「生きるべきか、死ぬべきか、それが問題だ。」
この一節はシェイクスピアの「ハムレット」に出てくる台詞です。このフレーズを聞いたことのある人はきっと多いのではないでしょうか。この台詞、作品を書いた「シェイクスピア」を皆様は知っていますか?きっと名前だけ知っている方も多いのではないでしょうか。彼の作品、実はとても面白いんです。教養になるだけではなく、娯楽としても彼の作品はおすすめできます。今回の記事では英文学科である私が授業内で学んだ知識も生かして、シェイクスピアという作家と彼の執筆した三作品について紹介していきます。
目次
シェイクスピアって?
シェイクスピアは16世紀のイギリスで活躍した劇作家であり、詩人です。今でいう「脚本家」のような仕事をしていました。当時の女王であるエリザベス一世に仕えたりしながら、劇団を持ち、たくさんの作品を作りました。彼の作品は今日も様々なところで上映されており、名前を知っている人も多いです。例えば記事の冒頭で触れた「ハムレット」、この後紹介する「ロミオとジュリエット」、「ヴェニスの商人」、「リア王」などが彼の作品として知られています。古典ではあるものの、外国圏では小説の引用・題材にされていたりと皆何かと知っているもの。現在の私達に通じるような台詞もたくさん作中にあり、名言として知られているものもあります。
具体的な作品たち
ロミオとジュリエット
一番名前を聞いたことのある人、お話について知っている人が多いのはやっぱりこの作品でしょう。恋愛悲劇「ロミオとジュリエット」。舞台化はもちろん、映画化されていますし、ドラマなどの題材にもなっています。「ロミジュリ」なんて略されたりもしていますね。
ざっくり言ってしまうと「家が敵同士の男女が恋に落ち、恋の末に心中を試み死に至る」というのがロミオとジュリエットの総括になります。が。彼らが出会い、恋に落ち、死に至るまではなんと6日間。というか、会った日の夜には彼らはキスを交わしています。…早くないか、君達。いやいや、彼らは元々美男美女、甘い言葉に口説き文句がついていて、彼らはほとんど一目惚れです。急展開になっても仕方ないのかもしれませんが、それにしたって早いだろ、と冷静に考えると突っ込みたくなってしまいます。
但し、それを感じさせないのが、シェイクスピアの腕の良さ。作品を読んでいる時には突っ込みたいと思わないほどにちゃんと楽しく読ませてくれます。「恋は盲目」や「ああ、どうして貴方はロミオなの?」なんていう有名な台詞もところどころにありますので、それを見つけていくのもおすすめです。個人的には「貴方はどうしてロミオなの?」の後にある「名前が何?薔薇と呼ばれるあの花を別の名前で呼んだとて、甘い香りは変わらない」、また「別れは美しい悲しみ、僕は言おう、明日が来るまで『おやすみ』を」なんて台詞も素敵だと思います。原文も読むとまた違った魅力がありますので、気になる方はぜひ以下のリンクから。笑いどころも、少し耳がかゆくなってしまうような甘い台詞も、泣きどころもありますので、ぜひ読んでみてください。
夏の夜の夢
日本では「真夏の夜の夢」とのタイトルがある作品です。漫画「ガラスの仮面」にも出てくる作品で、主人公マヤとその仲間達が野外ステージで開演している様子が描かれています。ちなみにライター自身がシェイクスピアを初めて認識したのはこの漫画です。
「夏の夜」というと8月の蒸し暑い熱帯夜を想像される方もいらっしゃるだろうと思います。しかし、ここで言われる「夏」は原書のタイトルでは「midsummer」という単語です。Midsummerとは、夏ではなく「夏至」を指します。つまり、五月から六月くらい、これからどんどん緑が豊かになり、本格的な夏の到来があるそんな時期のことになります。…でも、舞台としてはこの時期なのか微妙、という説も。ちなみにこの話は作品の中で研究的な要素でもあるので、本当に詳しく知りたい方は以下の論文をご覧ください。
人間と妖精が入り混じってドタバタ喜劇が起こる夜のお話。王様のもとに臣下が自分の娘の結婚について相談に来ます。娘のハーミアが恋い慕うのはライサンダー。しかし、父親が勧める相手は別の男、デメトリアスです。自分達の恋が認められないと分かったハーミアとライサンダーは駆け落ちを決めて、森の中へと入っていきます。デメトリアスも彼らを追いかけて森の中へ。ハーミアの親友であり、デメトリアスが好きなヘレナもデメトリアスを止めようと森の中へと追いかけていきます。
一方、妖精の間では、妖精王オーベロンとその妻ティターニアが揉めています。オーベロンはティターニアへの仕返しに惚れ薬を使うと言い出します。この惚れ薬、花の汁をまぶたに垂らすと、目を覚ました時、最初に見た者を愛してしまうのです。なんで夫婦喧嘩にそういう飛び道具持ち出すんでしょうね。どう考えても良くないでしょうに。…そして、先ほど見かけた人間の騒動にも手を貸そうとし、デメトリアスがヘレナを好きになるように惚れ薬で仕向けようとします。
さて、いたずら者の妖精パック、オーベロンから頼まれて、惚れ薬を使います。しかし、うっかり人を取り違えてしまいました!
