グローバル化が進んでいる中、海外を拠点に活動している日本人も年々増えています。
今回はベトナム・ハノイで建築設計事務所を運営している日本人建築家の丹羽隆志(ニワタカシ)さんにお話を伺いました!
2003年 東京都立大学大学院修了(深尾精一構法研究室)
2005年 岡部憲明アーキテクチャーネットワーク勤務
2010年 Vo Trong Nghia Architects (VTN Architects) パートナー
2018年 Takashi Niwa Architects設立
ー本日はよろしくお願いします!Takashi Niwa Architectsでは、どのような担当や役割があるか教えてください。
現在はベトナム人のアーキテクトが4人、アシスタントが1人、フランスから2人、インドから2人のインターンシップの学生がいます。僕も含めて10人ですね。アーキテクトのうち2人は経験があるので、その2人がリーダーとして4人のチームを各自引っ張ってプロジェクトを進めることが多いです。ゆくゆくは、スタッフ10人、インターン5人、計15人ぐらいにしたいですね。そうすると5人1チームで3チームができるから、小さいものから大きいものまでフレキシブルに仕事ができる。
ー4人で1チームということは丹羽さんは各チームに含まれないということですか?
そうですね。基本的には担当者1人責任を持ってもらって、その下にチームを作って、僕は一緒に打ち合わせをするという感じです。どうしても、デリケートなラインとかは僕が書きますけど、自分で全部やる必要がないところはチームに任せています。
ー設計はチームの担当者が最初に取り組むのですか?
いえ、プロジェクトによって色んな始め方がありますね。敷地を見に行った時に、僕がこういう風にしたいと思って簡単なスケッチを描いて始めることもあるし、フラットなところから、みんなでアイデアを出し合って社内コンペで始めることもあります。個人的にはアイデアを出し合ってやるのが僕もみんなも勉強になるし、いいんですけど、忙しいこともあるので、進め方はプロジェクトの性質やチームの状況によってフレキシブルにしています。
ーTakashi Niwa Architectsではどのようなものを設計していますか?
現在プロジェクトとして動いているのは、ホーチミン市でラーメン「一風堂」のベトナム1号店が3月のグランドオープンに向けて調整中です。設計ではフィリピンで四つ星ホテルが進んでいて、今は確認申請中です。あとは中部のフエでアーティストの住宅の改築の設計も進めています。アフリカの学校のコンペにもチャレンジしています。
設計:Takashi Niwa Architects
フィリピン南東の太平洋に面するシャルガオ島のサーフスポットに臨むこの4つ星ホテルは70室の部屋をすべて上階に配置することで地上は公共スペースとして地域住民をふくむ一般ゲストに開放している。
多くのコミュニケーションを誘発するために、一対の弓状の建物を道路側はゲストを迎えるように、海側は景色に開くように配置し、さらに既存のゆるやかな崖地形を活かして階段状の滞在場所を設けている。
ーコンペにも参加しているのですね。
はい。事務所はまだ立ち上げたばかりで、動いているプロジェクトの数も多くないので、自分たちのスキルアップというか、アイデアをストックするためにコンペに参加しています。去年は3つコンペに出してまだ2つは結果待ちですね。今年も3ヶ月に一つぐらいコンペに出そうかなと思っています。
ー設計する際は何を大事にしていますか?
私たちのモットーは「the best of environment and culture」です。なぜこれにしたかと言うと、設計のアプローチとして環境(environment)または文化(culture)のどちらかに寄ってしまうのではなく、掛け合わせることでユニークでベストな解を常に目指していきたいからです。
environmentに対応するインプットとしてはその場所をよく見て、そしてその場所に一番適したものを作ること。直感的な環境の「快適さ」を作り出すのは当たり前ですが、しっかり数字的にもフォローアップしていきたいなと。
ー数字的に……とはどういうことですか?
シミュレーションや実測などで得られる数値を通してスタディや結果を「見える化」することです。例えばCO2エミッションがこのぐらいだという数字が出ると、それは高いまたは低いという風に客観的に評価できるようになります。このフィードバックができると次のプロジェクトにも具体的な目標ができます。僕はベトナムで緑を使うのはとてもいいことだと思っているのですが、緑を建物に使って、それで「とっても気持ちのいい空間ですよね」、「環境にもいいのですよ」と言葉だけで終わらせるのではなく、具体的に数値にまで落として、評価して発展させることがこれからのベトナムの建築には大事だと思っています。
cultureからのインプットはもっといろんな要素を含みます。歴史文化、その場所が持つ地域文化、食の文化、クライアントの持つ文化など。さらには建物の機能からの文化、例えば学校だったら学び方という活動の文化も含まれます。それらの文化を理解して形として落とし込み、それを環境と掛け合わせて成立する素敵な空間を作っていきたいですね。
ークライアントへのプレゼンテーションはどのように行われていますか?
プレゼンテーションは英語で行いますね。基本的に会社でも英語を基本言語にしています。
ープレゼンテーションではどのような媒体を使うことが多いですか?
ベトナムだとCGは必須ですね。イメージがシェアしやすいので一番わかってもらいやすいです。
ー模型ではないのですか?
