社会問題

【1】世界で活躍されるメイクアップアーティストの西村宏堂さんにとってメイクとは?

こんにちは、ガクセイ基地のヒナです。

私は「自分らしさって何だろう」と悩むことがあります。そんな時に立ち寄った本屋さんで見かけたのが、西村宏堂さんの「正々堂々 私が好きな私で生きていいんだ」という本でした。そこには、LGBTQ+の当事者である西村さんが学生時代から葛藤しながらも、なりたい自分に向かって行動し続けた体験や考え方が書かれていました。

素敵な言葉が詰まったこの本にすごく励まされて、ぜひ西村さんにお会いしたいと思い、取材依頼をしたところ、快諾いただきました。西村さんに、自分らしく生きるために、自分の気持ちにどう向き合い行動されてこられたのかお聞きします。

西村宏堂さんのご書籍 :正々堂々 私が好きな私で生きていいんだ 

 

また今回は、私と同じ国際基督教大学で、LGBTQ+などジェンダーについて探求している大学生コミュニティ「ICU PRISM」の皆さんとの対談です。多くの大学生の「自分らしさ」を考える一助になれば幸いです。記事は5つに分けて編成されています。第一回では、メイクやおしゃれは西村さんにどのような影響を与えたのか、またおしゃれが周りの方にどんな影響を与えるのかをお聞きします。

LGBTQ+って何だろう?という方はこちらをチェックしてください!
現役大学生によるLGBTQ+に関する用語解説!入門編

 

西村宏堂
1989年東京生まれ。ニューヨークの美術大学Parsons School of Design卒業後、アメリカでメイクアップアーティストの経験を積む。ミス・ユニバース世界大会などでメイクを手掛けるほか、ハリウッド女優やモデルからも高い評価を得る。2015年に浄土宗僧侶となる。メイクアップを行う傍ら、LGBTQの一人として近年はニューヨーク国連人口基金本部、米イェール大学等で講演を行い、伊VOGUE紙、英タイム紙、BBC(英国放送協会)、NHKのドキュメンタリー等に取材された。
 
ICU PRISM
国際基督教大学(ICU)の学生によるジェンダーについて多角的に考え、行動しているインカレ学生団体。ICUの他にも、メンバーは複数の大学から構成される。プロジェクトベースで、情報発信やイベント企画、調査を行っており、最近は、ミスコンや生理についての他団体やゲストスピーカーとの交流にも力を入れている。
 
記事一覧

【1】 世界で活躍されるメイクアップアーティストの西村宏堂さんにとってメイクとは?
1. 20代の頃からメイクアップアーティストとして世界で活躍されてきた西村さんにとってメイクとは?

2. おしゃれは自分の発信を聞いてもらうための武器である

2】 ハイヒールをはいた僧侶 西村宏堂さんの考える「自分らしさ」と試練の乗り越え方
3.自分らしさを保つには、良いモチベーションと悪いモチベーションを使いこなす。相手に見下された時こそ丁寧に接しよう

4.偏見ある社会に憤りを感じた時こそ、ポジティブな気持ちを持とう

【3】 西村宏堂さんと考える、世間のこうあるべきやカテゴリーと上手につき合う考え方
5.メディアの性的マイノリティの描き方への違和感

6.自分をカテゴリーに当てはめなくても大丈夫

【4】西村宏堂さんの 24年間隠し続けたセクシュアリティと家族へのカミングアウトの瞬間
7. 家族へのカミングアウト

【5】 西村宏堂さんと考える、社会で違和感を抱いた時に私たちができること
8.違和感には声をあげ、より良い社会にしていこう

9. ICU PRISMメンバーからの感想
編集後記

1. 20代の頃からメイクアップアーティストとして世界で活躍されてきた西村さんにとってメイクとは?

ー西村さんは大学を卒業後にニューヨークでメイクアップアーティストの経験を積まれ、ミス・ユニバース 世界大会やミスUSA大会などでメイクを担当されてきました。西村さんにとってメイクとは何ですか?

