あの頃を懐かしく思う季節がやってくる。
私は正直夏という季節が好きではない。じりじりしつこい暑さも嫌だし、汗をかいて湿った肌が痒くなるのも嫌だ。
ただ、夏は過去を振り返る季節でもあるように思う。
そういう意味において、私は少し夏という季節が好きかもしれない。
結局私は、最近の暑すぎる夏の気候が好きではないだけ(笑)
授業で植えたアサガオの鉢を「重いなぁ」と思いながら歩いた通学路の風景。
あれだけ先生に「計画的に持ち帰りなさい」と言われていたのに、なんだかめんどくさくて大荷物で帰る終業式後。
町内会の夏祭り。日が暮れかかった町で友達と待ち合わせるときめき。500円玉を握りしめながら、かき氷も水あめもどちらも食べたくて悩む瞬間。制服姿しか知らなかった男の子の私服姿を見て、げんなりしたりときめいたり。
夏のモワッとした空気のせいか。夏という季節には、昔を思い出すことが多い。
高校時代は懐かしいと思うにはまだ近すぎて、懐かしい記憶はほとんどが小学校時代のもの。時々、中学校時代も。
過ぎた時間は、戻らない。
とても当たり前のことだけど、なかなか気づかない。
一瞬一瞬を大切に。
理解していても、一瞬を必死に生きていたら「この一瞬は二度と戻らない」なんて考えている暇はないから。
だから、私は過ぎ去った懐かしい時間を「もっと大事に過ごせばよかった」と後悔しているのではない。
かといって、「あの頃に戻りたい」と思っているのでもない。
言語化するのは難しいけど、「もう戻れない」ことに価値を感じている。
「もう戻れない」から、素敵に見える。
輝いて見える。
そして、あの頃の自分も友達も、好きだった人たちも、可愛くて愛おしい。
目次
「クラスメイトの女子、全員好きでした」
筆者の爪切男さんが、タイトルの通り「好きだった女の子たち」について語るエッセイだ。
書店で偶然見つけ、ビビッとした。
こんなに笑えるタイトル、ある?
タイトルだけで、もう十二分に面白い。すぐに購入した。
期待を裏切らない面白さ、期待を上回る愛おしい一冊だった。
まず、登場する女の子のクセの強さが半端ない。
すぐに吐いてしまう女の子。どうしても「ねるねるねるね」が食べたいフランスから来た転入生。とても可愛いのに、冷水機の水の飲み方が変な女の子。ひげが生えている剣道部の女の子。
とてもクセが強い。大人になった彼女たちが、当時の自分を振り返ったのなら、「穴があったら入りたい」状態になるのではないだろうか。
それなのに、筆者はそのままの彼女たちが好きだと言う。クセが強い女の子たちに埋もれているが、たぶん筆者がいちばんクセが強い。
笑い声が漏れてしまうほどおかしいのに、安心感があるのは、筆者なら全てを受け入れてくれると思わせる温かみが一冊を通して伝わってくるからだと思う。
思い出すと恥ずかしいことだらけ
過去を振り返る季節という意味では夏が好きだ、と書いたが、過去を振り返ると過去の恥ずかしい記憶が蘇ってくることも多い。
ちょっとしたことでむきになったり、大した理由もないのに人を嫌ったり。
大人の大半がそうではないかと思うが、子どもの頃の自分はやっぱり子どもっぽい。こんなことで喜んでいたのか、こんなことで腹を立てていたのか。
他の人のことなら、「子どもらしくて可愛いね」と言えるようなことでも、自分事となれば恥ずかしさが勝る。
そんな恥ずかしさを肯定してくれるから、私は「クラスメイトの女子、全員好きでした」に安心感を覚えたのだと思う。
もし筆者と私が同い年でクラスメイトだったのなら、きっと筆者は私の欠点も好きだと言ってくれるのだろう。
大人になることの切なさ
筆者の描く学校生活はきらめいている。
個性豊かな登場人物、子ども同士だからこその衝突。
でも時が流れれば、皆大人になっていく。冷静さを持ち合わせていくし、ある種の諦めも身に着けていく。
年々、生きやすくなっていくと言えばいいのか。大人になるにつれてコミュニティは広がる。自分と合わないと感じた人と距離を置くことは、小学校時代と比べて簡単になる。理不尽なことを、理不尽な状態になる前に回避できるようになる。
たぶん、小学校時代の私の方が今の私より、ずっと深く悩んでいた。
今の私なら「そんなの大したことない、放っておけばいい」と言えることが、昔の私の大問題だった。
何も悩みたいと言っている訳ではないが、全てに一生懸命で全てに傷ついていたあの頃を考えると、大人になって自分が得たものと失ったものに気づかされる。
だから、「クラスメイトの女子、全員好きでした」は少し切ない。
子どもだった全ての大人へ
この本を、かつて子どもだった全ての大人に読んでほしい。
馬鹿馬鹿しくて、おかしくて、なのになぜか少し切ない。
「懐かしい」と感じて笑いがこみ上げるあなたも、戻らないきらめきを感じて「切ない」と思うあなたも。今振り返ると「恥ずかしい」、子ども時代のあなたも。「諦め」を身に着けた現在のあなたも。
きっとあなたの全てを、この本は受け入れてくれるはずだ。
著:爪切男
あらすじ(引用)
「おまえは、女の子と恋はできないだろう」。父から突然の宣告を受けた少年は、クラスメイトの女子をひたすら観察することにした。宇宙一美しいゲロを吐く女の子。水の飲み方が妖怪みたいな学校のマドンナ。憧れのプロレスラーそっくりの怪力女番長。全員素敵で、全員好きだった。面白くて、情けなくて、ちょっぴり切ない恋の記憶。読めばきっと、恋をしたくなる!全21編のスクール・エッセイ。