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Ontenna開発者 本多達也にとってのデザイン思考とは 

最近「これからのビジネスは“デザイン思考”が重要になる」というフレーズをよく耳にしませんか?実際に欧米では、デザインを重視して経営を行った企業の業績が著しく伸びたというデータがあります。そして日本でも、採用する大学生に「デザイン思考」を求める企業が増えています。

 

 

でも…結局デザイン思考って何?

 

 

検索したり、本を読んだりしてもピンとこない。そこで、グッドデザイン賞を受賞した製品から「デザイン思考」を考えてみようというのが今回の企画です。グッドデザイン賞は製品の見た目だけでなく、製品を作る過程の考えが評価される賞…。きっと何か見えてくるものがあるはず…!

 

そして今回の記事で取り上げるのは、2019年にグッドデザイン金賞を受賞した、音をからだで感じるユーザインタフェース「Ontenna」(富士通株式会社)開発者である、富士通株式会社 Ontennaプロジェクトリーダー 本多達也さんにお話を伺いました!

 

Ontennaとは
Ontenna(オンテナ)は髪の毛や耳たぶ、えり元やそで口などに身に付け、振動と光によって音の特徴を、からだで感じる全く新しいユーザインタフェースです。音源の鳴動パターンをリアルタイムに変換することで、音のリズムやパターン、大きさを知覚することができます。また、コントローラーを用いることで複数のOntennaを同時に制御できるので、楽器演奏などのタイミングを合わせることも。ろう学校や、スポーツ・文化イベントなどで使われています。
>Ontenna公式HP
 
 
今回お話を伺った本多さん

 
ーろう者の人に音を伝えたいという想いからOntennaの制作が始まったと伺いましたが、なにかきっかけとなる出来事などがあったのでしょうか?
(本多)大学1年生の時の学祭でろう者の人と出会ったんです。その人と仲良くなって手話を教えてもらったことがきっかけで、手話のサークルを大学内に立ち上げたりNPOを作ったりしました。一緒に過ごす中で、大きな音に気がつかなかったり、音楽番組を見ている時につまらなさそうにしていたりという場面で、僕は聞こえているのにこの人は聞こえていないということに違和感を覚えました。それで、ろう者の人に音を伝えるための物を作ろう!と決めました。
 

ー本多さんは「ユーザインタフェースデザイナー」ですが、大学の専攻もデザインだったのですか? 
 デザインとかアートには興味があったので独学はしていましたが、大学ではプログラミングやネットワークなどシステムのことを勉強していました。大学の先生にたまたま連れて行ってもらったデザインの勉強会で、自分の専攻である情報システムの分野でもデザインに関わる仕事があるんだ!って知ったんですね。そこでデザインってかっこいいなと思ったので「デザイナーになろう」と決めました。
 ろう者は声の大きさを調整できるようになるための練習をするんですけど、その方法が昔ながらで。今でも、ティッシュを顔の前に当てて息の量で大きさを確認したり、うがいをするときの要領で水を口に含んで喉の振動する感覚を覚えたりと方法がアップデートされてないんです。そういうところにテクノロジーを導入出来るんじゃないかと思いました。 

 

ーOntennaを作る際に一番意識したことはなんですか?
 ユーザーに実際に使ってもらってフィードバックをもらうことです。Ontennaに限らず全てのデザインに言えると思うんですけど、デザイナーとか会社がその人たちだけで考えて作ったものって、ユーザーにとって最適じゃないと思うんです。ユーザーの声を聞いてユーザーと一緒に作り上げていくことがいい製品を作るということだと思っているので、それはずっと意識していました。
大学の時に作った手話サークルやNPOなど元々ろう者のコミュニティとのつながりあったので、その人たちに使ってもらって感想を聞いて、それを元に改善したものをまた使ってもらって…っていうことを繰り返していきました。

