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心のケアは、幼少期の義務教育から。メンタルケアが重要視されない日本の教育の問題点とは

コロナの影響による生活の変化により、メンタルヘルス(=心の健康)の不調を訴える人が、世代を問わず増えています。しかし、身体の健康と比べて、心の不調は目に見えにくく、日本ではメンタルヘルスの対処に関心が寄せられていません。

今回取材させていただいたアクティビストのかほさんとエミリーさんは、文部科学省宛てに、小中学校にメンタルヘルスの教育を導入することを提案する署名活動を行っています。

その名も「こころのyoridokoro」プロジェクト。

「こころのyoridokoro」プロジェクト
「メンタルケアを行うことが当たり前な社会づくりへの貢献」をゴールに、SNSで活動するプロジェクト。ポッドキャスト、SNS投稿を通してメンタルヘルスやセルフケアなど、生活者の「心の拠り所」となるような情報を発信中。また小中学校にメンタルヘルスリテラシー教育を導入するための署名活動も行っており、現在約8,000人以上の人が賛同している。

SNSリンク

 

目次

「決して一人じゃない」コミュニティとして側にいるこころのyoridokoro

プロジェクトを始めようとしたきっかけを教えてください。

かほさん:エミリーは心理学やセラピストに興味があり、私の興味分野と被っていて、メンタルヘルスなどのトピックで盛り上がって友達になりました。私の挑戦したいことは誰かと一緒にしたらもっと幅が広がると思い、エミリーを誘いました。

かほさん
メディア企業に勤める傍ら、SNSで情報発信をする。
インスタグラム:Body Plus Japan

 

 

エミリーさん
日本生まれ、アメリカ育ちの大学4年生。心理学を勉強している。
 

 

かほさんは元々他の活動もされていたそうですが、プロジェクトを新しく立ち上げようと思ったのはなぜですか。

かほさん:私自身は元々ボディイメージやセルフイメージについて学んでいたのですが、社会の固定概念としてある理想的な身体のイメージが、自分の自己肯定感や自己受容に大きく影響していることがわかりました。それがきっかけでメンタルヘルスの重要性を考えるようになりました。これまでメンタルヘルスは個人的なもので、自分で考えて解決するべきことで、自分だけが抱えているものだと考えていたのですが、実際にメンタルヘルスについて誰かに話してみると、同じような経験を持つ人が意外と多くいました。メンタルヘルスは、私の個人的な問題ではなく、集団の問題としてもっと社会で共有されるべきであると気づきました。

 

自分のメンタルヘルスを考えたときに、自分だけの問題じゃないと気づかれたことが「こころのyoridokoro」プロジェクトを始めるきっかけだったんですね。

かほさん:はい。「こころのyoridokoro」とは文字通り、心の拠り所を提供することを目的としたプロジェクトです。メンタルヘルスやセルフケアがトピックの中心で、ポッドキャストとソーシャルメディアでそれらに関する経験や情報を発信することが主な活動です。それと同時に、メンタルヘルスリテラシー教育を小中学校の学習指導要領に追加するということを目指す署名活動をしています。

 

ポッドキャストではどのようなことをお話されているのですか。

エミリーさん:誰でも気楽にくつろぎながら聞けるように、メンタルヘルスに関する様々なトピックを毎週テーマを決めて、私たちの知識や経験、解決のヒントなどを自由に語っています。リスナーのみなさんが共感できるようなサポートや、コミュニティを感じられるような発信を意識しています。過去には、セルフケア、セルフトーク、マインドセット、やる気、休み方、恋愛、コミュニケーションなどのトピックを扱いました。コミュニティを大事にしたいから、孤独を感じている人や、葛藤の中にいるのに普段からサポートを感じられていない人、そして自分と向き合いたいと思ってる人、安心できる環境が欲しいと思う人の心の拠り所になりたいと考えています。

 

メンタルヘルスリテラシー教育をより若い層で始めてほしいのは自身の苦しんだ経験から

社会問題にアプローチする方法はたくさんあると思います。その中で、なぜ日本の教育という分野に着目されたのでしょうか。

かほさん:2022年度から高校の保健体育の授業に「精神疾患の予防と回復」という項目が追加されることを知ったことです。これをすごく良かったと感じた一方で、「高校生からの教育では遅すぎるんじゃないか?」という違和感を持ちました。

