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【宇宙開発は、誰だってできる!?】趣味で宇宙を目指す熱いサラリーマンにインタビュー/リーマンサット・プロジェクト

好きなことがある。やってみたいことだってある。

でも、仕事にできるほど知識はないし、やれるかどうかも分からない。

そんな悩みを持ったことはありませんか?

私自身、宇宙に興味があるものの、専門分野も違えば大した知識もありません。けれど将来、自分がどんな道に進むとしても、何かの形で宇宙開発に携わりたい。そんな思いを抱えている時に出会ったのがリーマンサット・プロジェクトでした。

リーマンサット・プロジェクトとは?
普段は宇宙開発に携わっていないサラリーマンや学生が、趣味として宇宙開発を行う民間宇宙開発団体。「誰でも、いつからでもできる宇宙開発」というメッセージを発信し、宇宙ポストや人工衛星の開発などを進めている。>リーマンサット・プロジェクトのHP:https://www.rymansat.com
 

 

リーマンサット・プロジェクトの「趣味ですか?『宇宙開発』ですかね…。」というコンセプトに惹かれ、団体設立者である大谷和敬さんに取材依頼をしたところ、快諾いただきました。「やってみたいことがあるなら、とりあえずやってみる」そんな熱い精神で宇宙開発を盛り上げるリーマンサット・プロジェクトの活動や設立者としての想いをお聞きします。

大谷 和敬(おおたに かずたか)さん
ファウンダー / 一般社団法人リーマンサットスペーシズ理事。リーマンサット・プロジェクトを設立。普段は画像処理のソフトウェア会社に海外ライセンス営業として勤務している。
 

 

団体設立時について

−居酒屋で宇宙開発の話題が挙がったことが設立の始まりだったそうですが、実際に団体として活動を始めようと決意したきっかけを教えてください。

居酒屋にいた5人のメンバーで宇宙開発の話題になった時、自分たちでも何か面白いことが出来そうなものはないかと考えていたんです。設立当時、宇宙開発に関わる勉強会をやっている団体はたくさんあったのですが、実際に物を作ってるところはあまりなく、自分たちは開発に携わるようなことをしたいと話していました。具体的な行動という意味で活動しようと決めた経緯は「Maker Faire」という物づくりの展示会に出展したことです。とは言え、当時はまだ何も出品する物がなかったので、「宇宙開発に興味があるけど本業でなかなかできない人たちで集まって、人工衛星を作りませんか」と呼びかけるポストカードを配っていました。これが最初のアクションですね。この時から僕たちのプロジェクトに呼応する人に沢山巡り逢え「本当にやろう」と決意しました。

「Maker Faire Tokyo 2014」での展示の様子

−人工衛星の開発から始めようとしたことに理由はあるんですか?

当時すでに海外や日本の大学が人工衛星を打ち上げていて、これなら専門知識がない社会人でも開発できるんじゃないかと思ったんです。日本の大学ではキューブサットという日本発祥の小型の人工衛星が打ち上げられていたので、最初は自分たちもキューブサットを作ろうと決めました。

自撮り衛星「RSP-01」コンセプトモデル

−宇宙の専門知識を持たないメンバーが集まって始まったプロジェクトとのことですが、知識の収集や宇宙開発を始める上で苦労したこと、大変だったことは何でしたか?

大学の教授が書かれた人工衛星の本を読むところから始めたんですけど、エンジニアの方じゃないと全然ピンとこない内容で、僕は半分くらい読んで挫折しました。あと、宇宙開発に関することって、本のように目に見える情報よりも実際に衛星開発をした経験に基づく知恵のような目に見えない情報の方がかなり多かったんです。そこが厄介で、本当に悩みましたね。なので、人工衛星を打ち上げた大学の先生に話を聞きに行ったこともありました。

−設立当初はリーマンサットをどんな団体にしていきたいとお考えでしたか?

