社会問題

なくならない人種差別とどう向き合うか。 / Japan for Black Lives インタビュー

今日の記事は「黒人差別」についてです。

皆さんは「Black Lives Matter運動」を知っていますか?日本語にすると「黒人の命も大切だ」というスローガンで、アフリカ系アメリカ人に対する警察の残虐行為をきっかけにアメリカで始まった人種差別抗議運動のことです。

昨年アメリカで、ジョージ・フロイドさんという黒人男性が白人警官に頭を押さえつけられ死亡した事件を発端にBlack Lives Matter運動は世界規模に波及しました。

あれから約一年が経った今、あなたは人種差別について何を思いますか?

今回は、人種差別および黒人の文化や歴史について学べるプラットフォームを提供する「Japan for Black Lives」の代表のNaomi KawaharaさんとメンバーのRisaさんに取材をさせていただきました。一年前の騒動をこれからどう捉えていくのか、活動の中にある思いをお聞きしました。

 

日本人がアフリカン・アメリカンカルチャーからどのように恩恵を受けているのか、そしてなぜ彼らの歴史や文化を学び、ともに認識を深める必要があるのかを考えるために、情報を提供し、共に学び、意見を交換し合うプラットフォーム。
インスタグラムツイッターフェイスブックYoutube

 

Naomi Kawahara

私はブラックカルチャーに大きな影響を受けた数多くの日本人の一人です。黒人差別問題に声を上げることは、ブラックカルチャーに恩返しができる一つの方法であり、自分の使命だと思っています。その思いから、日本人の皆さんがもっと関心をもって、理解を深められる場所にすべく、Japan for Black Livesを立ち上げました。皆さんとともに学ぶ姿勢で、この活動を広めていきたいと思っています。

 

Risa

6年間のアメリカ生活でブレイキンとヒップホップに出会いました。ブラックカルチャーに支えられている一人として、またマイノリティの悲惨を無くしたいと願う沖縄人(うちなんちゅ)の一人として、足元からできることを。「もっと知りたい」のきっかけになればと思います!

 

NaomiさんとRisaさんのブラックカルチャーのルーツ 

ーーもともと、ブラックカルチャーとどのような関わりがあったのですか。

 Naomiさん:もともとHIPHOPやバスケットシューズなどに影響を受けたストリートスタイルが好きで、洋服やアクセサリーを輸入・販売するセレクトショップをオンラインで運営していました。その時からブラックカルチャーに恩恵を受けていました。

 

ーーJapan for Black Livesを立ち上げることになったきっかけを教えてください。

 Naomiさん:きっかけは一年前のジョージ・フロイドさんの死でした。私の友人の1人でJapan for Black Livesのメンバーでもあるアフリカ系アメリカ人のテリーは、プロのダンサーであり、日本に長年住んでおり、多くの日本人にダンスを教えてきました。ジョージ・フロイドさんが亡くなられて、BLM運動がアメリカで盛んになっている状況でも、日本人で、特にダンサーやDJ、ラッパーなど、ブラックカルチャーに影響を受けたアーティストたちがこの問題について触れる様子が見られず、メディアでも報道しないことに私もテリーも違和感を覚えました。テリーは、その違和感を共有すべくFacebookで思いを綴り、私はそれを日本語に訳しました。しかし、私やテリーの周りにはブラックカルチャーに影響を受けている人が多いのにも関わらず、ほとんど反応がなかったんです。日本人として、この状況を何とか変えなければいけないと思い、JP4BLを立ち上げました。

 

ーー確かに、日本では「BLM運動は外国で起きている話」として、他人事のように捉えられていた気がします。

 Naomiさん:FBの投稿を見た人の中には「逆になぜそこまで大げさに言うのか」といった批判の声もありました。ブラックカルチャーに関わったことがあるのに、そのブラックの人たちが苦しんでいる現状に対して何も言わない。ブラックカルチャーがここまで日本で浸透しているのに、その裏にある悲しい歴史を日本人は知らない。その現状を目の当たりにしました。それと同時に、そういう人たちのためにブラックカルチャーの歴史や差別について学べる日本人向けのメディアがあったらいいなと思ったんです。

 

ーーRisaさんは、JP4BLのメンバーとして活動する前、ブラックカルチャーとどのような関わりがあったのですか。

 Risaさん:私は学生時代にアメリカに留学していました。ブラックカルチャーには、留学先の学校のブレイクダンスのサークルで出会いました。アメリカでは、ブラックカルチャーについて何も知らずに音楽やダンスに触れるのは失礼だと見なされる空気がありました。そのため、ただ「かっこいいから」という理由でダンスを始めた私も、自然とブラックカルチャーを学ぶようになりました。次第にのめり込んでいき、今はJP4BLのメンバーの一人として活動しています。またブラックカルチャーを広める一般社団法人「Hair Braiders Association」で情報発信のお仕事を手伝っています。(HBA magazine)

