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CSV経営って何?/チョコレートブランドDari Kが提案する持続可能なフェアトレードの形と社会問題へのアプローチ

こんにちは、ヒナです。今回はDari Kという京都発のチョコレートブランドのインタビュー記事です。私が、Dari Kを知ったきっかけは、Dari Kの創業者、吉野慶一さんのICUでの講演会でした。これまで劣等として安くで取引されてきたインドネシアのカカオを使って上質なチョコレート作りに挑戦しています。

今回お話をしてくださったのは、足立こころさんです。

 

足立こころ
Dari Kのインドネシア法人KICのディレクター。2017年よりインドネシア、スラウェシ島に駐在し、現地パートナーグループと共に農家の技術指導やカカオの調達を行う。現地では、カカオ農家のお宅にホームステイし、大家族に囲まれての駐在生活を送っている。カカオに限らず、地域と連携したお土産プロジェクトなどを手掛ける。

 

自ら勝ち取るフェアトレードシステム

ーまず、Dari Kとはどんな企業なのか教えてください。

Dari Kは、インドネシアのスラウェシ島で農家さんと一緒にカカオ豆を製造しています。私はインドネシア駐在員なのですが、現地で現地の農家と一緒にカカオ豆の栽培に携わっています。

 

ー私が特徴的だと感じたのは、単なるフェアトレードではなく、高品質なものを高値で買う”自ら勝ち取るフェアトレード”です。それについて詳しく聞かせていただきたいです。

 Dari Kの掲げるフェアトレード(公式サイトのグラフより)

カカオ業界内で品質が悪いとされていたインドネシアのカカオは、品質そのものが悪いのではなく、他の国のカカオがしている「発酵」をしていないため、他の国よりも安価で取引されています。発酵させれば他の国のカカオと品質は変わりません。ガーナやコートジボワールなどの国では、カカオ豆の生産を国の産業として重要視しているため、発酵させていますが、インドネシアではそうではありません。そのため、ちゃんと発酵させれば、世界で言われている「インドネシア産のカカオ豆は品質が悪い」という考えを覆せるのではないかというアイデアから生まれたのがDari Kです。それを実際に手がけた結果、エクアドル、ペルーコロンビアのような他の産地のチョコに負けないレベルの美味しいチョコを作ることができました。

しかし、なぜインドネシアの農家がそのような発酵を行わないのかというと、インドネシア産のカカオ豆が発酵をして品質が改善しても、その価値(努力)を認められる市場ではないことが原因として挙げられます。

カカオは換金作物として扱われるので、カカオの価値は景気などで変化してしまいます。そこで発酵をして他のカカオ生産国と同じクオリティのカカオを作っても、それ相応の価値で取引されません。

 

換金作物:農家が自分の家で食べるためでなく、売って金にすることを目的に生産する作物。(精選版 日本国語大辞)

 

品質の良いものにそれ相応の対価を支払うということは世界中であるべき仕組みだと思います。フェアトレードが必要だから、インドネシアのカカオをフェアトレードで取り入れているというよりは、良い品質のものをそれ相応の価値で取引しているといった方が正しいですね。努力した分、値段が上乗せになっているという感じです。その国が大変だからフェアトレードをしているという形ではなく、価値があるものだからこそ、適正な価格で買っているというのがDari Kの取引の仕組みです。

フェアトレードを勝ち取れなかった農家は?

ーDari Kのフェアトレードは農家自身が勝ち取っていくシステムですが、そのフェアトレードに取り残された農家に対してどのように包括的な支援ができると思いますか?

単純かつ地道になってしまうのですが、日々農家の方々とコミュニケーションを取り続けることだと考えています。なぜ農家の方々が努力(この場合は発酵)できない環境にあるのか、家庭の事情など、細かいところから話を聞き、頑張りたいと思っている人をどのように私たちの事業の中で背中を押して行けるのか、信頼関係を築きながら見つけていくしかないと思っています。「発酵するためのお金をこちらが払う」とか、「発酵の材料をこちらが配る」というようなことで簡単に解決はできません。農家さんたちのライフスタイルに合うタイミングや方法を模索しています。今すぐでなくても一ヶ月後、一年後でもいいから、農家さんたちができると思ったタイミングでお手伝いできるように、私を含めた現地スタッフが農家を巡回し、コミュニケーションを取り続けるようにしています。


ーー農家さんが高品質のカカオを生産できないのにはどんな事例がありますか?

