先日、「北のともしび」というドキュメンタリー映画の試写会に『ガクセイ基地』のメンバー3人で行ってきました。
監督・撮影は東志津(「花の夢ーある中国残留婦人」など)。音楽に阿部海太郎(『100万回生きた猫』など)、日本語字幕翻訳に吉川美奈子(「帰ってきたヒトラー」など)を迎える。語りは俳優の吉岡秀隆。
本記事では私たちの所感と共にこの映画のあらすじや魅力をお伝えします。
目次
ユダヤの子供たち
舞台はドイツ第二の都市、ハンブルク。
町の郊外にはかつて、第二次世界大戦勃発の前年(1938)にナチ・ドイツが設置した「ノイエンガンメ強制収容所」がありました。
収容所には1945年の終戦までに、ユダヤ人や捕虜、政治犯など約10万人が収容されたそうです。現在は、記念館となって多くの見学者が訪れています。
ノイエンガンメ強制収容所記念館 公式URL:Slave Labour in Brick Production
↑ノイエンガンメ強制収容所にあるレンガ工場。囚人たちはここで過酷な強制労働に従事させられた。
(映画「北のともしび」より ©️2022 S.Aプロダクション)
本映画が題材とする、20人のユダヤ人の子供たちもこの収容所にいました。
境遇や年齢など様々な10人の男の子と10人の女の子。
“結核の人体実験”のために連れてこられた彼らは過酷な実験で衰弱した後、終戦間際にナチ親衛隊により殺害されます。
国家が秘密裏に行った非人道的な実験の証拠を隠滅する必要があったからです。
↑実験で脇の下のリンパ節を切除された後、撮影された子どもたちの写真。
(映画「北のともしび」より ©️2022 S.Aプロダクション 資料提供:ノイエンガンメ強制収容所記念館)
過去と向き合う人々の姿
子どもたちの死を経て、映画は、現代に生きる人々へと目が向けられていきます。
人体実験の犠牲となった子供たちの存在が世間に知られ始めたのは、1970年代末ごろでした。
戦後生まれの人たちが大人になり、ようやく人々は過去と向き合い始めたのです。
ナチス政権下で、自分の祖父母や両親がどのように生きたのかを知りたいと願う人々、子どもたちの死をきっかけに、ヨーロッパ中から集まり、互いに学びを深めていく若者たち。
過去と向き合う現代の人々の姿を通して、犠牲となった人たちの命の痕跡を浮かび上がらせ、映画はやがて、わずかな希望を生み出していきます。
(映画「北のともしび」より ©️2022 S.Aプロダクション)
思考の変化をもたらす作中の「間」
ここからは私たちが学生という視点からこの映画に抱いた感想を紹介していきます。
ゆみ
上映後のトークショーで、本作の翻訳をされた吉川美奈子さんが「作品の中に考える間を作っている。間を大切にしている。」と仰っていました。
これに対して監督の東志津さんは「生理的なもの。私にとって心地がいいのがこの間。『何を語って、何を語らないか』の判断を重ねていくことが映画を作ること。」と話しており、観客を置いてけぼりにせず一緒に物事を考えていくための「間」が東さんにとっての「映画を作ること」なのだと知りました。
まりこ
私はこの「間」の取り方に注目してほしいです。
「ユダヤ人迫害」や「強制収容所」と聞くと、暗く悲しい気持ちになってしまうのではないかと思うかもしれません。しかし本作品に見られる「間」は、そうした暗い感情を抱くことなくテーマに対して冷静に考えることができました。
是非、作中の「間」を感じながら、スクリーンに映し出される1つひとつの光景をしっかりと受け止め、考えながら鑑賞してみてください。
(映画「北のともしび」より ©️2022 S.Aプロダクション)
大事なのは忘れないこと
あいり
個人的には作中のノイエンガンメ強制収容所で人体実験の犠牲となった20人の子供たちの半生を追うシーンが印象的でした。
蓋を開けてみれば彼らは私たちと何ら変わりはなく、ただ家族と一緒に暮らしていただけ。
しかし宗教が理由で強制的に家族と引き離されて収容され、彼らを始め多くが命を落としました。
出生や人種を理由に他人の幸せを奪ってはいけないという教訓を得た今、私たちには過去を生かし続ける義務があると感じます。
ゆみ
この映画が描いていることは私たち大学生が一度は考えてみるべき内容だと思います。
私はナチスに関する知識をほとんど持っていませんでしたが、作品に登場したノイエンガンメ強制収容所の今の姿や“元囚人“の方の話の生々しさから直感的に「かわいそう」、「酷すぎる」と感じました。
広島出身者として平和教育を受けてきた私は戦争について多少は理解した気でいましたが、作品を見てまだまだ知らないことばかりだと思い知らされ、この機会に世界の過去の過ちについてもっと勉強しようと思いました。
まりこ
当時の子どもたちの身に起きた悲劇と、現代の子供たちが当時の子供たちの身に起きた悲劇やその記憶を風化させまいと奮闘する姿には、私たちにも考えさせられるものがありました。
そしてスクリーン越しの光景が、まるで今自分の目の前で起こっているかのように感じられるほどの空気感があり、決して他人事とは思えませんでした。
現在の不安定な世界情勢や状況を生きる私たちにも通じるものがあると感じさせられました。
(映画「北のともしび」より ©️2022 S.Aプロダクション)
「北のともしび」公開情報
「北のともしび」は2022年7月30日(土)より新宿・K’s cinemaほか全国順次公開です。
予告編はこちら
ドキュメンタリー映画「北のともしび」予告編 – YouTube
美しい映像や音楽と共に20人の子どもたちを通して描かれる希望を、是非劇場でご覧になってください。
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