 

ーーブラックカルチャーを学んだことは、どのように今の活動に繋がっているのですか。

 Risaさん:留学を通して、ブラックカルチャーは自分の身の回りの至るところに存在すること、そしていかに自分がそれらに支えてもらいながら生活しているかを知りました。私にとってブラックカルチャーは「自分が自分でいるための大切な一部」であり、JP4BLで活動することで、その恩を返していかなければいけないものです。JP4BLは最初はフォロワーの一人として活動を見ていましたが、Naomiさんにお声がけいただき、メンバーとして活動するようになりました。

 

 意外と知らない?ブラックカルチャーは身近な存在

ーーお二人ともブラックカルチャーとの深いルーツがあるような印象を受けました。日本では黒人差別は注目されにくいトピックですが、ブラックカルチャーに関わりが薄い人ルーツがない人は、どのように関わったことがあるのでしょうか。

 深い関わりがなくとも、ブラックカルチャーには多くの人が関わったことがあります。例えば街中やお店で聴く音楽。HIPHOP、R&B、ロックにブルース、ジャズ、ディスコ、ファンクなどや、クラブミュージックなど、現代皆さんが耳にする音楽の多くはブラックミュージック発祥です。KPOPが好きな人も多いと思いますが、それはあくまで後付けのジャンルで、音楽のカテゴリーはブラックミュージックです。また、ターンテーブル2台をつないでプレイするDJも黒人によって生み出されましたが、今は世界中で当たり前のスタイルになっています。

 

 ファッションも、ブラックカルチャーが発祥のものが多くあります。黒人のバスケットボールプレイヤーがバスケットシューズをファッションに昇華させたと言っていいでしょう。また、スニーカーをとりまくストリートファッションもそうですし、ストリートダンスもそうです。ダンスのジャンルから、一つ一つの動きまで、彼らが生み出したものがほとんどです。

そしてヘアスタイル。彼らの特徴的な髪質に合ったドレッドロックス・ブレイズ・コーンロウは今や、黒人以外の多くの人種が世界中でコピーしています。日本人にも非常に多いですよね。

アートでいえばスプレーで描くグラフィティアートなど。ファッションでは多くのトレンドを作っています。ゴールドのアクセサリーや、フープのプアス、そして最近はアフリカの民族的な柄もいろんなブランドが洋服の柄として取り入れらています。

ここで挙げたことはほんの一部です。挙げ出したら本当にキリがないくらい、ブラックカルチャーに知らず知らずのうちに影響を受けている人は多いです。直接的じゃなくても、ブラックカルチャーに影響を受けた日本人やその他アーティストを介して間接的に影響を受けているケースもあります。

そのことについてまず気づくことが大事だと思います。そして、関わっている以上は、もう少し彼ら、「カルチャーを生み出した人たち」にも敬意を払う必要があります。

詳しくは私たちのこちらの投稿をご覧ください。

 

 
 
 
 
 
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Japan for Black Livesとはどんな団体?

ーーJP4BLでは、どのようなコンテンツを発信しているのですか?

 アメリカではもちろん、日本でも存在している黒人差別に対しての理解を深めるために日本語で正しい情報を発信しています。差別を受けている当事者の方々の声を拾い上げて日本語に訳し、生の声をお届けしています。生の声を知ることは、多くの人が問題意識を持つことにつながりますから。

ウェブサイト運営に加え、インスタグラムツイッターフェイスブックYoutubeも活動しています。主に日本で実際に差別的な行為をする出来事があったら、取り上げるようにしています。それがなぜ「事件」として取り上げられなければいけないのか、なぜ差別になるのかをウェブサイトではメンバー自らが言葉の解説をしたりした記事を公開しています。

 

ーー日々起きている事件を発信することが大切なのですね。例えばどのような出来事を発信するのですか?

