食品業界

明治THE Chocolateでチョコレートの新しい文化を作りたい~大ヒット商品の裏側を探る!!

【ヒット商品の裏側を探る!!】

大ヒット商品「明治THE Chocolate」。今までのチョコレートとは品質もパッケージデザインもコンセプトも違う商品に驚いた方も多いでしょう。

「どのような経緯でこの商品が生まれたのか」、「担当者の方がこの商品にかけた思い」をお聞きするため、明治THE Chocolateの担当者の方に取材しました!

今回は、明治THE Chocolateの開発を担当されている宇都宮 洋之(うつのみや ひろゆき)さん(写真左)と、マーケティングを担当されている佐藤 政宏(さとう まさひろ)さん(写真右)にお話を伺いました!

 

チョコレートの新しい文化をつくりたい

―よろしくお願いします。まず、それぞれ、どういった仕事をなさっているのかを教えてください。

(宇都宮さん)商品開発は、素材探し、製品作りから、パッケージングまでを担当しています。単においしいからという理由だけではなくて、「明治が作るべき商品なのか」「お客さんは喜んでくれるか」や、売り上げや利益のことまで考えています。

(佐藤さん)マーケティングは、市場を分析し、そこに何を提案するかを決めます。また、販売後の商品の市場性を考え、何年後かに商品をどういったポジションまで持っていくのか、そのために何をしなければいけないのか、お客様とのコミュニケーションをどのようにとるかなどを考えています。

 

―『明治THE Chocolate』はどのような思いから生み出された商品ですか?

(佐藤さん)日本のチョコレートのマーケットは二極化しています。 百貨店・専門店で売られているような高級チョコレートと、100円ほどのお菓子のチョコレートは多くありますが、その中間の商品がありません。気軽に楽しめる「嗜好品としてのチョコレート」を作りたいという思いから生み出された商品です。

(宇都宮さん)海外ではチョコレートは、コーヒーやワインのような嗜好品ですが、日本ではお菓子としての位置づけのほうが高いと思います。日本にもチョコレートの新しい文化を作りたいと考えています。

 

―「嗜好品としてのチョコレート」というのは具体的に誰をターゲットとしていますか?

(佐藤さん)日本には月に1回、自分でお金を出してチョコレートを食べる人が約5000万人いらっしゃいます。その中の5%くらいの人たちが「ワンランク上のものが欲しい」、「品質や素材にこだわったものがいい」と考えている『こだわり層』です。この方たちの心をとらえようと考えました。

 

―明治だからこそできることは、どんなことだと思いますか?

(宇都宮さん)我々は専門店と比べ規模が大きいため、コンビニなどで全国のあらゆるところに商品を届けることができます。ですので、百貨店にも負けないほど品質の高いものを日本中にお届けして、嗜好品としてのチョコレートを多くの人が楽しめる文化を創り出すことができると考えています。

(佐藤さん)普段、お菓子としてチョコレートを食べている方たちに、実は嗜好品というワンランク上の楽しみ方があるのですよと提案していきたいです。品質が高く身近で買いやすい価格のチョコレートがあったら、みんなもっと幸せになるのではないか、と思っています。

 

―なぜ百貨店と同じクオリティの商品を、安い価格で提供することができているのですか?

(宇都宮さん)「メイジ・カカオ・サポート」という原料調達のシステムによって可能になっています。

今までは、農園で作られたカカオ豆は商社を通じて調達していました。しかし、高品質のものは世界の大きい企業に買い取られてしまいます。そのため、10年ほど前から、自社で農園まで行ってカカオ豆の生産から携わり始めました。我々が求める品質のカカオを作ってもらう代わりに、豆の生産に専念できるような環境を提供しています。

直接取引をするので、中間マージンをなくすことで安い価格で仕入れることが可能になっています。さらに、農家の方にとっても世界の取引価格より高い値段で買い取っているので、両者にとってwin-winの関係を築いています。

 

―嗜好品を意識して商品づくりを始めたのはいつですか?

(宇都宮さん)実は1986年から「嗜好品」をいう位置づけを目指した商品を作っています。しかし、失敗続きで全然うまくいきませんでした。技術はあったのですが、商品の設計とマーケティングにおいて、お客さまが求めていたものと明治が提供していたものにギャップがあったのです。このことを反省し、課題解決の努力を重ねました。

 

―明治THE Chocolateは、市場のニーズと商品が合ったためヒットしたのだと思いますが、具体的にどのような点を変えましたか?