例えば、コミュニケーションを取っていく中で、「先月の雨でカカオの苗木が流されちゃって」と聞くと先に苗木を預けておいてあとでカカオ豆が収穫できた時にディスカウント方式で返済していただくというように、手助けをDari Kの事業の可能な範囲内でしています。本当に地道で、スラウェシ島の農家さん全員にリーチするまで何年かかるかわかりませんが、信頼関係が途絶えてしまうとそのような悩み事も入って来なくなってしまいます。そのため、「今月は無理だけど来月はDari Kの活動に参加したい」という農家さんも、いつかできるようになるようにコミュニケーションを取り続けています。Dari Kは間口を広くしているので、やってみたいと思っている農家さんや、口コミを聞いてやってきた農家さんなどを応援できるような体制を作っています。

カカオ製品の多様化とDari Kの別の側面

ーDari Kではカカオでチョコレート以外の製品も作られていますね、詳しくお聞きしたいです。

「カカオ=チョコレート」に とどまらないという考えはDari K設立当初からありました。様々な商品をカカオから作ってみたいと思い、酒蔵さんと日本酒を作ったり、化粧品メーカーとリップクリームを作ったりしたこともあります。いろんな形でカカオをお客様に楽しんで頂きたいのですがDari Kだけで様々な事業を展開し開発することは大変なので、他社とのコラボも多くしています。Dari Kの価値や魅力が伝わるような商品をDari Kのカカオで作って頂いています。

BOPの活動では、経産省やJICAなどから活動金を頂いて、職業選択におけるカカオ農家の調査などをさせて頂きました。カカオのチョコレート以外の需要を見つけ、新しい商品を作り事業を展開しています。チョコレート屋さんというのはDari Kの一面にすぎません。

BOP:「Base of the Economic Pyramid(経済ピラミッドの底)」の略。主として途上国の低所得者層を対象とし、現地の貧困における諸問題の改善と利益確保の両立を目指す事業活動のこと。

 

人と人とをつなぐスタディツアー

ーまた、カカオ生産者とそのカカオから作られたチョコレートの消費者を繋げる活動もされていますが、そのきっかけを教えてください。

インドネシアのカカオ農家さん自身やその子ども達は多くの場合、チョコレートは専用の機械がなければ簡単に作れないため、自分たちが手がけているカカオ豆で作られたチョコレートの味を知りません。カカオの生産は国の一大産業になっていて自分の家族が関わっているのに、それが何につながっているのか農家さんもその家族や子供も知りません。そこで、実際に自分たちが生産するカカオで作ったチョコレートはどんなものでどんな味がするのか、どれほど期待されているかを知る必要があると感じました。

カカオ豆の生産者とそのカカオでできた消費者を直接繋ぐことが、お客様のDari Kのチョコレートが好きだという気持ちと、それをカカオ農家の方に伝えることの実現に繋がるのではないかと考え、始まったのがDari Kのスタディツアーです。Dari Kが主催するスタディツアーの一環で、日本からのツアー参加者はカカオを買い取っている地域の小学校に行き、農家の子供たちと一緒にチョコレート作りを体験します。海外の人々が賞賛し、農園にいくためにインドネシアまで訪れるくらい素晴らしいチョコレートを自分たちの家族が手がけていることを見て、カカオ農家の世界からの評価をわかってもらおうと思っています。

 


ーDari Kの活動をより多くの人に知ってもらうためにしていることあれば教えてください

「直接つなぐ」ということは意識しています。もちろん、チョコレートの品質の良さを語る場面も多くありますが、それよりも誰がどうやって作っているのかというところが安心に繋がり、日本のオーガニックやフェアトレードを見守る人たちの視点なのかなと思っています。そのため、こういう規格でやっていますということを情報としてお伝えします。しかしそれだと、感情や思いまで伝えることは難しいです。そのため、Dari Kのチョコレートを好きでいてくれるお客様だけでなく、これからDari Kと一緒に製品を手がける予定の企業様、長年Dari Kのコンセプトに共感してくださっている人々を様々な形で現地にお連れして、実際にカカオ農園がどんなものか感じてもらう機会作りをしています。

もちろんDari Kは会社なのでビジネスとしてやっていますが、そこで、ビジネスにならないことを切り捨てるような会社ではありません。人の気持ちと、それを届けて売って会社として存続していくという両輪がDari Kの存在意義でもあり、Dari Kの作りたい未来でもあると思っています。また、その共感をもっと増やしていく必要があると思っています。

 

 

ーフェアトレードを広めるためにしていることを教えてください。

自分たちがフェアトレードをやっているという意識はあまりなく、結果的にそれが一般的にフェアトレードと言われている仕組みに合致しているという感じです。そのため、「フェアトレード」を強調するつもりはあまりありません。他のフェアトレードと何が違うのかという点では、質が違うということで戦えるメーカーに私たちもなる必要があると思います。また、それによって単なるフェアトレードだけでなく、フェアトレードでありながらも品質の高いものを販売しているということを会社の裏付けとしてある必要もあります。そのため、フェアトレードじゃないところに比べて品質が劣るとかそういうことが無いように味の面でもより美味しいチョコレートを手がける努力をしています。

