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【世界初】貝印の紙カミソリ/環境やジェンダーに配慮されたデザインに製作者が込めた想いとは

こんにちは、ヒナです。日本の大手カミソリメーカー貝印さんの新商品インタビュー記事です。

先日貝印さんから世界初(注)の紙でできたカミソリ「紙カミソリ」がリリースされました。この商品の制作に携わた方に取材をさせて頂きました。

注:リンス構造を備えた金属ヘッドと紙ハンドルからなるカミソリ(特許第6825162号)
紙ハンドルと金属のみで構成された3枚刃の新刃体モジュールを採用することで、98%のプラスチック削減と自由度の高いグラフィックデザインが可能。

 

「紙カミソリ」は十分な強度を発揮する立体折り紙構造と、紙ハンドルの特性を活かした超薄型パッケージによって、携帯のしやすさと耐久性を両立されていることが特徴的です。


今回のインタビューをさせて頂いたお二人です。

塩谷俊介さん(左)と古井涼子さん(右)
 
塩谷俊介
貝印 研究部 次長。キヤノン研究部門、事業開発コンサル、ジンズR&D責任者を経て現職。現在は総合刃物メーカー貝印の研究部にて要素技術開発や新商品開発を担当。
古井涼子
貝印 広報宣伝部。総合刃物メーカー貝印にてマーケティング業務、宣伝・タイアップ業務に従事したのち、現在は企業ならびにキッチン用品の広報を担当。

紙カミソリを作るきっかけと大変だったこと

ー紙カミソリを作ることになった経緯を教えてください。

塩谷:カミソリで新しい価値を提供する商品を作りたいと話になりました。そこで出たアイデアがDay(使い捨ての)カミソリというコンセプトでした。一回使うと捨てるのでいつでも清潔・快適に使用できることが強みです。使い捨ての商品を作るなら環境に優しいものを作りたいという話になり、プラスチックではなく紙で作った紙カミソリのアイデアが出ました。使い捨てという側面から環境に着目した商品のアイデアができました。

 

ー商品を開発するにあたり大変だったことはなんですか?

塩谷:大変だったことは主に二つあります。一つは紙の選定です。濡れても丈夫な紙を探すことが大変でした。我々は紙を扱っている会社ではないので、どのように紙を評価し最適なものを選べばいいのか分からなかったので苦労しました。もう一つはカミソリの形に紙を折る際の折り方です。複雑な折り方をすれば強度は上がりますが、それだと使う方が大変になってしまいます。シンプルな折り方と強度を両立させなければならず、そこも苦労したポイントです

 

紙カミソリはシンプルな折り方にも関わらず強度を保っている

 

塩谷:また、旅行や出先で髭を剃らなきゃいけなくなってしまった時に使うことを想定しているので、鞄にさっと入れられる薄さのものを作ろうと思いました。

 

3ミリの薄さも特徴的だ

 

ジェンダーレスなデザインとカミソリの新しい価値

ー紙カミソリのパッケージはシンプルかつジェンダーレスなデザインだと感じました。

ユーザーの性別を限定しないようなデザインが印象的だ

塩谷:カミソリのパッケージは男性向けと女性向けでデザインが異なる場合がありますが、色が異なるだけで男女ともに同じ構造の製品であることもあります。男性らしさ・女性らしさに縛られない多様な生き方が重要視されている今、商品自体に男性向けあるいは女性向けというような枠組みがない商品があってもいいのではないかなと考えました。紙カミソリという今までにないものを作るなら、そのような面にも挑戦したいということで、性別に関係なく選んで頂けるように5種類の配色にしました。

 

ーこのカミソリがリリースされることで、社会に対して期待していることはありますか?

塩谷:「可愛いから使ってみたい」というように、これまでの選び方とは違う動機で手に取ってもらえたら嬉しいです。デザインでカミソリを選ぶということは今まであまりなかったことなので、そのような情緒的な視点でも新しい価値観を世の中に提供できると考えています。さらに、商品のパッケージに紙を取り入れているものはよく見かけますが、商品自体を紙にしているものは珍しいと思います。「カミソリ=プラスチック」という固定概念、この商品を通して環境の観点から覆すことができたらなと思っています。

 

ー紙でできているため、他の商品とのコラボ性も面白そうですね。

塩谷:紙でできているため印刷の自由度は高く、ご当地限定デザインや有名デザイナーのデザインを取り入れなど、お土産やギフトとしての新カテゴリを創出できる可能性を感じています。