 私の知り合いでブラックと日本のミックスの男性がいるんですが彼は今年の1月に、東京駅にて職務質問を受けました。その職質をした警察は「ドレッドヘアでおしゃれな人は薬物を持っていることが経験上多い」という理由で声がけしたのです。知り合いは当然何も所持しておらず、ただ人が多く行き交う公共の場で職務質問を受けるという侮辱を受けました。彼は職務質問の一連の流れを映像に収めており、私たちにシェアしてくれました。それを観た私たちは、日英の字幕を添えて各ソーシャルメディアでそのことを発信しました。その結果たくさんの方がショックを受け、さらに多くの人に拡散していただけました。また、ハフポストやVICE など国内外の有名メディアや、日本ではワイドショーなどでも取り上げていただきました。

 

 

このように警察による職質などの行為が特定の人種に対して偏っていることをレイシャル・プロファイリングと言います。

レイシャル・プロファイリング:人種による追求差別
主に警察が、人種や年齢などによって調査対象を絞って捜査を行うこと。アメリカでは、人種的偏見に従って特定の人種を取り締まる行為が行われており、人種差別の観点から批判の声が上がっている。警察が街中で不審人物を発見した場合に、ストップアンドフリスクという身体検査や尋問などを行ってる。特に若い黒人男性はストップアンドフリスクの対象となることが多く、公の場で尋問や身体検査が行われることがある。
(抜粋:weblio辞書「レイシャルプロファイリング」

 

ーー職務質問の動画は私も拝見したことがあります。しかし正直に言うと、動画を観なければ自分から気にしてはいなかったかもしれません…。

 確かにこれは日本人からしたらよくある些細な出来事かもしれません。しかし、逆の立場で考えてみてください。日本人として生まれ持った髪型や人種で街を歩いているだけで、警察や社会に怪しいと思われる環境が24時間365日続いたら、どう思いますか。想像するだけでも心が痛みますよね。このようなことが、日本では、ミックスの人たちや、外国人移住者の身に日常茶飯事で起きているのです。

 

ーーこの動画がJP4BLさんによって発信されたことで、多くの人が人種差別について考えるきっかけを持ったと思います。

 自分の生まれ持った人種や髪型で出歩いている人を、それだけの理由で「怪しい」と認識することは、明らかに人権侵害であり、差別です。当時は、この出来事を「他人事じゃない」ということをより多くの人に知ってもらいたいという思いで発信しました。今も想いは変わりません。このような日常に潜んだ差別をしっかり掘り起こしていくことで、社会が少しずつ変わっていくといいなと思います。

 

ーー実際に「変わった」と思うことはありますか。

 当事者の方たちの生の声を発信することで、他の日本に住むアフリカ系の方達から共感の声をいただいたりすることが多くなりました。また、大学の授業や企業から人種差別についてのレクチャーをお願いされることも増えました。そして、最大の成果は、東京都弁護士会から、実態についてもっと詳しく知りたいと連絡があったことです。彼らも外国人に対する職務質問を非常に問題視しており、現状を把握すべく聞き込みをしたいと思っていた所、我々のところで動画を見つけて、非常に衝撃を受けたとおっしゃっていました。これはまさに私達が希望していた展開であり、今後しっかりとどうなるか見届けていきたいと思っています。

ちょっとした人々の意識の変化に関われることを嬉しく感じると同時に、活動へのモチベーションにも繋がっています。

 

無意識の差別とは?どうすればなくなる?

ーー日本では例えばどのような形で人種差別が起こっているのでしょうか。

 「人種差別は日本にはないでしょ」という人もいますが、日本ではアメリカとまたタイプの違う差別が見られます。それは、無自覚の意識に基づく「マイクロ・アグレッション」です。

マイクロ・アグレッション:悪意のない差別的な言動や行動のこと。1970年代にハーバード大学の精神医学者チェスター・ピアスにより提唱された用語。相手を傷つける意図なく無意識的に、異なる人種、異なる文化・習慣を持つ人に対する無理解、偏見、差別が含まれている「些細な見えにくい攻撃」とも言われている。(引用:キーワード集−人種問題で耳にするあの言葉の意味は?)

 

相手が日本語で話しているのに、見た目が純日本人風でないからという理由で「日本語上手ですね」と言ったり、「黒人の血が入っているから走るのが速いでしょ?」と言ってみたりというような、ステレオタイプ(思い込み・偏見)からくる言動が例に挙げられます。または彼らの髪の毛を断りもなく触ってみたり、レストランなどで頼まれてもないのに1人だけナイフとフォークを出したり(他に人にはお箸)、些細なことではあるのかもしれませんが、受けている人にとっては、何度も積み重なることで大きなストレスとなります。

 

また日本では、お笑い芸人や歌手が顔を黒く塗って黒人の特徴を演出してモノマネをしたり、美容業界でも作品の一つとして、顔や全身を黒く塗って、アフリカ系の肌の色を再現するようなことが、度々起きています。実はこれは「ブラックフェイス」と言って、黒人への人種差別に加担することになってしまいます。

