「オールナイトニッポン」特集!
ラジオ業界の裏側を大公開するこの企画では、その仕事について詳しくお伝えするためにニッポン放送「三四郎のオールナイトニッポン」ディレクター・アシスタントディレクター・放送作家の方にインタビューさせていただきました。
この記事では、ディレクターの石井玄さんのインタビューの様子をお届けします!
ニッポン放送「オールナイトニッポン」チーフディレクター。
現在は、チーフとして「オールナイトニッポン」全番組を担当しており、そのうち4番組(「星野源のオールナイトニッポン」/「三四郎のオールナイトニッポン」/「オードリーのオールナイトニッポン」/「佐久間宣之のオールナイトニッポン0(ZERO))はディレクターとして現場のディレクターを務める。ほか、TBSラジオ「アルコ&ピースD.C.GARAGE」のディレクターも務めている。
―ラジオディレクターの仕事内容を教えてください。
(石井)一言でまとめると、番組の最終決定権をもっているのがディレクターです。
番組の設計図である「キューシート」を書くのですが、キューシートにはどこにコーナー・曲・CM・フリートークを入れるかが書いてあって、これを見たら番組の流れが分かるようになっています。このキューシートをもとに、放送作家さんにこういう台本にして欲しいと伝えたり、パーソナリティにこんな話をしてほしいと伝えたり、ミキサーさんやADさんに指示を出したりします。
―キューシートと台本の違いはなんですか?
キューシートには番組の流れが書いてあるのに対して、台本には実際に話す「言葉」が書いてあります。台本は放送作家が書いているんだけど、どれだけ詳しく書いてあるかは番組によってさまざまです。本当に細かい所まで書いてあって、ほぼ台本を読んでいるという番組もあれば、ざっくりとした流れだけ書いてあってほぼパーソナリティに任せている番組もあります。
ラジオを聴いてたら分かると思うんだけど、本番中って色んなものがすっ飛んでいくこともしばしば。番組中に状況を判断して、時間配分やCMのタイミングなどをどのように変更していくのか指示を出しています。
―なぜラジオ業界に入ろうと思ったのですか?
僕、大学4年生になっても就活を一切しなかったんですよ。就職する気がないままフラフラしていたらそのまま卒業しちゃって(笑)
それから何やろうかなぁと考えたときに、自分の一番好きなことを仕事にしたいと思いました。
僕はもともとテレビとラジオがすごく好きで。元々ラジオは高校生くらいから聞いていたんですけど、大学生の夏休みに昼夜逆転生活で深夜ラジオを聴くうちに、ラジオの面白さにどっぷりはまりました。
あとは、お笑いがすごく好きだったので、芸人さんと関わる仕事がしたかったんです。それで、自分の好きだったテレビかラジオかなと思ったんだけど、TV局志望の人たちは、ずっと前からそのために準備をしている人が多いイメージで。だから、大学を卒業してから就活をしているような僕ではテレビは無理だなと諦めました。でも、なんかラジオならいけるんじゃないかって直感で思ったんですよね(笑)そんな感じで、大学卒業後に放送系の専門学校に入学しました。
―ラジオ業界の中でも、なぜディレクターになろうと思ったのですか?
ラジオに関わる仕事はしたいと思ったけど、性格的に営業職とかは絶対無理だし、作家さんは天才じゃないとなれない。ミキサーさんとかの技術系みたいに誰かに指示を受けて仕事を進めていくよりは、自分が指示を出して周りを動かしていく方が自分には合っていると感じたので。何よりディレクターって一番偉そうでいいと思っていました。ま、実際には全部ディレクターの思い通り…なんてことはないんですけどね(笑)
―ディレクターの仕事をする上で大切にしていることは?
基本に立ち返って「リスナーの聞きたいものを作る」ってことです。
ディレクターって生放送中はブースの外側、一歩離れたところから番組を聴いているから、感覚的には作り手っていうよりもリスナーに近い。つまり、一番パーソナリティに近い所で聴いているリスナーがディレクターである自分。
だから、一人のリスナーとして聞いていて、面白くないなぁと思うものは続けない。その面白いという感覚がリスナーと共有できているディレクターが、いいディレクターなんだと思っています。
偉い人に何かを言われても「それはリスナーが望んでないんじゃないですか」って言い返せるような、常にリスナー側に立っているディレクターでありたいです。
―リスナーの求めている事はどのように知るのですか?
