−ベトナムで建築設計事務所を運営するにあたって苦労はありますか?
あるけど、それは単に「難しい」だけでなく「面白い」とも言い換えることができます。例えば、ベトナムでは設計に関してしっかりした仕組みがないんです。日本では定められたプロセスで設計をしなければならないですが、ベトナムにはそれがない。なので難しいとはいえ、逆にいうと、一から全部自分で考えられる。
あとはコンストラクションのクォリティが非常に悪い。現場で壁が5cmぐらい図面からずれたりします。でも日本のような責任問題はなかなか発生しなくて、設計者が悪いのか、施工会社が悪いのか、サプライヤーが悪いのかっていう話にならないんだよね。
−それはいいことなのでしょうか?
うーん。でもそういうゆるい現場っていうのは逆を言えば、柔軟性が高くて現場で簡単にアレンジができるとも言える。だから、ちょっと失敗しても、現場で「こういう感じでやった方がいいんじゃないか」ってサンプルを作って、「よし、これで行こう」ってパッと決められたり。そういう意味では、先進国ではあり得ないようなルーズな仕事のやり方が、発展途上国が故に面白い建築につながる可能性があるとも思う。
特にマテリアル、素材の取り扱いに関してはいろんな可能性を秘めていて、素材をハンドメイドで作れたりするので、素材選びのプロセスは非常に面白いです。
写真:大木宏之
−現場での応用が効くのですね!他にも魅力はありますか?
単純にチャンスが多いですね。うちみたいな小さい事務所でもたくさん仕事が入ってくるし、大きい案件も来ますね。数十ヘクタールとかの大きい仕事がポンポン見積もり依頼が来るのは、やっぱり発展途上国なんだなぁって実感しますね。
−学生の頃の「建築家」のイメージと現実は一致していますか?
全然一致してないね。僕がイメージしていた「建築家」は華々しくて巨匠スケッチとかササッっと描いたりする人。でも現実は全く違うよね。むしろ漫画家みたいな感じで、締め切りがあって、ちまちま図面を描いて、黙々と模型を作って、カタログとにらめっこして、クライアントとメールのやり取りして…まあ8割はそんな仕事です。だから全然華々しくないし、そういう意味では全くイメージとは違った。ただそれに気づいたのは随分早かったけどね。大学入ってすぐ小嶋さんみたいな第一線で活躍する建築家の近くにいたので、高校時代のイメージは大学に入って変わったね。
−学生の頃やってよかった、やればよかったことはありますか?
英語はもっとやればよかった。今は普段から英語を使っているんだけど、たまにネイティブスピーカーと話す時、8割くらいは聞き取れているけど、ついていけてないこともあって。学生の時もっとやっていれば、耳が慣れていてもっと聞き取れていたのに。あとボキャブラリーのストックも増やしていれば話もしやすくなるんだろうと思います。
あと色々海外に行ったのはよかったかな。アジアも行ったし、ヨーロッパも行った。日本の学生は自分が海外の学生と比べてすごく恵まれてる事にちゃんと気づいた方がいいと思うんだよね。どこにでもビザフリーでいけるのになんで行かないんだって話なんだよ。日本円は強くて、どこに行っても通貨が流通していて、どこでも生活できるのに、行かない理由がないよ。
−学生の頃もっとも影響を受けた建築家や建築はありますか?
入学当時、実はあまり建築自体には興味を持っていなかったんだ。そのかわり映画みたいなクリエィティブな仕事には興味があった。ただ高校の成績は完全に理系だったので、理系の中でもクリエイティブっぽい建築学科に入ったんだけど、いまいちしっくり来なくて。ヨーロッパで建築を見に行ってそれでも興味を持てなかったらやめてしまおうと思いながら19歳の時、1週間ほどのヨーロッパ旅行に行ったんだ。
ここで巨匠のコルビュジエに感銘を受けたとかだったらかっこいいんだけど、全くそんなことなくて(笑)。それよりもむしろジャンヌーベルの国立アラブ研究所やカルティエ現代美術財団と言った現代建築(コンテンポラリーアーキテクチャ)に魅了されてね。日本に帰国してからはまずはジャンヌーベルの本を買ってものすごく勉強したね。僕はコルビュジエよりもジャンヌーベルに感動して建築を始めたんです。近代建築もそのまま読むというよりも、現代建築のフィルターを通して近代建築を見るっていうことの方が僕は多かったです。この後色んなモノを学んで建築の見え方が変わっていくのが面白かった。
−かっこいい大人とはどんな人だと思いますか?
大人気ないくらいに、何かに熱中しているような感じの人はかっこいいなあと思うね。建築家って良くも悪くも、感情的な人が多いんだけど、なんかそういう人はいいなあと思うね。あんまり一緒に仕事をしたいとは思わないけど(笑)。何かに熱中してたり、夢中になってたりしてる人は年齢を超えて魅力的だったりするんですよね。だからそういう大人でありたいと思う。そういう夢中になる人に人がついていくのだと思う。なんかわかったような、澄ましたような大人にはなりたくないね。
やっぱり年齢を取るとさ、経験値を元にバランスを取ろうとしちゃうんですよね。なんかどこかでバランスと崩さないといけないなあって最近ちょっと思うようになりました。うまい具合に物事を運ぶと最適解は作れるんだけど、それは本当によい回答なのかって思うようになっています。
−最後に大学生向けにメッセージをお願いします。
僕も教員をやっていたからね、ずいぶん学生さんとは長いこと付き合ってきたけど、ちょっとずつ元気が無くなっていった気がするよ。
−元気…ですか?
無茶をしないよね。日本の若い人ってみんな同じであることに安心感を持ったりするでしょ?あれよくないと思うんだよね。人と違うことに対してなにかこうマイナスであるって思う必要はないと思うし、むしろおいしいと思った方がいいよ!
僕みたいな普通の人と同じような人生を歩んでこなかった人間ですら、一応大学院も卒業してて、一級建築士ももって海外で活動してて、プロジェクトもいっぱい出来てて、一応生きてるわけでさ。
僕のキャリアから言える、若い人へのメッセージは、
他の人と違うキャリアの積み方が実は価値を生むかもしれないっていうのを考える事も一つの手だっていうこと。
これからはもっとフレキシブルな生き方が求められるんじゃないかって気がする。僕が思うに、海外で働く機会は今後もっと増えるし、縮小して行く日本の中で日本にずっといるわけにはいかないので、何かこれっていう規定されたものよりも、自分がいろんな場所にいていろんな価値を見つけていけるような生き方が求められる。だからいろんなものに興味を持つことで、自分の人生が他の人を違ってもそれはネガティヴなことではなくて、おそらくそれはなにかポジティブなものに変換できると思います。
−他人と違うことに恐れず、色んなことにトライすべきということですね!ありがとうございました!
写真:大木宏之
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