皆さん「特別機」というものをご存知ですか?
特別機というと、機体に日の丸が書かれた飛行機を思い出しますよね。
あれは政府専用機といって自衛隊が管轄している政府の飛行機です。
ここでいう「特別機」とは、天皇陛下や首相などの要人が民間の航空会社の
飛行機をチャーターするフライトのことを指しています。
そして要人の担当を任された乗務員は当時6000人程いたCAの内、たった5人だったそうです。
今回、取材に応じてくださったのは、ANAで要人の特別機を担当し、皇室や各国元首の接遇で高い評価を得る里岡美津奈さんです!
コミュニケーションと接客に関してお話を伺いました。
国内線、国際線のチーフパーサー(客室乗務員のリーダー)を務め、そのうちの15年間は、天皇皇后両陛下、皇太子殿下同妃殿下、英国元首相マーガレット・サッチャー氏を始めとするVIP特別機を担当。
2010年に退職し、現在は人材育成コンサルタントとして、一般企業や病院でコミュニケーションスキルアップの指導などをしている。
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里岡さん
目次
特別機に乗務するまで
今までのキャリアを教えてください。
国内線・国際線にて、チーフパーサーとして乗務していました。
乗務して9年目の1995年、ANAで特別機専属の乗務員を養成する制度が出来ました。
それまでは特別機を飛ばすたびに客室乗務員をピックアップし、アサインしていましたが、この頃から頻繁に要人特別機チャーターの依頼などがあり、制度を立ち上げることになったようです。
毎度乗務員をピックアップして教育するよりも、特別機に乗務する訓練制度を立ち上げたほうがANAとしても自信をもって送り出せるということで、制度が確立しました。
そこで私が担当したのが「国家元首」というカテゴリーです。
例えば天皇皇后両陛下や皇太子殿下 同妃殿下、首相がこちらにあたります。
15年間の担当の中で、元英国首相 マーガレット・サッチャー氏やジェフリー・アーチャー氏の特別機も担当し、その経験数はANAで最多となっていました。
2010年にANAを退職後は、かねてより感心が高かった医療現場における人材開発に、今までの経験を活かしたいとの気持ちから、医療グループの人材開発室室長を務めました。
それと同じ時期に、アメリカ人のビジネスパートナーとアメリカにて日本旅行を目的とする旅行コンサルタント会社“Japan Quest Journeys”を立ち上げました。なお、2016年に同会社の取締役を退任。
現在は、2医療法人と1一般企業の人材開発顧問や各種講演、執筆活動を行っています。
特別機の訓練はどのくらいの期間行われるのですか?
9~17時の訓練が1週間ほどだったと思います。
訓練内容については、特別機専用の備品の取り扱い方法や宮廷のしきたりなど多岐に渡って学びます
特別機のフライト数は頻繁にあるわけでは無いため、それ以外の時は一般の定期便に乗務していました。
「狙えるものは貪欲に狙え」
今後のキャリアビジョンはございますか?
「おもてなし力」で日本を元気にしたい!という思いがあります。
「おもてなし力」とはコミュニケーション力とも言えると思うのですが、ダイバーシティーの進む日本において大変重要な鍵を握るのではないかと思っています。
その為には出来るだけ若い人たちに、その重要性に気付いて欲しいと思っています。
主に学生の皆さんやもっと若い世代の子供も、このような話をより具体的に出来る、講演やセミナーに力を注ぎたいと思っています。
それから現在安倍政権でウーマノミクス(※1)と女性の活躍推進が謳われているわりに、実際の企業からは、女性たちの経営への積極的な参画などに結びついていない状況だと聴きます。
それは本当に勿体ないことです。
今まで不可能に近かったことが、可能になるチャンスがあるのに!と。
例えば「社長」になることも今なら「無理」ではないと思うのです。
だからこそ未来を担う学生や子供に、早くからそう言った意識を持ってもらいたいと思います。
※1 「ウーマン(女性)」+「エコノミクス(経済)」の造語。女性の活躍によって企業活動の活性化や消費の拡大といった効果が表れ、社会や経済が活性化するという考え方。
学生はコミュニケーションで損している?
最近の学生を見て何を感じますか?
