皆さんこんにちは〜!ガクセイ基地のまなみです📚
皆さんに、本についての「あやふやな記憶」はありますか?
「図書室や朝読書の時間に読んだ本、
読み返したいけどなんだったっけ……」
「模試で出てきた小説、めちゃくちゃ感動したのに
問題をどこかにやってしまった……」
こんな葛藤、一度か二度は経験したことがあると思います。そんなとき、ぜひ試したいのが「あやふや文庫」で本好きの集合知に頼ること!
今回は、X(旧Twitter)で話題になり、2024年に『あやふや文庫の本棚』として書籍化もされた「あやふや文庫」の店主にインタビューを行いました。本や記憶について、様々な角度からお話を伺っています!
目次
「あやふや文庫」開店のきっかけ・世界観の構築
―本日はよろしくお願いいたします!改めて、あやふや文庫を開店したきっかけを教えてください。
あやふや文庫の仕組みを思いついたのは大学一年生のときです。通学中に、自分の履いている革靴が路面の水でビチャビチャになっているのを見て、「そういえば、革靴に水を濡らして擦ると綺麗になるということを書いている本があった気がするな」とふと思いました。ただ、その本が何だったかは全く思い出せなかったんですね。
その時期に、カズレーザーさんがX(旧Twitter)のアカウントでたくさんクイズを出す投稿をしていて。「私がカズレーザーさんだったら、こうやってクイズの体にして今の話をするのになぁ」と思ったときに、「だったら、皆がカズレーザーさんになれる仕組みを作れば、クイズを解きたい人は解けるし、気になっていることがある人はそれを解決できるな」というところに行き着きました。そこですぐにアカウントを開設して、バナーなども作成して投稿を始めました。
―あやふや文庫のロゴであったり、Webサイトの世界観がとても好きです!サイトのデザインや、アカウントの雰囲気のようなものはどのように構築されていったのでしょうか。
ありがとうございます。一番最初のロゴを作成するときから、なんとなく自分の中で古本であったりとか、記憶の底で眠っていたり、経年劣化しているようなものをイメージしていました。
なので、あやふや文庫のロゴでは、基本的に白の部分では完全な白色を使っていません。少しイエローとレッドを入れて、少しくすんだ日焼けした、黄ばみを感じさせる色味になるようにしています。
「自分の遠い記憶」を連想するカラーリングにしようと意識しています。サイトなどは初期にデザインしたものではないのですが、そのあたりのルールを共有することで一貫性を担保できているという感じです。
―ありがとうございます。「あやふやちゃん」を始めとしたキャラクターたちも可愛くて、サイトを見る度にニコニコが止まりません。何をモチーフにされたのでしょうか。
「うろ覚えな記憶の概念」のようなものを描きたくて、アカウントを作成した日のうちに作った記憶があります。何パターンかキャラクターが存在していますね。
―反響の大きかった依頼について教えてください。
本(『あやふや記憶の本棚』)にも載せさせていただいたものですが、「結局探していた作品は本ではなかった」という依頼ですね。
「身近な人が亡くなったときに、ものすごく心に響いた表現を探している」ということで探したら、ドラマ『家政婦のミタ』だったという答えになりました。
「本じゃなかったんかい!」という話ではあるものの、、人が作るものは、その媒体や手段の形式に関わらず人の心に残るものなのだなっていう気づきがありました。
そして、恐らくその依頼をされた方は、本を読むときにいろんなものが映像として浮かび上がってくるタイプの方なんだろうなと人間の記憶の面白さを感じました。
私自身は「字で読んだものは字で読んだもの」というところに収まるような気がずっとしていました。
ですが、いざ思い起こしてみると、私自身も読んだものが意外と映像的な記憶の残り方をしていたことにも気が付き、より記憶の不確かさのようなものに関心を持つようになりました。
それで「あやふや文庫」として書籍に特化した形態をとってきたけれど、創作物を扱うという意味では、実はもっと広い可能性があるんじゃないかと考えるきっかけになりましたね。
初の書籍・『あやふや記憶の本棚』に込めたこだわり
―「あやふや文庫」の書籍、『あやふや記憶の本棚 思い出せないあの本、探します』についてのお話に移っていきたいと思います。書籍化にあたって特にこだわった点や、思いを込めた場所について聞かせてください。
私が担当する文章の量を、最初に出版社の方にご提案いただいたものから大幅に増やしていただきました。結果的に、手元に無いものや全巻揃えることが不可能だったもの以外は、本の中で紹介する作品は全て読みました。本を出すのであれば、なるべく多くの作品を紹介したいなという思いがたくさん詰まっています。
―書籍の中のイラストもとても可愛いですし、表紙も少し透けた感じになっているのが印象的です。装丁に込めたこだわりを伺いたいです。
イラストも表紙についても、最初にデザイナーさんや出版社の方に何パターンか紹介していただいたものの中から選びました。
イラストは、あやふや文庫特有の「よくわからない情景」などの概念を描いたら相性がいいなと思った方にお願いしました。おかゆを投げているおばあちゃんの絵とかも書籍の中で出てきます。(笑)
表紙は変形加工や特殊加工を得意とされているデザイン事務所の方にお願いさせていただきました。表紙が透ける部分については、薄ぼんやりとした記憶や、不透明さというものを演出したくて。