 

ーSCRからCSVにという言葉をDari Kの創業者である吉野様のブログで見つけました。今日、CSRやCSVに取り組む企業はたくさんあります。もちろん、そのような会社に敬意を払っていますが、会社の利益の一部をSCRなどに使っているケースや、会社の利益のほんの一部がCSVによるものだというケースがほとんどが多いように感じます。他の企業がSCVで利益を出すのに苦戦している反面、Dari Kでは利益のほとんどがCSVによるものです。CSVによるビジネスの成功の秘訣を教えてください。

CSR:Corporate Social Responsibility(企業の社会的責任)の略。企業が自社の利益のみを追求するだけではなく、すべてのステークホルダー(消費者や投資家に加え社会全体などの利害関係者)を視野に経済・環境・社会など幅広い分野での社会全体のニーズの変化をとらえ、それらをいち早く価値創造や市場創造に結び付けることによって、企業の競争力強化や持続的発展とともに経済全体の活性化やより良い社会づくりを目指す自発的な取り組み。参考

 

CSV:Creating Shared Value(共通価値の創造)の略。企業における経済的な価値創出だけでなく、社会と共有の価値を創造していくことが⽬指される。CSV は社会価値をも生み出すために様々な活動を⾃らが積極的に起こし、協業していく価値創造の実践が基本。参考

 

個人的な意見になるのですが、CSVやCSRを手がけていく中で、会社として利益を出しつつ、事業を続けることって、意外と難しいことではないと思います。CSVは自社のビジネスの利益をあげる根幹ではなく、それが実現しようが実現しまいがそのような企業は存続に響かないため、CSVに対して本気ではないのかなというように感じます。

一方ではDari KはCSVがうまくいかなかった場合、会社の経営自体が傾き、存続の危機になってしまいます。そこに関してはかなりシビアに考えています。私自身は、私たちDari Kがやっていることは私たちにしかできないことだとは思っていなくて、他の企業はCSVだけでビジネスをする余裕がないほどの既存のビジネスに忙しいんだろうなと感じます。

CSVだけで会社を成り立たせていることで、他の会社に対して自分たちが証明できることはまだまだあるのかのなという風に感じます。また、他の会社とDari Kがコラボすることで、その会社のCSVの部分を担うとか、Dari Kを応援していることがCSRに繋がっていると言えるくらいまでビジネスとして成功できればなと思っています。

 

ーありがとうございました。

 

ガクセイ基地では他にもCSV経営をしている企業を取材しているのでぜひチェックしてみてください。
「地域×大学生」で活発な街を作る!北海道小樽市の学生ベンチャー「PoRtaru

 

編集後記
私はフェアトレードという概念が当たり前にあるべきで、全ての企業がそうあるべきであると思っています。どういうことかと言うと、例えば、ある企業が「うちではフェアトレードラインの服もあります」と言うと、一見この会社はエシカルなように見えます。しかし、「もあります」という書き方だと、実際には、そのフェアトレードラインの服以外は全部アンフェアトレードなのかもしれません。
現代の多くの人々は「安さ」に価値を見出しすぎているように感じます。2000円のワンピースと聞くと一見魅力的に感じますが、そのバックグラウンドにはどのような現実があるのかなと考えてしまいます。フェアトレードの商品って、そうじゃないもの(あえてここではアンフェアトレードって呼びますね)に比べて比較的値段が高く、それが原因で多くの人々は、より安いアンフェアトレードの商品を選択しましす。個人的な意見ですが、フェアトレードとして売られている物の価格がその物本来の適正価格であり、普段私たちがよく目にするアンフェアトレードの物が、不平等で不適切な価格だと思います。安いものは手に入りやすく、魅力的にも感じられますが、誰かの不幸から得るその「安さ」に少なくとも私は魅力を感じません。どれくらいの人々がどのくらい物のバックグラウンドを考えて購買活動をしているのか私は知らないし、もちろん自分自身も勉強不足だと思っています。しかし、少しでも多くの人が少しずつでいいいから小さな意識を消費活動に反映させていけば、世界をより良い物にできると思います。Dari Kさんが掲げる「より良いものを高値で取引する」ことが、「わざわざ賞賛するようなことではなく、当たり前のこと」になる時が早く来ればいいのにって考えてしまいます。
公正な取引によって私たちの手元に届いたものは、なんとなく心があったかくなるし大切なものになります。Dari Kさんのお話を聞いた時、私はそのチョコレートを食べたことがありませんが、食べてみたいと思ったし、たくさんの人の大切な考えや思いがこもっていると感じました。

 

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