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株式会社アルナの額縁[LEAN/リーン]からデザイン思考を考える

最近「これからのビジネスは“デザイン思考”が重要になる」というフレーズをよく耳にしませんか?実際に欧米では、デザインを重視して経営を行った企業の業績が著しく伸びたというデータがあります。そして日本でも、採用する大学生に「デザイン思考」を求める企業が増えています。

 

でも…結局デザイン思考って何?

 

検索したり、本を読んだりしてもピンとこない。そこで、グッドデザイン賞を受賞した製品から「デザイン思考」を考えてみようというのが今回の企画です。グッドデザイン賞は製品の見た目だけでなく、製品の見た目だけでなく製品を作る過程の考えが評価される賞…。きっと何か見えてくるものがあるはず…!

そして今回の記事で取り上げるのは、2019年にグッドデザイン賞を受賞した額縁 [LEAN/リーン]とそれを開発した株式会社アルナ。社長の雪山さんとグラフィックデザイナーの三星さんにお話を伺いました!

雪山さん
雪山大(ゆきやまたけし)
1972年埼玉県生まれ。1995年上智大学比較文化学部(現、国際教養学部)卒業。
ハンドバッグ専門商社に入社し百貨店営業を担当。1998年(株)アルナに入社。
外回り営業、海外仕入、総務・人事担当を経験し、2009年社長就任

 

―株式会社アルナについて教えてください。

(雪山)アルナは1967年にアルミニウム製の額縁を作る会社として創業しました。「アルナ」という名前の由来は、アルミニウムの「アル」と創業者が好きだった仲間という言葉の「ナ」を組み合わせた名前です。弊社ではアルミニウムの質感がそのままの額縁だけでなく、アルミ製のフレームに木目のフィルムを貼った額縁も作っています。

 

―額縁といえば木製というイメージでしたが、アルミニウム製の額縁もあるのですね。

(雪山)アルミニウム製の額縁は戦後にアメリカからの輸入が始まりました。家庭でのアルミサッシの普及とともに少しずつアルミの額縁も普及しました。弊社では創業時からアルミニウム製の額縁を作り続けています。アルミ製の額縁は強度が高いので、大きな作品を額縁に入れる時に適しています。

 

―アルミニウム製の額縁の特徴を教えてください。

(雪山)一番の特徴は強度です。木製のフレームは細すぎると支えられなくなってしまうのですが、アルミニウム製は細くても強度が出ます。天然の木だと、加工の際に木の節が表面に出てきてしまいます。節でフレームの一部が黒くなってしまうのが嫌だというニーズがあるのですが、木目調のフィルムなら均一できれいな模様にすることができます。
また、木製のフレームは天然素材なので、湿気や乾燥でフレーム自体の劣化が起こってしまいます。アルミニウム製も留め具に使用している金属が錆びるなどの劣化はあるのですが、木製の額縁よりも丈夫なので長く使うことができます。

 

 

ーアルナの額縁はどんなところで使われているのですか?

(雪山)小売店経由で個人のお客様にも販売はしていますが、弊社ではB to Bでの取引が多いです。例えば、ある会社からは「優秀な社員に表彰状を送ろうと思っているが、賞状だけでなく額縁も贈りたい」という注文や、ある球団からは「選手が記録を達成したのを表彰したいので、記念品を入れる額縁が欲しい」といった注文を受けています。

 

―アルナが仕事をする上で大事にしていることは何ですか?

(雪山)私たちは「300年続く会社」にしたいと思っています。そのため、安易な目先の売り上げだけを求めるのではなく、良い製品を作り、お客様との信頼を築くことを大切にしています。価格と品質を下げて安い額縁を提供するのではなく、少し価格が上がっても自分たちが誇れるもの、お客様に納得して買っていただけるクオリティのものを作っています。

 

―そもそも額縁の役割とは?

(雪山)額縁はあくまで黒子です。額縁の有無で作品の印象はガラッと変わりますが、額縁が中の作品よりも目立ってはいけません。自分は目立たずに中の作品をいかに格好良く見せることか。それが額縁の使命だと思っています。

 

―やはり額縁があるのとないのとでは絵の印象が違うのでしょうか?

(雪山)はい。絵をそのまま見るのと額縁に入れるのとでは全く印象が異なります。私たちは「こんなに印象が変わるんだ!」とお客様に驚きを与えられるのが良い製品だと信じています。

 

―アルナの額縁のこだわりを教えてください。

(雪山)額縁のコーナーをミリ単位で調整してピッタリ合わせるようにしています。また、額縁は角が鋭角になるので触った時に指を怪我しないよう、ヤスリをかけて目に見えないくらいの細かさで角を丸めています。

 

―新型コロナウイルスの影響で何か変わったことはありますか?

(雪山)元々この数年は、一般の小売業界の元気がなくなり通販業界が伸びを見せていたのですが、コロナの影響でその傾向が加速しました。
通販では実際に見ることができないので、オンライン上の情報で良さを伝えるしかありません。今までよりも画像の重要度が上がると思ったので、今まで自分たちで撮影していた製品の写真をプロのカメラマンに依頼するようになりました。

 

―現在、新製品を1年に3~4点のペースで出していると伺ったのですが、すでに形が決まっている額縁の「新作」はどのようなものですか?

(雪山)私たちはシンプルなデザインの額縁を多く作っています。「シンプル」と一言でまとめても色、フレームの太さ、曲がり具合、などたくさんの要素からできているので、少し要素を変えるだけで印象が全く異なる額縁になります。

―新製品のアイデアはどこから得るのですか?