エミリーさん:私自身、メンタルヘルスの知識不足のせいで中高生の時に苦しんだ経験があります。たまたまメンタルヘルスについて学ぶきっかけがあり、学べば学ぶほど自分に様々な良い変化がありました。しかし、これまでの人生で身についた固定観念から、メンタルをケアする土台を築き上げるのに何年もかかりました。その土台作りは若ければ若いほど、自分のメンタルに柔軟性を持つことができます。

小中学生の時期は、一番心のサポートを必要としている時期であるだけでなく、メンタルヘルスの教育が最適な時期だと考えられており、このサポートを充実させればさせるほど、自分のメンタルとの関わり方もより良くすることができます。メンタルヘルスの土台がしっかりできていれば、困難に向き合う力が鍛え上げられ、自分や誰かを傷つける前に声を出して「困っている」とサインを出すことができるし、それを決して恥ずかしいことではないと思えます。

どのように子供の精神的安全を提供するかを考える時、学校の先生や責任者、社会全体でそれを見直す必要性があることを忘れてはいけません。これらを考慮すると、今の日本の教育制度に子供のメンタルヘルスを維持するようなものが成り立っていないと感じます。実際に何かあってから対応するのが現状で、たくさん苦しみを抱えながら我慢している子供たちは多いです。学校教育に関わっている全体のコミュニティにメンタルヘルスの教育がないことは、我慢することを正当化し、その精神的苦痛を周りの人や自分を傷つける形で出すことや適切な対応ができないという状況を招きます。

2019年の1年間で報告されたいじめの件数は61万2460496件で、その内48万40004545件が小学校で報告されたものだ。さらに18歳以下の自殺率が毎年増加している中、日本での子供のメンタルヘルスリサーチは非常に少ない。これが原因で、児童精神医学の専門家の正式的なトレーニング制度も存在せず、子供に対応できる心理士は日本の心理士全体全体の0.025%でしかいない。

 

署名活動の目的は?

かほさん:主に二つあります。一つは、自分より若い世代のことを助けることです。学生時代の自分を思い返すとメンタルヘルスに関する知識も、自分へのリスペクトもなく、毎日ただ自分を責める日々を送っていた記憶があります。それを今学生の人やこれから学生になる人たちも味わうのかなと想像するとすごく悲しくなりました。そこで、自分にできることはないかと考え、このプロジェクトを始めました。若者が精神的に苦しみ、それが表に出なくても、自殺という道を選んでいるのも、根拠になると思っています。

精神的に苦しむタイミングの有無やタイミングは人によって異なるが、実際精神疾患を持つ人の約半分が14歳までに発症し、75%が24歳までに発症するというデータがある統計上には表れない葛藤や苦しみを抱えている人たち(精神病と診断されないような人たち)も含めるとその数字はより大きいと考えることができる。さらに、この15歳から34歳の最も大きな死因が自殺である国はG7プラス加盟国の中で日本だ。
 

もう一つの理由が、メンタルヘルスリテラシーの低さを集団や社会の問題として捉えることです。先ほどもお話しした通り、メンタルヘルスの問題は個人の問題ではなく社会の問題です。この社会問題をどのように解決するか考えると、やっぱり誰しもが受ける義務教育過程が最適だと考えています。

 

何人の署名が目標なのでしょうか。また、集まった署名はどこに提出されるのでしょうか。

かほさん:元々5000人を目指していましたが、もう既に達成し、現在は8500人に到達するぐらいです。より多くの署名を集めたいです。1万人くらい集まれば、文部科学省文部科学大臣に届ける予定です。

メンタルヘルスと道徳教育の矛盾

道徳教育のように、既に心に関する教育は日本の義務教育はあると思うのですが、今の教育では何が問題なのでしょうか。

エミリーさん:現在メンタルヘルス教育として最も近いと言われる道徳教育についてお話します。道徳教育の目的はより良く生きるための基盤となる道徳性を養うことです。しかし、その目標に向かって全く進んでいないことがデータから分かります。

