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【#剃るに自由を】貝印/話題の広告について制作チームにインタビュー

こんにちは、ヒナです。いきなりですが、みなさんはこの広告を見たことがありますか? 

「ムダかどうかは、自分で決める。ムダ毛を気にしない女の子もカッコいいし、ツルツルな男の子もステキだと思う。ファッションも生き方も好きに選べる私たちは、毛の剃り方だってもっと自由でいい。」ーー貝印

先日この広告を出した、貝印の広報宣伝チームの方々にこの広告を作った経緯や広告に込めた思いをお伺いしてきました。取材を受けてくださった畑谷友香さん(左)と齊藤淳一さん(右)。

齊藤 淳一
貝印 広報宣伝部 宣伝リーダー。20世紀FOX映画インターネットマーケティング担当、北欧クリエイティブエージェンシーGreat Works China COOなどを経て現職。現在は、総合刃物メーカー貝印の広報宣伝部にて宣伝リーダーを務める。

  

畑谷友香 
貝印 広報宣伝部。クリエイティブエージェンシーやWEBインテグレーターの会社で企業のデジタルプランニング、ディレクションに従事。現在は総合刃物メーカー貝印の広報宣伝部にて主にデジタル/SNS関連を担当。

 

国内トップシェアを誇るカミソリメーカーだからこそ、
このメッセージを発信したい

ーよろしくお願いします。まず、この広告を作ろうと思ったきっかけを教えてください。

齊藤:貝印は100年以上続く刃物メーカーで、主力の商品はカミソリです。中でも使い捨てカミソリは国内でもトップシェアを誇っており、普段から剃ることや体毛について日々社員が向き合っています。男女600人を対象にお客様調査を行った際「ファッションや髪型のように剃ることにもっと自由であってほしいですか?」という質問に90%の人がYESと答えていました。「なんで毎日剃らなきゃいけないの」とか「ツルツルでいなくてはならないというプレッシャーを感じる」というような意見もありました。体毛を剃ることに関しても、女性はこうあるべき、男性はこうあるべきという固定観念があります。そのプレッシャーや日々感じているモヤモヤから解放するメッセージをカミソリメーカーだからこそ発信できないかなと思い、広告を出しました。

MAGNET by SHIBUYA109


ーそこで気になったのですが、もしこの広告を見て、今まで体毛を剃っていた女性が「ああ、剃らなくていいんだ」とプレッシャーから解放されたら非常に素敵なことだと思います。しかし、それは貝印の利益に繋がらなくなるリスクもあると思います。この広告は直接的な利益のためのものではないのですか?

齊藤:そうですね。現在、商品を買うときは価格や性能だけでなく、ブランドの考え方や哲学に共感して好きになってもらわないと、買ってもらえない時代になってきているように感じています。目先の利益よりもまずはお客様に寄り添って共感して頂けるものを発信することを目的にこの広告を作りました。この広告を見て共感した人が、貝印のファンになってくれたら、長い目で見た時に利益につながると思っています。

誰も傷つけることがなく、個人に寄り添える広告を

ー体毛に関することはセンシティブなイメージがあるのですが、この広告を作る際に気をつけたことや、他の広告とは異なる点があれば教えて頂きたいです。

齊藤:広告に「ファッションや髪型のように剃ることももっと自由であってほしい」というメッセージを入れました。ファッションや髪型と同じようにと言っているからには、広告のビジュアルをかっこいいものでないと伝わらないと思い、モデルのポーズやコピーの位置など細部までこだわりました。

畑谷:私は剃ることをファッションや髪型と捉えるというより、剃らないことに負い目を感じることに疑問を持っていました。例えば、体質の関係で剃れない人や、忙しくて手が回らず毛が剃れていない時に外に出て「やばい、剃ってない」と負い目に感じたり、剃ってない自分が悪いと思ってしまったりする人がいることです。今回この広告の話が出て、調査の結果から「どうして女性は毛を剃らなきゃいけないの」と感じる人が多いことを知りました。そのような方々を救うまではできないとしても、応援し「(剃らなくても)大丈夫だよ」と寄り添えるようなものになることができればいいと思って作りました。ただ「私は毎日頑張って剃っていたのに」と捉えられないように、そのあたりのコピーの伝わり方もすごく考えました。理論的な面でも感情的な面でも気をつけるポイントがあり、チームでたくさん話し合って、そのような点にも気をつけました。

