グローバル化が進んでいる中、海外を拠点に活動している日本人も年々増えています。
今回はベトナム・ハノイで建築設計事務所を運営している日本人建築家の竹森紘臣(タケモリヒロオミ)さんにお話を伺いました!
1977年静岡県静岡市生まれ
2001年関西大学大学院都市計画学専攻修士課程修了
2003年WORKLOUNGE03- を共同設立
2011年拠点をベトナムのハノイ市に移し、WORKLOUNGE03-Vietnam co.,Itd. 設立
−よろしくお願いします。WORKLOUNGE03-はベトナムを拠点にしている建築設計事務所ですが、スタッフはみんな日本人の方なのでしょうか?
いえ、日本人は私だけででして、オーストラリア人のパートナーがいます。その他は5人のベトナム人スタッフがいて、計7人で事務所を運営しています。
−パートナーということはWORKLOUNGE03-は竹森さん代表ではないというですか?
いえ、僕が代表です。パートナーというのはコーファウンダー、共同出資者を意味します。僕がディレクター兼プリンシパルアーキテクトで、最終的な決定権がある建築家ですが、いろんなプロジェクトを進めていく中で、ある程度責任がある立場、物事を決められる立場をパートナーといいます。
−WORKLOUNGE03-ではどのようなものを設計していますか?
住宅、学校、ホテル、レストラン、珍しいものだとアートギャラリー、あとチャリティープロジェクトとして麻薬中毒者の厚生施設や障害のある子供たちのための施設なども設計していますね。
−「チャリティー」ということは設計費をいただかないということですか?
そうですね、もらってないですね。せっかくこの国にお世話になっているので建築家だからこそこの国のために出来ることは今後もやっていきたいと思っています。
−案件にもよると思いますが、設計するときは何から発想を得ていますか?
うちの会社のロゴにも入っていますが「リサーチ&デザイン」を会社の特徴にしています。基本的に敷地の状況、ベトナムの現在の社会的状況なども含めてプロジェクトに関するあらゆることを調べてから、解決すべき問題を抽出してそれを解決するような建築を設計する。建築だけでは手に負えない場合は運営者と話しあったり、別のプロフェッショナルな人たちと協働したりして解決することもあります。
−設計前のリサーチがアイデアに大きく繋がるということですか?
そうです。特にや敷地の調査は非常に重要だと思っていて、それは単純に気候の問題でもあるし、文化や習慣の問題とかもあります。
−文化や習慣というとどのようなものが挙げられますか?
例えば日本人ではあまり好まれていないけど、ベトナムでは玄関に入ってすぐリビングがあるのが普通なんです。本当に好きでそうやっているかというと、どちらかといえば昔からの習慣や家の建て方が残っていて、今もそう続いているという感じです。ただそれにすごく慣れていて、そうすると僕が日本人だからといって日本的なものを提供しても受け入れられないことが多いんです。こちらはプロフェッショナルとして、いろんな国や地域の建築を見ているので、「このような案もあるよ」という提案もしつつ、相手の要望や文化尊重するようにしてます。そうしないと建物として長く、その場所に残らないというのもありますね。
写真:大木宏之
−リサーチ自体はどうやって行われているのですか?
まずは敷地のこと自体をよく調べます。例えばどんな木が生えているか、年間を通してどんな気候であるかなどといった統計を調べます。文化的なものについては、その敷地だけでなく例えばベトナムの敷地であればベトナム全体、北部と南部で文化違ったりするのでそれも調べたりします。あとはものすごく広い範囲ではありませんが、近くの人に聞き込み調査もします。「ステップハウス」と言う別荘を設計したんですが、あれは木の構造を屋根に使っているんです。最初は木に限定していなかったんですが、周りの人に話を聞いたら敷地の近くに大工さんがいるけど、最近は木造で家を建てることが少なくなっていて、技術や伝統が伝わらなくなってきたと聞いたんです。僕自身、日本で木造の住宅の設計をたくさんしてきたので、じゃあちょっと一緒にやってみようかってなって、屋根の部分だけ木造でトライしてみたんです。結果的に周りに新しくできた建物も真似して木造でつくられたもの出てきて(笑)。
−伝統も守ろうとしたのですか?
伝統を守ろうとしている事とはちょっと違うんですけど、簡単に捨てないようにしています。便利なものがたくさん発明されていくのはいいことだけど、安易に昔のものを捨ててもいいかというとそうでもないと思う。あの屋根の形で庇になるようなものがちゃんと出せるのは木造だとか、そういった要素もあるから何事もしっかり吟味して、現代と昔からある技術を幅広く適切なときに使っていきたいですね。
−ベトナム人がクライアントの場合、プレゼンテーションはどのように行われていますか?日本の方の時と違いはあるのでしょうか?
プレゼンテーション自体はあまり変わらないですが、言語の問題はあるのでクライアントが英語を話せる場合は僕が英語で行いますし、クライアントが英語で話せない場合には僕が英語で話してスタッフにベトナム語に訳してもらったりもしていました。けど今はスタッフも育ってきて僕のプレゼンを何回も聞いているので、事前にスタッフと打ち合わせをしておいて、プレゼン本番はスタッフに話してもらうことも多くなっています。僕はベトナム語は話せませんが、以前より少し耳が慣れてきて、聞き取ることができるようになってきたので、「それ違う」「言ってることが途中でちょっと変わってきた」などと指摘したり、クライアントの質問に対しては僕がベトナム語を聞いてそのまま英語で答えることができるようになってきましたね。
−プレゼンテーションではアイデアを伝えるためにどんなものを使いますか?
