皆さん、海外旅行は好きですか?
では、海外の政治や経済、教育などどれくらい知っていますか?
情報があふれかえっている現代、自分から情報を得なければいけません。
「ニュースというとなんだか難しそう」
「どうせ知らなくても今楽しいからいいじゃん」
しかし、ニュースを知ることによって人生が豊かになったり、人生選択の際に役立ったりすることもあります。
今回は国際ニュースに焦点を当てて、朝日新聞GLOBE+編集長の堀内さん、副編集長の星井さんにお話を伺いました。
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https://globe.asahi.com/
―本日はよろしくお願いします。朝日新聞の海外特派員は何名ほどいるのでしょうか。また、何カ国程で活躍されているのでしょうか。
国際報道部の特派員は主に紙面と朝日新聞デジタルに記事を書いており、人数は40人程度です。特派員の拠点は29の国と地域で全35拠点です。主要都市から紛争地域まであらゆる地域にいます。
―特派員はやはり、英語に加えて現地の言語の取得も必須なのでしょうか。
中国語や韓国語を話す特派員もいますが、全員が現地の言語を話せるわけではありません。ただ特派員は全員英語が使えるので、コミュニケーションをとる際は英語を用います。
私もイスラエルに駐在していましたが、公用語はヘブライ語とアラビア語であり、私は話せなかったので英語で取材を行っていました。
―貴社のキャリアパスはどのようになっているのですか。
記者は入社後、主に地方に拠点を置き、数年仕事をします。それから本社で勤務し、国内でしっかりと取材の技術を身に付け経験を積んでから、特派員として海外で活動します。
―特派員の海外在住期間はどれくらいなのですか。
決まりがあるわけではありませんが、3~4年の人が多いですね。
―日本で活躍する記者と海外特派員の報道の仕方や取材形式などに違いはあるのですか。
取材の形式は国内も海外も一緒ですが、海外には日本にない制約もあるので、それらに従う必要があります。また、海外では朝日新聞というメディアがそもそも知られていない国も多いため、朝日新聞とはどういうメディアかということも説明する必要があります。
大きな違いはチーム構成の有無です。国内は基本的に一人で取材をしますが、海外は地元のアシスタントや通訳など取材助手がいます。どんなに現地に長期滞在していても、安全面や生活習慣などについて、やはり地元の人からの情報を得ることが大切です。多くの人と助け合いながら取材を行っています。私自身もイラクで取材したことがありますが、地元の人からその時点での安全面などの助言を受けながら取材を行っていました。
―堀内さんはエルサレムに滞在していたとおっしゃっていましたが、そこでの勤務についてお話を伺えますか。
私がエルサレムに派遣された当時、現地では自爆テロが多く発生していました。あのころは中東和平の政治プロセスがまだ動いており、これどう発信していくかがポイントでした。しかし、2つの地域(イスラエルとパレスチナ)の対立の構図を発信するだけでは、読者には単純化された構図だけがイメージとして伝わってしまいます。単純化できない、複雑な部分をどう描くかが当時の私の課題でした。
例えばイスラエル軍について話すと、イスラエルでは18歳から兵役が義務付けられています。みんなが高い国防意識を持った国、というイメージがあるかもしれませんが、実際には兵役を避けようとする人が増えていました。このように世の中のイメージと実際のギャップをどう埋めていくかも課題でした。
―当時のエルサレムの治安と言うのはどの程度だったのですか。
バスやショッピングモール、レストランの中など様々な場所で自爆テロが多く発生していました。そのような環境の中でどう身を守るのかを常に考える必要がありました。例えば、私の場合、バスには乗らず車で移動し、バスの後ろを走らないようにしたり、レストランでは入り口から一番遠い場所に座ったりするなど、考えて行動していました。なぜなら、レストランの入り口での金属探知機で止められてそのまま自爆するケースがあるからです。
―海外で働くからこそ感じる苦労を教えてください。
難しいのは、自分が取材して聞いている話が真実かどうかをどう見分けるかです。例えば、イスラエルで自爆テロがあった時、自爆犯の親に会いに行ったことがあります。息子を自爆テロでなくすのはどういう思いがあるのかと聞いた際に、母親はいかにパレスチナが虐げられているかを訴え、息子が自爆テロで命を落としたことを誇りに思うと語っていました。しかし、取材が途切れた時、隠れて号泣しているのを見ました。海外メディアの前で見せる姿がすべてとは限りません。取材した内容が真実の姿なのか、判断するのが難しかったですね。
