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環境にやさしいファスナー「GreenRise」/YKK株式会社

最近「これからのビジネスは“デザイン思考”が重要になる」というフレーズをよく耳にしませんか?実際に欧米では、デザインを重視して経営を行った企業の業績が著しく伸びたというデータがあります。そして日本でも、採用する大学生に「デザイン思考」を求める企業が増えています。 

でも…結局デザイン思考って何?

検索したり、本を読んだりしてもピンとこない。そこで、グッドデザイン賞を受賞した製品から「デザイン思考」を考えてみようというのが今回の企画です。グッドデザイン賞は製品の見た目だけでなく、製品を作る過程の考えが評価される賞…きっと何か見えてくるものがあるはず…!

 

そして、今回の記事で取り上げるのは、2019年にグッドデザイン賞を受賞したYKKのファスナー「GreenRise(グリーンライズ)」。YKK株式会社 ファスニング事業本部 ファスナー事業部 アパレル戦略推進部 商品戦略室 森平陽子さんと広瀬道隆さんにお話を伺いました。


 

―普通のファスナーと「GreenRise」の違いを教えてください。

(森平)普通のファスナーと全く同じ見た目をしていて、機能面でも普通のファスナーと変わりはありません。違うところは、コイル状になっている務歯の部分を含め、ファスナーの繊維部分全てに、植物由来の材料を使っているのが特徴です。

 

―「デザイン=見た目の良さ」と考える人も多いと思うのですが、「GreenRise」は従来品と全く見た目が変わりません。「GreenRise」がグッドデザイン賞を受賞した理由は何ですか?

(森平)「GreenRise」は植物由来の材料で作られているのですが、植物由来比率が100%の材料を使っているわけでなく、現段階では30%植物由来の材料を使用しています。
本来は100%植物由来の材料でファスナーを作るのが理想ですが、今はまだそれが実現できる市場環境ではありません。100%になるまで待ってから市場に出すのではなく、30%の段階でも「できることから行っていく」という考えで市場に投入することを決めたことを評価していただいています。また、ファスナーは様々なところに使用されます。そのため、ファスナーから環境へのアクションを起こしていくことで、将来的に大きな変化が生まれるのではないかということで賞をいただきました。

 

―「GreenRise」を作ろうと思ったきっかけは?

(森平)YKKには「自分たちの作る商品は環境により良いものを」という精神が昔からありました。1994年には「NATULON(ナチュロン)」という、リサイクルファスナーを販売しています。当時は社内で発生した糸くずを自社でマテリアルリサイクルして再生糸を作り、「NATULON」を生産していました。
最近では気候変動問題などが叫ばれるようになり、会社として二酸化炭素の排出量削減に貢献していくために、リサイクルよりも一歩先に進んだ原料として、化石燃料由来から植物由来のものに変えようと考えました。

 

 

―会社として環境問題や社会問題の解決に取り組んでいるのはなぜですか?

(森平)YKKには「善の巡環」という企業精神があります。これは「他人の利益を図らずして自らの繁栄はない」という意味です。自分達に利益が出た時に独占するのではなく、お客様や社員、地域社会に還元するために周りの人々の役に立つことを考えると、巡り巡って自分達に利益が返ってくる。それにより、自分達も成長できる。という考え方です。YKK創業者が創案したこの企業精神が、当たり前に社員に根付いているので、開発の際にサステナビリティを意識することができるのだと思います。

 

―アパレル業界の抱える環境に関する問題にはどんなものがあるのですか?

(森平)現代のアパレル業界は洋服を大量生産することが多くなっており、お客様の手に渡り着られているもの以上に、売れ残って廃棄される洋服がたくさんあると言われています。その処理で燃やしてしまうとCO2の問題に直結します。発展途上国などに寄付する動きもあるのですが、あまりに大量に寄付をしてしまうと、その国の産業が発達しないなどの問題にもつながります。あと、洋服を染色するときに大量の水を使用するのですが、世界には排水を綺麗に処理しないまま垂れ流しにして汚染の問題が起きている地域もあります。

 

―「GreenRise」の原材料にはサトウキビの廃糖蜜が使われていますが、サトウキビにした理由は?

(森平)世の中に色々な植物由来の材料はありますが、第一としてファスナーを製造するのに適した材料であることはもちろん、トレーサビリティがしっかりしていて、遺伝子組み換えでないことなどを考慮した結果、海外では砂糖生産過程で廃棄されているサトウキビの廃糖蜜を活用することになりました。

 

―作る時にこだわったことは?

森平)「変えずに変わるデザイン」にすることです。「GreenRise」の外観や品質は既存品と全く変わりません。変わったのは、材料が植物由来で環境に良いという部分だけです。見た目や機能を変えないことで、お客様が違和感を覚えずに使ってもらえると思いました。例えば、もっと生成りのような見た目にして、いかにも「環境に良い」というアピールをすることもできたのですが、そこを押し出してもお客様は使いづらいのかなと。特別な時に一回使うだけになるより、既存品からの移行がしやすく長く広く使ってもらえるほうが良いと考えました。

―「GreenRise」は実際にどんなところで使われているのですか?

