合格率わずか10%、医師や弁護士と共に三大国家試験に位置付けられる公認会計士試験を突破した専門家。それが公認会計士であり、公認会計士の勤め先とされているのが監査法人です。
その年収が高いことでも知られる監査法人。実際の業務はどんなものなのでしょうか?
今回は、太陽有限責任監査法人の島津さん、三橋さんにインタビューしてきました!
監査法人の仕事=市場の見方
―早速ですが、監査法人の仕事について教えてください。
監査法人の仕事は、いわば企業の決算書に“お墨付き”を与える仕事です。企業が提出した財務諸表に対し“この数字・計算で正しいですよ”という判断をし、監査報告書を出すのです。これが監査というもので、監査法人の主な業務でもあります。
監査は法律で定められているもので、例えば皆さんが通っている大学に対しても、監査を行いますよ。
―なるほど。企業等が嘘をついていないかどうか、チェックをするのですね。
そうです。ちょっとカッコイイ言い方をすると、監査の使命は“投資家に対して、情報の信頼性を担保する”ことなのです。
時事問題になりますが、例えば東芝は、(2017.06現在)今まだ監査法人のお墨付きを得ていません。そのため、投資家たちは投資していいのか分からなくなってしまっています。監査をする企業からお金を頂いてはいますが、立場はあくまで“企業にお金を出す人の見方”なのが監査法人なのです。
その監査ができるのが公認会計士であり、現状、監査の仕事は公認会計士の独占業務となっています。
―市場の見方、なんだかカッコいいですね!監査以外に、何かお仕事はあるのでしょうか?
他の仕事としては、アドバイザリー業務といわれる仕事もあります。
例えば、企業がある会社を買収しようとするとき、買収対象の企業の価値を評価しますね。その評価を代行するのが、アドバイザリー業務です。企業価値は金額として表されますが、実際の価値は目に見えては分かりません。それを計算しなくてはならないので、企業評価は非常に難しいものです。
因みに、自社が担当する監査企業に対してはアドバイザリー業務をすることが出来ません。それでは「自分で評価した金額を自分で正しいのか評価する」という矛盾が生じてしまいますからね。
―日本三大国家資格と言われるように、非常に専門性が高い業務なのですね。
一人の“専門家”として働く
―“お金を貰う相手の立場に立たない” という働き方は珍しいですよね?
そうかも知れません。あくまでも監査法人は中立で、企業から一歩引いた立場で接します。ちょっと悪い言い方をすると「疑うのが業務」ですからね。
―その業務の中で、印象深い出来事は何かありますか?
印象深い、というと不正会計があったとき等を思い浮かべてしまいますね。(笑)そのような時には、企業の担当の方とお話しをしなくてはなりません。
一般的な仕事は、お客様に尽くして感謝をされることが多く、それがやりがいになることが多いと思います。しかし公認会計士の場合、基本的に完全に企業の立場に立って仕事をすることはありません。粉飾決算が見受けられた時など、厳しいことを言わないといけないこともあります。
一方で、専門家としての立場ややりがいもあります。私は学生のうちに公認会計士試験に合格したのですが、若いうちから専門家として、企業の経営層の方々と対等に関われるのが魅力と感じています。きっと他の職業ではできないと思いますよ。
―専門性を武器にした、公認会計士ならではのやりがいですね!
難関試験を突破できるだけの勉強をした賜物でしょうか?
そうですね。ただし、試験に合格して公認会計士になっても、日々勉強です。会計基準は日々変わるものなので、勉強をし続けることが必要なのですよ。また、監査の対象となる企業や業界に対する勉強も必要です。
―ええ!試験を合格してからも勉強…。やはり勉強好きでないと、公認会計士にはなれないのでしょうか?
難しい質問ですね(笑) ただ少なくとも、公認会計士の人はみな勉強が嫌いではないと思います。自分の知識や経験が蓄えられていくのが好き、辛いけどできるようになって楽しい、という人ばかりです。
―なるほど、向上心が強い人が多いのですね!他に何か、公認会計士の方に多い特徴はありますか?
そもそも公認会計士になる人は、普通の就職ではなく、一人の専門家として生きていく道を選んだ人です。試験に合格するとまずは監査法人に入社する人が殆どですが、業界としての流動性も強く、会社を辞めて個人で開業するという人も多いです。そういう意味では、目的意識が強い人が多いかもしれませんね。
太陽監査法人は肉食系?
―公認会計士の方の特徴をお伺いしましたが、太陽監査法人の特徴は何かあるのですか?
はい。監査法人業界は大手の4社が有名で、うちは中堅に位置する法人です。規模が中規模なわけですが、それが太陽監査法人の特徴でもあり、強みでもあると思っています。
―どういった強みでしょうか?