齊藤:「こうあるべき」というような強い言葉を使ってしまうと、誰かを傷つけたり誰かの反感を買いやすくなったりするかもしれません。そのため、炎上することも想定してどのようにメディアに掲載されるか、どのようにSNSで拡散され、どのようなコメントが来るのかなど、想像力を最大限にして考えられることすべてを考えました。

 

ー先ほど広告を作るにあたり、かっこいいものにしようとしたとおっしゃっていましたが、「かっこいい」という感覚は主観的なものだと思います。どのように「かっこいい広告」を作るのですか?

齊藤:広告のビジュアルは、バーチャルヒューマンのMEMEが脇毛を見せているのですが、それが堂々と見えるように意識しました。「自分はこの選択をして間違ってない」と伝わったり、ポーズも自然で自信があるように伝わったりすると「かっこいい」とか「いいな」と思ってもらえるのかなという風に考えて作りました。

バーチャルヒューマンMEME


ーバーチャルヒューマンを起用したのはなぜですか?

齊藤:一番大きな理由は特定の実在するモデルさんを起用した場合にその人自身の特徴や過去にした発言などがその個性の邪魔してしまうというか、お客様に与えるイメージがその人のイメージになってしまうと思ったからです。それよりも、この広告を見てフランクにディスカッションしてほしいと考えました。そのようなイメージがあまり定着していないまっさらな状態のモデルは実在する人物よりも、バーチャルヒューマンのほうが合っていると思い起用しました。

 

ー誰も傷つけないような広告を作ることを意識されているとおっしゃっていましたが、どのようなことに気をつければ誰も傷つかないような広告を作ることができるのですか?

畑谷断定的ではない言葉選びを大切にしました。キャッチコピーも最初の方は色々な案があり、例えば「常識だ」といったような言葉が入ったものもありました。しかし、そのような断定的な言葉を使ってしまうと、人によっては「じゃあ私は非常識なのかな」と考えてしまう人もいるかもしれないので、何度も練り直しました。

 

ー今はまだ「女性は毛を剃るもの」という固定観念がある社会なので、この広告をみて毛を剃らない選択をした女性が誰かに「何で剃らないの?」と言われて傷つくことがあると思います。この広告には、そのような女性の生きづらさなどを解決するための現実性などはあるのでしょうか?

畑谷:社会に対してこうあるべきだと提起しているというよりも、どちらかといえば、個人に寄り添うことを意識した広告です。剃りたくても剃れない人などや整えたいだけなのに剃らなきゃいけないのかなとかいう人たちにこの広告が届いて、剃る選択をした人を否定せずに、剃らない選択した人の生きづらさを和らげることはできると思います。

齊藤:正直、この広告で女性が生きづらさから解放されるとは思っていません。ただ、個人ではなく企業がこういったメッセージを発信することで、メディアを通して多くの方の目に触れ、今まで意識してこなかった方まで意見を発信したり友達と議論したりするようになり、それがいつか社会を動かすきっかけにはなるのではないかと願っています。

 

ーこの広告は個人に寄り添うことにフォーカスしているのですね。

齊藤:そうですね。「剃るに自由を」って本当に当たり前にあるべきことだと思います。剃るか剃らないかは自分で自由に選んでいいはずなのに、選べなくなってしまっている社会の矛盾に対して「剃るに自由を」とメッセージを送っています。その反面、剃るか剃らないかということ自体を重く捉えすぎる必要もないと思います。なんか楽しいものであってほしいなっていうのがあって、ファッションだと、自分が着たい服を着る時と、この人に会うから、フォーマルな場だからこんな格好をしようとTPOに合わせて服を選択する時もあると思います。毛を剃ることもそんな感じで、気分や場面によって選択するくらいの感覚でいいんじゃないかと思います。

貝印だからこそできる活動をこれからも

ー今回の広告は女性のバーチャルヒューマンのMEMEさんがモデルをされていることで、体毛に関する問題は女性の問題というイメージがついてしまうように感じます。男性の中で体毛をツルツルにしたいと思っている人も中にはいると思うのですが、そのような広告を作ろうと思ったことはありますか?

