環境

オーガニックコットン100%タオルはいかにして生まれたのか IKEUCHI ORGANIC代表インタビュー

日常生活において欠かせない存在である衣類品。皆さんは一枚のタオルやシャツが作られるまでに、以下のような影響があるのをご存知ですか。

低賃金・劣悪な環境での生産者の人々の労働搾取・健康被害

コットンは発展途上国で栽培されることがほとんどで、農家で働く人の多くが貧困層にいる。先進国の利益最優先のビジネスによって危険な労働環境で働くことを強いられる、公正な取引が行われないなど生産者にとって不当な状況がある。児童労働の問題も深刻。

またコットンは大量の農薬・化学物質を使用して栽培される植物。生産農家の人々は肌がかぶれたり、倦怠感やめまいを感じたりと、身体の健康が脅かされる事もある。

染色による水質汚染

衣類品の製造工程には必ず水を大量に使用する。つまり最後は必ず廃水が発生する。この廃水が適切に処理されないまま海や川に流れることで水質が汚染される。世界の水質汚染の原因の20%は繊維・染色業界であるとも言われている。

タオルに含まれる化学物質による消費者の健康被害

染色する際に含まれる化学物質は、赤ちゃんや肌が弱い人にとってはアレルギーやがんなどを誘発する恐れがある。

 

これらの懸念点をすべて考慮した「オーガニックコットン100%」のタオルを作る愛媛県今治市の製造会社「IKEUCHI ORGANIC株式会社」代表の池内計司さんにインタビューをさせていただきました。

「最大限の安全と最小限の環境負荷」を理念に掲げているIKEUCHI ORGANICでは、どのようにタオルを作っているのか、そしてそこにある想いをお話していただきました。

―本日はよろしくお願いいたします。さっそくですが、「最大限の安全と最小限の環境負荷」と「オーガニックコットン100%の商品作り」は、どのように関係しているのでしょうか。

池内さん:「最大限の安全と最小限の環境負荷」の理念を実現するために、我々は様々な工夫をしています。その中でも力を入れているのが「オーガニック」、「染色工場」、「風力発電」です。

―オーガニックについて詳しく教えてください。御社はオーガニックコットンを扱っているそうですが、通常のコットンとの違いはなんでしょうか。

まず、弊社が扱う製品はオーガニックコットンであって、生産の一部がオーガニック製品ではありません。その点でオーガニック100%の稀有な製造会社です。

我々が扱うオーガニックコットンは3つの条件を満たしています。1つ目は、3年間、農薬や化学肥料を使わない有機栽培で育てられていること。畑の土に残留する農薬が消滅するまでの3年間は、オーガニックと認められません。2つ目は、遺伝子組換え種子でないこと。より早く、効率的に均質な綿花を大量収穫できるよう遺伝子組換えされた種は、イケウチオーガニックの生産ラインから排除されます。3つ目は、フェアトレードであること。コットンを生産する農家が、安全かつ衛生的な労働環境下にあり、正当な生活賃金が支給されていること、正当な価格で安定的に購入し続けることが条件です。

オーガニックコットン100%を使用していることを証明するために、畑から紡績工程までを審査対象とする厳しいEU基準に基づくスイスの認証機関bio.inspecta(バイオインスペクタ)から審査を受けています。この審査の基準が今ご説明した3つの基準ですが、この審査はとても厳格です。例えば、EU規格に従うと、オーガニックコットン商品の素材は95%以上のオーガニックコットンを使わなければいけず、また残りの5%の許される「オーガニックでない」要素は付属品(例えば商品ラベルなど)の要素でないといけません。綿に遺伝子組み換えなどオーガニックでない要素が1%でも入っていたらオーガニックタオルと言えなくなってしまいます。

このような厳しい基準を満たすことは非常に難しいため、真のオーガニックコットン100%の製品を作る会社はまだ多くはありません。

 工場について

―染色工場について、詳しく教えてください。

タオルの染色は、漂白(タオルの色落ち防止)→染色→洗浄という工程を経て商品化しますが、イケウチオーガニックの全ての工程は「ローインパクトダイ(Low Impact Dye=少ない負荷の染色)」という考え方に基づいています。染色するときには重金属を含まない反応染料を使用することをはじめ、その他使用する全種類の薬剤を管理しているので赤ちゃんが舐めても安全で、かつ洗濯しても色落ちのしないタオルができます。染色と洗浄は我々の排水工場「INTERWORKS(インターワークス)」で行なっています。

―排水工場「INTERWORKS(インターワークス)」の特徴はなんでしょうか。

この工場は弊社が拠点としている今治市に隣接した愛媛県西条市に位置しており、瀬戸内海に面しています。瀬戸内海の排水浄化設備が設定している排水基準は「COD12ppm以下で使った水を排水し、自然に戻すこと」で、これは世界で一番厳しいとされています。

