サービス/インフラ

Yper株式会社 OKIPPAからデザイン思考を考える

最近「これからのビジネスは“デザイン思考”が重要になる」というフレーズをよく耳にしませんか?実際に欧米では、デザインを重視して経営を行った企業の業績が著しく伸びたというデータがあります。そして日本でも、採用する大学生に「デザイン思考」を求める企業が増えています。

 

 

でも…結局デザイン思考って何?

 

 

検索したり、本を読んだりしてもピンとこない。そこで、グッドデザイン賞を受賞した製品から「デザイン思考」を考えてみようというのが今回の企画です。グッドデザイン賞は製品の見た目だけでなく、製品を作る過程の考えが評価される賞…。きっと何か見えてくるものがあるはず…!

 

そして今回の記事で取り上げるのは、2019年にグッドデザイン賞を受賞した置き配バッグ「OKIPPA」開発したYper株式会社 島添彰さんにお話を伺いました!

 



置き配バッグ「OKIPPA」とは?
再配達問題を解決するために制作された新感覚のバッグ型簡易宅配ボックス。従来の宅配ボックスと異なり玄関口に吊り下げるコンパクトな形状で、荷物が届くと専用のアプリに通知が届く仕組み。アプリと連動することで、荷物の配達予定がわかったり再配達依頼ができたり。盗難にあった場合でも専用の盗難保険が利用可能なプランも。
>OKIPPA公式HP

 

今回お話を伺った島添さん 撮影:集合写真家武市真拓
 
ーOKIPPAを制作されたYper株式会社とはどんな会社ですか?
(島添)OKIPPAは社会問題の一つである再配達問題を解決するために作った製品ですが、Yperは再配達問題を解決するためだけの会社ではありません。Yper株式会社の目標は、将来的に世界中の社会問題を解決することです。僕たちが作ったモノで世界中の人の生活を支えたいという想いの中で、最初に取り組んだのが再配達問題解決のためのOKIPPAサービスの開発です。
 
ー数ある社会問題の中で再配達問題を最初に選んだ理由はあるのですか?
海外では配達物がなくなることが日常茶飯事だと、Yperの代表がフランスに住んでいた時に実感したんです。送ったもの、送られたものがちゃんと届くという今まで当たり前だと思っていた日本の物流が、実は世界最高レベルに値することに気がついたんです。でも、そんな最高レベルの日本でも再配達による非効率や労働人口の減少など、物流の崩壊にもに繋がりかねない解決するべき問題はたくさんあるんですね。
 
再配達問題は物流関係の会社が解決を目指すのが一般的だと思っていました。
最初は僕たちもそう思っていたんです。だけど、物流問題に物流会社が取り組むと解決策が生まれた時に、それを同じ業界の他社に共有するのが難しいんです。業界の一部だけが解決策を実行しても、再配達という社会問題自体の全体的な解決にならない。なので、むしろ物流会社でない僕らが外から取り組んだ方がいいのではないかと思いました。実際に取り組み始めたらやればやるだけ面白くなってきましたね。
 

ーどんなところが面白いと思ったのですか?
関わる人、喜んでくれる人が非常に多い点です。再配達問題を解決するためには色々な人を巻き込まないといけないんです。配達する物流会社の人や不動産屋さん、荷物を発送する事業者さん、置き配サービスを実際に使う人など。再配達ってみんなが困っている問題だから、解決することでみんな喜んでくれるんですね。しかも、宅配を待つ時間を減らせる=生活の時間をより有意義に使えるといううことなので、自分たちの作ったものが人の生活に大きな影響を与えているっていうのはすごいことだな、と我ながら思います(笑)。

 

ー実際のところ、日本の再配達問題の現状はどんな感じなんですか?
2018年で宅配ボックスの普及率がマンションで42%、一軒家だと2%程度という数字がありました。普及率の低さの理由は、玄関前に既存の大きい宅配ボックスを置くスペースがない物件が多いからです。駅とかにある宅配ボックスの使用率は0.9%、コンビニ受け取りが10%くらいの割合で使用されていました。だけど、コンビニはバックヤードが既にパンパンでこれ以上荷物を置くスペースが確保できないのと、コンビニそのものの数もこれ以上増えないので、現在でもコンビニ受け取りの普及率はこれ以上にならないと予想されています。
 

・Yper株式会社「新感覚宅配BOX!オートロックマンション向け置き配バッグOKIPPA利用試験スタート」2018年10月24日,PR TIMES,最終閲覧2020年7月11日
・臼田勤哉「パナソニック、39,800円の宅配ボックス「COMBO-Light」。既設戸建を狙う」2019年9月27日,ImpressWatch,最終閲覧2020年7月11日
・Panasonic「後付け用宅配ボックス「COMBO-Light(コンボライト)」を発売」2019年9月27日,Panasonic Newsroom Japan, 最終閲覧2020年7月11日
・内閣府政府広報室「『再配達問題に関する世論調査』の概要」2017年12月,最終閲覧2020年7月11日

 

