社会問題

【選択的夫婦別姓・全国陳情アクション】羽賀美樹さんインタビュー

今回の記事は、結婚する際に夫婦が同姓にするか、別姓にするかを法的に選べる制度である選択的夫婦別姓」の実現のために「選択的夫婦別姓・全国陳情アクション」で活動されている羽賀美樹さんのインタビューをお届けします。

最近はSNSやニュースでも話題になることが増えた選択的夫婦別姓ですが、なぜ選択的夫婦別姓を実現する必要があるのか、実現の壁となっているものは何か、どうすれば実現できるのかなど詳しくは知らない…!という方も多いのではないでしょうか(私もそうでした)。

実際に活動されている羽賀さんの体験からリアルな現状をお届けします!

羽賀美樹(はがみき)
1990年福島県出身。大学卒業後、開発コンサルタントで途上国や国内の電力開発支援に関わった後、イギリスのサセックス大学院ジェンダーと開発学課程に進学し、在学中。2017年に結婚し、望まない改姓を経験したことがきっかけで、選択的夫婦別姓・全国陳情アクションでの活動を始め、東京近郊や、地元福島の議会への働きかけを行っている。

 

 

羽賀さんと選択的夫婦別姓

―羽賀さんが夫選択的婦別姓に関する活動を始めたきっかけは何ですか?

(羽賀)4年前に結婚した際、羽賀から石澤に改姓しましたが、本当は生まれもった名前を変えたくありませんでした。当時夫は選択的夫婦別姓制度に理解がなく「結婚したら女性が名字を変えるのは当たり前」という考え方で、事実婚や妻氏婚の選択肢について何度も話しましたが、合意形成がとれなかったんです。知り合いに「結婚するけど自分の名字を変えたくない」と話しても「なんで変えたくないの?」「みんなそうやってきたんだから」という反応をされることが多かったので、名字を変えたくないと思う自分がおかしいんだ、そのうち慣れるだろう、と自分を納得させて夫の名字に改姓しました。

名字が変わると免許証、銀行口座、クレジットカードを始めとする様々なサービスの登録名を変える必要があります。手続き自体も大変でしたが、自分の名前に二重線が引かれた書類を見るのがものすごく辛かったんです。今まで「羽賀美樹」として生きてきた自分の存在そのものが、否定されて消されるような感じがして。夫との結婚自体は喜ばしいことでしたが、私の場合は名前が変わることの喪失感、悲しさもありました。そんなときに「選択的夫婦別姓・全国陳情アクション」という選択的夫婦別姓の法制化を目指す市民団体を知って活動に参加しました。

「選択的夫婦別姓制度の審議を求める意見書」が全会一致で可決した時の写真。写真左が羽賀さん。

―今は羽賀さんの良き理解者となって、選択的夫婦別姓制度導入のための活動も一緒に行われている配偶者さんですが、もともと配偶者さんは選択的夫婦別姓への理解がなかったんですね……。名字に関して、配偶者さんとはどんな話をしてきたのですか?

夫の場合は、名字を変えたくないという気持ちより、改姓手続きが大変だという部分を先に理解しました。銀行口座やパスポートの手続きなど、平日の昼間にしか手続きができないものも多くあります。「今日も仕事の昼休みや有休を使って手続きをしに行った…。」というような、改姓手続きの大変さを逐一報告していたので、改姓の物理的な大変さを事実として先に理解してくれたようです。
その後も「名字を変えたくない」という気持ちはなかなか分かってもらえなかったのですが、あるときに本当に思い詰めて、ペーパー離婚をして元の名字に戻すことを提案したときに「そこまでするほど名字を変えたくなかったのか」と気づいたみたいです。結果的にそれをきっかけに、夫も全国陳情アクションに入って勉強する中で「選択的夫婦別姓は人権の問題だ」という考えに変わっていきました。

現状の夫婦「同姓」は平等!?

