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タリバンは危険?国内の情勢は?人道支援団体JEN事務局長が語るアフガニスタンの今

 

8月15日にアフガニスタンの首都カブールがタリバンにより制圧され、もうすぐ二か月を迎えようとしています。現在アフガニスタン国内は混乱し、国民の生活は非常に困窮しています。

今回アフガニスタンで約20年もの間人道支援を行っている認定NPO法人JENの事務局長の木山啓子さんに、ニュースでは語られることのないアフガニスタン情勢の実情や木山さんご自身の意見をお聞きしました。

この問題に少しでも関心のある方には是非読んでいただきたいです。

 

認定NPO法人ジェン(JEN)
世界各地で紛争や自然災害により厳しい状況にある人びとへ「生きる力、を支えていく」をモットーに緊急から復興までの支援活動を行う。
1994年に設立以降、国連機関や日本政府(外務省)と連携して世界各地で支援活動を展開。

 

 

NPO法人ジェン(JEN)理事・事務局長 木山啓子さん
大学卒業後、電機メーカーに就職。輸入商社に転職し、その後アメリカへ留学。米国ニューヨーク州立大学バッファロー校社会学大学院の修士課程修了。1994年にJENの創設に参加し、2000年からJENの理事・事務局長として世界の紛争地や災害地における難民・避難民の救済や支援に貢献する。

 

JENの活動内容

JENは紛争や災害といった緊急事態から人々の自立をサポートすることに主眼を置き、国連機関や日本政府と連携して活動しています。例えばJENで20年間にわたり支援を行っているアフガニスタンでは、井戸や学校の建設、衛生面や教育面での指導といった様々な分野における環境の改善と、災害発生時の人道支援などを行ってきました。このように長期的な活動の中で培ったJENの経験や知見を生かし、支援の緊急ニーズが高いところで活動を実施しています。

JENが9月に実施した女性教育者育成研修の様子

 

ー他団体や国連機関とはどのように連携しているのでしょうか。

まず支援にはオペレーショナルパートナー(OP)とインプリメンティングパートナー(IP)という二種類の形式が存在します。

OPは一つの地域で複数の団体が支援に携わる際の、団体間の協力や連携を指します。今何百という団体が活動しているアフガニスタンでも、OPの連携による漏れやダブりのない支援が必要とされています。

IPは日本語で実施契約団体とも言います。例えば国連のIPになる場合、計画しているプロジェクトを国連に申請することで資金を受け取り、プロジェクトを実行にうつすことができます。

資金の提供を受けるかはプロジェクトによって変わりますが、支援をする際には必ず連携しています。支援をするにあたって他団体や国連機関と調整を行うことで、活動内容に漏れやダブり、または団体間の支援の質に格差が生じるのを防ぐことができるんです。

 

アフガニスタンの現状

アフガニスタンは本当に長い間厳しい状況にあります。40年間にも及ぶ戦闘が続き、人道支援を必要とする人たちがいなくなった瞬間がない国なんです。医療や衛生を含め、今なおどこの分野も支援が足りていません。

例えば私たちは汚れた手のままごはんを手掴みで食べたらおなかを壊す可能性があることを知っていますよね。しかしアフガニスタンの人々は、手を洗うための衛生的な水を簡単に手に入れることができません。衛生的な水がないことで手を洗えない暮らしを続けるうちに、こうしたことを忘れてしまいました。ただ手の洗い方を知らないだけで下痢になります。彼らは食べ物を十分に得られないため免疫力も弱く、更に医療も手薄であるために重症化を招き、結果的に命を落としてしまうことがあります。特に2018年から続く干ばつの影響で今のアフガニスタンには食物や水が不足しています。水と衛生の知識が不十分な人々の健康被害は深刻化する一方です。このようにアフガニスタンは様々な面で課題を抱えています。

ー命を救うために医療を充実させることも大切ですが、まずは病気の発端である衛生知識の欠落といった根本的な部分を解決させる必要がありますね。

その通りです。予防が大切です。まずはまともに暮らせること、空腹が満たされるほど食べることができて、安全な場所で眠ることができて、十分に運動できる環境があれば、ある程度健康でいられますよね。人間らしく健康に暮らせるような本来あるべき下地がアフガニスタンではまだ十分にできていないんです。