模型は必須ですね。CGパースなどもスクリーンに映して、プレゼンします。ですが、やはり模型の方が効果的です。模型は本当の立体ですし、手で触れられるし、CGよりその設計の中に入れるんですね。模型は建築そのものを小さくするというスケールの操作だけなのに比べて、CGは紙や画面に出てきた時点では平面的な絵なので、すごく想像力を働かせないと本当の空間がわからない。絵が綺麗っていうのはすごく重要で、クライアントも喜ぶんですけど、それを見て本当に理解できているかというとそうでもなく、実際に建物が出来上がるときに「あ、こういうことだったんだ」と言われたりもします(笑)。でもそれは仕方ないんですよね、CGは視界に見えている部分が映されているだけで、後ろがどう見えているか、天井がどんなに高いかはCGでは分かりづらいことが多いです。その辺は空間全体が見える模型と大きく違いますね。
−言語の壁はどうやって乗り越えていますか?
言葉の問題はもちろんありますけど、日本人と日本語で話していても実は通じてないっていうこともありまして。
−そうなんですか!?
そうなんです。言葉ってさっきのCGと同じで、ある側面でしか伝えられてないんですよね。全体を話すのっていうのはすごく難しくて、もちろん話すのが上手な人もいるけど、理解する側の問題もあるから同じ国の人でも完全に理解しているかわからない。逆に英語が苦手なベトナム人のスタッフがいるんですが、彼とは理解しあえる。それはおそらく、見ている方向というか、考えていることがもともと似ているからだと思うんですよね。
要するに、言語の壁を越えるよりも、文化の壁とや視点の壁を越える方が難しいんです。だから日本語で一生懸命説明してもわからない人はずっとわからないですし、よくわからない英語でお互い話していても「あーわかった」「あーそうそう」みたいなこともよくある。僕はそういう意味であまり言葉の壁を気にしていないです。もちろん日本語同士だったら便利は便利でしょうけど、いろんな言葉をしゃべったり聞いたりしていると、1つのものがいろんな方向から見えたり、表現の仕方が変わったりして面白いこともあります。こうやって新しい発見もあるので「多言語」であることはクリエイティブなことにもつながると思っています。
−なぜ海外、そしてベトナムを選択したのですか?
ベトナムに来る前は東京で事務所を構えていて、中国など海外のプロジェクトもやっていたんです。その後にベトナムでの大きなプロジェクトに誘われて2011年の10月に初めてベトナムに来ました。ちょうど東日本大震災があった年です。震災であんなにも建物があっけなく壊されてしまうのを見て「建築家って何ができるか」を考えた時期でもありました。日本だけに留まらず世の中の困っている人も建築を通して何ができるだろうかという思いで海外に旅立ちました。
−ベトナムと日本で働いて気づいた違いなどはありますか?
ベトナム人はあまり徹底的に詰めないというか、よくいうと「おおらか」で悪く言うと「ゆるい」ですね。それは現場も含め一環として言えます。でもそれは逆に、日本人はなにもかも追い込みすぎていたということも分かったので、僕たちはその中間を目指そうと思っています。
−現場でのそのおおらかさ、ゆるさが設計の邪魔になることはありますか?
もちろん多少のずれにも対応できるゆとりのある設計にはなりますが、それが「最終的にいい空間をつくれない」という言い訳になるとは思っていません。例えば世界で最初に作られたインフィニティプールはスリランカで設計されましたが、スリランカの現場が完璧かというとそうでないです。そのゆるさがあるからこそ、日本では絶対やらないような設計もできますしね。
−学生の頃やってよかった、やればよかったことはありますか?
インターンはやってよかったです。僕は遠藤秀平さんという関西の建築家のところでお世話になっていましたが、彼の元で人としても、建築家としても学べたことが多かった。
やればよかったこととしては、海外に行くことかな。大学生の時、香港でのインターンの話もありましたがお金もないという理由で結局行かなかったんです。でも正直行こうと思えば、お金もなんとかなっただろうし、ただ単に勇気がなかったんだと思います。
−かっこいい大人とはどんな人だと思いますか?そういう人になるために何か意識していますか?(ガクセイ基地取材共通質問)
うーん…今までは目の前の目標をクリアするのにいっぱいいっぱいで、かっこいいと思える大人とか考えたことはなかったのです。最近になって何か理想像や目標を持とうと思い始めたところです。やっと「自分がなにができるのか」とか自分のことを理解し始めるようになったから、今後は理想像や目標に向かって自分を磨きたいと思っています。
−最後に大学生向けにメッセージをお願いします。
やりたいと思ったら片っ端からやればいいと思います。先程の香港での話もそうですが、興味は持っていたのに行かない・行けない理由を無理に作らないで、素直にやりたいことを学生のうちからやって欲しいですね。僕自身、もしあの香港でのインターンに行っていたら、いろんな意味で今とはまた違った人生を歩んでいたのかもしれないし。
−なるほど、本日はありがとうございました!
WORKLOUNGE 03- VIETNAM co.,ltd
ベトナムに拠点をおく建築設計事務所です。
Architecture office based in Hanoi
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We are considering technology of architecture, culture at the site and Environment over the world.
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