―日本の法律では夫婦が同姓であれば、名字は夫のでも妻のでもいいとなっています。夫も妻も同じように名字を失う可能性があり、どちらに合わせるかは選択できるということで、法律的には一応平等なことになっているんですね。

今、日本では結婚したカップルの96%は、女性が男性の名字に変えています。それだけでも女性に負担がかかっていますが、名字を変えた4%の男性の方も「婿養子」という制度は既に廃止されているのに関わらず婿養子と勘繰られる、女性の尻に敷かれているなどといった、根拠のない偏見の目にさらされています。それに制度上は男性でも女性でもどちらが変えてもいいということになっていても、今の制度では多くの場合、慣習的に女性が改姓の負担を背負うことになります。もちろん、同姓で結婚したい人は同姓を選べばいいと思いますが、現制度のせいで、望まない改姓を強いられた場合、幸せなはずの結婚がそうではなくなるのはおかしいと思うんです。

選択的夫婦別姓制度があれば、カップルのどちらも改姓を望まない場合に、改姓の負担をどちらかに押し付けることがなくなります。私は望まない改姓に加え、夫の理解が当時全くなかったことが本当に辛くて、幸せな時期であるはずの新婚期間に影を落としました。かなり精神的にきつく、心療内科やマリッジカウンセラーのもとにも通いました。当時は気づきませんでしたが、望まない改姓が起因していたと今では分かります。全国陳情アクションのメンバーでも改姓からくる精神的な苦痛から心療内科に通う方がいます。

 

―それだけ「名前」にはその人のアイデンティティがあるということですよね。

名前は、自分が自分であることを示すための単なるラベルではなく、その人のアイデンティティと強く結びついていると感じる人もいます。人がこれまで生きてきた名前は、その人の看板でもあり、それまで頑張ったことの証にもなります。それが結婚したというだけで、夫婦のどちらかの名前が奪われてしまうのはおかしいと思うんです。

強制的夫婦「同姓」の問題点

―選択的夫婦別姓は、女性のわがままや女性の問題だと言われることが多いですが、本質的には人権の問題というのはどういうことでしょうか?

私たちには「人格権」があるので、自分が呼ばれたい名前で生活する権利があります。また人格権は人権を構成する要素と言うのは学説で確立しています。この「人格権」は氏名の保持にもついても同じです。なので、現在のどちらかが名字を変えなくてはいけない強制的な夫婦同姓制度は人格権の侵害にあたります。私たちはわがままで選択的夫婦別姓を求めていたり、他の家族に夫婦別姓という価値観を押し付けていたりするわけでなく、単に生まれ持った名前で結婚したい、それだけです。

選択的夫婦別姓・全国陳情アクションについて

―羽賀さんの所属する「選択的夫婦別姓・全国陳情アクション」は、選択的夫婦別姓の実現のためにどのような活動をされているのですか?

全国の地方議会に「『選択的夫婦別姓制度の法制化を求める意見書』を国会に提出してください」という働きかけを行ったり、国会議員の方に向けて法改正を促してもらうよう勉強会を行ったりしています。
選択的夫婦別姓の実現には法改正が必要なのですが、国会では議論が進んでいません。そんな自ら動いてくれない国会に対して、地方議会は地方自治法第99条に基づき、意見書を出して「選択的夫婦別姓の法制化をしてください」と働きかけることができます。全国陳情アクションでは、国会に対して意見書を提出してもらうために、地方議会を訪れて選択的夫婦別姓制度の必要性を伝えています。

さいたま市議会に陳情に行った際の写真

―選択的夫婦別姓の必要性を様々な場面で話されているとのことですが、話すことによって課題解決に向かって前進していると感じますか?

前進しているのはすごく感じます。選択的夫婦別姓は、本当はシンプルな人権の問題なので、話すと理解して賛成してくれる方が多いです。例えば埼玉県議会の田村たくみ議員は、当初選択的夫婦別姓に反対だったのですが「事実婚や通称使用など現在の夫婦同姓制度で、困っている人がいるから、政治の役割として対処しなくてはいけない」と、選択的夫婦別姓制度の必要性を感じ、選択的夫婦別姓に賛成するという旨をブログに書いてくださいました。
>田村たくみ議員ブログ:選択的夫婦別姓制度導入における私見(賛成意見)!(外部リンク)

―選択的夫婦別姓のように「困っている人を助けるために政治を動かす」というのが本来政治家のやるべきことのはずですよね……。

日本のジェンダーギャップの現状

選択的夫婦別姓が実現しない原因はどこにあると思いますか?