集合知で勝負できる団体にしたいと思ってましたね。最初の5人のメンバーで本読んで簡単に人工衛星打ち上がったら多分誰でも打ち上げられるじゃないですか。だから、自動車関係や航空関係を本業にしてる方、溶接職人さんの知恵を借りて開発を進めていこうと思ったんです。様々な分野のプロフェッショナルの人たちの創意工夫と専門知識をまとめて、それを活かせるような団体にしたいなと。結構、神様的な人が団体に入ってきてくれるんですよ。「こういうのやりたいよね」っていうと「僕これ本業でやってますよ」とか「私これ出来ます」みたいな人がたくさんいて(笑)。本当に助かっています。 

活動風景

 

リーマンサットでの活動について

−宇宙開発と聞くと、まだ理系の専門分野であるイメージが強く、文系の学生には特に馴染みがないように感じます。そういった人たちにも「誰でも、いつからでもできる宇宙開発」というメッセージを届けるためには、何が必要だとお考えですか。

大きく分けて2つあると思います。

1つ目はデザイン。展示会で配ったポストカードのように、デザインの力は団体の世界観を示す旗印になるので、すごく強いと思います。

2つ目はインターフェース。これは間口をどう広げるかということですね。僕はリーマンサットに参加された方によくこう言うんです。「『趣味は宇宙開発です』って周りに言いふらしてみてください」と。まず初めに自分自身で好きなものをちゃんと外に発信するんです。そうやって友達や家族に話すことで、このプロジェクトや宇宙開発のことを知る人が増えるという仕組みです。天文系のイベントに参加してみるのも、入り口としては良いですね。宇宙開発って結構マニアックなイメージがあるので、もっとフランクに誰でもできることを広めていくことが重要だと思います。実際、今リーマンサットの中には女子高生や70代の方もいるんですよ。会社の役員クラスや引退された方と、20代前半の子たちが一緒に物づくりしてる姿は見ていて楽しいですね。

「宇宙ポスト」コスモプラネタリウム渋谷イベントにて

−本業とリーマンサットの活動を両立させるために心がけていることは何でしょうか?

本業があってこその趣味や副業だと思うので、まず本業でちゃんと仕事することを大事にしています。一番肝心なのがタイムマネジメントですね。団体設立当初はメンバーも少なく、土日が全部リーマンサットの予定で埋まってしまって、これではまずいと思ったんです。なので、時間の使い方を工夫しようと考えました。深夜にオンラインでミーティングしたり、プロジェクトの方針を電車の移動時間で考えたりしました。朝起きてから一定の時間をとって、自分の中でブレインストーミングもしてましたね。両立に関してはタイムマネジメントが一番難しいです。

−両立が大変だと感じたことはありますか?

大変だと感じますし、しんどいなと思う時もあります。ただ、1人で活動していないところが大きな支えになっていますね。現在、団体には1000人弱のメンバーがいます。体調不良の時や結婚、出産などでメンバーのライフステージが変わっても、その人の分をメンバー同士で補い合えるんです。それが嫌味なく自然にできる状況を作れるかどうかが重要で、僕たちの団体はそれがしっかりできているなと感じますね。これはチームとしての成熟度によって変わってくると思います。

−活動をしていてやりがいを感じるのはどんな時ですか?

やりがいというか、人工衛星が打ち上がった瞬間はやっぱり感無量でしたね。一番最初の衛星を打ち上げた時は種子島でその様子を見てたんですけど、言葉にならない感情が込み上げてきました。団体の1つの目的として、自分たちが関与した衛星を宇宙に届けることをずっと思い描いてやっていたので。満点の星空の中、深夜の3時にロケットの火が点火されて打ち上がっていく瞬間は感動しましたね。僕の隣でそれを見ていた大学生の子が泣いていて、それも印象的でした。「いやでもお前この制作関わってなかっただろ!」ってツッコミ入れたくなりましたけど(笑)。でもそれぐらい衝撃的だったみたいで、今後制作に関わりたいと言ってくれて。その当時学生だった子たちが今は社会人になって、チームでリーダーやってるのも感慨深いですね。

