江戸時代の城下町として栄え、蔵造りの街並みなど当時の景観を残す川越。
長い歴史を持つ街で2018年にオープンしたゲストハウス「ちゃぶだい」は、今日も訪れた多くの人と人を繋いでいる。今回、共同代表である西村拓也さんに「ちゃぶだい」の魅力、開業するまでの経緯やそこに込められた想いをお話していただいた。
築100年を超える古民家をリノベーションし、2018年に埼玉県川越市に開業したゲストハウス。「つながる・たのしむ・ひろがる」をコンセプトに、ゲストハウス以外にカフェやバーも営業。そのほか古本市やマーケット、英会話教室など地域の人々との関わりを通して様々なイベントを開催している。
Instagram:https://www.instagram.com/chabudai_guesthouse/
HP:https://www.chabudai-kawagoe.com/
Facebook:https://www.facebook.com/chabudaikawagoe/
埼玉県狭山市出身。慶応義塾大学卒業。人とのつながりやその場づくりに関心を持ち、約11年間大手通信企業に勤務しながら、地方創生の事業や市民大学の設立などに携わる。退職後、川越市主催のイベントをきっかけに2018年に「ちゃぶだいGuesthouse,Cafe&Bar」を開業。
目次
馴染みのある地でゲストハウスを。
ーー「ちゃぶだい」はどのような経緯でつくられたのでしょうか。
きっかけは2016年の11月に川越市主催の空き家の再生を目的とした「まちづくりキャンプ」というイベントに参加したことでした。その時に同じチームだった田中と戎谷の2人と川越にゲストハウスをつくることで意気投合しました。その後、ワークショップなどを通して「川越にどんなゲストハウスができたらいいかな〜」と模索し、最終的に紹介していただいた空き家の物件をリノベーションして2018年の11月に僕(西村)、田中、戎谷の3人が共同代表となり「ちゃぶだいGuesthouse,Cafe&Bar」をオープンしました。
ちなみに2019年開催のまちづくりキャンプのパンフレットには「ちゃぶだい」の写真が掲載されています。(写真上)
ーーもとから川越に関心があったのですか?
正直そういうわけでもなくて、川越に決めたのは「まちづくりキャンプ」がきっかけでしたね。僕は川越の高校に通ったのですが、大学を卒業してソフトバンクに就職し、約11年間経営企画に携わっている間はずっと都内にいたので、退職後に「まちづくりキャンプ」に参加したときには町の変わりように驚きました。レンタル着物屋さんができていたり、観光客も倍近く増加していたりと高校の時の印象とは全く違っていたんです。3日間にわたる「まちづくりキャンプ」の中で川越のことをよく知れたし、実際に川越の街を歩いてみるとすごく面白くて、元々地元が狭山市(川越の隣)で川越には縁があったことも相まって「ここでゲストハウスをやりたい!」という気持ちになりました。
東京にセントラルパークをつくりたい!
高校で文系理系と悩んだとき、理系だったらハード(建築や都市計画など)、文系だったらコミュニティやメディアなど何かを媒介にして人をつなぐソフト(都市社会学など)と、どちらも関係性をつくることについて学べると思ったので、科学が苦手だった僕は文系を選びました。その後慶応で、メディアコミュニケーションと都市社会学という2つのゼミに入っていました。今ほど言語化はできなかったと思いますが、学生のときからすでに場づくりや関係性のデザインに興味がありましたね。
ーーなぜソフトバンクに就職を?