国立青少年教育振興機構の調査では高校生の74%が自分が駄目な人間だと思うことがあると答えている。他国と比較すると、韓国では35%、中国は56%、アメリカは45%とかなりの差があった。去年のユニセフの調査では、子供の精神的幸福感が先進国38カ国中37位でワースト2位だった。
 

エミリーさん:日本の道徳教育に関して気になった点が大きく三つあります。

① 心の状態と行動の関係性が考慮されていない点

② ◯×(まるばつ)感覚で人間の根本的な価値を評価するような表現が多い点

③ 道徳の中でも矛盾がある点

①と②には深い関係があります。心、身体、行動に深い繋がりや相互作用があるという視点から、この繋がりを理解していないと、「行動=その人自身」だという解釈をしてしまいます。

しかし、人にはEmotional regulation(エモーショナルレギュレーション)という感情をコントロールする能力があり、人によって能力の差があります。

Emotional regulation(エモーショナルレギュレーション):感情を意識できること、受け入れられること、理解できること、それに対し適切な行動を取れる感情管理能力のこと。自己肯定感や良好な人間関係、目標達成や協力、判断力、学力など様々なことを左右するパワフルなスキルとして認識されている。
 

現在の日本の道徳教育はこの能力の差を重視していないため、心への刺激やその刺激に適切に対応する能力がないことが好ましくないということになってしまいます。

また③「道徳の中でも矛盾がある点」についてですが、

道徳教育では、嘘をついたりごまかしたりしないことや、正直でいること、真実を大事にすることが結果的に強調される一方で、わがままをしないこと、明るくいること、みんなのために働くことやくじけずに頑張ることが書かれています。本来は、人間に心理的な欲求があることは自然なことで、わがままをしないことや常に明るくいることで周りを満たすことを優先することだったり、その限界を無視することは自分自身の感情を否定するような行為として認識できます。

つまり、人間として認めてもらうために自分にも周りにも嘘をつき、本当の心の状態を抑圧している状態を道徳が進めていると認識できます。個人の素直な心を大事にしながら集団の調和を大事にでき、自分の精神的幸福感を優先しながら、偽物ではない心からの社会貢献をすることも可能であると私は考えているからこそ、周りを心から大事にするために精神的幸福感は欠かせなと思うので、このような矛盾を見直す必要があります。

 

メンタルヘルスリテラシー教育には、どのようなメリットがあるのでしょうか。

かほさん:具体的に三つあります。一つ目が、心の健康は身体的な健康と同じぐらい重要だという意識を高めることで、心の健康維持の必要性や知識を深められるという点です。

二つ目が、健康維持に必要な知識を持つことによって、自分の性質やメンタルの状況を客観的に理解できるようになるというメリットです

そして、自身の状態を理解できると、もし不調があった時に正しく助けを求められるようになります。これが三つ目のメリットです。それによって精神疾患の早期発見や早期対応にも繋がるだけでなく、知識があるので、精神疾患に対する偏見も改善すると言えます。

 
 1. 心の健康に対する意識を高めることで、心の健康維持の必要性や知識を深められる
2. 自分の性質やメンタルの状況を客観的に理解できるようになる
3. 自身の状態を理解できると、もし不調があった時に正しく助けを求められる
 

 

これらのメリットと道徳は共存できるのでしょうか。

かほさん:この三つのメリットは道徳教育に補足できると考えています。どうして心の健康が大事なのか、自分の答えを持っておくために教育が必要だと思っています。それを知っておかないと、心の健康を気にかける気にならないですよね。なぜそれが大事なのか理解していないと、やる意味が分からないですよね。そのため、その答えは人それぞれ多様でいいので、それを見つけるための情報や知識を教えることが大事だと思ってます。

 

みんなに知ってほしいメンタルヘルスリテラシー

プロジェクトをどんな人に届けたいですか。

エミリーさん:メンタルヘルスを必要としている人、そうでない人、とにかくみんなに知ってほしいです。ポッドキャストで毎週話してることは一般的な共通認識として成立してほしい情報ばかりなので、より多くの人に届いてほしいなと思います。

 

