車椅子ダンサーかんばらけんた
好きを見つけよう

車椅子ダンスのイメージを越える/かんばらけんた

日本では、障害を持つパフォーマーが表舞台に立つと「障害者を見せ物にするのか!」という批判が上がり、メディアはこぞって自粛ムードを取るようになった。そのため障害という特性を持つパフォーマーが福祉・教育・チャリティーの枠を越えてフラットに活躍出来る場が少ない。パフォーマーは自分の芸に誇りを持ち、客を笑わせて感動させているのだ。活躍を希望する彼らのチャンスを奪っているのにかかわらず自粛ムードは続く。一体何のため、誰のための自粛なのだろうか?

障害の有無に関わらず活躍できる場をすべての人に。その思いで一般社団法人Get in touchは2017年に一夜限りのエンターテインメントショー「月夜のからくりハウス~平成まぜこぜ一座~」を企画した。

一般社団法人Get in touch
誰も排除しない「まぜこぜの社会」実現を目指している。アートや音楽・舞台・映像などのエンタメを通じて、すでに多様性社会であることを表現し、マイノリティのPRをするプロボノ集団。
公式HP
Get in touch. Let’s まぜこぜ!~私がかわる。あなたが変わる。みんなが変わる。社会が変わる~

 

 

今回はその月夜のからくりハウスに出演している かんばらけんたさんのインタビューをお届けします。

かんばらけんたさんは先天性二分脊椎症で、普段はSEとして働きながら車椅子ダンサーとしても活躍している。リオデジャネイロパラリンピック閉会式での東京プレゼンテーションで、畳んだ車椅子の上で回転する技をみせていたのがかんばらけんたさんだ。

 

(かんばらさんが登場するのは08:00過ぎから)

 

先日神田明神にて行われた月夜のからくりハウス記録上映会で、私は初めてかんばらさんのダンスを生で見ました。

かんばらけんた

舞台の上には誰も乗っていない車椅子が一つ。それまでかかっていたBGMも消え、観客の視線が痛いくらいに注がれる。舞台端から腕の力だけで登場するかんばらさん。舞台の中央に佇むと睨むように、観客を見据える。音楽はまだかからない。静寂の中、聞こえるのは彼の息使いと腕が地面を打つ音だけ。会場は彼の一挙一動を見逃すまいとしている。

車椅子ダンサーかんばらけんた

車椅子から飛び出たり、タイヤを外して道具として使用したり、車椅子の上で逆立ちをしたり躍動感溢れるダンスに私は目が離せなくなり、かんばらさんがどんな思いでパフォーマンスをしているのか知りたくなりました。

 

―かんばらさんは平日はSEとしてお仕事をされているとのことですが、ダンサーになった経緯を教えてください。

パフォーマンス専用の車椅子を見たのがきっかけです。タイヤの部分が太鼓になっていたり、走ると音楽が鳴って、止まると音も一緒に止まったりする車椅子なんですけど、それがとても格好良かったので「あれに乗ってみたい!」と思いました。

 

―今ダンスをするときに使っている車椅子はパフォーマンス用の物ですか?

いえ。これは生活用の一般的な車椅子です。ダンスをするときも生活するときも同じ車いすを使っています。

 

―なぜ生活用の車椅子でダンスをされているのですか?

パフォーマンス用の車椅子を使って踊るのも格好良いけど、この車椅子でしか出来ない動きがあるからです。自分で作った畳んだ車椅子を倒してその上で回る「ロクロ」という技があるんですけど、海外製の車椅子って畳めないことが多いんですよ。畳める車椅子じゃないとこの技ができないので、日本製のものを使っています。これはこだわりっていうよりも自分のダンスをするのに必要だからかな。

 

―振付はどのように作っているのですか?

僕は同じ曲で何度も踊っているので、その曲に関しては一曲の中で動きの流れとか、技とかがブロックのようになっています。そのブロックの順番を入れ替えたり、丸々別の技と入れ替えたり…という風に作っています。

 

―振付のインスピレーションはどこから得ているのですか?

何か一つテーマを決めることが多いですね。テーマは、生まれてからの自分の今までの人生だったり、障害だったり。そのテーマをダンスにしたらどうなるかっていう風に想像して振付を作っています。

車椅子ダンサーかんばらけんた

―普段の生活の中でダンスはどのくらいの割合を占めていますか?

公演に向けた練習の時間は、公演の数によって変わるので具体的には言えないですね…。会社に行くための移動時間にダンスのストーリー考えたり、振付の構成を考えたりとかはしています。ダンスの練習はしていますが、ダンスのための筋力トレーニングは特にしていないので、そんなに多くないかもしれません。

 

―車椅子の上で逆立ちされるのに筋トレとかしていないんですか!?

