社会問題

ホームレスの現状と大学生にできること/TENOHASIインタビュー

いきなりですが、日本の貧困率をご存知ですか?日本の貧困率は約16%で先進国30ヵ国では4番目に高く、10人に1人以上が貧困に陥っていると言われています。その一方で「生活困窮者を国が援助すべきではない」と回答する人が世界最高水準の38%tに上ります。

 

ホームレス支援をしている団体TENOHASI(てのはし)さんに、ホームレスになる人にはどのような背景を持つ人がいるのか、私たちにできることは何なのかを取材しました。

 

特定非営利活動法人TENOHASI
2003年に活動が始まり、2008年に特定非営利法人格取得。現在約35名のボランティアコアスタッフが所属し、池袋を中心のホームレス支援をしている。
 
清野賢司さん
中学校社会科教員を30年勤めたのち、現在はTENOHASIの事務局長を勤める。

 

ホームレス支援団体てのはしがはじまったきっかけ

ーてのはしが始まったきっかけや活動について教えてください。

 

てのはしは2003年に結成されたホームレス支援団体で、新宿で炊き出しをしていた人たちが池袋でも今と同じ月2回で始めたことがきっかけです。

炊き出しを始めたものの、そのことを知らない人もまだまだいると考え、彼らが寝ているところにチラシを配るなどの炊き出し以外の活動も徐々に始まりました。

 

2003年当時、多くの路上生活者が亡くなっていたことを受け、医療関係者が路上生活者の健康状態を把握する必要性を感じ、炊き出しの際に医療相談をできるようにしました。

活動が多岐に渡る過程で、現在の特定非営利活動法人 TENOHASIになりました。私がてのはしに参加したのは2004年のことです。

 

ー清野さんがホームレス支援に携わろうと思ったきっかけはなんですか?

 

私はもともと中学校の社会科教員でした。授業で様々な差別問題をきちんと丁寧に教えていたつもりでしたが、ホームレスの問題については全く触れていませんでした。

2003年に東村山で中学生たちがホームレスの人を殺害した事件が起こり、その中学生が通っていた学校は自分が数年前に勤務していた学校のすぐ近くだったので、非常にショックを受けました。

 

この事件が起こるまで、自分はホームレス状態の人たちのことを大きな社会問題だと考えていませんでした。

自分が担任をしている生徒がその事件を起こしていてもおかしくなかったし、その時の自分には「なぜそんなことをしたんだ」と生徒を叱る資格もないと思いました。

この事件をきっかけにホームレス問題について授業をする必要があると考え、元ホームレスだった人を講師に呼んで総合的な学習の時間にホームレス問題について学年全員で学ぶ時間を設けることにしました。

てのはしに連絡をし授業をしてもらったことをきっかけに、てのはしに興味を持つようになりました。

 

ホームレスの人々は社会で非常に大きな差別と偏見に晒されており、権利も確立されず、差し伸ばされる手も非常に少ないです。目に見えて支援が必要とされているにもかかわらず、政治家など社会的地位のある人でも「怠け者」「汚い」「怖い」「臭い」と差別発言をするほど社会的偏見が非常に強いです。。

 

そんな差別の最前線に晒されている人々に対して、自分にできることがあることに意味を感じてのはしのボランティア活動に参加するようになり、2017年に教員を退職するまで11年ほどは中学校教員をしながらてのはしに携わってきました。

 

ホームレスになる人の多くに共通するバックグラウンド

ー比較的若くて体力的にも働けそうに見える40歳以下でホームレスになっている人はどのような人が多いのでしょうか?

 

全員がそうというわけではありませんが、

  • 生まれ育った家庭が貧困だった
  • 生活保護を受けていた
  • 虐待をされていた
  • 親がネグレクトだった
  • 児童養護施設で育った

という背景を持つ人が相当の割合でいます。あとは多数ではないですが、

  • アダルトチルドレン
  • 無戸籍者
  • パワハラによって鬱や統合失調になり、医療に繋がらなかった
  • 親が何かの依存症だった(ギャンブルや酒)
  • 性産業に従事し精神的に追い込まれた(女性)

という背景を持つ人もいます。

生まれた頃から不利な立場に置かれていた人が、低学歴低学力で社会に出ても頼れる家庭や友人関係、コネクション、支えられる関係がなく、孤立無縁で社会で戦っています。

そんな中でちょっとしたトラブルでメンタルや体が壊れてしまっても、働き続けなければ生活できないため、仕事も休めずに働き詰めます。

 

比較的余裕のある人の場合、体調を崩したり鬱になったりすると、仕事を休んで実家などで休養する選択ができます。

しかし、そのようなメンテナンスができる場所がない人は働き続けなければ生活が破綻してしまいます。

その結果、心身ともに傷つき疲れ果て、生活が破綻して路上生活になる傾向があります。

 

確実に貧困は遺伝しているし、元から弱い立場の人がさらに弱い立場に追い込まれる。

周りから批判され体も心もぼろぼろになってしまいます。

多くの場合は、社会の階層構造の一番下の人がもう一つ下の段階に落ちてホームレスとなっています。

 

ー日本社会で貧困に問題意識を持つ人が少ないことにはどのような背景があるのでしょうか?

