「冷蔵文庫」とは
いらなくなった本を持ち込んで、置いてある紙袋でラッピングし、 本の題名は書かずに一言メッセージを添える。冷蔵庫を開け、中にある本から1冊選び、自分の持ってきた本と交換をする。「冷蔵文庫」は、このように本の物々交換ができる装置。
私はTwitterでこの取り組みに出会い、ぜひ体験したい…!と思ったものの、卒業制作として作られた「冷蔵文庫」 は現在お休み中とのことでした。
ならば設置の経緯だけでも伺いたいと、制作者の本藤はるかさんに連絡させていただくと、「出張版の風呂敷文庫でよければ体験してみませんか」との返事をいただき、お会いしてきました。
風呂敷の中に入っていた本は大きさもラッピングも不揃い。小さなカードに手書きのメッセージが添えられています。
表紙が見えないので、本がどんな表情をしているのか全く分かりません。しかし、古本屋に置いてある本とは異なり、手書きのメッセージが添えられていることやラッピングなど「一手間」が加えられているので、元の持ち主の存在を感じることが出来ました。どの本も生き生きとしていて温かみがあって…魅力的なので迷う…!
どの本も「私を選んで」と言っているように感じられて、どの本と交換するのかなかなか決められませんでした。
長考の末、私が選んだのはこれ!
メッセージは「異界への扉。」というたった一言のみ。最も本の内容が予想できない一冊を選びました。それに、「異界への扉」ですよ?開きたくなりませんか?
ドキドキしながらラッピングを開けると入っていたのは 山棲みまんだら/山本泰石 でした!自分では絶対に買わない本と出会うことができるのも、「冷蔵文庫」の魅力の一つです。
ー本日はよろしくお願いします。なぜ冷蔵文庫を作ろうと思ったのですか?
(本藤)卒業制作を作るために、自分の好きな物は何かなって考えると、蚤の市とかリサイクルショップみたいな「古き良きもの」や、人の温かみを感じるものが頭に浮かびました。後は、何か作ったものを見せて終わりではなく、体験してもらいたい。そして、作ったものがちょっとでも人や環境・社会の役に立ったらいいなと思っていました。
―「冷蔵文庫」のアイデアはどこから得たのですか?
「冷蔵文庫」は、東京蚤の市で出会った「物々交換の本棚」の匿名で本を交換する仕組みをいいなと思ったのがきっかけで生まれました。自分でやる時は、本でないものを交換することも考えたんですけど、本はみんなが持っているじゃないですか。だからどんな人でもとっつきやすいのかなと思ったのと、すべての本がそれぞれ世界を持っている事がいいなと思ったので、「本を交換させる」というアイデアを使わせていただくことにしました。
―作るきっかけとなったのは「もったいない」という意識なのですね。
そうなんです! 美大では、毎日たくさんのかっこいいものが生み出されているのですが、みんな捨てちゃうんですよ!それがすごくもったいないと思ったけど、どうしようもないことでもあるので、自分にできることはなくて…。だから、せめて自分の展示では極力新しいものを使わないようにしようと思っていました。その時に冷蔵庫を見つけたのでこれだ!と思いましたね。
また、デザイン活動家のナガオカケンメイさんの『ナガオカケンメイの考え』という本の中で、「卒業制作展の後も残る卒業制作作品。使命を終えたパッケージデザインの後も残るパッケージデザイン。本来の使命が終わった後も、なにか活用できる世界も探求してみたい。」とおっしゃっていて。2年前ぐらいにその本を読んだ頃から、自分の卒業制作ではそれが実現できたらいいなと密かに思っていました。同時に、日々を過ごす中でだんだんと「ものを作るときに使った後のことまで考えるのが美しいデザインなのではないか」と思うようにもなっていました。
美大生である私が、何か生み出して終わりではなく、その先まで考えられたらいいなということは学生生活でずっと意識していましたね。
―「冷蔵文庫」のテーマは「やさしい循環」だとお聞きしました。
私は、蚤の市とかリサイクルショップなどが好きなんですけど、そこに行くときには「環境に良いことをしなきゃ。」という意識を持って行っているわけではなく、自分が「楽しい」からそこに行っています。古いものにあったかもしれない歴史や、前の持ち主を想像できた時の、じんわりと心が温まるような体験をもっと多くの人に気軽に味わってもらいたいと思って作りました。
―実際に「冷蔵文庫」でつながりが生まれたことはありますか?
交換した本が過去に入院中の病室で読んで救われたという思い出のある本だったり、「冷蔵文庫」を通じてつながった人同士が、直接出会って本を交換したりと活動の外でつながりが生まれたのはとても嬉しかったです。
それに、「冷蔵文庫」をやっていることで本のイベントに呼んでもらったこともあって、色々な場所に「冷蔵文庫」を設置させてもらいました。そこでまた人とのつながりが生まれたり。本が好きな人は優しくて温かい良い人が多いです。
―本藤さんの「循環」への意識は、「冷蔵文庫」の権利がフリーとなっている事にも影響しているんですよね。
最初は著作権を取ることも考えていたんですけど…。利用した人に循環の意識が芽生えて、それが広がって欲しいなとずっと願いながら冷蔵文庫を作っていました。実際にやってみると、この取り組みを面白いと言ってくれる人がたくさんいたので、「冷蔵文庫」が全国に広がることで社会がいい方向を向くなら、私だけの「冷蔵文庫」じゃなくてもいいと思いました。いつか「冷蔵文庫」が日本全国に生まれて、それを巡る旅とかおもしろそうじゃないですか(笑)。
「楽しさ」を大事にしたいという思いが一番にあったので、「冷蔵文庫」という自分のアイデアでみんなが嬉しい気持ちになってくれたら幸せですね。それで、あわよくば循環の意識を持ってもらえたらいいな。
―今、「冷蔵文庫」はどこに?
卒業制作として作っていたので、第一号は私の家で眠っているんですよ。
とりあえず、家から動かしてカフェとかに置きたいなっていう気持ちはあるんですけど、まだ動けてないです。でもその代わりに、「冷蔵文庫」使用のルールを作ったので、他にやりたいと言って下さる人が「冷蔵文庫」を増やしてくれたら嬉しいなと思っています。
―この3月で本藤さんは大学を卒業されますが、その後はどうされるのですか?
埼玉にある、廃棄物処理場に就職します。
廃棄物処理場なんですけど、東京ドーム4つ分の敷地で、農園やピザ窯があって、野菜の収穫体験や味噌作りなど、楽しみながら環境について学び、循環を体感できる空間なんです。卒業制作を作るために自分の好きなことを突き詰めると、やっぱり「循環」とか「つながり」に結びついたので、それが自分の根っこなのかなと。ブランド品をたくさん持っているよりも、最低限のものだけでそれをうまく使いまわしていく暮らしや、自分のお気に入りのものを見つけ出す宝探しのようなワクワク感をこれからも大事にしていきたいです。
就職した後も、何かしらの形で「冷蔵文庫」は続けたいと思っているので、機会があればぜひ「やさしい循環」を体験してみてください。
―ありがとうございました。
ちなみに、私が「冷蔵文庫」に置いてきたのは、写真で本藤さんが持っている無印良品の紙袋でラッピングした本です。どんな人のもとに届くのかなぁ。
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