(森平)ファスナーだけ植物由来のものに変えるというよりも、商品全体で環境に配慮することを考えた企画に使われることが多いです。

 

―「GreenRise」は既存のファスナーと見た目が変わらないので、一般のお客様には環境にいい製品だと伝わりにくいですよね?お客様に伝えるために工夫していることは?

(森平)「GreenRise」が植物由来の材料を使っていて環境に良い仕様になっているということを伝えるタグを制作しました。「GreenRise」が使われている時に、そのタグが付いていることで、お客様が環境に良い商品だと認識してもらえると思っています。

 

―開発時に大変だったことはありますか?

(森平)繊維部分を全て植物由来材料に変えたファスナーづくりへの挑戦は、YKKの中でも初めての取り組みだったので、品質の維持など、想定していなかった材料の課題などが出てきました。課題が出てきたときには、試作を繰り返し、改良に改良を加えることで従来のファスナーと変わらない品質を実現させました。

 

―ホームページに“WORLD-CLASS PERFORMANCE”のプロダクトを、ということが書いてあるのですが、これはどんな製品のことでしょうか?

(森平)私たちYKKは世界中で事業展開していますが、世界の中では日本に住んでいる私たちの想像を超えるような生活シーンがあると考えています。様々なニーズがある中で、確実にお客様の求めているものに応える必要があると思っています。また、日々生活スタイルが新しくなっているので、それに合わせて変わっていく必要があります。

 

―YKKでは「YKKサステナビリティビジョン2050」という目標を発表されていますが、国際的なサステナビリティの目標であるSDGsも2030までです。そこからさらに20年後の未来まで見え据えた目標にしているのはなぜですか?

(広瀬)事業活動を継続するためには目の前の課題解決だけではなく、中期長期の課題を把握しどう解決するか考えていく必要があるので 、「YKKサステナビリティビジョン2050」は2050年までに「気候中立」(climate neutral、実質排出ゼロ)の達成を目標として考えています。この達成のために「気候」「資源」「水」「化学物質」「人権」の5つのテーマのうち、「気候」「資源」でそれぞれ2030年までの目標も合わせて策定しています。このようなサステナビリティの考え方は、YKK精神「善の巡環」と親和性の高い考え方であると捉えています。YKKはこれからもこの視点をもって事業・商品開発に取り組み、ソーシャルグッドな企業を目指して挑戦を続けていきます。

 

―今年はコロナウイルスの影響で生活スタイルが大きく変わったと思うのですが、会社としてどのような変化が生まれていますか?

(広瀬)お客様との関わり方が特に変わりました。今まではお客様に対面でプレゼンなどを行っていたのですが、社員とお客様の在宅勤務が進みオンラインでの商談が主流に変わりつつあるので、オンラインでどのように商品の魅力を伝えるかを常に考えています。例えば、商品画像を3D化して360度で見れるようにしたり、ファスナーの色やスライダーを変える、ガーメントにつけたらどう見えるのかなど、オンラインならではの付加価値を提供できるよう積極的にデジタル化を推進しようとしています。

 

―ここからは取材を受けていただいたお二方について伺います。森平さんがこの業界に入ろうと思ったきっかけは?

(森平)服を作るのが好きで、学生のころは服を作る側の勉強をしていました。その中でファスナーに触れることがあったのですが、小さいけれどファスナーってなかなか重要なパーツなんですよ。ファスナーをつけることで服の機能性が高まったり、種類を変えるだけで服全体の印象が変わったりしたことで、興味を持つようになりました。

 

―仕事をしていてどんなところにやりがいを感じますか?

(森平)YKKは世界の様々な国で展開している会社なので、日本のことだけを知っているだけだと不十分だと思うことが多々あります。私自身一度海外のオフィスで働いていたこともあるのですが、環境や文化、言語も違う国で働くのはとても大変でした。そこに適応していくことにやりがいを感じました。

 

―今後YKKでどんな仕事がしたいですか?

(森平)YKKには「Little Parts. Big Difference.」という言葉があります。ファスナーはとても小さなものですが、色々なところに使われるからこそ、大きな変化を生むことができると思っています。例えば、先ほどご紹介した「NATULON」には、リサイクルペットボトルを原料にしたものがあります。今まで作ったファスナーの量から計算すると約3700万本のペットボトルを再利用しているということが分かりました。このようにひとつひとつは小さくても、積み重なることで大きな変化が生まれるので、小さなファスナーから大きな変化を生むような仕事がしたいです。

 

 (広瀬)「Little Parts. Big Difference.」というYKKのタグラインが私は好きなのですが、私たちのファスニング商品そのものは小さいかも知れませんが、例えば、普段目にするジーンズやジャケット向けのファスナーから、トンネルなどに使用されている水密・気密ファスナー、ロケットの「サーマルカーテン」という部分の接続に使用される耐熱ファスナー・電磁波シールドファスナー、マグロの養殖場などで使われる漁網用ファスナーなど、ファスニングという小さい商品を通じて、色々な分野、また、その先の世界を体感できるということが私たちの仕事の面白さであり、醍醐味だと思っています。

 

―新商品を作る時のアイデアはどのような所から得ているのですか?