 

ブラックフェイス:黒塗りメイク
南部で奴隷制度が合法だった1830年代、ニューヨークで行われていた歌や踊り、寸劇などが舞台で行われるボードビルショーの中で、白人の演者が焼いたコルクや靴磨きクリームで顔を黒く塗り、プランテーションで働く黒人を「怠け者で愚か者」としてパロディー化したところから全米にひろまった。醜く誇張された容姿にぼろぼろの服を着た黒人に扮する「ミンストレル」と呼ばれるこうした芸人は、奴隷にされた黒人を迷信的で性欲過剰な臆病者と揶揄した。(引用:キーワード集−人種差別で耳にするあの言葉の意味は?)

ブラックフェイスをやる人の中に「好きだから」「ブラックカルチャーをリスペクトしているから」という理由をあげる人もいると思います。その「好き」という気持ちはもちろん大切です。しかし、だからと言ってブラックフェイスを行なっていい理由には決してならないんですよね。行動や言動が差別的かどうかは、差別を受ける当事者の方達がどう受け止めるかです。どんなにリスペクトの意を表現しようとしても、差別している自覚がなかったとしても、当事者の方が不快な思いをされたらそれは差別行為に値してしまいます。加えて、そもそもブラックカルチャーが好きでリスペクトしていると言うのであれば、その文化やその文化の背景にいる人たちの歴史について学ぶことがまずもって一番大切なことだと思います。そこが抜けていて、果たして「リスペクトしている」と言えるでしょうか。

 

ーー無自覚の差別にはどうすれば気づけるようになるのでしょうか。

 学校や会社で差別について学び考える機会を設けるべきだと思います。日本の義務教育では歴史の授業で世界の出来事を学べますが、その歴史が私たちの固定観念や偏見にどのように影響しているのか、という所までは教えてくれません。そのため、人種差別についても学ぶ機会がなかった人は知らないまま生きてしまいます。日本にも色々なバックグラウンドやルーツを持つ人たちが住んでいるのですから、教育は時代に合わせてどんどんアップデートされていくべきだと思います。

 

ーー人種問題を学ぶ意義とは、何でしょうか。

 人種差別について学ぶことは社会について、そして自分自身について学ぶことを可能にしてくれます。人種差別は社会に存在する様々な差別(ジェンダー、貧困、国籍、etc…)と複雑に関係しています。人種差別一つを学ぶだけで、社会のあらゆる問題が関連して浮き彫りになります。どの社会問題にも「弱者の声がかき消され続けている」という共通点があります。そのことに気づくことは、社会の不平等さ・不自由さに問題意識を持ち、自分にとってもマイノリティにとっても生きやすい世の中を作る行動をとるきっかけになります。黒人差別に特別深い興味がないとしても、自分が興味あると思った社会問題にはどんどん首を突っ込んで学んでいくことが大切だと感じています。

 

ーー社会問題について学ぶという経験をしたことがない人は、どこから始めれば良いのでしょうか。

 人それぞれだとは思いますが、学ぶ目的が「好きだから」であってほしいと思います。ただ「好き」という気持ちを忘れずに関連する事柄をどんどん学んでいくことを、より大切にしてほしいと思います。例えばHIPHOPの音楽やダンスが好きなら、BLM運動について学んだりSNSで発信したりするなどです。自分の興味を歴史や悪い面、問題点まで広げ、考える姿勢を持つようになってほしいですね。

 

Educate Yourself (自分自身を教育せよ)!

ー最後に、この記事を読む大学生に一言お願いします。

 自分たちが少しでもより良い社会に生きたいと思うなら「Educate Yourself (自分自身を教育する)」をしてほしいです。学ぶことでいろんなことに問題意識を持ち、差別意識を崩していけるような人であってほしいと思います。その学びに、私たちが発信する情報が少しでも役に立てば幸いです。

 

 

ありがとうございました!

JP4BLさんには、以下の記事作成にもご協力いただいています↓

 

 

編集後記
私自身、社会問題について人並みには知っているつもりでした。けれども、この取材を日本にある差別の現状を詳しく、分かりやすく教えていただき、まだ学びが足りないことを改めて実感しました。そして何よりも、「自分が問題について知っている」と思い込んでしまうことがいかに危ないことかを思い知りました。この記事が多くの人の目に止まることを願いながら「自分自身を教育する」ことを忘れずにいたいと思います。改めて、貴重なお話をありがとうございました。

 

 

 

 

 

 

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gakuseikichi

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