 

新型コロナウイルスへの対応

実は確認されているコロナの感染者数や亡くなった方の数は比較的少ないのですが、私たちはこれが検査体制の不備によるものだと考えています。実際に私たちが活動しているナンガルハル県でも最近風邪で死ぬ人が増えた、という声を聞きます。。新型コロナウイルスが関係している可能性は十分にありますが、亡くなった方の感染状況を検査する余裕がないのが現状です。

ーワクチンは十分に提供されているのでしょうか。

ワクチンはすでに打ち始めています。先進国が貧困国にワクチンを提供する「コバックス」という世界的なプロジェクトにより、最近もアフガニスタンに対する500万回分のワクチンの提供が決定しました。ワクチンも他国の支援をなくして手に入れることはできません。

ちなみにJENの職員はいろんな人にお目にかかるのが仕事ですので、どうしても受けたくない事情がある人を除いて全員接種を終えています。

 

タリバンの制圧による影響

まず大前提としてタリバン制圧のずっと前から人道支援は必要とされており、政権が変わったから支援が必要なくなるわけではありません。しかしタリバンの制圧を受け、アメリカがアフガニスタン政府に対する資金を完全に凍結したことで、アフガニスタンの銀行では通常の業務が行えなくなり、殆どの経済活動が停止しました。その結果、現在のアフガニスタンは非常に困窮している状況です。ガニ政権時代の公務員は最後の二か月分の給料を受け取れないまま事実上失業したと聞いています。また銀行口座からの現金の引き出しには一週間に200ドルまでの制限がかけられているので、会社の運営などできるはずもありません。JENのアフガニスタンの職員も給料を受け取れないまま活動をしている状況です。

支援にも影響が出ています。例えばJENのような人道支援団体が井戸を建設する時、機械での作業が必要なので建設会社に委託をします。この際の何十万、何百万円となる契約は銀行を経由するのですが、現在は凍結されているので支払っても建設会社はお金を使うことができません。つまり銀行が凍結されたことにより支援が制限されてしまうのです。

アフガニスタンでは、3人に1人が飢えに苦しんでいる(国連WFPデータより)と言われていました。元々そのような状況のところに、国全体で現金の引き出しができない状況になり、今3980万人のアフガニスタン人が飢えに直面しています。情勢の変化を受けて食料を備蓄していた人たちは周囲の飢えていく人々に食糧を分け与えています。タリバンのカブール制圧が8月15日ですから、備蓄はすでに底をつき始め、周囲の人々に頼るのも限界に近付いています。特に抵抗力の弱い子供は非常に危ない状況にあると聞いています。現地の人々は生きるか死ぬかというぎりぎりの生活に直面しているのです。

 

タリバンからの支援要請

8月15日にカブールが制圧された後も、JENを含めた世界中の団体ができる範囲で支援活動を再開しています。ナンガルハル県では16日に、タリバンから国連経由で人道支援団体宛てに「支援を続けてほしいのでミーティングをしたい」と連絡がありました。その時は治安を守るために戒厳令が出ていて外出が許されていなかったので、改めて25日に人道支援団体が集まって調整会議を行いました。会議ではタリバンから正式に支援を続けてほしいということ、支援をする人々の安全を保障するということが伝えられました。それを受けてJENはタリバンと個別に会談し、今まで行ってきたプロジェクトの内容の説明とその続行の承認、加えて職員の安全を保証するとの言を得て、9月5日から井戸の建設や女性を含む教師の育成などの支援を再開しました。

 

タリバンの目指す政治

タリバンはもともとイスラムの教えを忠実に守り、不正をする人は許さないという考えのもと活動してきました。前政権のタリバンはその厳格な解釈にもとづき、西欧的な裁判とは異なる裁きを行っていました。その恐怖政治が再び行われるのではないかと内外で懸念されています。タリバンの報道官が「女性の学習や就労の権利はイスラム法の範囲内でのみ認められる」と話していましたが、この「イスラム法の範囲」が具体的に明示されていないことが人々の恐怖心や不信感の原因にもなっているように感じます。実際にカブールで女性が職場に来るなといわれるなど、懸念材料はいくつもありますが、それでも本来のタリバンはクリーンな政治を目指していると思います。