(宇都宮さん)モノの作り方はあまり変わっていませんが、商品のコンセプトや伝え方を変えました。 今までの嗜好品のチョコレートには、物質的価値ばかりを打ち出した商品と、上質な雰囲気を謳った商品がありました。 たとえば、「アラカイボカカオを使ったチョコレート」と謳った商品がありましたが、アラカイボカカオと言われても意味がわからないと思います(笑)。

また、「日常の中で味わう、ちょっとしたご褒美と贅沢なチョコレート」がコンセプトの「ハレル」という商品がありました。これもまた、何からできているのか、どんな味がするかわからないです。 このように、別々の商品で打ち出していた素材の質の高さと上品な雰囲気の両方の要素を1つに合わせたのが明治THE Chocolateです。

 

今までの技術が全部詰まったもの

―明治THE Chocolateの特徴的な形は、どのように生み出されたのですか?

(宇都宮さん)チョコレートは形状によって、溶けるスピードや味が変化します。そのため、1枚の中で様々な食べ方を楽しんでいただくために、様々な形を組み合わせた形状になりました。また、ただデザインを考えるだけでなく、きちんと冷えて固まるか、ひっくり返した時にはがれるか、など様々な条件を満たす必要がありました。

これを可能にしたのは、今までの研究成果やノウハウ、特許の積み重ねです。1個ずつのパーツに、今までの色々な知見が詰まっています。

―今までのチョコレートのパッケージデザインも違いますが、どのような経緯でこのようなデザインになったのですか?

(宇都宮さん)他の商品は中身や原料などがパッケージのあちこちに書かれていますが、明治THE Chocolateには、会社名・商品名・味わいという本当に必要なところだけ書きました。 素材にこだわっており、品質に自信があるためにできたことです。コンビニやスーパーの中にbean to barのショップが現れるような、そういう感覚でパッケージを作りました。

※bean to bar:カカオ豆の厳選から焙煎、製造までの工程全部を一貫して手がけること

―twitterで上司の方に「あなたの年代がターゲットではない」と反論して販売に漕ぎ着けたということを目にしましたが、本当の話ですか?

(佐藤さん)私が言ったのは事実です。そこまで尖った言い方はしていませんが(笑)。 私自身、初めてこのパッケージ見た時、今までの商品と全然違うものだったので、正直「これで行けるのか?」と疑問に思いました。ただ、「主観だけで物事を考えるのはやめよう」と決めていたので、お客さまの前に出してみてちゃんと支持が得られるかどうか確認してみました。すると、「わーなにこれ!」とお客さまの食いつきがすごかったんです。それを見て「いける!」と確信しました。

上層部に商品を報告したときに「こんなの売れないよ」と反対されました。そこで、「私も最初はそう思いました。ですが、お客さまに問いかけてみたところ、ものすごい支持を得ました。私もあなたもターゲットではないですよね」ということを伝え、承諾していただきました。これが真実です。

 

―明治THE Chocolateには、明治が培ってきた歴史がつまっているのですね。

はい。お菓子業界には、ある商品がヒットするとすぐ競合が同じような商品を出す傾向があります。しかし、今年この商品に似た商品はでてきていませんよね。つまり、簡単に真似できるような商品ではなかったということです。今までの技術や原産地とのつながりなど、他社が真似できないような武器で作り上げたものです。

 

―マーケティングをするために何か工夫したことはありますか?

(佐藤さん)明治はマスメーカーとして幅広い方たちをターゲットとしていたため、宣伝広告を大量にかけて出すというのが今までのやり方でした。 しかし、明治THE Chocolateのターゲットである「こだわり層」の方々の心を揺さぶるようなコミュニケーションは広告ではできないと考え、ここから脱却しようと考えました。

そのため、実際にチョコレートにふれ、食べ比べて楽しんでもらう機会や、色々な方たちとお話をさせていただく機会を作り、自分たちの思いやこだわりを伝えチョコレートそのものをもっと好きになってもらえるやり方に変えました。 モノだけでは伝わらない情報を「体験の機会」と通じて知ってもらうダイレクトコミュニケーションの場を提供しています。

 

―「体験の機会」とは具体的にどのようなことを行っていますか?