(広瀬)お客様の声からヒントを得ています。私たちの商品企画の原点はマーケティングなので、お客様がどんな商品を求めているのか、何に困っているのかを聞きながら、一緒にコンセプトを作りこんでいます。

「Old American(オールドアメリカン)」古くて新しいファスナー

―「デザイン」とは何だと思いますか?

(森平)グッドデザイン賞の他の受賞作などを見ていると評価が「もの」そのものだけでなく、バックグラウンドや考え方などの「こと」にまで広がってきているように感じました。目には見えない「こと」の部分までを含めてデザインなのかな、と個人的には思います。

(広瀬)あとは、最近世の中の人たちは商品だけでなはく、その裏側にあるストーリー性を重視しているように思います。我々の商品を通じて、如何に「顧客体験」を与えられるかが非常に重要になってきています。コロナ禍でその傾向が顕著になってきていると感じています。

ものづくり館 by YKK

―学生のうちにやっておいた方がいいと思うことは何ですか?

(広瀬)学生の皆さんには、自分が理想とする未来に向かっての準備をして欲しいと思います。過去は変えられないですが、未来は変えることができると私は思っています。今思えば学生時代は時間があったなと感じます。その時間のあるうちに、色々な場所を訪れたり、色々な経験をしたり、たくさんの人に出会ったりすることが大事だと思います。会社に入るとどうしても仕事中心の生活になってしまいますが、今はそういう時代ではなくなりつつあるので、学生のうちに色々な世界をみて、会社という看板を外したときに、一個人として何が出来るのか?今のうちに色々と視野を広げておくと良いと思います。 

 

ー就活生へのアドバイスはありますか?

(森平)就職活動をする時には自分の中にいくつか軸を作って、その大切にしたい軸にそって会社を選ぶことになると思いますが、これから就活する際にはその軸の一つに「環境への意識」というのを入れてもらえると嬉しいです。

(広瀬)就職は如何に自分に合った企業に出会えるか。所謂、縁の部分もあると思うのですが、まずはしっかりと自己分析を行い自分のことを知ることが大事だと思います。自分がどういう気質でどんな性格で、どのような場面が苦手なのか、得意なのか、まずは自分を知り、他人を理解することが重要だと思います。仕事は自分一人では出来ないので、周りとの信頼関係や、如何に自分の快な環境を創り出すことができるかが大事だと思っています。私は昨年、約一年をかけて全75ページの「自分の取扱説明書」を完成させました。そこには生まれてから今までの人生の振り返りや会社での出来事など、自分自身を徹底的に洗い出したさまざまな自己分析手法、自分の性格や特性、苦手な場面の対処法、得意なことの伸ばし方、今後の夢などを纏めてあります。自分のことが分かっていると、自分に合っている企業と出会いやすくなると思います。是非学生の皆さんには、自分探しの旅に出て、自分の未来をデザインしてほしいと思います。

―ありがとうございました。

 
森平陽子
22年間奈良県で生まれ育ち、アパレル業界と海外勤務にあこがれ入社。
2013年入社 ファスナー事業部 営業業務グループに配属。2014年には富山県の黒部工場に異動し、ものづくりを間近で感じながら生産管理業務を学ぶ。その後、2016年に海外で生産管理の経験を積むため、YKK台湾社へ1年間トレーニーとして赴任。2017年に帰国後は工場勤務から一転し、商品戦略室にて環境配慮型商品の商品企画を担当。リサイクルファスナー「NATULON(ナチュロン)」の拡販事業や、植物由来ファスナー「GreenRise(グリーンライズ)」の商品企画を担当中。

 

 

広瀬道隆
学生時代12年、会社に入って14年と人生の半分以上を海外で過ごす。
1998年入社 ファスナー事業部 グローバルマーケティングGに配属。その後、2000年にYKK Corporation of Americaに1年間トレーニーとして赴任。2003年よりトルコ社、イタリア社、USA社と通算14年の海外駐在を経て、2017年に日本本社へ帰国。新規立ち上げの事業競争力強化PRJのプロジェクトリーダーを経て、今年度より商品戦略室にて企画を立ち上げた全社横断の取り組みであるデジタルshowroom PRJのプロジェクトリーダーとして、コロナ禍で世界中のお客様と、いつでもどこでも繋がることができるデジタルプラットフォームの構築を目指し推進中。

 


YKK London Showroom:公式 Instagram(@ykklondonshowroom)
         公式HP

ものづくり館 by YKK:公式 Instagram (@ykkmono)
       公式HP

※「YKK」「YKK Little Parts. Big Difference.」「GreenRise」「NATULON」「Old American」は、YKK株式会社の登録商標です。

 

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