最近の若い方を見ていると、コミュニケーションで損しているように感じることがあります。
例えば、「無表情・無感動・無関心」。
ずっとスマホを見て、外界との関わりを避けているように感じます
外国の方やお年を召した方は、「目が合うとニコッとする」などのコミュニケーションがあるんです。
そのような状況は、そこから世界が広がるチャンスがあります。
反対に、言い換えるとそのような若い方が少ないからこそ、「ニコッとする」コミュニケーションができる学生に会うと、いい印象を抱きます。
目上の人に目をかけてもらえるかどうかは、とても大切なことです。
私自身、コミュニケーションでチャンスを掴んできたと思っています。
「なんとなく感じがいい」習慣
上手にコミュニケーションをとる上で大切なことは何でしょうか?
習慣を大事にしています。
「習慣=身についているもの」ですよね。
身についていて初めてその人の力になるのです。
つまり「無意識」の時にもその行動ができるということです。
習慣には悪い習慣と良い習慣がありますが、良い習慣をぜひ身に付けてほしいです。
自分の悪い習慣に気づくのは難しくないですか?
そうですね。
だからこそ、自分にとっての良い習慣がどのようなものか常に考えていたいです。
みんながやっている「感じが悪いな」と思うことはやめるのがコツです。
それをやめるだけで、良い印象で目立つことができます。
それから良いロールモデルを持つことです。
良いお手本を意識して、近づけるように努力することから始めてみたら良いと思います。
気づいていそうで気づいていない接遇の盲点
接客に関してのコミュニケーションでアドバイスをお願いします。
若い方の接客で気になるのは、声が小さいことです。
例えば、お客様が聞き返す場面をよく目にします。
これは失礼な接遇になります。
自分の声を一発で相手に届かせることはとても重要なのです。
加えて、表情も重要になります。
「笑顔」は伝染するし、相手に良い印象を残し、また会いたいと思ってもらえるんですよ。
あなたの接客は短期型?長期型?
お客様一人ひとりに接客する上では何が大切なのでしょうか?
サービスにはやはり、得意不得意があると思います。
というのも、接客は短期型と長期型に分けられるのです。
例えば私は【短期型】です。
第一印象で良い印象を残し、短いコミュニケーションで自分の能力を最大限に活かすタイプですね。
ここでも習慣化している要素が重要になります。
【長期型】は比較的長期の接客で決戦するという意味です。
第一印象はそれほど良くなくても、話していくうちにどんどん魅了されていくことってありますよね。
時間をかけていい関係を構築させていくタイプです。
自分がどちらのタイプなのかを見極めて、職業を決めることも効果的だと思います。
里岡さんなりの接客の心構えを聞かせてください。
スタンドプレイよりも、「雰囲気づくり」を大切にしています。
若い人に経験を積むチャンスを与えていかないと成長の機会が中々ありませんよね。
それぞれの能力を見極めて、自分以外の乗務員を配置することを心がけていました。
また、うまくサポートすることも考えています。
例えば、指示の出し方を変えていました。
「食事の配膳おねがいね。」
というよりも
「あなたはいつもバランスよく配膳してくれるから、お客様の満足度も上がって助かるわ!今回も配膳お願いね。」
といった方が、モチベーションが上がりますよね。
接客は「予測」が大事
臨機応変な接客はどのようにできるのでしょうか?
一発目の声掛けと温度感が大切なんです。
お客様と接する際に、ある程度どのような方なのか予測します。
しかし、必ずしも予測通りの方であるとは限りません。
最初の接遇の温度感は「弱」で対応します。
「弱」の対応とは、先ずはきちんとご挨拶することからスタートするのです。
そしてお客様とお話していく中で温度感を合わせていくのです。
また、私は特定のお客様への手厚いサービスのために、それ以外のお客様の対応を他の乗務員に任せるというのがあまり好きではありません。
スタンドプレイをしている陰では、誰かがその人のフォローをしてくれているということです。常にチームで仕事しているということを忘れずに仕事をしていました。
接客は自分の責任の範囲で行うことも心がけています。
「逃げない」ことが大切な理由
ご自身のポリシーはございますか?
「逃げない」ことです。
後輩に怖がられる先輩っていますよね。
客室乗務員時代もいました。でも、私は逃げないことをポリシーにしていたので、コテンパにやられても決して逃げませんでした。。
「逃げる」ことは息が詰まって、結果的に自分の首を絞めることになります。
「叱られないように、次会ったときは褒めてもらおう!」という気持ちが大切です。
果敢にチャレンジするその想いは先輩に伝わります。その後、「怖い先輩」にもかわいがってもらいました。
里岡さんどうもありがとうございました!
「幸せをつかむ女と逃す女の習慣」著:里岡美津奈
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