試作段階のOntenna

ーOntenna制作の中で一番大変だったことは何ですか?
 マイクで集めた音をろう者の方にどうやって伝えるかが大変でした。最初は「光」で視覚的に伝えようと思っていたんです。大きい音だったらものすごく明るく光って、小さい音は少しだけ光るみたいに。ただ、ろう者の方に話を聞く中で、音が聞こえない彼らは視覚からの情報に頼って生活していることが分かったんです。既に生活の中で視覚はフル活用しているから、さらに視覚情報を増やしたら疲れるっていう声があって。それなら触覚を使って音を伝えようと方向を変えました。

 

ーそれで今の「振動で音を伝える」という形になったんですね。
 振動で伝えると決めてからも、どこに付けるかっていう問題が現れました。長時間直接肌に触れていると感覚が鈍くなったり、振動が気持ち悪く感じたりしたんです。それで服につけてみたんですけど、振動が伝わりにくかったり、すぐにずれてしまったりして…。 
 髪につけるっていうアイデアはたまたま思いついたんですけど、髪ってすごくセンシティブでインターフェースとして優秀なんですよ。風が吹いてきた時に、髪のなびき方で風向きが分かるじゃないですか。髪だとOntennaをつけていても手話とか家事の邪魔にもならないし。それで髪につけられるように改良しました。
 ただ、ろう者の中には耳に人工内耳をつけている人も多くて「これ以上顔の周りに機械を付けたくない」って人もいたんです。それで服につけても滑らないようにクリップを改良して、今のOntennaの形になりました。

ー困難な出来事を乗り越えるためのルーティンなどはありますか?
 やっぱりユーザーに使ってもらって意見を聞くことかなぁ。ユーザーの反応は常に見るようにしています。ずっと自分の中で解決策を考えてるより、どういう風に改善したらいいかの答えは使う人たちの中にあると思うんです。それに、Ontennaを使って音を感じた人が笑顔になっているのとかを見るのは、開発の原動力になりますね。

 

ー2019年に販売が開始されたOntennaですが、実際にどんな場面で使われているのですか?
 富士通がろう学校にOntennaを無償で配布したので、全国の約8割のろう学校で使われています。僕たちは静かな場所では小さい声で話す…など声の音量の調節を自然に行っているんですけど、耳が聞こえないとその音量調節が難しいんですよ。Ontennaを使うと自分の声の大きさを感じられるので声を出す練習がやりやすくなります。また、Ontennaを導入したことで普段音を意識しない人が意識できるようなったり、楽器演奏のリズムを合わせやすくなったり、身体を動かすようになったりしたという声はたくさん届いています。
 2019年の24時間テレビでは、浅田真央さんとろう学校の生徒タップダンスをするという企画があり、練習のときにOntennaを使っていました。タップの音を振動で感じると合図になるので音を合わせることができるようになるんですよ。

ーろう学校だけでなくタップダンスなど、エンタメの業界でも活躍しているんですね。
 エンタメの業界では聞こえない人はもちろん、聞こえる人にもOntennaを使って楽しんで貰うということを目指しています。Ontennaを使うことで映画館の4DXみたいに、より臨場感のある体験になるんじゃないかなと。これからイベントで実際に使ったりする中で、耳が聞こえる人が使ってもより楽しめるものに進化させたいなと考えています。 

 

ー大学生の時から制作されていたOntennaの製品化と販売が2019年に開始され、一旦のゴールを迎えたわけですが、これからやりたいことはありますか?
 落合陽一さんが、既存の製品・サービスとAIを組み合わせることで社会問題の解決を目指す「xDivercity」というプロジェクトを行っているんですけど、私も主たる共同研究者の一人としそのプロジェクトに参加しているんです。
 今のOntennaは周りの音を拾って振動に変えるという、機能としてはごくシンプルな物だからうるさい場所に行くとずっと振動しちゃうんです。なのでOntennaに機械学習やAIを組み込んで、使う人それぞれのニーズを叶えるOntennaを作ろうとしています。例えば、赤ちゃんの泣き声をAIに学習させて、その音にだけOntennaが反応するようにしたら、耳が聞こえないお母さんの「赤ちゃんの泣き声に気づけない」という問題を解決できるんです。