人権の侵害という部分ももちろんあるのですが、個人的には日本における男女差別的な考え方が問題だと感じます。一部の議員の方にはなかなか賛成していただけないこともあるのですが、選択的夫婦別姓制度を認めることで女性の社会進出がさらに進み、男性が現在持っている既得権益を奪われるのが怖いんだろうなと思うことがあります。

 

―羽賀さんは社会人として働かれたあとに、イギリスのサセックス大学院に留学してジェンダーについて学ばれたとお聞きしました。日本はジェンダーギャップ指数が153ヵ国中121位と、女性の地位が非常に低いですが、このことについてはどう思いますか?

留学中に、日本では日本人同士の結婚時に夫婦同姓にしなくてはならない現状を話すと、どこの国出身の人にも驚かれました。慣習的に男性の名字に合わせるという国が多数なのですが、それらの国にも夫婦別姓にするという選択肢はあるので、法的に別姓で結婚できない国は世界でも日本だけなんです。

 
選択的夫婦別姓に反対の人の主張として「家族の一体感がなくなる」というのもよく聞くのですが、このことは既に選択的夫婦別姓を導入している他の国では全く社会問題になっていないんですよね。なので、本当にこんな理由で選択的夫婦別姓を導入しないのだとしたら、日本は世界に劣っています!と世界に向けて発信しているのと同じ意味になるのではと思います。なにより、既に実在している法的な別姓家族や、事実婚のご家族に対してとても失礼です。

選択的夫婦別姓の代わりとしての旧姓併記

―2019年にマイナンバーカードに旧姓併記を認める法改正が行われたり、通称使用の拡大を推進すると政府が掲げたりしています。これについてはいかがですか?

旧姓併記は全く意味がないと感じています。
私は2019年以前から可能だったパスポートで旧姓を併記していました。紙面上は「Ishizawa(Haga)」という併記なのですが、ICチップの方は戸籍上の名字である「Ishizawa」のみで登録されています。そのため、海外では偽造パスポートだと疑われてトラブルが起こる場合があります。公的な説明資料がなく困っていたことをツイートしたところ、河野外務大臣(当時)に「対応を指示しました」と反応をいただけました。実際に「日本人のパスポートには別名が併記されている場合がある」という英文のページが作成されたことで、説明する手間は少し省けたのですが、あくまでの日本だけのルールで、海外に周知されているわけでもないので、海外で説明するリスクは未だに個人が負っており、根本的な解決には至っていません。

 

また、旧姓併記は個人情報の流出という観点からも問題があります。その人が結婚しているかどうかは立派な個人情報ですが、旧姓が併記されていることで既婚か未婚かという情報が垂れ流しの状態になってしまいます。

 

―羽賀さんは日常的に「羽賀」姓を使っているので、実質的には夫婦別姓の生活をされています。良く夫婦別姓のデメリットとして「夫婦の一体感がなくなる」という意見がありますが、実際に夫婦別姓のデメリットを感じることはありますか?

日常的に名乗っている羽賀と戸籍上の石澤の使い分けが面倒だったり、初対面の人に戸籍上では石澤だけど……。と思いながら「羽賀です」と名乗ることに小さな罪悪感を覚えたりはします。ですが、これらのデメリットは選択的夫婦別姓が認められていないからこそのものです。
これらのこと以外で、夫婦の姓が違うことでデメリットを感じたことはないです。 

選択的夫婦別姓の実現に向けて

―選択的夫婦別姓について、実は40年以上前から様々な議論が起こっていたり、国会で取り上げられたりしていますが、実現していないという現状があります。羽賀さんはどうしたら選択的夫婦別姓が実現すると思いますか?