 

「働かざるもの食うべからず」という言葉があるように、働くことに価値を置く考え方が強く、生産性のない人に価値を置かない背景も原因の一つだと思います。

日本では戦前、格差が大きくても、同じように貧しい人が多くいて連帯する傾向がありました。

当時は当たり前だった地域の連帯関係や困ったら助け合うコミュニティは、都市化によって解体・リセットされました。

 

自分の好きなように生きようという気持ちの良い孤立感が今の社会に浸透している一方で、昔のように困った時に助けてくれる他人は少ない。

そのような連帯感が失われた時、うまくいっていない人がいると、彼らの事情をよく知らないので、彼らに対して同情・共感するより、恐怖・蔑視の態度を抱くようになっているように感じます。

 

ホームレスの人の生活とてのはしの支援

ーホームレスの方は炊き出しのない日のご飯をどのように手に入れているのでしょうか?

 

炊き出しで食事を賄う場合、上野や渋谷など東京都内を歩けば週に5日くらいは食べ物を得ることができるでしょう。

 

しかし、そもそも「ホームレス」の定義は難しく、ずっと路上で生活している人はホームレス全体で見た時にそこまで多くありません。お金があればネットカフェとかにも泊まるし、土木建築の寮にも行くし、他の町でバイトもするし、様々な手段で稼ぎながらご飯を食べています。

 

例えば、日雇いの仕事、東京都の失業対策事業の一環である公園の清掃の仕事や、人気商品の発売日に並んで商品をゲットしてバイヤーに売る「並び」という仕事などがあります。

 

貧困ビジネス

ーてのはしさんも参加されているHOUSING FIRST(ハウジングファースト)東京プロジェクトについて教えてください。

 

HOUSING FIRST(ハウジングファースト)東京プロジェクトという、路上生活から直に普通のアパートに住めるようにする支援プロジェクトに参加しています。

炊き出しや夜回り、生活保護申請の付き添いをするだけでは支援は足りないと考え始まった活動です。

生活保護はゴールではなく自立した生活のスタートにしか過ぎず、そのスタートも非常に厳しいものです。

 

Housing First Tokyo Project

 

東京都とその隣接県で家がない人が生活保護を申請すると、役所は当面の住まいとして無料・低額宿泊所を優先的に紹介します。

しかし、そこは10人部屋などの大人数の部屋だったり、4畳半で二人部屋だったりなど、複数人が狭いスペースでの生活をするケースが多いです。

 

このコロナ禍で誰か一人でもコロナにかかったらクラスターになり得ます。

同居人の年齢もバックグラウンドも異なるだけでもストレスが溜まりやすいのに、利用者の中には、障がいがあり複数人で生活することに強いストレスを感じる人もいます。

 

さらにご飯は提供されるものの、その質に見合わない高額な料金を支払う必要があり、生活保護費のほとんどを徴収されてしまいます。

無料低額宿泊所は届けを出せば誰でも作れるので、中身は千差万別ですが、多くは生活保護の人を受け入れて利益をあげるビジネスモデルで、貧困ビジネスと呼ばれています。ある大きな組織は、4000人分の宿泊のキャパシティを所有し、年間の売り上げは40億だと言われています。

 

ー1年で一人当たり100万円ほど徴収していますね。

 

そうですね。

生活保護を受けた人から施設利用料として月8万円~10万円程度ほどを徴収していると思います。

以前と比べると今は個室化が進むなど改善されつつあり、全てが悪いとは言えませんが、利用者の多くから「ぼったくられていると感じる」という声を聞きます。

 

不満を持っても役所は取り合ってくれず、家がないからそこで生活するように言われてしまいます。

このような扱いを受け、多くの人はそこでの人間関係に疲れ果て、お金は残らず、生活保護を受けているはずなのに、保護されているという実感がなく、業者だけが儲かっているのではないかと考えてしまいます。

 

そのような経験から「自分たちは二級市民なんだ」と思い知らされ、自己の尊厳を守るためにその施設から逃げて路上生活に戻る人が後を絶ちません。

路上生活が苦しくて再び保護を受けるが、その保護を受けた先でまた苦しくなってまた逃げて路上で生活して…。そのような悪循環に陥る人は多くいます。

 

今まで生活保護を受けてもうまく行かなかった人たちに一番必要なのはプライバシーを守れる一般的な住まいです。

家に帰ったら誰からも干渉されず、生活保護費は全部自分でやりくりして使うことで暮らしの練習ができ、心も体も休めることができる。

ハウジングファースト東京プロジェクトは、自分の心や環境を整え、準備ができたら引っ越して自分のアパートで生活を始めるという流れで利用することができる他の宿泊所とは全く異なる支援です。

 

自分のアパートで生活をすることが大変な人や一人で生活したことがない人もいて、そのような人は例えば水道光熱費の払い方が分からなくて、それだけでパニックになりストレスを感じたりします。アパートに入ったあとも初めてのことが次々に起きるので、どうやって生活を維持すればいいのか分からなかくなったり、見通しがつきづらくなったりすることもあります。