また、ロサンゼルス支局で勤務していた時、ちょうどアメリカ大統領選挙が行われていました。オバマ大統領が当選した2008年です。アメリカで初めて黒人大統領が生まれるという高揚感に包まれていました。しかし、人種差別の歴史など時代背景、文化が異なる日本の読者に、アメリカの高揚感をどう伝えるのかが難しかったです。海外取材の難しいところです。
―日本とはまた違った難しさがあるのですね。一方で特派員として働くことの楽しさとは何でしょうか。
責任はもちろんありますが自由というのが海外で働く特徴であり、それが楽しさだと思います。
多くの場合、広い地域を一人で担当します。何を記事にするか、その人のセンスに左右されます。私が勤務していたロサンゼルス支局の場合、取材対象はハワイ、アラスカから中米カリブ、アメリカ本土はロッキー山脈以西の地域を一人で担当していました。その中で何をニュースとして面白い記事を書くかは自由でした。日本人に楽しんでもらえるかを考えながらトピックを探すのは海外ならではの楽しみでした。
―海外に行って分かった日本のメディアの特徴とは何ですか。
報道の分量として国内の内容が多く、世界のことを報じることは少ない傾向にあると感じていました。例えばイギリスやフランスは安全交渉上の利害関係があるため、アフリカのニュースを多く取り上げています。また、アメリカは中南米について取り上げられることが多いです。
しかし、最近では日本から遠いベネズエラの情勢を写真やルポで見せるなど、どうやったら日本の読者に関心を持ってもらえるか、自分事ととらえてもらえるか、工夫を凝らしています。
―面白いネタを見つけるコツはあるのですか。
実は、コツと言うのはないのです。情報源になるのは取材先など人からの口コミ、自分が読んだり聞いたりしたものの2つが主です。また、現地メディアで報道していることをきっかけにトピックを決め、取材対象を選び、記事にすることもあります。
―学生は自分からニュースを知ろうとしないような気がします。多くの学生にニュースを知ってもらうために工夫していることはありますか。
- 何をテーマとして取り上げるか
例えば、国際ニュースは必ずしも政治・経済、外交、紛争とは限りません。例えばキャッシュレスやサスティナビリティやプラスチック問題など日本で関心がもたれているテーマで、世界ではどんな取り組みがあるのか、何かヒントになる事例などから入っていくと、日本の読者にも読んでもらえるような記事になるのではないかと考えます。食やアート、カルチャーなど身近な話題からも世界を知る切り口がたくさんあります。
- 見せ方の工夫
若者を中心にテキストよりも動画などのビジュアルを重視する傾向にあります。伝える方法として、どのやり方が一番伝わるかを考えることが大切だと考えます。新聞はテキストがメインですが、写真や動画など選択肢としてこれから広げていく必要があります。
―ビジュアルの工夫というお話がありましたが、今後、新聞はどのようになっていくのでしょうか。
購読者は減少しているのは事実ですが、新聞は今後も残していきたいですね。しかし、紙面の新聞も今の形ではなく、活性化する必要があると思います。
かつて人々は同じテレビ番組を見たり新聞を読んだりしていました。同じものを知らないと学校で話題に加われなくなる、ビジネスマンでも商談に行って取引先との話題に困るなどと言った問題がありました。
一方で、現代はネットの時代になり、好きな場所で好きなコンテンツを取り放題になりました。興味・関心は皆それぞれで、紙面だけではそれを網羅するのは難しいです。
しかし、紙面をなくすというのは欠点もあります。海外では紙の発行をやめてデジタルのみに移行したケースもありますが、今まで紙の新聞を読んでいた人がデジタル読者に移行したわけではなく、ニュースを読むこと自体をやめてしまうという調査結果もあります。そう考えると新聞は存続するべきだと思います。
―以前は共通の話題のためにニュースを知るという傾向でしたが、現代はニュースを知るメリットとは何でしょうか。
将来の人生選択においての判断材料に関わると思います。今の時代、働き方が多様になり、一流の大学に入り、大手企業に入社し定年まで勤めるのが成功コース、という時代ではなくなりました。
どう働くか、どう生きるかを一人一人が考えないといけない時代、若い人たちには情報を摂取することに対して敏感になってほしい思います。これは政治や社会情勢などハードな面だけではありません。例えば「タピオカ」というテーマからも、なぜブームが生まれたのかなど発想を広げていくことができます。
得た情報全てがただちに何か自分の役に立つものとは限りませんが、蓄積された情報や知識が結びついて、新しいアイディアが生まれます。これがニュースを知ることの大切さだと思います。そのために私たちも見せ方やコンテンツを工夫して多くの人に読まれるニュースを提供していきたいと思います。
―マスメディアの中でも時代に合った様々な工夫がなされているのですね。本日はありがとうございました。
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