私は全国陳情アクションに参加して2年ほどなのですが、長く活動している人からは「潮目が変わってきた」という話はよく聞きます。ここ数年で選択的夫婦別姓について取り上げられることが、海外メディアも含めてぐんと増えました。これは選択的夫婦別姓が社会全体の関心事になってきているということだと思います。柔軟な考えをもっていて、多様性を大事にできる今の若い人たちが社会の中心に来れば、選択的夫婦別姓も導入されるんだと思います。後はどれだけ早く実現できるかですね……。

 

―選択的夫婦別姓に関して大学生が何かできることはありますか?

ぜひ、議員の人にFAXを送ったり、直接会いに行って選択的夫婦別姓に関して話したりしてみてください。
私のように既婚者で改姓した女性が陳情に行くと「またこのパターンか」と思われることが多いんです。でも、未婚の学生や、私の夫のように、改姓していない既婚男性、結婚していない人が陳情に行くと「直接の当事者ではない人達も選択的夫婦同姓制度の導入を望んでいる」というメッセージを送れるので、議員の反応が変わります。
若い人は政治に興味がないと思われていることも多いので、若者もこんなことを考えているんだぞ!というのを伝えるのはとても重要だと思います。 

 

―ちなみに、どんな方法で議員に意見を伝えればいいのでしょうか。

意外かもしれませんが、電話やメールで直接アポイントメント取れば会いに行けます。後は、FAXですね。ネットやメールでも意見を伝えることはできるのですが、FAXなどのコミュニケーションツールを使用している方も多いので、そのような方法で意見を伝え、出来れば直接会って意見を伝えるのがおすすめです!

 

―最後の質問になりますが、大学生に選択的夫婦別姓に関して伝えたいことはありますか?

選択的夫婦別姓は法律が変わるだけで問題のほとんどが解消されるシンプルな問題です。日本が多様性を認めて世界の中で発展していくためには、こんなことで躓いている場合ではないと思います。大学生の皆さんからすると結婚は未来の話かもしれませんが、一定の人数の方が遅かれ早かれいずれ経験することだと思います。自分や、大切なパートナーが名字を変えることで、悩まないために、しなくてもいい苦労をしないために、今から人権や選択的夫婦別姓について考えてみませんか?
また、選択的夫婦別姓は結婚している人だけの問題ではありません。これが認められることで、ジェンダーの平等や、同性婚をはじめとするマイノリティの権利向上など、様々なことが前進するきっかけになると思うので、もしよかったらこれから未来をつくる大学生の方にこそ声をあげていただきたいです。 

―ありがとうございました。

 

編集後記
突然ですが、私の名前は鷲見萌夏(すみもえか)と言います。わしみと書いてすみと読む少し珍しい名前なので、下の名前と違って人と被ることがほとんどありません。今までまわりの人からはずっと「すみちゃん」と呼ばれているので、名前よりも名字の方に自分のアイデンティティを感じています。
一昨年、姉が結婚したことで、改めて女である自分が結婚したら名字が変わるということを意識するようになったのですが、今まで21年間ずっと「すみちゃん」だった自分が結婚したら問答無用で「すみちゃん」じゃなくなるのはやばくないか…!と思いました(正確には、夫となる人が名字を変えてくれる可能性もあるので、問答無用ではないのですが。問答無用という言葉が出てくるくらい「女性が変えるのが当たり前」の社会なんだな、とも考えました)。自分が実際に結婚するとなった時に改めて名字を変えるかを考えた結果、旦那さんの名字に合わせる可能性はありますが、今の制度だと「変えない」という選択肢がないのが問題だと思いました。そんなことがきっかけで、選択的夫婦別姓のことが気になり始めた時に、羽賀さんとお会いして取材をさせていただきました。選択的夫婦別姓の制度がないことによる問題点や、何が課題となって法改正まで行かないのか、また何をすれば現状を変えることができるのかなどを知ることができて、問題の解像度が上がりました。この記事も読んでいる方が選択的夫婦別姓についての理解を深める助けになっていたら嬉しいです。

 

 その他、社会問題関連の記事はこちら( https://gakusei-kichi.com/?cat=2587 )

 

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