ー女性の権利はイスラム法で認められていますよね。

そうですね。イスラム法には性別に拘わらず、全ての良きムスリムは一生学び続けなくてはいけないとありますので、女性が学ぶことの重要性をタリバンも理解できるはずだと私は信じています。

ーしかしクリーンな政治を目指しているはずのタリバンが女性を攻撃、迫害しているという報道があり、タリバン内の意見が一致していないように感じます。

勿論理想は組織の全員が同じ意識のもとで活動することですが、日本の政党を取ってみても、全ての人が全てにおいて同じ意見を持つことは不可能ですよね。当然タリバンの中でも人や地域によって意見が異なる場合もあるでしょう。こういう時に違う意見の個人が集まっても同じ対応をできるための規制をかける役割を担う法律が、政権が変わってまだ間もないアフガニスタンでは十分に整備されていませんから尚更ですね。それでもタリバン政権内で方針や意見を統一させることは可能だと思いますし、してもらわないと困りますね。

 

メディアの情報を鵜呑みにしてはいけない

タリバンによるカブール制圧以降、その構成員による女性への暴力といった事件が報道されています。しかしここで私たちが注意しなくてはいけないのは、それが本当にタリバンの構成員がタリバン政府として行ったものなのか、それともタリバン構成員であっても個人の考えでやったものなのかという点です。更に言えば、タリバンを装った何者かによる犯行という可能性もあります。しかしタリバンの仕業として報道されると、ああやっぱりタリバンはダメなんだと世論が傾いていきます。こうしてタリバンが国際社会からの信頼をなくせば、十分な支援を得られなくなり、今度はアフガニスタンの国民からの信頼を失っていきます。それで一番喜ぶのはISです。どこにいっても警察の目があれば暴力団が動きづらいように、統制のとれた世の中では反社会的な動きがしづらい。つまりISとしては国が弱体化しているほうが好都合なんです。だからタリバンに成りすました第三者がタリバン構成員を装って虐待事件を起こす可能性も十分にある。ニュースを見るときは裏の取れた情報なのかを見るように心掛けていただきたいと思います。

ータリバンの強硬派による犯行だと思っていました。

もちろんその可能性もありますね。ですがそれを見て「やっぱりタリバンは一枚岩じゃない。強硬派を抑えられないんだ。」と批判をするのは慎重になるべきだと思います。勿論人権が保障されていることは大前提ですが、一方的にタリバンを否定して資金を凍結させ、結果としてアフガニスタン全体が兵糧攻めにあっているような現状が続くことは弊害が多すぎるように感じます。

 

国外脱出を求める国民とその動機

タリバンの制圧を受けてアフガニスタンの脱出を試みる人が大勢いますが、私は脱出の動機は人それぞれだと考えています。例えばある人はガニ政権時代にタリバンに対して攻撃的な姿勢をとっていたからかもしれない、ある人は被差別民族の出身者だからかもしれない。いろんな可能性があります。勿論タリバン制圧を受けてこの国に将来はないと感じた人もいると思います。しかし全てを諦めて他国で一から生活を始め難民になるというのは、本当に大変ですしとても強い動機が必要です。私は世界各地で支援活動で多くの難民の方に出会いました。戦闘が激しい場所では逃げる過程で命を落とす可能性も十分にあるので、難民になるという選択は本当に難しいと皆さんおっしゃいます。自分と自分の家族の命を守るために国に残るか残らないかというのは究極の選択なんです。これを踏まえて、飛行機から落ちて命を落としても仕方のないくらい国から逃げたいという恐怖が何によるものなのか私には判りませんし、国民全員に共通するタリバンへの恐怖心というより個々人の事情が大きく関係していると思います。

ー国から逃亡する動機がタリバンによるものだと一概には言えないということですね。

そうですね。勿論アフガニスタンの将来に対する漠然とした不安や恐怖はあると思いますけど、タリバンの構成員もそれ相応の理由がない限り、むやみやたらに市民を殺したりしません。強硬派の人々がアフガニスタンで組織的に残虐な行為を行っているという証拠はまだないと私は考えています。そうした状態がまだ起きていないのに一方的にタリバンは危険だからと支援を打ち切ってアフガニスタンを兵糧攻めにすることは、さらなる問題を招きかねないと思います。