齊藤男性にも体毛に関するプレッシャーや決められた固定観念があり、それに悩んでいる方もいます。今回のコピーでも「ツルツルな男の子も素敵だと思う」というコピーを入れたのですが、今後はそれもメッセージとして伝えたいと思っています。

今は剃りたいと思った男性用のプロダクトがないという課題もあります。最近のプロサッカー選手はすね毛を剃っている方が多いそうです。あるサッカー部の男子高校生が、プロの選手に憧れて自分も剃りたいと思ったけど、女性向けのカミソリを買うのが恥ずかしいという声を聞きました。それもある種の体毛に関する固定観念によって、もたらされているものだと思うので、そういう人の背中を押せるようなこともしてみたいです。それが今回のように広告でなくても、既存製品のパッケージを変えるとか、男性の毛を剃ることに関する悩み解決するためのものも提供したいと考えています。

 

ーこれから貝印が取り組みたいと思っていることや、目標を教えてください。

畑谷:一番は商品と一緒にメッセージを届けていくことが企業の広告としてあるべきだと思うので、今回の広告のメッセージによって剃る人が少なくなったとしても、剃りたいなって思った時に貝印の商品を手にとっていただけたらいいなと思っています。

齊藤:また、会社ではSDGs推進室というものができて、SDGsの目標5の「ジェンダーの平等」などの課題にも会社として向き合っていこうと思っています。

 

ー例えばどんなことですか?

齊藤:本当に細かいことなのですが、貝印は刃物の会社として包丁も作っているのですが、プロの料理人や開発者は男性が多いので、女性の手のサイズに合う包丁が少ないという課題がありました。最近はそのようなことを考慮して女性も持ちやすい包丁を増やすようにしています。逆に今度はそうすると、女性が料理すべきだと私たちが考えていると誤解されてしまう可能性もあり、すごく難しいです。そのため、今意識しているのは男性でも女性でも使える調理ツールを作ることです。

なるべくお客さんの声を聞いて、それぞれの人にマッチする商品を提供できたらいいなと思っています。商品にもよりますが、先ほどの包丁の例のように「男性向け」と言われているものもあります。しかし、本来なら家で使う料理ツールが性別によって違うということはないと思います。そのため「家庭向け」として開発・プロモーションするようにしています。それを大々的に言っている訳ではありませんが…。男性はこうあるべき、女性はこうあるべき、みたいなものを会社として少しずつ変えていけるように取り組んでいます。

 

ーありがとうございました。

 

編集後記

私がこの広告に出会ったのは、医療脱毛を契約したすぐ後のことでした。この広告に出会うまで、私は体毛が私の体にはあってはいけないものだと当たり前のように信じていました。そのため、毎日剃らなきゃいけないと思っていたし、それが面倒臭くて医療脱毛に通い始めました。そのすぐ後にこの広告を見て、心がドキッとしました。お二人がおっしゃっていたように、その広告のコピーに断定的な言葉がなかったため、医療脱毛を契約した後でも全く不快にならずむしろ私のこれからの体毛に関する考え方に大きな影響を与えました。

少し話は変わりますが、Youtubeで「女の子は体毛が生えていたら彼氏に振られる」とか「ムダ毛を処理していない女性は女として失格」というような内容の広告を頻繁に見かけます。しかしそんなことはなくて、どんな女性でも体毛の有無にかかわらず愛される価値があると思います。このような広告を執拗に放送することは、女性の不安を煽ったり、体毛を剃っていない女性は愛される価値がないような考えを社会に植えつけるきっかけになっているように感じます。