くりぬきを使う案や、あえて白いところに白いものを印刷する案も出ましたが、一番ダイレクトにイメージが伝わりそうな案を最終的に選びました。
―約6000冊の中から、どのようにして書籍に載せる作品を絞っていったのでしょうか。
編集者の方に「これが良いと思います!」という意見をいただいたものや、逆に私の方から「この作品を載せたいです」というものもいくつか入れさせていただきました。
その上で、勝手に書籍に載せて、後から「困るのですが……」というやり取りが起きると誰にとっても悲しいなと思ったので、今回掲載する全ての作品の関係者の方に連絡をとりました。
『あやふや文庫の本棚』に関わる人が誰も悲しまず、本が出ることを喜ばしく感じられる体制をいかに作るかということ、あとは自分ではもう判断が難しいところもあるので、ある意味第三者である編集者さんにとって「面白い」と思えるものであるかということを意識しましたね。
―書籍の中でも、実際にその作品の筆者の方のコメントが登場することがありましたね!それもとても面白かったです。
そうですね。X(旧Twitter)を運営していて、作者の方から「あ、これ自分の作品ですね」と反応が来ることもあります。
Xを使っていて、あやふや文庫のことを知っていただいている先生方には何度も反応をいただくこともあるので、常連の先生もいらっしゃるのが楽しいなと思っています。
「あやふや文庫」のこれから・メッセージ
―今後の「あやふや文庫」の展望を教えていただけますか。
Twitter(現X)然り、Webサイト然り、どうしてもインターネットに依存している部分が「あやふや文庫」の抱える悲しいところだと思っていました。
インターネットが何かしらの不具合を起こして消し飛んでしまったら、今まで集めてきた記憶が全てなくなってしまう。なので、インターネット以外のテキストに記憶を刻めるところをずっと探していたので、本になるということで一旦その目標は達成したと感じています。
今は、本に載らなかった数千件の記憶をどこに残そう?という別の課題に向き合う段階が来ているのかなと思っています。
一万件も集まっているのであれば、人間の記憶に残りやすいものについての研究に役立てたり、全てを印刷して国立国会図書館に寄贈したり、方法はいろいろあるだろうと考えています。
一万人分の悩みが集まっているという状態はそんなに多いことではないと思うので、何かSNSやホームページなどの限られた場所ではなく、もう少し長く広く残していくために手を打ちたい。
これからはこの課題について取り組んでいけるといいかなと思っているところです。
―「ガクセイ基地」の記事を読む現役の大学生や、そこにあたる世代に向けてのメッセージをいただけたらと思います。
私は美術系の大学に通っていました。なので、専攻分野としてはやっぱり美術や文学が近いものになってきます。ただ、その一方で「そこにずっといると見えなくなってくる領域」があると感じています。
なので、光文社新書などの自分が普段読まない領域を出しているレーベルの本を読むことは意識的にやっていました。本当は自分が好きな文学やデザインなどの本を読みたくても、敢えて生物学とか地質学のような本を今でも頑張って読むようにしています。
そうすると、意外と「どの分野の人も全然違う話をしているのに、どこかの部分で同じような研究をしているな」と気が付く瞬間があって。そこで次に読むべき本が見えてくるという経験を何度もしてきました。
なので、自分が文学部だとしたら医学など遠い分野を取り扱っている本棚に向かってみて、そこに並んでいる本の中でギリギリときめきそうな本を選んで読む。
難しければ、別の学部・学科にいる友達と一緒に図書館や書店に行って「自分の分野で一番面白いオススメの本を渡してくれ!」と頼んで、勧めてもらったものを購入するというのも面白いと思います。
そうすると、自分の人生では出会わなかったはずの人や本との出会いがあると感じているので、ぜひ挑戦してみてほしいです。
―ありがとうございました!
あやふや文庫 公式SNS
公式サイト(あやふや書庫)
X(旧Twitter):https://x.com/ayafuyabunko?ref_src=twsrc%5Etfw
書籍情報
タイトル:『あやふや文庫の本棚 思い出せないあの本、探します』
著者:あやふや文庫
出版日:2024年10月22日
出版社:飛鳥新社
編集後記
石原愛珠/Ishihara Manami:
私にとっての「あやふやな本の記憶」は、山田太一の『異人たちとの夏』。2022年度の共通テスト模試で、数多くの受験生を感動の涙で沈めた名著です。復習が終わってから、受験が終わってからしっかり読もうと思っていた合間に受験の波に飲み込まれて、いつの間にか存在を忘れてしまっていました。そのときは自力で探し当てたのですが、どうやって検索を掛けたらいいのかもわからず途方に暮れた記憶があります。
なので、本好きの集合知に頼れて、「自分もこの本気になるな」と探偵気分になることができる「あやふや文庫」の投稿はいつも楽しみですし、今回お話を伺うことができて本当に嬉しいです。店主様を始めとした、今回の取材に関わってくださった全ての方に心から感謝を申し上げます。本当にありがとうございます。この記事が、あなたの今日の書店や図書館への寄り道のきっかけになりますように。