種子島で打ち上げを待つメンバー
自撮り衛星が撮影した自撮り写真

あと、メンバー間で奇想天外なものが出てくるのも密かなやりがいです。定例会で、自分の好きなことを喋っていく「なんでもプレゼンテーション」というのをやってるんですけど、そこで突拍子もないアイデアがいっぱい出てくるんですよ。新しく参加してくださった方の話を聞いてると自分の頭からは出てこないような発想ばかりで、聞いていてとても面白いですね。

−宇宙にあまり関連のないことやメンバーとの関係性が宇宙開発に繋がることもあるんですか?

ありますね。むしろリーマンサットでは「身近なことを宇宙に繋ぐ」という心情を大事にしているんです。身近にあることやコミュニティに対する感受性が非常に重要だと感じていて。少し前にアメリカの女性の宇宙飛行士さんの記事を見て、その方が「私はこの世で2番目に難しい仕事を成し遂げた」と話していたんですね。それが宇宙飛行士。で、1番難しいのは育児だとコメントしてて、その感性がすごく好きだったんです。身近なことをきちんとやれない人間が宇宙に行っても何も成し遂げられないでしょって言ってるようにも聞こえて。だから、団体の中で家族以外に身近な仲間を作って欲しいんです。その関係性こそが宇宙開発や先端技術の開発の原動力になると思うから。実際に団体の中で結婚したメンバーがいたり、何年も活動しているうちに学生が社会人になっていたりと、成長過程をお互いに見ることができて、自分自身も成長していきたいと思えるんですよ。成長していく段階で、問題にぶつかることが絶対にあると思うんですけど、そんな時に親や友達以外にも相談できる場所があるのはすごく心強いですね。そうやってコミュニケーションをとって、お互いを知っているからこそ開発にも精が出るんだと思います。いいものを作ろうと力を結集していく姿は、いつの時代も変わらないと感じますね。

メンバー集合写真

−リーマンサットでの活動が本業に活かされたと感じたこと、また本業がリーマンサットの活動に活かされたと感じたことは何ですか?

リーマンサットを通じて、視野が広くなりました。リーマンサットは本業の分野に囚われずに活動ができるので、エンジニアの方がポスターのデザインを考えたり、広報や企画の方が衛星の運用に携わることもできるんです。普段と違う立場になったことで、気づきや尊重心が生まれるんですよね。エンジニアの方は自分の作った物をお金に変えることの難しさに気づき、広報の方は物を作ることは簡単じゃないと実感する。リーマンサットの中で様々な分野の方の視野、視点、視座を知ることができたのは最大の財産であり、本業で人と接する時の対応の仕方が明らかに変わりました。

本業がリーマンサットに活かされたことは技術者の心情を理解できるところですね。僕は普段AI関連のソフトウェア会社に勤めているので、技術者の方と一緒に仕事をすることが多いんです。そういった方達のこだわりやプライドを知った上で今の活動をやっていることはとても大きいと思います。様々な分野の関係者を繋ぎ合わせて結果を出す方法も本業で学ばせていただきました。

−大谷さんは活動をする中で、人に興味を持つことを大切にされているように感じます。その大切さに気づいた出来事や大切にしようと思うようになったきっかけは何だったのでしょうか。

僕は一人旅が好きで、元々バックパッカーだったんですよ。世界各地を旅したんですけど、どこに行ってもトラブルは付き物で。でも、そんな時に必ず助けてくれる人がいたんです。印象的だったのは、ニューメキシコで道に迷って荒野に置き去りにされた時、ハーレーダビッドソンに乗った強面の人たちが道を教えてくれたことですね。そういった困難な状況に置かれた時に救ってもらえたことで、人にありがたいと思う心を持ち続けたいなと思うようになりました

