―それはうらやましいです(笑)
では今までで大変な事件は何でしたか?
いろいろありましたね。例えば、気の毒だなって思ってやり始めたのが交通事故の案件です。おばあちゃんが歩いている時にバックしてる車にぶつかって、頭を強く打って重い障害が残ってしまったんです。その人の夫は頭を抱えてしまいました。さらに、ぶつけてきた運転手もその車の所有者の会社もお金がなかったんです。でも、その会社はわりと大きい会社の下請けの下請けだったので、その大きい会社にお金を請求しようと試みたんです。理屈上、大きい会社に請求するのは難しいですね。会社の監督責任がその従業員に対してあるのかどうかがわかりませんから。でもやっていく中で、監督責任があったかもしれないという証拠を見つけたので、裁判をしてこちらが勝ちました。
―時間はどのくらいかかったんですか?
3年くらいかかりましたね。普通は1年から1年半くらいなので長かったです。
―そのおじいちゃんは喜んでくれましたか?
すごく喜んでくれましたね。義理堅い人で今でも年賀状が届きますよ。
―その人のように事件が終わっても交流のある人っていらっしゃるんですか?
結構いますよ。弁護士になったばかりのころに手掛けた事件の依頼者が今でも毎年御中元と御歳暮を贈ってくれます。
―そんな関係うらやましいです。
弁護士をやっていてやりがいを感じるときはどんな時ですか?
最初につながりますけど、直接「ありがとう」と言ってもらえると嬉しいですね。それと、何かを説明した時に、本人が頭の中でうまく整理できなかったものをこちらが整理して説明していって、本人がすっきりしてわかってもらえた時は嬉しいです。
―相談してくる人ってある程度勉強してくるんですか?
予備知識を入れてくる人もいるけど、断片的な知識を入れてくるくらいだったら、白紙で来てくれた方がいいですね。掲示板や質問サイトを見てくる人もいますが、だいたい間違ってますね(笑)。
―そうだったんですね。知らなかったです。
よく、証拠隠滅って聞くんですけど、証拠隠滅はよくないですか?
よくないですね。みんなが考えている以上に警察は優秀です。民事でも刑事でも証拠は大事です。よく消される証拠No.1はLINEです。浮気しててばれそうになったから消したっていう人がいるんですが、LINEはこっちが消しても向こうには残ってるんですよ。こちらは消して向こうは証拠持ってるのは最悪なんですよね。向こうに都合の悪いところは向こうからは出さないので。だから中途半端に消すのはやめてほしいです。
事務所の入り口
―なるほど。
例えば、依頼者さんがうそをついている時や相手の方が理にかなっていると思った時はどう対応なさるんですか?
嘘をついている時はまあまああります。こういったらなんだけど、私も依頼者の話は8割くらいにしか聞いていません。なぜなら、人は基本的に自分に都合の悪いことは隠したがるからです。「噓をついているな」と思ったら、「第三者が聞いたらなかなか信用してもらえないと思うよ」と伝えます。
―うそをつかれたら弁護したくなくなりますよね。
先生の弁護士としての信念って何ですか?
フェアであることですね。ずるやインチキや証拠隠滅などをしなかったり、答えられるところは答えたりするということです。これは事件に対する態度としても物事に対する態度としてもそうです。性格かもしれませんが、正しいものは正しい、間違っているものは間違っているというようにしたいんです。バイアスをかけて物事をまげて見ようとは思いません。
―ずるをする弁護士さんっているんですか?
いますいます。お互いに資料を出し合うはずが、向こうが全然出さず、そのまま本人の尋問が始まったことがありました。よくよく聞いてみたら、向こうの弁護士が隠してたんです。よくないですよね。
六法全書
ーそういう人たちは信頼が失われてしまいますね。
では、最後に読者の学生へのメッセージをお願いします。
もし読者の中に法律関係の職に就きたい人がいるならば、その人にはいろいろな経験をしてほしいと思います。最低サークルかバイトのどっちかはやってほしいです。法律実務家は基本的に当事者の人と直接話す仕事ですが、いろんな属性の人が来るんですよ。会社の社長もいれば普通の会社員もいますし、専業主婦やアルバイト、さらには生活保護の人まで来ます。そういった人が悩んでいることや仕事のトラブルについて何も知らないというわけにはいきません。いろいろな人を相手にいろいろな経験をすることで話の幅が広がります。
例えば、自分の経験だとパチンコ屋さんについてです。他人のドル箱(パチンコ玉がいっぱいに入った箱)を盗んだ人の弁護を担当した時ですが、私は、ドル箱を盗まれた被害者に示談にしてもらうために交渉に行きました。その時最初は「先生みたいに偉い人はパチンコなんてやらないんでしょ。」と言われましたが、私はやったことがあったので「いや普通にありますよ。」と答えました。すると、その被害者の方も「え?そうなの?」と言って心を開いてくれて、示談に応じてくれました。
このように様々な体験が自分の経験になります。だから、自分の狭い同じような境遇の人たちとばかり話すのではなく、いろいろな人がいるところで新たな人間関係を作ると勉強になりますよ。
―様々な経験が必要なのですね。
本日はありがとうございました!
<編集後記>
今回お話を聞いて、様々な事件があることを知りました。実際の事件とそれへの対処をお話してくださったのでとても分かりやすく、また興味深かったです。さらに、勉強ばかりするのではなく、サークルやバイトもやった方がいいというお話を聞いて、私自身も学業のほかのことにもっと力を注ぎたいと思いました。
網野先生、貴重なお話をありがとうございました!
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