西村:メイクは私にどんな人にでもなれるということを気づかせてくれました私は今まで自分の顔や、背が低いことがコンプレックスでした。でも、メイクをすれば自分の顔を変えることができ、ハイヒールを履けば身長を高くすることができ、お洋服によって自分の体型をよく見せることができます。

私は同性愛者で、小さい頃からプリンセスが大好きでしたが、そんな話を高校の時はできませんでした。自分の正直な気持ちを話したら嫌われるんじゃないかと思ったり、気持ち悪いと思われることが怖かったりしたからです。アメリカに行くと、色々な人がメイクをしていて、自分もメイクができるようになって、自分がどんな人にもなれるという可能性を見つけられました私が辛かったからこそ、メイクを通して今辛いと思っている人や、悩んでいる人、問題を抱えている人々に「こんな風にもなれるよ」と提案したいです。

さり(P):ミス・ユニバースの動画や写真を拝見しました。様々な属性の多様性が認められてきて、例えば、最新の2019年の世界大会ではアフリカにルーツのある方が優勝されています。しかし、私からすると、どの方も背が高くてお人形のような容姿をされていて、そういう方々が多く出ていると感じます。そうでない方が参加し勝ち残っていくようなこともあるのでしょうか?

西村:2000年頃はバービー人形のような方々が外見で勝っていくようなコンテストでした。これまでは、水着審査、イブニングガウン審査をしてから、質疑応答が1回というような審査内容でした。

イブニングガウン審査:華やかなドレスを身に纏い、その美しさを競う審査。
 
しかし、現在のコンテストでは、まず自己PRで90人の候補者の中から15人が選ばれ、そこから10人に絞ります。さらに水着審査とイブニング審査をやって5人にまで絞って、質疑応答をして3人になり、また最後にもう一度、質疑応答があります。つまり、質疑応答が3回に増え、コンテストの意識が変わってきていると感じます。
 
2019年のコンテストの出場者の言葉を引用しますが、「南アフリカでは、アフリカ系の人々の髪の毛にカールがかかっていることを美しいとしてきませんでした。私が勝つことで、より多くの人に色々な美しさがあって、どんな肌の色でも、どんな髪の毛でもミス・ユニバースになれる、美しいと感じられる、ということを発信していきたいです。」とスピーチをしていました。彼女が彼女に似合う洋服を着て、彼女だからこそできる発信をすることで、「美しい」と認識され、勝ち残ったということはこれまでのミス・ユニバースと大きく異なる点です。

私が特に影響を受けた出場者の1人に、2018年のスペイン代表の方がいます。彼女はトランスジェンダーで、「私は女性の体じゃないから出場できないと思っていたけど、男性の体で生まれただけで、心は女性なんです。」とスピーチし、堂々としていました。また、大会の運営側が彼女を認め祝福していたことは、私にとても勇気を与えてくれました。

もちろんコンテストを男性・女性と分けることに抵抗はあるけれど、多様な考え方が広がっているという動きをポジティブに捉えています大切なことは自分に似合う洋服を着て、自分だからこそ伝えられるメッセージを発信していくことだと思います。もちろん美しさを競っているということは外見で戦うことかもしれません。しかし、外見だけでなく、それ以外のことも勝敗に大きく影響します。毎年イベントを通して多様な美を発信するという点ではコンテストの価値観は絶えずアップデートされていると感じます。

2. おしゃれは自分の発信を聞いてもらうための武器である

ーメイクアップアーティストとして活動される一方で、LGBTQ+の当事者であり、お坊さんでもある西村さん。いろんな色を持った活動は応援される方がいる一方で、否定的な言動を聞くこともあるのではないでしょうか。そのような時、西村さんはどのように受け止められますか?

西村:色々と嫌なことを言われたとしても、行動で私たちが頑張っているところを見てもらう必要があると思います。私は言われたら言い返すのではなくて、そこで自分をより良くするための努力をするように心がけています。

私はお坊さんでありながら、メイクやおしゃれをすることが好きです。自分がメイクが誰よりも上手になったら誰も文句は言わないだろうと思い、自分のメイクを練習したりおしゃれを工夫したりしました。しかし、いくら頑張っても「気持ち悪い」、「本当のお坊さんじゃない」とういうコメントも実際にあります。すごくがっかりするし、いくら頑張ってもしょうがないのかな、自分は受け入れてもらえないのかな、と落ち込むことが今でもあります。