就職するときに「俺は公園をつくりたい!」と思ったんです。いろんな人が出入りして自由に何かをできる場所が当時の自分の中では公園だったからです。だから就活では「いろんな人が思い思いに時間を過ごしているセントラルパークを東京にもつくりたい」と言っていました。うろ覚えですが、中央線の上を公園にしたいみたいに話してた記憶がありますね(笑)
ーーゲストハウスではないんですね。
全然違いました。でもゲストハウスもいろんな人が泊りに集まってきて交流できるという点で公園だと思っています。
西村さんが東京につくりたいと話したニューヨークのセントラルパーク。様々な人がのびのびと時間を過ごしている。
それでソフトバンクがインターネットでの新しい取り組みを始めるということだったので行ってみると、当時そこまで普及していなかったWi-Fiがこれから先空間を構築していくという話を聞きました。それも一種の公園だと思い、その空間の中で人と人がどのように繋がっていくのか興味を持ったので、最終的にソフトバンクに決めました。
ーーデジタルで構築された公園ですか。
そうですね。滑り台やブランコがある実際の公園をつくるわけではなく、人同士の繋がりの中で遊びや事業などが新たに生まれるという公園が持つ機能をどのように表現するかですね。これは僕がソフトバンクを志望した動機でもあり、今人生でやりたいことでもあります。
ゲストハウスから通勤する日々
ソフトバンクで働いている間も旅やゲストハウス、地域の仕事とかが好きだったので仕事の外で色々な活動をしていました。例えば島の交流の事業を手伝ったり、汐留大学という社会人を対象にした学校を立ち上げたり、市民大学でゲストハウスに関する講義をしました。
ーーソフトバンクで働いている頃からゲストハウスに関心があったんですね。
ありましたね。元々場づくりや関係性をつくることに興味があったんです。人同士がつながりあって、その中で新しいものが生まれてくるような場所やシステムに。だから地方創生に携わったり、レストランの学校にも行ってみたりしました。
ーーレストランの学校ですか。
そうです。レストランや居酒屋も含め、あらゆる場所で関係性がデザインされていると思うんです。ゲストハウスも同じで、ずっと自分が作りたいと思っている場所のひとつでした。
ーーなるほど、だから「ちゃぶだい」では宿に限らずカフェやバーなども両立されているんですね。
そうですね。あとはデザインの学校に通って「自分は手を動かすより企画のほうが向いてるな」となったり、色々な挑戦をする中で自分のやりたいことやできることを見つけていきました。
ーー明確にゲストハウスを作ろうと決めたのはいつですか?
ソフトバンクを退職する3年前くらいに、約3カ月間ゲストハウスを転々としながら会社に行っていた時期があったんです。旅に出ないと非日常的な出会いって得られないと思っていたんですけど、ゲストハウスでは仕事から帰ってきたら旅先のような感覚を味わえることがすごく楽しくて、その時に初めて「自分でゲストハウスをやるのもありだな」と考え始めました。
ーー全く知らない人と一緒に住む空間って凄く特別な感じがしますね。
そうですね。自分とは違う人の視点や日常に出会う機会がすごく多かったです。
自分の好きを仕事にする秘訣
ーー今働くことにネガティブな印象を持っている人や就活に対して漠然と不安を抱いている学生ってとても多いと思うんです。その中でこうして自分のやりたいことを自分の力で形にできている西村さんには感服します。
ありがとうございます(笑)
でも言いたいこともすごくわかります。例えばプロ野球選手とかの凄い人って初めからやりたいことが明確で、そのために何をすればいいか分かってることが多いじゃないですか。でも僕にはそれができなくて。今こうして言語化できていることも初めは漠然としていたし、プロフェッショナルじゃないので自信も持てませんし、何ができるのか、何をすればいいのかと迷うんですよね。でもやっぱりやれることや興味のあることは片っ端からやっていって、その中で自分の得意不得意を見つけていくしかないんだなと思います。
僕は就活の時、普段絶対接しない社員と話せるなんてすごくいいチャンスだなと思って、いろんな人に話を聞いていろんな企業の面接に行ったりしてました。そんな風に就活を過ごしたので、色々な楽しい経験ができました。
ーー11年続けられた仕事を辞めることに躊躇いはありましたか?
いや、全くなかったですね。先程お話した通り仕事と両立する形で色々活動をしていたのですが、そろそろ時間を取って自分の次のステップを考えたいなと思ったのでごく自然な流れで辞めました。辞めた後のことは特に何も決めていなくて、3年間くらい海外行ったり友達に会いに行きながら次の事業を考えていけばいいかなという気持ちでした。でも辞めた次の週に「まちづくりキャンプ」に参加したので、実際にぶらぶらできたのは1年くらいで(笑)そのときは海外にいる友達に会って回ったりしました。
ーーどこでお知り合いになったんですか?
一ルームメイトや事業で関わった人など、ほんとにいろいろですね。それまで色々な興味のあることに挑戦した分、同じように興味を持っている人と仲良くなりました。あとはアメリカでスタディーツアーに一緒に参加した友達と目黒で3.4か月コーヒースタンドの立ち上げもやったりしましたね。
「ちゃぶだい」が人と人を繋ぐ
ーーそもそもなぜちゃぶ台なんですか?
ちゃぶ台というアイデアは、共同代表の一人である戎谷が考案したものです。角がないちゃぶ台では、みんなが好きな距離感で座卓を囲むことができる。「普段出会えない人と繋がって新しいものが生まれる、なおかつそれぞれの距離感で関わりながら楽しめるようなゲストハウスにしたい」という僕たちの考えを表しています。
普段は宿泊客の共有ラウンジとして利用されている。
夜になると宿泊している人がちゃぶ台の周りに集まって、出身や仕事、おすすめのお店など色々な話をしてます。この前はここに偶然集まった6人で、3月にスノボに行くと話していました。
ーー店内に飾られている金庫や電話ボックスなどの家具はどこから持ってきたものなんですか?