パックが惚れ薬を使ったのはライサンダー、そして、彼が目を覚ました時に見たのは…ヘレナでした。取り違えに気づいたパックが慌ててデメトリアスにも惚れ薬を使います。が、これが問題。惚れ薬により、ハーミアを愛していた二人が急にヘレナに熱烈な求愛をし始めます。ハーミアとヘレナは大混乱に陥り、友情関係は破綻、ひどい罵り合いを始めてしまい、ライサンダーとデメトリアスはヘレナを巡って決闘しようとしています。
もう、大混乱に、大騒ぎ。それぞれの関係も滅茶苦茶です。…と、この先は実際に読んでみて下さい。四人の恋は実るのか、夫婦は仲直り出来るのか。パックが一生懸命駆け回ります(笑)。とても面白く、笑いどころ盛りだくさんの喜劇です。ぜひぜひご覧になってみてください。原作であるシナリオはもちろんですが、舞台でもぜひご覧になってみてほしいです。
リチャード三世
シェイクスピアの作品の中でとても有名ではないけれど、個人的に一押ししたいのがこの作品。極悪非道、冷酷な暴虐王、リチャード三世。彼はシェイクスピアの出身であるイギリスで実際に即位していた王様であり、彼をモデルとして描かれました。但し、フィクションですから、史実と異なるところはもちろんあります。シェイクスピアの作品のイメージがあまりにも強くなってしまっていて、本物との比較が行われることもある人です。
「どうせ二枚目は無理だとなれば、思い切って悪党となり、この世のあだな楽しみの一切を憎んでやる。」
そんなリチャード三世の独白からこの作品は始まります。
リチャード三世、彼は身体的に非常に醜い男です。「せむし」であり、背中はひどく曲がっているし、顔はヒキガエルのようと描かれています。想像するとあまりいい印象とは言えませんよね。そのため、彼は昔から周りに非常に虐げられてきました。だからこそ、その思いが彼の精神的なあり方を「悪」へと形成させていきます。彼はシェイクスピアの作品の中でも珍しい「完全悪」の人物です。善意というものは一切ありません。ですが、その一方で自分が「悪」であることを確実に意識し、悪にふさわしく振舞いますし、利用出来るものはとことん利用していきます。例えば。主人公リチャード三世は自分が殺した男の妻であるアンに責められ、唾を吐きかけられてしまいます。自分の夫を殺されたのですから、そりゃ怒って当然です。復讐で殺されてもおかしくない。しかしながら、リチャード三世、言葉巧みに自分を憎んでいた彼女を口説き落としてしまうんです。すごくないですか?イケメンならまだしも、彼は生まれながらの不細工なのに。口説き方も実に秀逸で、びっくりします。そして、一番「悪」なのは「彼がアンを愛していない」という事。彼はあくまで利用するためにアンを口説くのです。
所謂「ヴィラン」がお好きな方は絶対虜になると思います。私自身もこんな人がいていいのかと魅了された一人です。個人的には演劇もしているので、演じてみたいと思わせられる人物でもあります。気になった方はぜひリチャード三世の悪の生き方、彼がどうなっていくのかを見届けてほしいです。
まとめ
今回紹介した作品以外にもシェイクスピアの作品には面白い物、私達の感情を動かすものがたくさんあります。今回の記事の導入で利用した「ハムレット」、双子の入れ替わり、男女の入れ替わりの恋模様が見られる「十二夜」、四代悲劇として名高い「リア王」「オセロ」など。ぜひ調べてみてください。
また、2022年の1月からMixalive TOKYOで舞台「朝シェイクスピア」企画が始まります。30分で上演を行う形式になっていて、気軽にいくことが出来るのでおすすめです。企画の第一弾は「マクベス」です。ぜひ見に行ってみてください。
また他にもイギリス文学の記事がありますので、今回の記事でイギリス文学について興味を持たれた方は関連記事からご覧になってみてください。
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