金融市場 波乱の幕開け
(1月4日(金)、5日(土)日本経済新聞掲載)
2日、アップル社は2018年10月〜12月の売上高が当初予想より5〜10%低い840億ドル(約9兆円)にとどまる見込みと発表した。アップル社は慎重な見通しを立てていたはずであるのに、下方修正した(当初よりも少なく設定した)という点で異例であった。加えて、中国の景気減速、スマホの需要が減ることへの懸念が高まったため、市場では投資家の投資心理が急速に悪化。安全性が高い米国債の買いに動いた。この流れで、同様に安全性が高いとされる円に資金が流入した。
円の価値が急上昇した他の理由としては、年始で商売に活気がなかったこと、アルゴリズム取引(※)があげられる。
※アルゴリズム取引…外国為替市場や株式市場で、あらかじめ定めた条件に従ってコンピュータプログラムが自動で売買のタイミングを決めて注文を繰り返す取引のこと。トレンドに追随して淡々と売買を繰り返すため、人による取引に比べ、売買が高速になる。
目次
前提知識
・世界経済悪化に対する、市場の懸念の高まり
昨年12月頃から、円高基調への転換の兆しがあった。欧州や中国では18年後半から景気が減速しつつあった。米経済が堅調さを維持していたが、年末にかけて米経済や米金融政策への不透明感が強まり、投資家がドル売りに転じた。
・リスクに敏感になった、世界の投資マネーの動き
3日発表の、12月の米サプライマネジメント協会(ISM)製造業景況感指数は、金融危機直後以来の悪化幅である。投資家は世界景気が後退に向かうとの不安を強めた、といえる。
つまり今、市場の動きに対応した政策に関心が集まっています。
加えて、国際商品の不安定さを私たちは再認識しなければなりません。
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ポイント① なぜ米アップルの業績が下方修正されたのか
中国での苦戦に加え、先進国での買い替えが滞るなどアップル固有の理由も見え隠れしていますが、アップル社ティム・クック最高経営責任者は中国の景気要因を強調しています。景気減速の要因には、米中の緊張を挙げています。米国との貿易関係の悪化に起因する、中国経済の減速です。
スマホ市場とアップルの減速は、部品や設備を供給してきた日本やアジアの企業にとっても打撃といえるでしょう。
ポイント② 影響は各市場に現れている
例えば大型ハイテク株。米フェイスブック株、米アマゾン・ドット・コム株、米アルファベット(グーグル)株は揃って前日比3%安で取引を終えました。
4日の東京市場では、スマホ関連銘柄が総崩れ。村田製作所は約2年2か月ぶりの安値水準を示し、他にもローム、TDKも大幅に下げています。中国関連ではコマツ、日立建機、ユニ・チャームなど消費関連も売られています。
ポイント③ 中国の現状
中国は今、個人消費が振るいません。スマホだけでなく、自動車販売も大幅な減少が続いています。原因として、次の2点が挙げられます。
1. 2015年の景気対策の反動
2015年、上海株式相場の急落や、人民元切り下げがもたらした市場不安を抑えるため、大都市で住宅ローンの融資基準を緩め、地方都市では低所得者に立ち退き費用として現金を渡してマンションを買わせました。マンション価格は2年で5割以上上昇し、資産価格の高騰が消費を刺激しました。
しかし、バブルを懸念した当局が引き締めに転じたのです。結果、北京の2018年11月の小売売上高は2.8%減と4年9か月ぶりの前年割れとなってしまいました。
2. 貿易戦争
株価は急落し、民間企業の資金繰りも悪化。リストラの波が押し寄せています。
中国は、不十分な公的社会保障を整備して、消費者の生活不安を和らげる必要があります。
ポイント④ 日本について考えられること
日経平均株価は、1年前と比べて4千円近く安い水準となりました。アップルの売上高予想の下方修正や米製造業の景況感悪化が、投資家心理に影を落とした結果です。
最近の円高進行は、世界の成長率減速という現実を金融市場が織り込み始めた表れであると言えます。安全通貨と位置付けられる円は、米経済や米金利サイクルの変調を背景に好んで選ばれるとも考えられます。
2018年1月5日時点でのまとめは以上です。当記事は大学生向けに必要な情報をわかりやすくまとめたものです。
参考
日本経済新聞
2018年1月4日 朝刊、夕刊
1月5日 朝刊
大学生向け新聞解説シリーズ
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