 

貝印の紙ならではの環境へのアプローチ

ー紙は生産する際にプラスチックよりも多くのエネルギーや水を必要としていたり、消費する際の温室効果ガスの排出量がプラスチックよりも多かったりする場合があると言われています。今回のカミソリは使い捨ての紙でできた商品ですが、このような指摘に対してどのようにアプローチできるとお考えですか。

古井:環境問題は様々な角度からアプローチしなければ解決しない問題だと思います。作るときのエネルギー量に関しては、そのような考えも一理あるかもしれません。その一方で、海洋汚染の問題では海にプラスチックゴミが流れ生態系に影響を与えている状況もあり、そのような観点からは脱プラスチックは環境に良いと言えます。「環境」と一概に言っても、アプローチの方法や問題を考える方向は様々で「環境に良いか悪いか」というのはそのアプローチの仕方を環境のどの観点から見るかで変わってくると思います。「紙カミソリ」は環境に関わる全ての問題を一気に解決するという訳ではなく、カミソリと環境における「新しい選択肢」を提供できればと考えています。

塩谷:また、今後再生した紙を使用するなど工夫をすることでもっとエコになるかもしれないし、それは会社として今後もっと突き詰めていきたいですね。

古井:カミソリを全て紙に変えていくのではなく、プラスチックの製品も続けて販売していたり、替え刃式の商品もあったりするなど、環境だけでなく人々が選ぶライフスタイルに合わせてカミソリも選べる状態を作ることを目指しています。

 

貝印の研究部塩谷さんに聞く、仕事のモチベーションと今後のビジョン

ーお仕事をしている中で試練を乗り越えるときのモチベーションやコツなどがあれば教えていただきたいです。

塩谷:試練を乗り越えるための方法を考える時間も楽しんでいますチーム商品を開発しているため、一丸となりメンバーの叡智を結集して課題を解決していきます。開発メンバーの一体感が高いこともあり、困難な課題を解決していくことは大変ですが、辛いとは思いません課題を解決できた時の楽しみや達成感をこれまでのキャリアの中でも味わっているのでそれがモチベーションになります。「これが完成したら社会に影響を与えられるのではないか」と考えると頑張れますし、諦めない限り失敗にはならないので粘り強く取り組むことが必要と思っています。

 

ーサステイナブルな商品は一時的に流行るより長く使われることで持続可能な価値があると思います。今後持続可能な商品を通して目指していることはありますか?

塩谷:耐久性を出すための紙でもっとエコなものもあるかもしれないし、時間がかかるかもしれませんが捨てられた紙がリサイクルされその紙でまた紙カミソリを作るなど、環境に良いサイクルができたらいいなと思います。

 

ー今後どんなことに取り組んでいきたいとお考えですか。

塩谷:刃物総合メーカーとして、良い切れ味を突き詰めて、商品クオリティもっと高めていきたいといつも思っています。あとは新しい価値の創造です。「ものからことへ」と言われているように「貝印のカミソリを使うと剃ることがクセになる」とか「貝印の包丁を使うと料理が楽しい」って思ってもらえるように、商品に新しい価値を付加していきたいと思っています。

 

ー大学生へのメッセージをお願いします。

塩谷:失敗してもいいので世の中にないことチャレンジしてほしいです。成熟した世の中、既存の延長線上で何かを作っても先が見えてしまっていると思います。紙カミソリはゼロから生まれたものではなく、メンバーとの対話の中で、紙スプーンや紙ストローからヒントを得て作ったものです。自分が知っている知識を組み合わせたり、自分とは異なる専門を持つメンバーとの対話を通じたりすることで新しい発想が生まれたりします。新しいものを生み出すために、色々な経験をしたり、色々な人と出会って対話をしたりすることが大切だと思います。

 

ーありがとうございました。

 

過去にも貝印さんの取材をさせていただいているので、よければチェックしてください。

編集後記
これまでのカミソリは体毛を剃るという機能しかありませんでしたが、紙カミソリは剃るという機能に加えてジェンダーレスなデザイン、環境に配慮された紙という素材、持ち運びに便利な3ミリという薄さなど様々な新しい価値を兼ね備えています。そのような新しい商品の制作に携わた方にお話を伺う機会を頂けて本当に感謝しています。塩谷さん、古井さん、本当にありがとうございました。

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