模型はもちろん自分たちのスタディ用に作りますし、プレゼンテーションでもすごく興味を持ってもらえます。ですが、やはり模型に見慣れていないこともあるので、CGの方が伝わりやすいように感じます。
ーやはり日本人でないクライアントだとミスコミュニケーションが生じやすいのではないでしょうか?
ベトナムでの設計は一進一退というか、日本のように積み上げて設計していく感じではないのです。進めていく中で、新しい機能に変更されたり、追加されたり、サイズが変わったり、、、などが頻繁に起こるので、フレキシブルに対応できるように心がけています。最初はびっくりしましたけど、3年ぐらい経ったら慣れました(笑)。ベトナムでの依頼って、あまり決まってない状態で来ることが多いんです。土地は決まってるけど、、、いや、土地も変わることもあるかな(笑)。
ーえ!?
「隣買いました」とか、よくあるんですよ(笑)。土地が決まっていて、ざっくりとした機能、例えば商業施設やホテルを作りたいとかは決まっている。まあ、そこまで決まってないと契約できないので、当たり前なのですが、そこから先の具体的に何部屋欲しいとか、どんな部屋が必要だとか、そういうことは全く決まっていないことが多くて。なのでプログラムの提案からやる必要があります。最初はそれも難しいと感じていたのですが、今となっては逆にその方がやりやすいし、楽しいです。
ー日本でのプロジェクトの進め方とはちょっと変わってくるのですね?
そうですね。機能的なデザインをはじめる前に、どんな空間、建物を作りたいかっていうところから提案できます。
ー言語の壁はどのように乗り越えていますか?
みんなある程度英語ができるのでなんとかなってます(笑)。英語が話せないクライアントも多いですけど、その時はスタッフに通訳してもらって、コミュニケーションをとりますね。とは言っても、僕らの仕事はビジュアルで伝わるところが大きいので、CG、模型、図面などからも意図が伝わります。だから、コミュニケーションができないから、とても困りましたっていうのは、そこまでないですね。
ー現場での対応とかはどうなされているのですか?
現場での対応は最低限(ベトナム語で)数字が話せて、スケッチができれば、なんとかなりますね。あとはパッション次第です。
ー設計の際はどのようなことを大切にしていますか?
自分の設計したものを通して、人やその場所が、どういう風に変わるかを一番大事にしています。BeforeとAfterの違いをどれだけ大きくできるかっていうことも考えますね。特に、一番基本になっているのは「自分が使いたいと思うか」ですね。
ークライアントの立場に立ってみるということですか?
そうです。自分がどれだけその場所を体験したいか。自分がその場所を気持ちいと思うか。結局自分の視線からいいものだと感じないとクライアントやユーザーの方たちに喜んでもらえないと思いますね。
ー「外国人」として働く時に気をつけていることはありますか?
やはり、ずっとベトナムに住んでいて、ずっとここの文化の視点しかないと、いいものを見落としたりすると思うんです。
ーベトナムの現地の方がですか?
そうです。なので外国人の僕の目から見て「こういうベトナムの良さは残した方がいい」と思ったものは積極的に提案するようにしていますね。
現に、Pizza 4P‘s Phan Ke Binhというピザレストランを設計したのですが、スクリーンに鉄の鋳物を使いました。その鋳物はベトナム市場によくある製品で、普段はピンポイントでドアや庭の柵のフェンスなどに使われているのですが、すごく綺麗なのでもっと大々的に使ってもいいと考えていました。ピザというとイタリア料理なんですけど、お店のオーナーは日本の方で、でもベトナムで、ベトナムの人が、ベトナムで使うこの建物にどうそれぞれの文化をフュージョンさせるかと思ったときにやはり素材に辿り着いたのです。ローカルな素材だけど、新しい使い方で、ある意味「新しいけど、懐かしい」みたい空間を作るのが一番快適に、でもスペシャルな時間をベトナムの方たちに楽しんでもらえるのではないかと考えました。
設計:Takashi Niwa Architects
家族で集まり、食事と時間をシェアすることによって幸せを分かち合う。その場所を提供しうるピザレストランをハノイにつくるにあたり、一対のピザオーブンの調理風景と周囲の庭を様々な角度から楽しめる関係性を作り出したいと考えた。そこで既存の躯体にオーバル状のレンガ壁と鋳物によるスクリーンを挿入し、ランドスケープと密に呼応する場所を目指した。
写真クレジット:Tam Do Huu
写真クレジット:Hoang Le
写真クレジット:Tam Do Huu
ーローカルな素材を使うことはPizza 4P’s Phan Ke Binhに限らず、ほかのプロジェクトでもそうなのですか?
そうですね。ベトナムだと、ローカルな素材が一番安くて、クオリティがいいんです。工業系の素材は高いし、クオリティも、5年後、10年後どうなるかわからないものばかりなので、だったら古くからある素材を選んで使うのが、構法的にも信頼できる。その上、10年後、20年後、素材がどう変化するのかは周りにたくさん参考があるので、エイジングの予測がしやすいんですよね。
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