(佐藤さん)お客様に直接、カカオの秘密やチョコレートの面白い世界などを伝えていく場を設けています。生のカカオの実を割ったり、焼きたての豆を食べていただいたりするイベントで、応募の倍率も十数倍あるほどで大変人気があります。

 

―宣伝の方法を変えてみて、どのような変化がありましたか?

(佐藤さん)お客さまとのダイレクトコミュニケーションを大切にしていくことで、「面白かった」と思う方がどんどんSNSや口コミで広めていってくだります。テレビCMは多くの方に届くけれど、薄い情報しか伝えることができません。一方、このやり方は確かに時間がかかるやり方です。しかし、とても質が高い情報をお届けすることができます。このようにしてチョコレートをもっと楽しめるような市場を作っていきたいと思っています。

 

―箱を使ったオリジナルの活用がSNSで広まっていますが、商品を出す前からSNSで話題になることを予想していましたか?

(佐藤さん)全く予想しておらず、私たちも正直びっくりしました(笑)。発売して一カ月後にロゴの部分を本のしおりにした方がSNSにあげて、それがきっかけで一気に広まりました。社内でも、その流れを活用したほうがいいのではないか、という声が出ました。 しかし、話し合いの結果、明治としては何も手を出さず「お客さまの中で楽しんでいただいている領域に、自分たち企業が手を出さないほうがよい」と判断しました。

 

チョコレートを通じて世界をつなげたい

―今の仕事で一番やりがいに感じるのはどのようなときですか?

(佐藤さん)メーカーとして商品が売れることはもちろん嬉しいことですが、一番やりがいを感じるのは、直接会った方々が笑顔で喜んでいただけたのを見たときです。人々の幸せに貢献できていることを実感できたときがとても嬉しいですね。

(宇都宮さん)商品開発の仕事は、自分の考えたものが形になって日本中に届くことが嬉しいです。また、明治THE Chocolateを通じて、料理研究家の方やレストランのシェフの方など様々な人とお会いし、チョコレートの将来や日本人の味覚など、今まで知らなかったことを知りました。商品を通じて新たなネットワークが生まれることが楽しいです。 また、カカオ農園の方に、日本でチョコレートが多くの方に喜んでいただいていることを伝えるとすごい喜ばれます。そのことが現地の方のモチベーションに繋がっているのもとても嬉しいです。

 

―今後明治THE Chocolateをどのように成長させていきたいと思いますか?

(佐藤さん)将来的には、明治THE Chocolateの海外展開も視野に入れています。 また、大きなビジョンとしては、「チョコレートを通じて世界をつなげたい」ということも考えています。このような思いは、カカオの生産国であるドミニカ共和国やブラジルの大使の方にもご賛同いただいています。

(宇都宮さん)世界に出ていくためにも、まずは日本でチョコレートの地位を高めることが第一のステップですね。

 

―学生に向けて何かメッセージはありますか?

(宇都宮さん)仕事をするうえで大事なのは、自分で仕事を作ること」「仕事を自分のやりたい方向に持っていくこと」だと思います。待っているだけでは面白い仕事は来ません。仕事が面白いかどうかは、全部自分次第だと思います。

(佐藤さん)明治のマインドにも「仕事を面白くする」「面白い仕事をする」というのがありました。明治THE Chocolateでは、今までにないようなことを自ら作り出しています。ですので、毎日が刺激的で楽しく、仕事が面白いです。思い続けていれば何とかなるので、皆さんも自分が面白いと思えるような仕事を自ら作り出していってください。

 

(編集後記)

明治THE Chocolateは今までのチョコレートを抜本的に変えた商品だと思っていましたが、実際は今までの明治の積み重ねによって生まれた商品なのだということがわかりました。 また、「チョコレートを通じて世界をつなげたい」という大きなビジョンを持って仕事をしておられることにも驚きました。

取材中にいただいた『まぜまぜショコラ オレンジ』、チョコの甘さとオレンジの酸味がすごく合っておいしかったです!100%ChocolateCafeで売っているので、是非飲んでみてください!

 

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