(雪山)新製品は市場のニーズから作ることが多いです。お客様が求めているものを形にするのが一番だと思うので。
直接お客様に意見を聞くこともあるのですが、この人に話を聞けば間違いないだろうというオピニオンリーダーのような人に意見を聞くこともあります。

 

―オピニオンリーダーは具体的にどんな人達なのでしょうか?

(雪山)意外な所を挙げると、小売店で額縁の販売を担当しているパートの方ですかね。ずっと売り場に出ている方はお客様に一番近いところにいるので、その方がお客様から聞いた「こういう額縁があるといいなぁ」というニーズは外れないです。

 

2019年にグッドデザイン賞を受賞した株式会社アルナの「LEAN」リーン

額縁 [LEAN/リーン]とは
側面の部分が斜めに傾斜している額縁。 この傾斜により、壁に立てかける事が出来る。室内展示での新しい提案。 厚みにボリュームがあるため、斜めから見るとリッチな印象があり、正面から見ると薄く、シャープなイメージを併せ持つ。LEANは若干角度がついているので、床に置いた時にも自立し、なおかつ綺麗に見せることができる。

 

LEANに関しては、実際にデザインをされたグラフィックデザイナーの三星安澄さんにお聞きしました。

三星安澄・グラフィックデザイナー
東京都出身/早稲田大学理工学部建築学科卒。在学時代から美術家野老朝雄に師事。主な領域にロゴデザイン、エディトリアル、パッケージ、ブランディング、サイン、ペーパープロダクト、フレーム、ゲームデザインなど。主な仕事に「生誕140周年熊谷守一展」、「立川プレミアム婚姻届」、「トータス MEDAL」、プレミアムアルミフレーム「ALUMIUM」など。昭和女子大学特命講師。

 

ーLEANを作るときにどんなことを意識しましたか?

(三星)現在の日本の住環境を考えると、壁に穴をあけて、額を飾るというのは心理的にもハードルがあります。結果として、床や棚の上に置いて飾るというケースが多く見られますが、「立てかける」ということを目的とした額縁はありません。この「立てかけるための額」というのがあれば、いろいろな人に額の素晴らしさを届けられるのではと思い、制作しました。

 

―LEANのデザインでこだわった部分は?

(三星)斜めに立てかけたときに一番綺麗に作品がみえる角度を何度も検証しました。約10度の傾きは、作品が少しだけ上を向き、作品も見ている人にとってもリラックスした状態を作ります。この額はいわゆる美術館で飾ることよりも、生活の中に存在することを目的としています。緊張感のある額も素晴らしいですが、この額はそうでなく、ゆったりと暮らしに寄り添う額になるようにとデザインしています。

―制作時に大変だったことは?また、それをどう乗り越えましたか?

(三星)一番は裏面につかうネジを変えたことだと思います。メーカーの人からすると「そんなところ?」と理解に苦しむポイントだったかもしれませんが、デザインをまとめる上でどうしても必要なポイントでした。結果、色々と説明と対話を通じで納得してもらいました。

 

ーLEANに関わらず、何かを作る時のアイデアはどこから得ていますか?

(三星)どこからというのはあまりありません、自分だったらどういうものが欲しいかというのは、常に考えるようにしていて、そのなかに新しいアイデアの種みたいなものをみつけるようにしています

 

ーデザインする時に意識していることは?

(三星)やはり自分で使いたいと思うかどうかということでしょうか。あとは価格などもとても気にします。僕らは製品を作っているので、どんなによいものでも売れないと意味がないと考えています。

 

ー三星さんにとってデザインとは?

(三星)難しい問いですが、プロダクトデザインでいえば、今まで人々が少しずつ溜めてきた知恵の集合のような物だと思います。

 

―今後どんな額縁を作りたいですか?

(三星)作りたいものはたくさんあるしアイデアもいくつもあります。ただ、それがなんのためなのか、という動機が欲しい。「○○のため」という動機や目的があると、あとはそのアイデアがその解決にむかってパーっと走り出します。新しい目的を見つけて、それに合う額縁を作っていきたいと思います。

 

―再び雪山さんにお話を伺います。仕事をしていてやりがいを感じるのはどんな時ですか?

(雪山)私たちはゼロベースで額縁を作っているので、自分たちの頭の中にだけ存在していたアイデアの段階の額縁が、実際に形になって触れる状態で目の前にある時はメーカー冥利に尽きますね。そして、それがお客様に驚きを与えて喜んでもらったときはとてもやりがいを感じます。

 

―経営者として意識していることはありますか?

(雪山)先ほどお話した、安易な目先の売り上げにとらわれないということもそうなのですが、社員の健康は大事にしています。小さな会社なので、大企業と比べるとどうしてもお給料は下がってしまいます。自分が社長だからできる対応というのもあるので、社長の自分から、出来るだけ社員のストレスが無い職場を作っていけるように努力しています。

 

―就活生に何かアドバイスをお願いします。

(雪山)今、コロナの影響などもあって就活が大変だと思いますが、発想を逆転させて「この時期に就活が出来てラッキー」と捉えるのがといいと思います。バブルの時期に入社した人と、その後の就活が大変な時期に入社した人を見てきましたが、苦労をしている分、後者の人の方が圧倒的に仕事ができます。今は大変だと思いますが、苦労していることは絶対に皆さんの力になっていますよ。

―ありがとうございました。

 

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gakuseikichi

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