Twitterのハッシュタグで検索したり、最近だとradikoの聴取率は数字ではっきりと結果が見えるから、どのコーナーが人気があるのかとかもなんとなくわかります。でも、そういうのは「参考にする」程度。リスナーの求める事に全部答えることが番組のためになるわけではないので、大事なのはパーソナリティとディレクター、スタッフが面白いと感じられているかだと思います。
―石井さんはラジオのどんなところが好きですか?
好きというか、ラジオに救われていたところがあります。なかったらどうなってるのか分かんないです。
学生の時は基本的に「生きてるの辛いなー早く死んじゃいたいなー」って過ごしていたタイプだったので、ラジオがなかったら心を保つことが出来なかったと思います。毎週聴いていた番組が何本かあって、少なくても来週の放送は聴きたいからもうちょっとだけ頑張ってみようと思える感じが好きというか(笑)
―ディレクターはパーソナリティも選んだりすると伺ったのですが、どのようにパーソナリティを選んでいるのですか?
「オールナイトニッポン」に関しては、この人が喋っていたら面白そうだなということ、時代を作る人気者であること、本人が喋りたいという熱意があることが重要だと思います。
後は、ディレクターが好きな人とか…?ディレクターのタイプにもよるけど、自分が好きな有名人で人気出ているから企画書作ってみようかなって言って書いた企画が実現することもあります(笑)
人気も大事ですが、僕は面白さを大事にしてパーソナリティを選んでいます。
ーオールナイトニッポンには岡村隆史さんのように25年続く番組もあれば、数年でパーソナリティが変わる番組もあります。長く続く番組は何が特別なのですか?
前提として、オールナイトニッポンは長く続かないようにできています。なぜなら「オールナイトニッポン」のパーソナリティは「時代の象徴となる人」、そして「オールナイトニッポン」は変化を恐れないという原則があるから。
このルールがあるから、「オールナイトニッポン」のパーソナリティといえば「エンタメの世界で第一線を走っている人」というイメージがつきました。だから、「オールナイトニッポン」で長く番組を続けているということは、エンタメの世界でずっと活躍しているという証明にもなります。なので、次の時代を引っ張る人が出てきたら、本人にやる気があっても番組の終了を告げなきゃいけないこともあります。
でも、そうやって常に時代の最先端にいる人を起用しているので「オールナイトニッポン」自体は半永久的に続くと思います。
あとはパーソナリティのラジオに対する情熱も大事です。「オールナイトニッポン」は深夜の番組で、しかも生放送を基本としているからパーソナリティの負担が大きいんですよ。
だから僕たち制作陣がどんなに出てほしいと思っていても、パーソナリティに「ラジオをやりたい!しゃべりたい!」という強い気持ちがないと長く続けるのは難しいです。
―「オールナイトニッポン」という番組の持つ役割とは?
僕は若い人がラジオを聞き始める入り口だと思っています。
テレビみたいにたまたま見ていたら好きな人が出てて見るという入り方は、ラジオにはほぼないです。どちらかというと、好きな人が出ているからちょっとラジオ聴いてみようかなっていう入り方だと思うんです。だから、「オールナイトニッポン」では若い人が「あの人が話している所を聴いてみたいな」と思うようなパーソナリティを揃えています。
自分の好きな人の話を聞くためにラジオを聞き始めた人が「ラジオって意外と面白いな」と思ってもらえたら、他の曜日の「オールナイトニッポン」・他の局の番組…って「ラジオ」の深みにはまっていくと思うんですよ。
―まさに私がそうやってラジオにどっぷりハマりました(笑)
あとは、「オールナイトニッポン」が50年以上続いていることで持っている役割もあります。
「オールナイトニッポン」は10代20代の若者向けにずっと作ってきていますが、そのリスナーって就職と同時にラジオから離れてしまうことも多いんですよ。新しい生活が忙しかったり、聴く時間や余裕がなくなったりで。
一度離れた人がもう一回ラジオを聴いてみようかなって思った時に、パーソナリティが変わっていたとしても「オールナイトニッポン」って同じ番組があったらラジオに戻りやすいと思うんです。だから、これからも「オールナイトニッポン」は終わらせちゃいけないと思います。
―テレビ業界だと、他局の番組の話が出来ない雰囲気ですが「『オールナイトニッポン』をきっかけに他の局に行ってもいい」と言ってしまうのはすごいですね。
ラジオ業界の置かれている状況的に、他局と張り合っている場合じゃないですからね。局とか関係なく、ラジオに関わる人みんなでラジオ業界を盛り上げていこうという雰囲気になっていると思います。
―ラジオ業界はこれからどうなると思いますか?