人数が少ない、というのは言い換えると「埋もれない」ということです。適度な人数の方が個性を発揮しやすいですし、若いうちから経験やキャリアをつめるのです。したがって、若いうちの成長カーブが大手に比べて急であるのが特徴だと思います。
―つまり、成長意欲が高い人が多いのでしょうか?
そうかもしれません。先ほど公認会計士には目的意識が強い人が多いとお話しましたが、太陽監査法人は特にその特徴が強いと思います。合格者の多くは大手法人を選択しますが、あえて太陽監査法人を選択した人ということなのでしょうか。
公認会計士 vs. AI の行く末
―ズバリお伺いしますが…AIの発達によってなくなる職業に、公認会計士が載っていることがあります。公認会計士として、どのように受け止めていらっしゃいますか?
危機感は感じています。実際にAIがどの程度進化しているのかわかりませんが、将来的に脅威になるだろうとは思っています。
しかし、AIによって公認会計士の仕事がすべてなくなるとは思いません。確かに単純な照合や計算はいつかAIに取って代わられるかも知れませんが、公認会計士の仕事には照合や計算ではない「判断」という重要な部分があります。そしてこの判断をするためには「会計情報という物語」を正確にひも解く必要があるのです。
―会計情報が物語…ですか?
はい。会計情報が示す数字の裏には必ず人が起こした行動のストーリーがあります。そのストーリーを数字で表したものが会計情報で、私たちはその数字から事実を正確に読み取らなくてはなりません。
まずは何事にも「なんで?これってどういう意味?」という疑問をもつ姿勢が大切ですね。例えば財務諸表を見た時に、1つ1つの数字はあっていたとしても、全体を俯瞰してみたときに違和感を持てるかどうか。仮に粉飾決算をしていたとしても、数字自体にそれなりのエビデンスがあるはずです。それでも騙されないためには「業界の動きと会社の結果が違う…?どうしてここだけ現金で受け取っているの…?それだけの理由はあるの?」という視点を持つ必要があるのです。
数字とにらめっこしていると思われがちな公認会計士ですが、コミュニケーション力も非常に大切です。私たちの仕事で一番重要な部分は、人と話し、また聞くことと言っても過言ではありません。先ほどお話ししたように、行動をしているのは人です。その人と直接コミュニケーションを取って初めて、事実を認識することができると思います。
―疑問とコミュニケーション…それが、対AIでのカギになってくるのでしょうか?
そうですね。この2つができて初めて財務諸表に対する「判断」ができるようになります。例えば人対人のコミュニケーションをAIで代替するのは、難しいことですよね。ですから、公認会計士の仕事がすべてAIに取って替わられる訳ではないと思っています。
とはいえ、AIが脅威であることは確かです。自分や自分たちにしかできない付加価値を探していく努力が必要でしょう。
学生へのメッセージ
―最後に、読者の学生に向けてメッセージをお願いします!
三橋さん:
まず、どんな会社に就職する人であっても「素直さ・好奇心・主体性」が大事だと思います。どんなに学生時代に勉強をしても、社会に出てから学ぶことはたくさんあり、分からないことは教えてもらうのが近道です。教わるときに、この3つがとても大切です。
また、会計士は非常にやりがいのある職業です。この資格を活かして、私たちは社会に様々な方法で貢献することができます。今回のインタビューをきっかけに業界に興味を持っていただけたら嬉しいです。
島津さん:
人の価値観を受け入れることが大切だと思います。そうしないと、せっかく人と会っても自分の考えが自分の世界を出ず、成長できません。また自分の弱さを受け入れるのも重要だと思います。自分の弱さを含めた己分析できる人は強いです。
また、会計士について言えば、監査だけでなく、様々な仕事があります。会計士としてどの仕事をするにしても、企業のことを良くわかっていないと、企業から満足してもらえるサービスを提供することはできません。そのためには、大変ですが、色々な角度から物事を考えて、勉強して、色々な人と話をしなくてはいけません。これは、すごく大変なことですが、その分、感謝されたときは、やりがいを感じる仕事でもあると思います。
学生時代は進路について苦悩する時期だと思いますが、社会人になってからは逆に悩めるのは羨ましいです。(笑)ぜひ今のうちに悩んでおいてください!
―ありがとうございました!
<リンク>
<編集後記>
難関な国家試験を突破した方々が働く監査法人はいったいどんなものだろうと疑問でした。実際にお話を伺い、個人としての成長意欲が高く、前向きで努力家な方がとても多いという印象を受けました。
狭き門ではありますが、公認会計士という道も魅力的だと思います。最後にいただいたお言葉のように、悩める今しっかり進路を考えたいものですね!
Add Comment