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翻訳家・藤田麗子さんインタビュー 『大丈夫じゃないのに大丈夫なふりをした』すべての“疲れた人”に寄り添う優しい訳文が生まれるまで

ストレス社会を生きるすべての人に、優しく温かい言葉で寄り添う韓国エッセイ『大丈夫じゃないのに大丈夫なふりをした』

「BTSおすすめの作家」として話題の韓国人気作家・クルベウさんのエッセイ集で、日本でも17刷18万部(電子書籍を含む/2023年4月時点) を超えるベストセラーとなっています。

この書籍の日本語訳を担当されたのが、翻訳家の藤田麗子さん。

疲れた心にじんわりと沁みる著者の言葉をどう日本語に落とし込んでいかれたのか。素敵な翻訳が生まれるまでの過程をお聞きしました。

プロフィール

藤田麗子(ふじたれいこ)さん https://fujitareiko.themedia.jp/

 
中央大学文学部社会学科卒業後、編集プロダクション、韓国エンターテインメント雑誌『HOT CHILI PAPER』編集部、医学書出版社勤務を経て、2009 年よりフリーライターとして活動。
 
2019年、第2回「日本語で読みたい韓国の本 翻訳コンクール」にて『宣陵散策』で最優秀賞を受賞。訳書に『大丈夫じゃないのに大丈夫なふりをした』(ダイヤモンド社)、『簡単なことではないけれど大丈夫な人になりたい』(大和書房)等がある。

 

 『大丈夫じゃないのに大丈夫なふりをした』翻訳エピソード

ーどのような経緯で、この書籍の翻訳を担当することになったのでしょうか。

日本語で読みたい韓国の本 翻訳コンクール」という大会に応募をして賞をいただいたのが、書籍翻訳の仕事をすることとなったきっかけです。

そこからクオン*さん経由で、私のメールアドレスの方にダイヤモンド社の方から連絡をいただき、『大丈夫じゃないのに大丈夫なふりをした』の翻訳を担当することとなりました。

クオン…「日本語で読みたい韓国の本 翻訳コンクール」を主催している出版社。韓国小説の翻訳、編集、出版などを手掛けている。

 

 

ー翻訳の際に心掛けていたことはありますか。

原文のタッチや作家さんの味をどう生かすかを気にしつつ、素直に直訳して意味が通じる箇所も、日本語として違和感がないように細かく調整をしながら訳していきました。

また、韓国の書き物は比較的繰り返しの表現が多めという特徴があります。それを削り過ぎず、しつこくならないようにというのは少し気を付けたかもしれません。主張が何回か繰り返されていたり、1文の中に同じ単語が数回登場したりするので…。

ただ、例えば励ましのメッセージなど、何回も繰り返し言ってもらえる感じが良いという箇所もあるので、編集者の方とも相談をしながら調節していきました。

 

ー本書を拝読した際、表現の柔らかさや優しい語感に心がじんわりと温かくなるのを感じました。日本語の表現を選び取るに当たって工夫されたことはありますか。

私は最初にある程度わーっと訳してから、「寝かせる期間」を少し置くようにしています。

後から見ると1番最初に作った訳は少し硬めだったり、「なんでこんな不自然な言葉を使ったんだろう…」と思う箇所があったりするので、訳して寝かせてを繰り返しながら言葉を当てはめていくようにしました。

今読むと「あ、ここちょっとこうしたいな」と思うところもありますし、言葉って100%の正解はないので、それが面白くもあり怖いな…というのは翻訳の仕事をしていて感じるところですね。

 

ー翻訳作業にかかった時間はどのくらいでしたか。

原稿自体は、2ヶ月強で翻訳をして納品したと思います。そこから結構長く編集・校正の作業をして頂いたという感じです。

実は原作には1章2章といった章立てはなく、詩集のようにタイトルと短い作品がずらっと並んでいる形でした。

それを編集者の方が、「仕事」「恋愛」といったようにエピソードごとに作品を分類して5章立てにしたり、福田利之さんの可愛いイラストで日本語版用に新たな装丁が作られたり。

編集者さんやデザイナーの方々の力量と工夫が合わさって、日本でもすごく売れる本になったのかなと感じますね。

 

ー本書の翻訳をしながら、ご自分の体験と重なって心に響いた言葉などあれば教えていただきたいです。

144ページの「自分の幸せを他人によって満たそうとしてはいけない。」という言葉です。

例えば「旅行」という楽しみを計画してその日に向かって頑張る。といったように、周りに関係なく自分の中での計画や楽しみがある人って全然振り回されないし確かにいつも楽しそうに頑張っているなと気付かされました。

この本に書いてあることって、「今まで全く聞いたことがない」ものではないけれど、改めて読むと「あ、確かにそうだな」と気付かされるものが多い気がしますね。

 「疲れた心が癒される」韓国エッセイの魅力とは?

藤田さんがこれまでに翻訳された書籍


ーこれまで様々な韓国エッセイ本を翻訳されてきた藤田さんの思う、「韓国エッセイ本」の魅力をお伺いしたいです。

Instagramに載せたくなるような装丁の可愛さや、読みやすさが若い世代の間で流行っている理由としてあるのかなと思います。

特にSNS発のエッセイだと、文字量も多すぎず、共感できる言葉がたくさん詰まっているので支持されやすいのかなと感じますね。

あとは、占いみたいな感じもちょっとあるのかなと私は思っていて。何月何日は良くない日とか、そういうことが知りたいわけじゃなくて、自分を奮い立たせて頑張るための言葉が何か欲しくて読む人が多いのかなと…。

 

ーすごくわかります…!私も良い結果が書いてある占いを探しまわったりしてしまうので…(笑)

思うのは、やっぱり日本も韓国もちょっとみんな疲れているのかなと…。

前向きになれる言葉が欲しいけど、でも本当に疲れている時には、文字もあまり読む気になれないと思うんです。

そういった時に、頭から読まなくても、開いたところから気軽に読めるような韓国エッセイがぴったりなのかなと思いますね。

 

ー藤田さんが、日頃ご自身のメンタルヘルスのために何か心掛けていることはありますか。

ちょっと動く、というのは心掛けています。コロナ禍になってからは特に、散歩に行くことが増えました。

それこそ翻訳の仕事が煮詰まってきたときは、ちょっと机から離れた方がポンと言葉が浮かんできたりもするので…。

あとは、新しいものを見たり新しい道を通ると、脳が活性化されて気分が上がるそうなので、なるべく道を変えて歩くようにもしています(笑)

 

ー最後に、この記事を読んでいる学生の方へ向けて何かメッセージをお願いします。

翻訳の仕事をしながら感じるのは、本当に色々なことが役に立つということです。

例えば昔に読んだ本や見た映画、20代の頃に仕事で携わった本の知識、そういったものが色々な書籍の翻訳をする上で役に立って、あの時の経験が今ここで繋がってきたかと思わされるときが良くあります。

「なんでこんなことをしているんだろう…」と思う日もあるかもしれないけれど、それもどこかで役立つときがあると思うので、一つ一つの経験を大切にして貰えたらなと思います。

ーありがとうございました!

 編集後記

頑張っても頑張っても報われない…。不安や心配に押しつぶされてしまいそう…。

そんなとき、この本をパラパラとめくると、優しく温かい著者のエールに鬱々とした気持ちが少しずつ和らいでいくのを感じます。

個人的な愛読書でもあったので、今回翻訳の裏側をたっぷりとお聞きすることができて感無量でした。

心の処方箋のような素敵な一冊ですので、みなさんもぜひ手に取ってみてくださいね!

ガクセイ基地取材記事

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airi-sakima

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