 

テロの温床にならないために

誤解を恐れずに言いますが、今後人々が飢えていく中で生きるために望まない犯罪に手を染めたり、食糧を与えてくれる裕福な人に雇ってもらう、なんてことがあるかもしれません。例えばその裕福な相手がISだったとしても、与したくないからといって家族を見殺しにするのか、それとも助けるために就職するのかというのは究極の選択です。タリバンを正式な新政権として承認するかはそれぞれの国が決めることですが、アフガニスタンがテロの温床にならないためにも人道支援だけは止めてはいけないんです。

 

タリバンへの批判はISの思惑通り

ISという組織は、特にアフガニスタンのような国の統治が十分に行き届いていない地域では活動しやすいんです。アフガニスタンの山岳地域にはオサマ・ビンラディンが身を隠していたとされるような洞穴もたくさんあります。統治が行き届かない広大な土地があれば様々な活動が可能ですから、勢力を拡大させたいISのような反社会的勢力にとって好都合なはずです。タリバンは国内を十分に統治し、こうした組織を取り締まる必要があります。

8月26日、アフガニスタンの首都カブール近郊の空港でISによる大規模な爆破が発生しました。これによりタリバンには統治能力がないという批判が相次ぎました。ISの思惑通りです。まんまと乗らされたバイデン大統領も「ISも許せないが、それを許したタリバンも許せない」と批判していましたね。タリバンの立場が弱くなり国の統治ができなくなれば、ISは活動しやすくなる。テロとして最高に成功したものだと思います。私たちは一つの出来事によって誰が利益を得ているかを慎重に見極めなくてはいけません。確かに、タリバンは、天使ではないかもしれません。でも、タリバンの冷酷な面が発揮されない様に付き合っていくことが大切だと思っています。

 

予想される今後の動向

理想は人々が安心して働き自分で自分の暮らしを支えられることですが、その前段階として人道支援を再開することでアフガニスタンの人々が飢えをなくす必要があります。タリバン政権が安定し国際社会と良好な関係を築けたら、アフガニスタンが安定して経済を発展させることができます。

しかし「女性の人権を守らない限り支援しない!」という強硬な交換条件を提示している限り、人々の飢えが深刻化してタリバンは弱体化するでしょう。その結果ISが勢力を拡大させ、世界中でテロが多発するかもしれません。

 

世界の一員として

私たちは面倒だから、危なそうだからと簡単に関わることをやめてしまうことがありますが、孤立させてしまえばそこで終わりなんです。タリバンを孤立させてはいけません。本当はISも人間によって構成されているので、取り残したくありませんがそれはまた後の話ですね。まずはアフガニスタンの人々を飢えさせないで、国を安定させることが大事です。十分な数の人々がこのことを認識して意見を共有することで世界を変えることができると考えています。

ー私も微力ながらこうして記事を掲載することで役に立てているのだと思えました。

本当にそう思います。世界中のすごい活動は最初は一人から始まっているんです。地雷廃絶キャンペーンという活動がありますが、これもたった二人から始められました。実は一人一人の働きというのはとても大きいんですね。目﨑さんの取り組みに私も励まされますし、私がこの話をアフガニスタンの同僚に共有すれば彼らも同じように励まされると思います。それが新たな団結や知恵を生む。世界はこうして少しづつ良い方向に向かっていくのだと思います。

ーありがとうございました。

 

認定NPO法人ジェン(JEN)の活動内容はこちらからご覧いただけます。

HP: https://www.jen-npo.org

Twitter: https://twitter.com/NGO_JEN

Facebook:https://www.facebook.com/Japan.Emergency.Ngo/

 

編集後記
以前から関心のあった中東政治に関する取材、学ぶことばかりで本当に楽しかったです。普段からなるべく物事を中立な視点で見るように心がけていますが、取材の中で無意識にタリバンを危険な目で見ている自分に気が付きました。また人道支援によってアフガニスタン国民の生活の基盤を安定させることが、結果的にタリバンの世界的な信頼へと繋がるのは新しい視点でした。この問題に対して更に学びを深めることで本質を見極め、自分なりのアプローチを模索していきたいです。 目﨑
 
 

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