やりがいや嬉しいことを教えてください。

エミリーさん:プロジェクトがこんなに早く多くの人の注目を集めるとは想像もしていませんでした。始めてから2ヶ月で8000人くらいの多くの共感や応援の声、アドバイス等もいただきました。私たちが強く信じてきたビジョンは二人だけが持ってるものではなく、今の社会に必要とさされている改革だと確信持てるようになり、二人が頑張っているというより、社会一体となっていい方向に向かってる感覚があり、それが何より嬉しいです。

私たちはまだまだまだ勉強する必要があり、まだまだ壁があると感じていますが、乗り越えている今は二人の成長が促されているように感じ、この壁を乗り越えた先に本当の意味で社会の変化をもたらす力になれると信じています。

 

お二人が活動を続けられるモチベーションは?

エミリーさん:自分のため、社会のため、自分の大事な人たちのため、全員のためにやっています。人生で起きる様々な出来事を予想もコントロールもできないけど、それに対して、メンタルヘルスの土台がしっかりしているかどうかで、命まで関わるので、正しい教育を通して誰もが望む心理的幸福感や心の安心が特権ではなく、全ての人が持つことができる社会になることを信じています。

そして、今の子供たちだけでなく、将来の子供たちもちゃんと生きててよかったと堂々と言えるように、自分の心を大事にできるように、自分の信念に従って選択をしていいと思えるように、頑張りたいです。今までの自分のために頑張りたくて、過去の自分にも希望を与えたいし、一人じゃない、声を出せば誰かに届くはず、と自分に見せられるように、どんどんアクションしたいです。

 

プロジェクトを通して実現したい社会はどんなものですか。

かほさん:セルフケアを行うことが当たり前の社会です。体調が悪いときに休めたり、健康診断に行くのと同じように心の健康も定期的なケア対象の対象にちゃんとなったりするような。

 

大学生を含めた若者にメッセージをお願いします。

エミリーさん:コロナ禍に入ってから多くの人が孤独や苦労を経験したと思います。自分の苦労を認めることは勇気が必要かもしれませんが、自分がちゃんと頑張っていることを認めてほしいです。人間である以上、それには価値があります。何もできない時に罪悪感を持ったことがある人もいるのではないでしょうか。他人から期待されてることではなく、一人の人間としての価値を認識してほしいです。自分が1人だと孤独を感じるときがあっても、絶対に一人じゃないし、私はみんなのことを直接知らなくても、本当に一人一人の幸せを願っている味方だと思って欲しいです。

かほさん:私が大学生のとき、自分が考えていることやしたいことを価値があるものだと思っていませんでした。でもそれは違うと言いたいです。一人一人の声がすごく大事だと思うから、みんなの自分の意見を大事にしてほしい。誰にでもできることがあるので、なんでも実践してみてほしいです。隣の人に優しくするとか、誰かを笑顔にするとか、それだけで十分なので、何かを小さいことからでも始めて欲しいです。そういうみんなのアクションがすごく大切だということを伝えたいです。

ーありがとうございました。

 

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編集後記
メンタルヘルスの重要性を幼少期から知っておく必要があったな、と強く感じながら取材をさせていただきました。
過去を振り返ってみると、私自身、幼少期を海外で過ごした経験や思春期の影響などで、どうしても孤独を感じてしまう時、自分自身にイライラしてしまう時がありました。大学生になった今では、自分のメンタルヘルスをうまくコントロールできるようになりましたが。
ケアの方法を小さい頃から知っていれば、心に余裕を持てて、もっと自分自身にも周りにも優しく振る舞えていたような気がします。
日本では、学校でも家庭内でも「人に迷惑をかけることはいけないことだ」と教わります。しかし、生きている限り人に迷惑をかけてしまうのは当然のことです。それを分かっていながらも「迷惑をかける=ダメなこと」と教わってしまっては、我慢せざるを得ない風潮が生まれるし、それによって我慢をする人が出てきてしまうと思います。
自分の首を絞めずにいることで、周りにもその優しさを共有できるということが当たり前になったら良いなと思います。
「こころのyoridokoro」の活動がより多くの人に届くことを心から願います。

 

 

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