ーなぜアトリエ系設計事務所(独立)を選択したのですか?
学生の時、大学院のリサーチ課題で銀座と新宿の占い師さんのスペースの特徴をテーマにして仲間と調べたことがあるんです。その際、自分たちも体験しようということで銀座の道端で将来をみてもらったんですが「あなたは20代は居場所が決まらないけど、30代でいいところが見つかって、40代は 万々歳だ。」と言われて「そうか、じゃあ20代は好きなことろに行けばいいのか」って(笑)。あと言われたのは「上司は少ないほうがいい」と。なので「じゃあやっぱり大企業やめとくか」ってなりました。
でも竹中工務店だけは興味がありました。赤坂喜顕(アカサカヨシアキ)さんの手がけた建物に魅せられて面接を受けたのですが、見事落ちまして(笑)。これはもう「好きなところに行きなさい」というお告げだなと。
大学院を修了してから、まず一級建築士を取ろうと思って就職しないで2年半の間、試験勉強をしながら色んな設計事務所の手伝いをしたり、コンペを外注で受けたり、日雇いのバイトをしたり、建築ワークショップに参加したり、とにかくその時思いついた好きなことをやりました。
25歳のときに一級建築士を取得したんですが、その時は建築だけじゃなくて、土木もすごく好きだったんですね。
内藤廣(ナイトウヒロシ)先生と土木の篠原修(シノハラオサム)先生が開いているグラウンドスケープデザイン・ワークショップに参加したのが大きかったと思います。40人ぐらいの学生が10チームに分かれて、この学生って建築、土木、都市計画、インダストリアルデザインなど分野の違う若者なんですけれど、1週間を通して、1つの課題に挑戦したんです。それに参加して、建築の枠を超えて土木デザインやインダストリアルデザインも好きになっていきました。
その頃、そろそろ腰を据えて実務を身につけたいと思っていたんですが、一方で「建築のアプローチを使ってさらに幅広いものをデザインできる人間になりたいな」と思っていました。そんなとき岡部憲明(オカベノリアキ)さんという橋や電車の設計などもやっている建築家の方にたどりついたんです。
それからは、まず岡部さんに直接会う機会を探して、グッドデザイン賞の会場でロマンスカーVSEの公開審査があるのを見つけました。このプレゼンテーションをみてさらに「岡部さんだ」と確信が深まり、その場で声をかけて、「ポートフォリオ見てもらいたいんです」とお願いしました。快くオッケーいただいたので、すぐポートフォリオを送って、電話して、アポを取って、会いに行って。ラッキーなことに働かせてもらうことができました。
ーなぜ30歳の時にベトナムを選択したのですか?
岡部さんのところで5年ほど経験でき、その間にマレーシアのプロジェクトを担当しました。1年現場に滞在したのですが「東南アジアで建築やるのはダイナミックで面白いな」と。そんなとき、石川高専時代から親しかった友人で、ベトナム人建築家のヴォ・チョン・ギア氏に彼の建築設計事務所のパートナーとして誘われたのがきっかけです。
ちょうど子供が産まれるのもわかった頃で、その子が小学校に入るまでにチャレンジしたいと妻に話しました。具体的には30代のうちにできるだけ「たくさんのプロジェクトを通して経験を増やしたい」と思ったんです。岡部さんのところでは、とても面白いプロジェクトに関らせていただいたんですけどけど。プロジェクト自体が大きいので、たくさん関わることができなかった。大きいと1つプロジェクトが終わるのにも2、3年普通にかかりますから。幸いなことに一通り、木造、鉄骨造、RC造に建物に関わらせてもらって、いろんな素晴らしいエンジニアの方とも協働できて、他では得難い勉強をさせていただきました。
30代では、このいただいた基礎で自分の方向性を見つけていきたいと思いました。それで一番たくさん数にかかわれるのはどこかなって考えた時に、これからさらに発展するであろうベトナムだと思ったんです。
設計:VTN Architects (Vo Trong Nghia + 丹羽隆志+岩元真明)
靴工場で働くワーカーの子どもたち500人のための幼稚園。リング状の屋上庭園は子どもたちの活動を最大化しながら、菜園として使われ農業の学びをもたらす場となっている。
写真クレジット:Gremsy
写真クレジット:大木宏行
写真クレジット:Quang Tran
ーベトナムで、建築設計事務所を運営するにあたって、どのような魅力がありますか?
ベトナムは文化的にとても豊かな国だと思うんです。ご飯は美味しいし、ベトナム語は難しいけど魅力的な言葉だし、ベトナムの人は最初は距離があるけど、仲良くなると結構ディープに付き合ってくれる。ベトナムって歴史的にも、多くの戦争を乗り越えてきた、誇りというか自国愛があります。このベトナム人の持つ一体感も好きです。だから、基礎文化はとてもリッチだと思うんですよ。その中で育って来た人達の感性はとても豊かです。
ただ、建築文化はまだこれからだっていうところがあって。いま経済発展によってベトナムはものすごい勢いで建物が必要なんだけど、クライアントも建築家もみな若くて経験がないから、どうしようもない建物がいっぱいできてしまう。
そんな中で、僕みたいな外国からきた建築家のできることって、ベトナムの仲間たちがなにか気づきの得られる、アイデアの種になるような建築を作ることだと思うんです。
また自分の貴重な人生を使ったプロジェクトの価値が、一番最大化されるのはどこかって思った時に、やっぱり建築文化が今つくられているところだろうなと思っています。
基礎文化は豊かで、発展のポテンシャルの高い場所で、いいものを1つでも作れば、それは即座にみんながシェアしてくれて、全体のレベルアップにつながる。ひとつひとつのチャレンジに広がりがあるということが非常にやりがいがあって、魅力を感じます。
設計:VTN Architects + 丹羽隆志
建物の前に立つ、一本の大きな街路樹をデザインの一部として捉えて設計に取り組んだ照明ショールーム兼ギャラリー。建物はベトナムの伝統的な建築製品である有孔テラコッタ・ブロックを垂直に積み上げ、光と風を透過するスキンをもつ単純で抽象的なヴォリュームとしている。
写真クレジット:Trieu Chien
写真クレジット:大木宏行
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