基本はもとからここにあったものです。ここは元々肥料の問屋さんなんですけど、金庫や電話ボックスもその時に使われていたものなんです。僕は古いものには物語があると思っていて、その強みを大事にしたかったのでなるべくここにあったものを活かしてリノベーションしました。例えば畳は壁の断熱材に、土間に敷いてあった板はやすってワックスを塗った後再び床材として使ったりと、できるだけ循環させることを心掛けました。ちなみにちゃぶ台は売りに出ていたぼろぼろのものを戎谷の旦那さんが直してくれたんです。
ーーここではものの一つ一つにたくさんの物語が詰まっているんですね。
裏庭も元々は一面が土で覆われていて、池には泥がたまっている状態でした。奥の畑が段々畑になっているのはその時の土をそっちに移動させたからです。
ちゃぶ台から見える裏庭の様子。奥には「澤口眼鏡舎」というオーダーメイドの眼鏡工房やイベントで使われる小屋がある。段々畑で毎年つくられる野菜は実際に「ちゃぶだい」のメニューにも登場するという。
リノベーションでは延べ150から200人くらいの方が参加してくれたと思います。元から関わりのある方も大勢いたので、SNSで宣伝したらみんな来てくれました。勿論近所の方もフラッと手伝いに来てくださったりと。そこも人との繋がりですね。
挑戦を支えることが地域の循環に繋がる。
ーー開業してからどのような取り組みをされてきたんですか?
あげたらきりがないんですが、例えば2年以上続けているのは「ラストサンデーマーケット」という毎月の最終日曜日に地域の農家さんに出店していただくイベントですね。その野菜をお店のメニューに取り入れてみたり、一緒にワークショップをすることもあります。半年ほど前から「ラストサンデーマーケット」に共感してくださった幾つかのお店でも同時に開催するようになり、地域の中での繋がりがどんどん増えていっています。
1月の「ラストサンデーマーケット」の様子。(「ちゃぶだい」のInstagramから)
ーーBarにもバーテンダーさんを招かれているとお聞きしました。
そうですね。バーテンダーではないんですが、日月火に間貸しで出店してもらってます。彼は27歳の時に独立して自分のお店を持ちたいと話していたので、じゃあここで色々試しながらやってみますか、という流れでした。他にも今、元々はお客さんで日本酒のイベントをやりたいという方もいますね。昼間は基本的に僕たちが営業していますが、夜は新しいことに挑戦したい人のための場になっています。いろんな方が最初のステップとして使ってくれたら嬉しいです。
店内の様子。手前の土間はカフェ利用客用のスペースで、障子(写真右)の奥には宿泊客のラウンジとして使われるちゃぶ台が置かれている。手前に積まれている本は店内で読めるだけでなく、いらない本と自由に交換することもできる。緊急事態宣言による図書館の閉鎖がきっかけで始められたという。
ーー今後挑戦したいことや計画されていることはありますか?
地域の中で循環するシステムをつくりたいですね。例えば「ラストサンデーマーケット」でお客さんが買った野菜の生ごみを回収して、コンポストとして再び農家さんに渡すとか。他にも「ちゃぶだい」での宿泊がきっかけでこの地域の魅力を知った人が、ここでシェアハウスに入居したり家を買って働き始めるとか。そういう循環するシステムを、今関わっている多くの方たちと川越の中でつくりたいです。
今は週に4. 5日は「ちゃぶだい」にいるんですけど、今年中にはそれを少し減らして、ゲストハウスの開業をしたい人のサポートや新規事業などに携わりたいと考えてます。それにいつまでも「ちゃぶだい」に僕の色がついているより、ここに来る人がいろいろやれるようにしたいなと思います。
ーー「ちゃぶだい」を訪れる人によって運営される場所ということですね。
そうです。だから何かやりたいことがある人はどんどん来てほしい。
ーー最後に、これから社会に出る大学生に対して一言お願いできますでしょうか。
興味のあることにはとにかく頭を突っ込んで試してほしいということですね。違ったら違ったで次に行けばいいけど、やらないままでいるとずっとそのことを考えてしまって迷いに繋がるし、何かに挑戦して見えてくる世界は必ずあるのでまずはやってみてほしいです。
ーーありがとうございました!
Add Comment