さや(P):そんな時はどうしていますか?私のパートナーが、インスタグラムで同性愛の方の体験などを漫画で紹介している「パレットーク」というアカウントの投稿をシェアしたことがありました。すると匿名で、「興味のないことを他人に押し付けることはすごく迷惑だ、うるさい」とコメントが来ました…。私もパートナーもすごく悲しかったです。

パレットーク:「性に関するモヤモヤ」を漫画で紹介するアカウント。実体験に基づくストーリはリアルで、読んでいるとモヤモヤし、自分がその場面に出くわした時にどうすればいいのか考えるきっかけを与えてくれる。

 

西村:そんな時は、そういう言葉をかける人たちの立場を考えてみます例えば、ある人は親から「この大学に進学してこのような仕事に就きなさい」「結婚しなさい」「女の子らしくしなさい」「男なんだからこうしなさい」と言われているのかなと考えます。自分の生き方を自由にしてあげられない人たちは、自分らしく生きている人たちやカミングアウトしているマイノリティの人たちを見ると「許せない」「なんでそんなに楽をしているの」「私だってそうしたいのにできない」と劣等感を抱いている場合もあると思います。

私はそういう人がいても「自分は自分のために、他の人のために、自分に似ている人のために頑張りたい」「私は強さを保てるんだ」と言い聞かせます。あとは「もっとおしゃれになろう」「もっとメイクを勉強しよう」「私の話が伝わるように、工夫して準備しよう」と自分を鼓舞します。

本来、自分の好きなことの練習や準備にセクシュアリティは関係ないはずです。どんな人でもちゃんと良いものを作ればいいんです。しかし現実では弱い立場の人とか、マイノリティと言われてきた人たちは、悔しいけれど他の人より努力しないと認めてもらえないと感じることがあります。だからこそ「当事者だからと被害者ぶって、投げやりな気持ちで生きていい」というマインドではダメだと思います。私はファッションやメイクが大変だと思うこともあるけれど、自分が自分でいるために、誰かに認めてもらえるために、準備や練習を怠らないことが自分をより良く見せてくれると信じています。

ミシェル・オバマさんと米副大統領のカマラ・ハリスさんはとてもおしゃれで、私はすごく好きです。「おしゃれをする=プロフェッショナルじゃない」と言う人もいるけれど、それは間違っていると感じます。おしゃれは自分が色々発信していることをもっと聞いてもらえる武器になると考えています。彼女たちはすごくおしゃれだけど、だからといって仕事に手を抜くことはありません。私はそういうのを見て、私自身、僧侶であり、メイクアップアーティストであり、LGBTQ+活動家であることは間違っていないんだ、むしろもっと極めるべきだと考えています。

あっきー(P):「マイノリティと言われている人々は、人より頑張ることで認められる」と先ほど仰りました。しかし、自分がマイノリティの1人として、どうしてマイノリティばかり頑張らなきゃいけないんだろうと憤りを感じてしまいます。

西村:そうですね。本来、マイノリティが人一倍努力する必要はないはずなんです。だけど、同じことで苦しんでいる人と共に頑張ることで心が豊かになることもあります無理して人一倍の努力をしなくてもいいけど、本来はこの現状がおかしいから、悩めるもの同士で解決していきたいと私は思っています。

さらに、自分が知っていることを教えることは、満足感や達成感にも繋がります。人生を色々体験できた方がコクがあって素敵だと思うので、私は自分でセクシュアリティを公表したり、自分の体験や考えを紹介したりすることを選んで生きています。周りの人に流されるのではなく、自分が決断をしたように生きることが様々な人の自由を生むことになると信じています。みんなが自由に生きることで、より多くの人が多様性に触れることができ、それは素晴らしいことだと感じます。


今回の記事はここまでです。第二回では、自分らしく活動を続けるためのモチベーションの保ち方と、物事に対して憤りを感じた時に、それを自分のパワーに変える向き合い方をお聞きします。ぜひ続きもチェックしてください!

>> 次の記事を読む
2】 ハイヒールをはいた僧侶 西村宏堂さんの考える「自分らしさ」と試練の乗り越え方

この記事はガクセイ基地メンバーの西木桃子と作成したものです。

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