家では車椅子を使わずに生活しているので、日常生活が全部筋トレみたいな感じになっています。

 

―踊っている時はどんなことを考えているのですか?

お客さんの反応をチェックしています。お客さんのリアクションがいい時は、キメ感をいつも以上に出したり、集中力を切らさずに最後まで見てほしいのでどのタイミングで惹きつけるか考えたり…。最近は緊張もあまりしなくなってきているので、お客さんのことをじっくり分析しています。踊っている時も意外と冷静です(笑)
舞台に立つ前も、お客さんがどんな人たちなのか観察します。アートを求めているのかエンターテインメントを求めているのか、子どもなのか大人なのか、初見なのか何度も見てくれている人なのか…など。僕はお客さんをすごく意識するタイプのパフォーマーなので、自分の踊りたいダンスを踊るというよりも、お客さんに喜んで貰えるダンスとのバランスは意識しています。。

 

―会場の後ろの席で、集中できずにきょろきょろしていた小さな女の子が、かんばらさんが踊りだした瞬間に立ち上がり、めいっぱいのつま先立ちで食い入るように見ていた姿が印象的でした。

それはすごく嬉しいですね。自分に子どもがいて小さい子が好きっていうのもあるんですけど、子どもたちの前で踊ることにすごく意味を感じるので、子どもの前で踊る公演依頼は積極的に受けるようにしています。

 

―意味を感じる…とは?

踊る前に子どもに話しかけたときは壁を感じることがすごく多いんですけど、踊ったらそういうのが一気になくなるんですよ。車椅子に興味を持ってくれたり、感想文にも「車椅子でかわいそうだと思っていたけど、かっこよかった。楽しかった。」と書いてくれたり。パフォーマンスの持つ力ですね。
僕は小さいころから「普通」になりたかった。でも、車椅子の僕だからできるダンスを子ども達に見せることで、「違い」を楽しむことを伝えられるんじゃないかと思っています。

 

―かんばらさんは、東京都のヘブンアーティスト(審査会で合格した大道芸人に対してライセンスが発行され、指定場所での大道芸を許可される。)のライセンスもお持ちですよね。審査会に出ようと思ったのはなぜですか?

パラリンピックとか障害者系のイベントって大体お客さんが固定されちゃうんですよね。いつも見に来てくれるお客さん以外の人に僕のパフォーマンスを届ける機会を作るために、僕が街に出て踊ることにしました。
プロのダンサーさんと一緒に踊ると自分のダンスはまだまだと実感することが多いけど、他のダンサーさんにはできない特殊なことをしているから注目してもらえる。「車椅子の人は動けない」っていうイメージがあるから、僕が車椅子から飛び出して踊るとキャッチーに見える。車椅子の持つ悪いイメージがあるからこそ、僕はそれを利用して、多くの人に注目してもらえる部分もあると思います。

 

―日本だと障害を持つパフォーマーが、フラットに活躍できる機会が少ないことをかんばらさんはどう思いますか?

僕もパラリンピックとか「障害」っていう枠で踊ることが多いけど、最近はCMとかテレビで踊る機会も増えてきているので少しずつ変わってきているのを感じます。逆に僕はメディアだけじゃなくてパフォーマーにも問題があると思っています。やっている本人が発信していなかったり、うまく発信しきれてしなかったり。僕は、プロモーションのために作った映像をSNSでガンガン発信しているんですけど、映像そのものの出来とかハッシュタグの付け方とかを意識したら、DMで海外から出演依頼が来るようになりました。なので、障害を持った人がフラットに活躍できる場が少ないっていう問題は、社会だけじゃなくて僕たちパフォーマーも動かない限りこのまま変わらないと思います。
…でも、新聞記事に「障害は個性」っていう僕が意図してないタイトルを付けたり、僕を車椅子に乗っているすべての人代表みたいに扱うのは変わってほしいですね。

車椅子ダンサーかんばらけんた

―かんばらさんの今後の目標を教えてください。

2020年の東京オリンピックの閉会式で踊ることです!

 

―パラリンピックではなくオリンピックで?

競技でオリンピックに出るのは無理だけど、閉会式なら出られるチャンスがあると思うんですよ。オリンピックの閉会式で踊ることでパラリンピックに興味を持つ人が増えたり、パラリンピックっていう枠から飛び出す機会が増えるといいなと思っています。

ーありがとうございました。2020年を楽しみにしています!

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