Youtubeを開くたびに目にするそのような広告に不愉快に感じる一方で、貝印が出した「#剃るに自由を」という広告は毎日のプレッシャーから私を解放してくれました。

話は戻りますが、貝印のこの広告に対して様々な意見があると思います。批判やネガティブな意見も一部、目にしました。しかし、何か行動を起こさなきゃ現状は何も変わらないし、貝印がこの広告をしなかったら「現状維持の現状」がそこに変わることなくあるだけだと思います貝印の広告は自分の価値観に良い影響を与えたし、きっとそう影響された人は私だけではないのではないでしょうか。もっと早くにこの広告に出会いたかったと思ったし、こんな考え方もあることをもっと多くの人に知ってもらいたいと感じました。

先ほどの医療脱毛の話に戻りますが、全身脱毛を契約した訳ではなかったため、腕など今していない部位は今している脱毛が終わったら新しく契約しようとはじめは考えていました。しかしこの広告を見て、実際に制作に携わった方々のお話を聞いて、今している脱毛が終わったらまだ脱毛をしていない部位を新しく契約するのはやめようと思っています。体毛の観念が少しずつ変わりつつあるこの時代で私もその変化の一部になりたい、体毛の有無を自由に選ぶことが当たり前になるかもしれない社会に自分なりに少しでも誰かに影響を与えたい、と考えたからです。

今回は、このような素敵な広告を勇気を出して作ってくださった貝印さんに感謝しています。さらに、広報宣伝部の方々に直接お話を聞かせていただける機会まで与えていただけたことに心から感謝しています。

貝印の齊藤さんと畑谷さん、この度は本当にありがとうございました。

 

今回質問の一部を作成するにあたり、ICU prismの以下の記事を参考にさせて頂きました。
ICU prismには過去の取材記事もあるのでよければチェックしてみてください^^
全ての人のための”safe space” / ICU PRISM【インカレ学生団体】
また、今回取材の質問を作るために一部参照させて頂いた記事です。
Vogue あなたはどう思う? 世界に広がる「剃らない自由」。
 

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gakuseikichi

2 Comments

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  • こんにちは、はじめまして。
    2021年3月10日にこの記事を拝見させていただいたものです。
    今日、このサイトの存在も記事も初めて知りましたが、魅力的だったのでコメントを書かせていただきました。

    私は、この春から大学3年生になる者です。
    この1年、私は大学はほとんど回線を通して家で受ける状態が続き、今後の不安が積りに積もっていました。
    また、もうすぐ3年生になるというのに夢もやりたいことも見つけられていないので焦りと戸惑いを感じ、それでも働くことは将来しなくてはならないと思うことを繰り返す日々でした。

    しかし、春休みも中盤に差し掛かった今日この頃でこの記事を読んで、働くことってどういうことなのか少し分かったような気がしました。
    記事自体は短いのに、インタビューの着眼点も、社会的面から企業側のメリットやデメリットに関する部分も的確で面白いなと思いました。
    勉強にもなったので、メモもしてしまいました。笑
    また、ライターにも興味を持つきっかけになりました。
    人や企業の魅力を社会に知ってもらうためには、どのような言葉をどれくらいの文字数が適切かなどを考えながら記事を作るのはとてもやりがいがありそうですね。

    ここまで長々と失礼しました、素敵な記事だったので、つい長文でコメントをかいてしまいた。
    これからも、素敵で面白い記事楽しみにしています。

    • はじめまして。この記事を書かせていただきましたhinaです。コメントありがとうございます。返信が遅くなってしまい申し訳ありません。
      私も次の春から大学3年生になります。ガクセイ基地で記事を書いていて、初めて私の記事にコメントを頂いたため大変嬉しいです。

      将来やりたいことや目標が見つからないない中で、時間だけが過ぎているように感じて焦ってしまうのはすごく共感します。貝印さまでの取材は自分がが感じていた疑問や、自分が広告をみて感じたことをもとに出来るだけ率直な質問を作るように心掛けました。社会の規範の一部に当てはまろうとすることは、ごく自然なことかもしれませんが、この広告を作った方々のように社会に一石を投じるようなお仕事は魅力的ですね。

      この記事を読んでそのように感じて頂き、本当に嬉しい限りです。自分が特に興味のある分野で非常に力を入れた記事だったので、さらに嬉しく感じます。この度はコメントをくださりありがとうございます。

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