CODとは:故障や海域などの水の化学物質の汚れを示す指標。水中に有機物などの物質がどれくらい含まれるかを、過マンガン酸カリウムなどの酸化剤の消費量を酸素の量に換算して示される。CODの値は大きいほど水中の有機物が多いことを示し、水質汚濁の程度も大きくなる傾向がある。(「化学的酸素要求量(COD)」 とは

 

―愛媛県西条市といえば、御社が拠点としている今治市の隣ですよね。

はい。今治市は人口15万人ほどの地方都市ですが、日本一のタオル産地と呼ばれています。我々はここ今治市でタオルを作ること、そして瀬戸内海アセスメント(瀬戸内海のの排水基準)を満たしたタオルを作ることにこだわりました。ちなみに排水基準が日本で一番緩いのは日本海側、次に太平洋側で、一番厳しいのが瀬戸内海側です。衣類品ブランドが使用する染色工場がどの海に面しているかで、その会社の環境に対する考えが大体わかるんですよ。

―商品が消費者や環境にとって安全であることはどのように証明されているのでしょうか。

池内さん:日本の今治市で作っているから安全というだけでなく「エコテックス規格100」という安全性テストを全ての商品で行なって、数値で安全性を証明しています。私たちがつくるタオルはすべて、この中で最も基準が厳しいクラス1(乳幼児が口に含んでも安全なように、唾液に対して堅牢である)をクリアしています。この安全性テストは完成した商品だけではなく、製造工程で使用するもの全てが含まれます。つまり、ミシン糸、刺繍、ネームラベルもテストの対象になるということです。

エコテックスとは:エコテックス®は、日本の安全基準をはるかに超える、350種以上の有害物質を対象とした世界最高水準の安全な製品の証明をはじめ、生産にたずさわる人や環境への負荷にも配慮したサステナブルな工場の認証など、繊維ビジネスにおける、世界に通ずる安全の証です。(エコテックス国際共同体HP

 

「我々ではなく、お客様がオーガニックを自然と選んでいった」

―オーガニック商品を手がけるようになるまでの経緯を教えてください。

池内さん:もともと弊社は輸出専業企業のOEM会社「池内タオル」としてやっており、自社ブランド商品を持っていませんでした。

OEMとはOriginal Equipment Manufacturing Manufacturer を略した言葉で、日本語だと他社ブランドの製品を製造すること(あるいはその企業)を指す。(OEMとは?基本知識を学ぶ。OEMのメリット、デメリットも解説
 
しかしアメリカが80年代に不況に入り輸出が困難になったこと、中国やベトナムの工場の台頭などにより、このままでは生き延びていけないと感じました。我々の実力を最大限に発揮した品質の高いタオル商品を作ることを目標に、「ファクトリーブランド」を立ち上げ、1999年から自社ブランドの商品開発を始めました。その時から環境に配慮した商品展開をしたいと考えており「INTERWORKS(インターワークス)」は1992年に開設しております。
実を言うと、当時は売れると全く予想していませんでした。当時のタオル会社は、ラグジュアリーブランドのOEMでないと注目されない時代で、自社ブランドを手がけても成長することはできないとされていましたから。弊社が初めて自社ブランドの商品を販売した時は「なんで有名ブランドの商品よりも値段が高いんだ」と言われていました。なので当初は具体的な販売目標も掲げず、ファクトリーブランドとしては会社の「ええかっこしい」イメージを発信するという目的でやっていました。

―もとからオーガニック商品一本でやっていこうとはお考えではなかったんですね。なぜ今はオーガニックに限定しているのですか。

池内さん:それは購入してくださるお客様方がオーガニック商品を自然と選んでいったからです。1999年からオーガニックコットン100%商品の販売を始めましたが、先ほども申し上げました通りファクトリーブランドとしての名声は持っていなかったため、日本ではなく海外に向けてゼロから支持を得ようと考えました。展示会に商品を出展してたくさんの方からご意見をいただき、それを元に商品の品質改善を繰り返しおこなっていきました。

転機は2002年4月にニューヨークで開かれた全米最大規模の「ニューヨーク・ホームテキスタイルショー・2002 スプリング」で当時手がけていた商品が最優秀賞を受賞したことです。これを機に知名度が爆発的に上がり、OEM生産としても自社ブランドとしても大きく成長し始めました。具体的には、ニューヨークにあるインテリア業界のトップと言われるストアで商品を前面に扱っていただいたりしていました。その影響で、日本に帰ってきてからもデパートに並べていただく機会がどんどん出てきて、その波に乗って手がけるオーガニック商品の量も質もどんどん上げていったという感じです。

―海外の方がオーガニックに対する関心は昔からあったのでしょうか。

池内さん:そうでもないと思いますよ。日本は西洋よりも意識が低いという意見がありますが、オーガニックに対する関心が高いのは日本じゃないかなと僕は思っています。欧米では売れますが興味がある層は富裕層中心で、かなり絞られています。日本ではオーガニック商品に対して、幅広い層から関心を得ていると感じますし、特に若年層にも興味を持つ方が多い傾向にあります。これは日本にしかない傾向だと思います。