ネットともっと近づいていくんじゃないかと思います。今は、電波を拾ってラジオを聴くより、ラジコなどのアプリを使ってネットでラジオを聴く人が増えてきていて。電波を拾ってラジオを聴くのってレコードで音楽を聞く行為と似ていません?格段に手間がかかるけど、その手間がいい…みたいな。
あと、YouTubeのゲーム実況ってラジオと似ていると思っていて。映像はあるけど、トークで見ている人を楽しませなきゃいけないじゃないですか。ラジオもYouTube的な物になっていくのかなとも思います。
個人的には「TVもつまんないしYouTubeもなんか面白くないな」と思った人たちが来るようなものなのかなと思っています。
―ラジオは「音だけ」というイメージですが、最近はアプリで放送の様子を配信していると伺いました。
今の若い人たちは映像がないコンテンツをつまらないと思う人がほとんどだと思うから、「MixChannel」というアプリとコラボして、パーソナリティが話している様子を配信したりしています。
ラジオを聴かずに「MixChannel」だけを使っている人がその配信を見て、「あ、これラジオなんだ。」って気づいてもらうきっかけになればいいと思っています。「MixChannel」を見て、面白いから今度ラジオも聴いてみようかな。みたいな。
こういう風に、新しいメディアと敵対するんじゃなくて一緒に盛り上げていきたいです。「オールナイトニッポン」は新しいリスナーを獲得するチャンスになるし、新しいメディアの方も、歴史と知名度のある「オールナイトニッポン」とコラボすることでコンテンツの価値を上げられるので、お互いのメリットになるんじゃないかなと思います。
―ラジオ業界を目指す学生にメッセージをお願いします。
ラジオ業界はオススメしません。給料も高いわけじゃないし、大変だし(笑)。
―ええ!?ではなぜ石井さんはラジオ業界に!?
色々な人から「今の時代になんでラジオ?もっとほかに色々あるよ?」って言われるのが腹立つんですよ。みんながラジオはもう終わりだって思っているから、じゃあ自分がラジオで何かやりたいっていう反骨心ですかね。「オールナイトニッポン」に関わっている人たちはスタッフもパーソナリティも、ラジオのダメな部分を知りながらでも、ラジオの可能性をどこか信じていると思います。ラジオはまだ終わらせたくないし、まだ何か手があるはず。今はその方法を「まだ」思いついていないだけなのかなと。
ラジオ以外にも楽で稼げる業界はいっぱいあるけど、それでもこの業界を目指すっていうなら、ものすごい熱意とか僕みたいな謎の反骨心がないとやっていけないかもしれないですね。
―石井さんの思うかっこいい大人とは?
大人にならない人ですかね。大人って、世間の常識があるから自分の考えを曲げることが多いです。でもそういう時に、「絶対やめない。絶対負けない」っていう信念を持っている人を知っているので。
会社員やっているとそういう場面になることは多いのですが、世間の圧力・会社や上司の指示に負けずに自分の意見や信念を曲げない・折らないっていうのはかっこいいと思います。折れないのってものすごく難しいんですよ。実力がないと折れちゃうので。僕は、現状折られまくりですが(笑)。
ーありがとうございました。
今回「オールナイトニッポン」特集でインタビューさせていただいたお三方。
左から、AD・荒木さん。ディレクター・石井さん。放送作家・福田さん。
(担当している番組を伺ったときに、ほぼ全て私が聴いている番組だったのでとても驚きました)
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