 

ーそのプロジェクトでは家を紹介するだけでなく、その後のサポートもしているのですね。

 

そうですね。コロナのワクチンの接種の手紙が届いたけど予約の仕方が分からない、役所からの書類の意味が分からない、年金の手続きをしたいけどどこに行けばいいのか分からない、などさまざまな相談が来て、生活相談のメンバーで交代しながら対応していいます。そして、このハウジングプロジェクトは全て寄付金で運営をしています。

コロナ禍で変化したホームレス問題の現状

寄付された衣類をもらいに来る人々
寄付された衣類をもらいに来る人々

 

ーコロナ禍で女性がホームレスになるケースが急増したことを知りました。

 

炊き出しに並ぶ女性は急増しましたが、路上で生活をしている女性はそんなに多くありません。

男性にとっての最後の居場所は路上になりますが、女性にとって路上はあまりに危険すぎるので居場所にはなりません。

どうにかして他の場所で生活ができるようにするので、路上生活者ではありませんが、家がないという点でホームレスだと言えます。

 

ーどのような女性がホームレスとなるのでしょうか?

 

例えば、

  • 派遣の仕事をしていたけどコロナ禍で職を失ってしまった人
  • 多くないが風俗の仕事をしていたけれど緊急事態宣言下で仕事がなくなってしまった、風俗客の収入が減って客が減った、営業時間が短くなって働ける時間が少なくなった人
  • 飲食店やホテルで働いており、休業で仕事がなくなったけど会社が補償してくれず収入がなくなってしまった人

などがいます。

何とかして生活基盤を守ってきた女性たちがそれを失い、路上に至らないとしても、家賃払ったら食費が残らないので炊き出しを回って生活を繋いでいる人もいます。

コロナ禍で多くの非正規雇用の労働者が時短になったり失業したりしましたが、そのかなりを占めているのが女性です。

夫婦で炊き出しに並ぶ光景も、最近になって目にするようになりました。

ご飯を求めて列に並ぶ人々

ご飯を求めて列に並ぶ人々
ご飯を求めて列に並ぶ人々

 

ー他にコロナ禍で変化したことはありますか?

 

炊き出しに並ぶような、困窮した若者が増えました。

特に、精神的・知的障害がありながら福祉の支援につながれなかった人が多く、戸籍がない人もいます。

無戸籍の人は、身分証や携帯電話もないため、銀行口座も作れず、ほとんどの会社は雇ってくれません。

もともと不利な立場に置かれていた人が、コロナ前はどうにかして生活していたのが、コロナ禍でその生活手段を奪われてホームレスになるケースが多々あると感じています。

 

メディアなどでは「コロナで困窮した人たち」と取り上げられる場合が多くありますが、コロナだけで困窮した人はほとんどいません。

もともとギリギリの生活を強いられ、低空飛行だった状態がコロナ禍によって墜落したような人ばかりです。

てのはしに来る人と話していると、コロナによって社会階層が下がっていき、非正規雇用の中でもハンデのある人から切られているのが現状だということが分かります。

 

私たちができる身近なアクション

ー大学生がホームレス問題・貧困問題についてできることがありますか?

 

1つ目は、実際に炊き出しに参加してみて、何が起こっているのかを実際の体験を通して知ることだと思います。

2つ目は、この問題に興味関心を持ち、そのようなニュースを見たり自分でサイトを読んで調べたりすることです。

どの社会問題にも共通していますが、シンプルな解決策はありません。

ありとあらゆる社会問題が複雑に絡み合い、社会にうまく参加できなくなった人がホームレスになっています。そのさまざまな要因を調べて知ることも大学生ができるアクションの一つだと思います。

 

ー最後に、ホームレス問題に関して、この記事を読んでいる大学生にメッセージをお願いします。

 

ホームレスの人々と日々関わっていると、ひとりひとり異なる個性があり、自分から見て尊敬できる人もいるし、そうとは言えない人もいます。

それはどこの社会でも同じで、先生とか両親とか、友達でも尊敬できる人もできない人もいるのではないでしょうか。

「ホームレスはこの社会の敗者で、彼らから学ぶことは何もない」と考える人は少なくないと思います。

しかし、実際に接してみるとこの最悪の状況に置かれても自ら命を絶つことなく生き抜いてきたサバイバーである彼らから学べることは多くあります。普通に暮らしていたら聞けないような面白い話もたくさんあります。


インタビューはここまでです。

清野さんのお話を聞いて、ホームレスになるのは自己責任ではない、そして本人の努力だけで環境を変えることは大変困難で支援が必要不可欠であることを改めて学び直すことができました。

 

参照サイト

  • 貧困が深刻化する日本、貧困率が高い都道府県や地域ごとの対応とは

https://gooddo.jp/magazine/poverty/asia_poverty/japan_poverty/

  • 特定非営利活動法人 TENOHASI どういう支援が必要なの?

https://tenohasi.org/homeless/support/

  • 先進国30ヶ国中、貧困率が4番目に高い日本

https://www.ishes.org/society/poverty/4th_povertyrate.html

 


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