイベントを開催して、美術教育や美術の普及にも力を入れています。
―仕事をしていてやりがいを感じるのはどんな時ですか?
(金澤)作品を展示するときにテーマを決める時、どのような順番でどこにどう作品を並べるのか、どうやって照明を当てるのかなど色々なことを考えるのですが、その要素の組み合わせ方によって作品の見え方や印象はガラリと変わってくるんです。そのため、自分の中で「これだ!」という一番作品が良く見える展示方法が見つかった時や、それを来館者の方に褒めてもらえた時にはとてもやりがいを感じます。
―仕事をしていて大変だなと感じるのはどんな時ですか?
(金澤)重いものを運んだりするので意外と体力勝負なところと、作品の扱いに非常に気をつけなければいけないところです。どの美術品も大変貴重な作品なので、運ぶ際などには最大限の注意を払っています。
―これから学芸員としてこんな仕事をしたいというものはありますか?
(金澤)これまで、小樽芸術村にはSNSアカウントがなく、ホームページのお知らせ欄で作品の紹介をしているのみで、SNSでの広報は行っていませんでした。来館者の方が写真を撮ったものをSNSにアップしてくださっているのを見ているだけだったので、ステンドグラスなどは非常に写真映えするのにもったいないなと常々思っていました。そのため、小樽芸術村のSNSアカウントの作成・運用や定期刊行物の発行など、美術館の取り組みや魅力をたくさんの人に発信する仕事がしたいと考えています。
学生生活・就活について
―大学生の時にやっておけばよかったなと思うことは何ですか?
(金澤)「人と話す」という経験を増やすことです。ギャラリートークなどで来館者の方に作品の魅力を伝えることを始めとして、仕事をする上でコミュニケーション能力は欠かせません。人と話すのがうまくなるには、人と話すことしかないと思うので、もっと大学生の時に人と話す機会を積極的に作っていればよかったかなと思います。
―就活の際に意識していたことはありますか?
(金澤)無理をしないようにしていたのと、周りの人の意見に流されすぎないようにしていたことです。就活をしていると「ここを受けるならあそこも受けたほうがいい」など「こうしたらいいよ」というアドバイスをもらうことが多いと思うのですが、それを全部実行してしまうと自分がしんどくなってしまうので、アドバイスも取捨選択をして自分の無理のない範囲で行うようにしていました。
―最後に、当メディアで共通して聞いている質問をお聞きします。金澤さんにとって格好いい大人とは?
(金澤)学び続けている姿勢を持っている人です。今はものすごいスピードで社会が変わっていっているので、新しい価値観を自分に取り入れ続けて、自分の価値観をアップデートすることができる人は格好いいと思います。
―金澤さんありがとうございました。
そんな価値のある街並みや文化財も、一度失ってしまえば完全にもとには戻りません。今を生きる私たちが保護しないと失われてしまうけど「維持するお金がない」という理由で失われてしまうものはたくさんあるんだろうな……としんみりしてしまいました。自分たちの持っているものを最大限に生かして、価値のあるものを後世に残そう!というニトリさんのこの取り組みはものすごく尊いものだなと思いました。末筆になりましたが、今回は取材をお引き受けいただきありがとうございました。
あとは純粋に、各国のステンドグラスを見比べられるなど美術館としてもものすごく楽しいので、小樽に訪れた際にはぜひ足を運んでみてください!
>小樽芸術村 公式ホームページ
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