ー既存のインフラ環境では解決できないので新しいシステムを導入するしか解決方法がない…ということで生まれたのがOKIPPAなんですね。
僕たちはECサイトで買える商品は全部、置き配で届けてもいいと思っているんです。水とかおむつとか日用品のために日時指定をして、2時間そわそわしながら待つ時間ってもったいないじゃないですか。それを解決するために非対面での受け取りを増やしたいという考えがOKIPPA制作の根源にあります。ただ、普通に玄関前に荷物を置くだけだと、荷物や個人情報の盗難の懸念があるのも事実。そのため、OKIPPAは荷物を入れるバッグ・荷物が届いたことを知らせるアプリ・盗難に遭ってしまったときの保障という3本柱でサービスの開発を進めました。
従来の置き配はオートロックマンションに対応していないという弱点があったんですけど、OKIPPAはアプリと連動しているので、追跡番号を鍵代わりにオートロックマンションを開錠できるようなシステムも作りました。

※ECサイト(イーシーサイト)とは、自社の商品(広義では他社の商品)やサービスを、インターネット上に置いた独自運営のウェブサイトで販売するサイト by Wikipedia 
Amazonや楽天もECサイトです。


ーコロナで家にいる時間が増えたと思うのですが、OKIPPAの需要は変化しましたか?
新型コロナウイルスの感染対策として、OKIPPAへの新たなニーズと顧客層が拡大しました。具体的には、感染予防で宅配業者の人との接触も減らしたいというニーズ、在宅ワークの普及で家にはいるけど宅配の受け取りはできないという人の増加、通販の需要が急増して既存の宅配ボックスが常に満杯…といったことですね。今までOKIPPAは不在時に使うものだったんですけど、在宅中でも使えるという風に変化しました。
 
ーOKIPPAの一番のこだわりポイントはどこですか?
工事無しで使い始められるので設置が楽な所と、生活の邪魔にならないサービスであることを意識しました。水道や電気と同じく、物流もインフラだと思うんです。「あ!ここに水道ある!電気も!」ってインフラをいちいち意識しないと思うので、OKIKPPAも生活の中に溶け込むものでありたいと思いました。

使用前はこんなにコンパクト!

ーOKIPPAを作る中で、大変なことがあった時に意識していたことは?
思考を止めないことですね。OKIPPAを作る時も最初はできる事ベースで考えていたんです。例えば既存の宅配ボックスをどう改良しようか…みたいな。できる事ベースで考えていると意外とやれることはたくさんあるんですけど、ユーザーの求めているものと離れてしまいがちなんですよ。なので「これって本当にユーザーが欲しいもの?」と常に考えなきゃダメだと思います。自分たちも使ってみることや、ユーザーヒアリングで意見を聞くことで、いい製品が出来るんじゃないかなと思います。
 
ーOKIPPAは2019年に、製品の見た目だけでなく製品を作る過程の考えを評価するグッドデザイン賞を受賞されていますが、ずばり島添さんにとって「デザイン思考」とは?
僕はデザイナーではないんですけど、物を作る時に大事なのはターゲットとするユーザーとその課題を明確にすることだと思います。誰の問題を解決するコンテンツなのか認識することですね。OKIPPAの再配達問題でいうと、配送会社は宅配ボックスを設置してほしい。でも不動産会社は玄関に宅配ボックスを置くための場所も費用もない。荷物を受け取る人は宅配ボックス設置に費用・労力をかけたくない。と課題は見えているんですけど、登場人物が多いので課題が複雑化しているんです。これを整理して出てくる全員のニーズを満たす製品にするのが大事だと思います。

OKIPPAは驚きの大容量!

ーこれから会社としてどんなことに取り組む予定ですか?
今、全国15万世帯に普及しているOKIPPAを、2021年の春までに60万世帯に普及させたいという目標はあるんですけど、最初に話した通りYperは再配達問題だけを解決したいと思っているわけではなく、社会問題を全部解決したいんです。このコロナ禍で生活あり方が大きくアップデートされて、被害を受けている業界がたくさんあります。なので、OKIPPAでのつながりをフックとして、そういう業界を支援できるような取り組みを始めようと動いています。
 
ー社会問題は本当に色々なジャンルや課題があると思うんですけど、社会問題解決のために本質的に必要なのはどんなことだと思いますか?
課題をちゃんと認識することだと思います。イメージとしては、課題の解像度をあげる感じですね。それが誰にとっての問題で、何が解決の妨げになっていて、既存の解決策にはどんな物があるか…みたいに問題の構造を読み取るのが大事だと思います。そのためにユーザーの意見を聞きにいったり、自分が実際に体験してみたりっていう手間を惜しまないことですね。僕たちもOKIPPAを作るときに、玄関前に常時設置しておくタイプの既存の宅配ボックスを使ってみたり、宅配会社でバイトをしてみたりしました(笑)。
 
ー島添さんにとって格好いい大人とは?
常に行動している人、挑戦している人です。
普通に仕事をしていたりするとそれがルーティンの作業になり、どうしても無意識に思考って止まっちゃうんですよ。僕もそうでした(笑)。そうなりがちな社会の中で目的を明確に持っていて、課題を認識したり解決のために行動したりしている人ってすごくかっこいいなと思います。
 
ーありがとうございました。

 

島添彰(しまぞえ・あきら)
Yper株式会社 CTO.
前職ではサントリーシステムテクノロジーにて自販機の販売管理、配送管理のシステム開発、運用に従事。
2019すごいベンチャー100, Forbs 30 under 30 asia 2019に選出, 2018年TechCrunch Tokyoファイナリスト
学生起業家さんの壁打ち相手をちょくちょくやっています。何か困ったことがあれば代わりに考えるくらいするのでお気軽にSNSで連絡ください。
FBページ: https://www.facebook.com/akira.shimazoe
 
 
 
 

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gakuseikichi

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