 

ー一人一人にあったOntenna…!製品として販売する際にそれぞれのニーズに応えるのは大変ではないですか?
 そうなんですよ。販売する前の時点で色んなニーズを全て満たすような製品を作ることは難しいので、使う人が自分でカスタマイズできるような仕組みを作ろうとしています。あとはAIと組み合わせることで、聞こえない人だけでなく聞こえる人も役立てられる製品になると思っています。聞こえる人でもヘッドホンで音楽を聞いてたりするとインターホンの音を聞き逃したりするじゃないですか。そういう特定の音に反応するOntennaは色んなニーズがあると思います。他には、今でも高速道路の安全点検って、コンクリートをハンマーで叩いた時の音でチェックしているんですけど、そこで安全な音とそうでない音を聞き分ける際にOntennaを活用できないかな、とかも考えています。

ーOntennaはまだまだ進化の途中なんですね!色々な場面で使われるようになるのが楽しみです。Ontenna以外で何か取り組もうと思っていることはありますか?
 他の会社のデザイナーさんとか、プロジェクトを進めている学生さんとかが「こんな物を作りたいと思っているんだけど、事業化するためにはどうすればいいか」という相談をしてくれることがあるんですよ。なのでこれからは、自分の経験を他の人に還元していきたいなと思っています。Ontennaみたいに誰かの課題を解決するためのプロジェクトをどんどん社会に生み出していきたいです。 

 

ーOntennaは2019年に、製品の見た目だけでなく製品を作る過程の考えを評価するグッドデザイン賞を受賞されていますが、ずばり本多さんにとって「デザイン思考」とは?
 え、なんでしょうね。あんまり考えたこと無かったなぁ(笑)。デザイナーとして「デザイン思考」って言葉に抵抗を感じるんです。うまく定義出来ないからなのかな。
 デザインって本質を見直すことなので、製品をデザインすることに限らず大事なのは真摯にユーザーに向き合うことなのかな、と。例えば、プレゼンとかでも相手のことを思いやってグラフとかの見せ方や文章を考えているか…っていうのが大事なんじゃないかと思います。
 何か物を作ろうってなると、市場がどうとか、ビジネスになるかとか、お金につながるかを第一に考えるんですね。でも僕は、一回そういうのを抜きにしてユーザーが何を求めているかを第一に考えたいと思っています。

 

本多さんにとって「格好いい大人」とは?
 自分のことも大事にしながら、周りの人に手を差し伸べられる人だと思います。僕はまだ助けてもらってばっかりなんですけどね(笑)。Ontennaを作っている中で、たくさんの人が僕の「Ontennaを世界中のろう者に届けたい!」っていう想いを応援して背中を押してくれたり、守ってくれたりしたんです。そういう人たちがすごく格好いいなと思っているので、僕も熱量がある若者をを支えていけるような人になりたいです。

 

ーありがとうございました!

Ontennaプロジェクトメンバー
本多達也(ほんだ・たつや)
富士通株式会社 Ontennaプロジェクトリーダー1990年香川県生まれ。大学時代は手話通訳のボランティアや手話サークルの立ち上げ、NPOの設立などを経験。人間の身体や感覚の拡張をテーマに、ろう者と協働して新しい音知覚装置の研究を行う。2014年度未踏スーパークリエータ。第21回AMD Award 新人賞。2016年度グッドデザイン賞特別賞。Forbes 30 Under 30 Asia 2017。Design Intelligence Award 2017 Excellcence賞。Forbes 30 UNDER 30 JAPAN 2019 特別賞。2019年度キッズデザイン賞特別賞。2019年度IAUD国際デザイン賞大賞。2019年度グッドデザイン金賞。
 
 
 

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