モデルは変えずに品質を上げてゆく

―商品の品質改善で最も重要視していることはなんですか。
モデルチェンジをしないことですね。もちろん品質改善は長い目で行なっていきます。特に「糸の織り密度をいかに上げられるか」は現在の課題です。織り密度をあげるとタオルは硬くなりがちなんです。硬いタオルは吸水力が弱くなってしまうため、いかに織り密度を上げながら柔らかいタオルを作れるか、改良し、気づきを経て、また改良していく。その繰り返しですね。品質改善は行いながら「最大限の安全と最小限の環境負荷」というコンセプトは決して変えずに精度を上げていきたいです。

オーガニックのハードルをいかに下げれるかということ

―池内さんは現在ものづくり全般に携わっているそうですが、大変なことなどはありますか。

池内さん:理想をどんどん追いかけると、お客さんの望んでいるものとギャップが生じることですね。僕らの感じていることすべてをお客様一人一人に伝えられる訳でもないので、ものづくりの思いをどのように伝えられるかを考えることは難しいと感じます。

―オーガニック商品をオーガニックに関心がない人に向けてどのように発信できるとお考えですか。(この質問は広報担当の牟田口さんにお聞きしました)

牟田口さん:「環境や安全」を全面に押し出すというよりは、まずは会社のことを知っていただいてから環境、安全のことについて知っていただければいいなと思います。

オーガニックコットンとは何かをまっすぐ伝えようとすると、どうしても間口が狭くなってしまうという現状があります。もちろんオーガニックコットンに興味を持っていただける方は一定数いらっしゃいますが、それ以外の方には魅力が伝わりづらい側面があります。広報の観点からお話しさせていただくと、テレビで取り上げていただいたり、口コミを通して話題になったり、イケウチオーガニックがどういう会社なのかを多くの方に知っていただくということを重要視しています。

また弊社は今治、京都、東京に店舗を展開しております。そこでは環境や安全について興味を持っていただいたお客様には、スタッフが丁寧にご説明させていただいています。まずはイケウチオーガニックのブランドを知っていただくために、ハードルを下げることを常に意識しています。

 

オーガニックが「当たり前」になる世界を目指して

―池内さんにとって、オーガニックとはなんでしょうか。

池内さん:オーガニックは「徹底的に環境を配慮する商品を開発するための手段」だと思っています。

私は、オーガニックコットンを使用している商品は全て地球・環境に優しいという考え方は間違っていると思います。なぜなら企業活動には必ず環境負荷を及ぼす影響があるからです。商品成分の中にオーガニックのものが入っていても、その製造工程で環境汚染をしていたら意味がないと思うんです。

もし製造工程で環境に対する配慮を何もしていなければ、その会社は環境に関するビジネスをしているだけです。繋がっているのは「オーガニックコットンを栽培する農家の方」と「オーガニックを好むエンドユーザー」だけで、会社は実際には環境に対して何もしていないことになってしまいます。

弊社は環境配慮を最優先にしています。そのために生産工程においても、環境負荷を下げることを心がけています。「商品がオーガニックであるかどうか」は、「最大限の安全と最小限の環境負荷」という目標を達成するための手段の一つとして認識しています。

―IKEUCHI ORGANICのこれからの目標を教えてください。

やはり「最大限の安全と最小限の環境負荷」を貫くこと、そしてそのレベルを毎年上げていくことです。そのために企業指針として掲げている「2073年までに赤ちゃんが食べられるタオルを作る」ことを常に念頭に置いておきたいです。また赤ちゃんが食べられるという目標はあくまでも一つの通過点で、答えはありません。具体的に「こういうタオルを作るんだ」というイメージはなく、どのように解釈するかはその時の社員とお客様に任せています。そのためどのような形でこの企業指針にアプローチしていくかは、ぜひ注目していただきたいところです。

―取材はこれで以上です。ありがとうございました。

編集後記
御社の企業指針に「2073年までに赤ちゃんが食べられるタオルを作る」とあったのが個人的にとても印象的でした。そこまでの安心さを商品を使う消費者に伝えるために、こんなにも厳しい認証や基準が根底にあることを知り、完璧に安全である商品を作ることがいかに大変かを知りました。また、オーガニック商品は若者に大変人気である傾向がありますが、オーガニックで消費者と生産者を繋ぐだけでなく、そのつなぐ担い手である企業が製造するにあたって環境に優しくいることが大事だというお話がとても素敵でした。これからのIKEUCHI ORGANICがどんな風に発展していかれるのか、とても楽しみです!貴重なお話をたくさんありがとうございました。

 

ガクセイ基地では、他にもオーガニック商品に関する記事を沢山公開しています。ぜひご覧ください。

About the author

gakuseikichi

Add Comment

Click here to post a comment

新NASA留学2024

ワーキングホリデーin Canada

医療機器業界特集

グッドデザイン特集‼

アルバイトサイト一覧

就職サイト一覧

就職サイト一覧

Contact Us