リーマンサットの活動も同じで、誰かが何かを思って行動で示してくれたり言ってくれたりする時、そこには何かありがたい意味があると思っているんです。それをしっかり受け止めたいですね。相手にとっては些細な言葉や行動だったかもしれないけど、自分にとってはすごくありがたいと感じることって結構あると思うんですよ。そういうことに対してまず自分が感受性を持つことが重要だと思います。

−キューブサット、探査ローバーの開発、宇宙ポストなど、様々な取り組みを行っていらっしゃいますが、今後開発に挑戦したいものや抱負、目標などを教えてください。

開発したいものは探査機です。自分たちの作った探査機で、誰も見たことのない形の小惑星を撮影できたら楽しいだろうなと思いますね。目標は、リーマンサットのコミュニティがJAXAや国内外の宇宙開発企業に入りたいと思っている人たちにとっての1つの土壌になることです。将来宇宙開発のエンジニアや宇宙飛行士になりたい人が気軽に団体に入ってきてくれると嬉しいです。また、今後はさらに色々な分野の方にメンバーに加わって頂き、ゆくゆくはアジア最大の宇宙開発団体になっていったらいいなと思ってます。

「RSP-01」フライトモデル(アームを展開したところ)

学生時代について

−大学生の時に力を入れていたことや活動は何ですか?

僕は大学時代にESS(​​English Speaking Society)という英語サークルに入っていて、その運営に力を入れていました

あとは3年生の時に入った研究室で恩師の先生と出会い、その方のツテで北海道の釧路湿原に行って研究もしていました。そこで勉強することの楽しさに気づいて、アメリカの大学院へ進むきっかけにもなりました。宇宙開発に興味を持ったのもアメリカに行った時です。現地でロケットの打ち上げ大会をやっていたんですけど、授業の合間を縫ってそのイベントのボランティアを手伝っていました。それがリーマンサット立ち上げの最初のモチベーションにもなりましたね。

−学生時代にやっておけば良かったなと思うことはありますか?

全くないですね。むしろやりたいことは全部やり尽くしたんじゃないかと思います。だから大学生時代に戻りたいと思うこともなくて。今が楽しいです。

−進路選択に悩む大学生に向けてメッセージをお願いいたします。

大学生から社会人になる最初の入り口は、唯一余計な条件を考えなくていい時だと思うんです。条件というのは年収や職場の環境、待遇などのこと。それを考えるよりも、自分が本当に面白いと思えることを大切にして進路選択をして欲しいです。そのためには、今まで自分が歩んできた道を振り返ることが重要だと思います。おすすめは現時点から±10歳の自分を想像して、頭の中で協議をしてみることです。過去や未来の自分と対話をして、自分が本当にやりたかったことや憧れていたものを見つけてください。自分の天職を見つけられるのは、きちんと自分を振り返っていて、将来の指針が見えている人だと思います。

また、将来絶対になりたくないと思う自分や周りの反面教師を起点にして、そうならないための進路、方針を決めて行動するのもいいと思います。やりたいことや理想は環境に左右され、漠然としていますが、逆にこうはなりたくないと思う像は明確に想像することができるので、自分の未来や行動に繋がると思います。

−取材は以上です。大谷さん、ありがとうございました。

編集後記

大谷さんにお話を伺っていると、本業や人との繋がり、そして感謝といった身近なものを本当に大切にされていることが伝わってきました。身近なことができない人が宇宙に行っても仕方がないという言葉には、はっとさせられました。そういった意味でも、今や宇宙は手の届かないところに存在するものではなく、私たちにとってとても近くにある存在のように感じます。また、リーマンサット・プロジェクトを江戸時代の長屋のような存在にしたいという大谷さんの想いが印象的でした。チームのみんなで支え合って、メンバーを思いやることが宇宙に繋がっていく。そんな素敵な心情を持った団体にインタビューをさせていただくことができ、幸せに思います。今回はお忙しい中、取材をお引き受けいただきありがとうございました。リーマンサット・プロジェクトの活動に、文系、理系、職種、年齢、性別の制限は一切ありません!宇宙開発に興味を持った方は、是非参加されてみてはいかがでしょうか。

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