グローバル化が進んでいる中、海外を拠点に活動している日本人も年々増えています。
今回はベトナム・ホーチミンで建築設計事務所を運営している日本人建築家の西島光輔(ニシジマコウスケ)さんにお話を伺いました!
2007年 東京大学工学部建築学科卒業
2007年 リスボン工科大学在学
2011年 東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修士課程修了
2011年 中山英之建築事務所勤務
2012年 Vo Trong Nghia Architects勤務
2016年 Inrestudio 設立
−本日はよろしくお願いします。西島さんがディレクターを務めるInrestudioはベトナムを拠点にしている建築設計事務所ですが、スタッフはどのような方がいますか?
Inrestudioでは現在ベトナム人のスタッフが4人と、ベトナム国内外からのインターンシップの学生が数人います。
−Inrestudioではどのようなものを設計してきましたか?
事務所を設立して3年が経つのですが、最初の1年目はベトナムに在住している日本人がオーナーの建物を設計していました。具体的にはレストラン、カフェ、ユースホステルなどいわゆるコマーシャル系です。日本だと、事務所立ち上げ初期は、しばらく住宅設計の仕事が多かったりすると思うのですが、うちの場合は偶然にも住宅の依頼が今の所まだなくて(笑)。とはいえ、特定の建物しか仕事を受けないということはなく、日本のアトリエ系設計事務所とスタンスは同じです。
写真:大木宏之
−設計の際はどのようなことを大切にしていますか?
自分の作品がどういう風にベトナム社会にインパクトを与えるかを意識して設計しています。
ベトナムっていわゆる「発展途上国」です。発展途上国っていうのは色々ない社会で、裏返すと色々ありうる社会。これから様々のことが起こり、それぞれに可能性がある。
僕はそのベトナムで「外国人」としてで働いているわけです。
「外国人」としての役割と言えるのは、社会の可能性を「横から」見せることだと思うんです。
ベトナムの文化を理解し、尊重することももちろん大事です。しかし、新しいデザインを提案しようとする姿勢の中では、自分をどこまでコンテクストから切り離せるか、ということも忘れてはいけません。外国人としての「他者性」は常に大切にしていきたいと思っています。片足はベトナムの外に置き去りにしつつ、片足はベトナムに突っ込みながら、どこまで大股で歩めるのかな、という感じです。
写真:大木宏之
−Inrestudioでのプロジェクトの進め方を教えてください。
クライアントへのヒアリングから敷地調査、リサーチという準備段階を経て、担当スタッフと打ち合わせをしながら案をまとめていきます。所内で、コンセプトを共有する際には、模型やCGも重要ですが、わかりやすいキーワードをいくつか設定することを大事にしています。言葉のほうがビジュアルよりも情報量が少ない分、共有がしやすく、その後のイマジネーションの伸び代が深いため、言葉の壁はありますが「言語化」作業は重視しています。
-案件にもよると思いますが、設計するときは何から発想を得ていますか?
「社会的にどういう意義を持たせるか」ということを主軸に設計しているのでまずそのプログラム自体をきちんと理解してからアイデアを考えます。
プログラムっていうのは機能。例えば、美術館、マンション、カフェなど。
建物自体の機能を理解して、そこからロジカルに、物事を組み立てていきながら設計をしているので、何か突拍子も無いところから始めるというよりはわりと地道にスタディを重ねながら作業を進めていますね。
ただ日本とは全く違うカルチャーの中で活動しているわけなので、べトナムの生活や文化から得られるインスピレーションは大切にしています。
具体的な話だと、ベトナム、特にホーチミンというのは、熱帯性気候で冬がないわけです。植物もよく育つし、太陽の動きも日本と全然違う。そうすると半屋外のようなものは年中、気持ちのよい空間になるのでこの要素を建築のデザインに取り入れたりします。
あとは建築に使われる素材や建築に関する技術の前提条件が全く違うのでデザインの出発点も違ってきます。例えば、日本だと、木造、RC造、鉄骨造という風に、基本的な3つのバリエーションがありますが、ベトナムの場合はほぼRC造なんです。RC造に比べて鉄や木は非常に高いので、特殊なプログラム以外は鉄骨造、木造を採用するのは難しいのです。
文化の面では、例えば日本人はあまり建築に植物を植えるのを好まない。「メンテナンスどうするんだ」とか、「虫が入ってくる」とか、でもベトナム人はそういうのはあまり気にしない。「まあ毎日雨は降るし、虫は別にもともといるし、緑あった方がいいじゃない」という感じなので、このような文化的な特殊性を設計に反映させることにも気をつけています。
-クライアントへのプレゼンテーションはどのように行われていますか?
僕自身外国人ということもあって、なかなかベトナムのクライアントとの間で、共通の知識や共通の認識っていうものの量がどうしても少ないんですね。なので、クライアントの常識的な判断の外側から設計することもある。よってプレゼンテーションでの説明は丁寧に行わないと、理解されなかったり、あるいは単純に拒否されたりします。必ずCG、模型、そしてスケッチなどでビジュアライズしてさらに同じ平面図でも色とか塗ったり、矢印を入れたりして、動線や機能的な配置をわかりやすく工夫します。立体関係は建物の斜め上から見るアイソメ図のスケッチを書いたり一手間かけて、伝えたいことを全力で伝えるという意識は重要ですね。
-言語の壁は乗り越えられていますか?
乗り越えられてません(笑)。でも建築家ってラッキーなことに、図面とか、ビジュアルのツールで、会話ができる職業なので。それに甘えて、ベトナム語勉強してないっていうのもありますね(笑)。ベトナム語が喋れないから仕事ができないといった状況ではないです。特にベトナムのスタッフは、みんなある程度英語が話せるので、それには結構助かっています。
-現場でもコミュニケーション面ではスタッフを頼っているのですか?
そうですね。そうなってくると、大事ことは、スタッフをどう育てるかに至りますね。今は、現場で間違いを見つけても、現場の向こう側で別のことをしているスタッフを呼んで、説明して、通訳してもらって、、、とにかく時間がかかるわけですよ。なので、僕がしそうな判断をスタッフにどれだけしてもらうかっていうのが結構重要で。でも僕の分身になる必要はないと思っています。スタッフ一人一人がきちんと、ある程度のクオリティスタンダードを持ちながら自己判断できるように、普段から、例えば、建物のコンセプトをきちんと共有したりとか、あとは技術的なことをきちんと勉強してもらったりするのは非常に重要ですね。
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