コロナウイルスによる経済への大打撃は、かつてのリーマンショックをも超えると言われています。
未曾有の事態によって就職氷河期が来ると言われている今、就職を控える大学生にとってこれほど不安なことはありませんね…
そんな中で我々ガクセイ基地が、かつての厳しい時を乗り越えたからこそ今の活躍に繋がっているという社会人の先輩方の明るい話題から、少しでも多くの学生が前向きな気持ちで努力する社会に変えていきたいと考えました。
今回は世界中の医療現場で期待される「バイオ3Dプリンタ」を開発し、「再生医療製品」を開発している株式会社サイフューズの代表取締役 秋枝静香さんと研究員の松林久美香さんを取材させていただきました!
*「バイオ3Dプリンタ」…患者さん自身またはiPS細胞等の細胞を使って人工血管や臓器などの体の組織を作ることができる画期的な装置。本装置の技術は、バイオプリンティング技術とも言い、この技術を用いて作製した臓器を移植することにより病気やケガで失われた臓器や組織を再生させることが期待されている。
ーー就職を控える多くの学生は将来どの道に進もうかと悩んでいます。お二人はなぜ再生医療の業界に進もうと決断されたのですか?
松林さん:大学生のころは再生医療とは少し違う分子遺伝学の研究をしていました。その頃は、再生医療ってSFの世界の話のようなまだまだ先の未来の技術で、正直言うと自分が生きているうちには実用化しないものだというイメージで近寄り難かったんです。就活中に、偶然「バイオ3Dプリンタ」を発明した中山教授にお会いしたことがきっかけでこの業界に飛び込みました。入社して初めて、既にいくつもの実用化された再生医療の製品があり開発研究が着実に進められていることを知り、とても驚きましたね。
秋枝さん:大学の時は有機化学の研究を行っており、そのあと大学院ではゲノム・遺伝子分野の研究をしていました。ご縁を頂いて今の再生医療の研究に携わることになり、ベンチャー企業を立ち上げることになりました。
ーー学生時代に専門的に学ばれたものが、必ずしも今の職業に直結するとは限らないのですね。私たち学生にも専攻科目とは違う分野で活躍できる可能性もあるということでしょうか。もし今、日本または世界の学生に声が届くなら何を一番伝えたいですか?
松林さん:「道は一本道じゃない」ということを伝えたいです。一つの商品やサービスにはたくさんの人が関わっています。これは、「○○に携わりたい!」と思った時に、様々な携わり方があるということです。もちろん自分が専門的に学んだことを活かす職業に就くことは素敵なことですし、働く中で自分の専門を伸ばすことも大切なことです。でも、やりたいことにつながる道は一本ではなく、皆さんの前にはたくさんの選択肢があるので、自分がワクワクできる道と出会えるといいですね。将来の道は360度広がっています。
ーー「将来の道は360度広がっている」という言葉が希望を与えてくれます!視野の広さは将来の可能性の大きさとも言えるかもしれません。学生の時のご経験で現在に役立っていると感じる事はありますか?
松林さん:大学の授業でシリコンバレーのスタディーツアーに参加した事です。起業家の方にお話を伺ったり、ベンチャー企業やインキュベーション施設を見学したりしました。そこで、マイクロリーダーシップやアントレプレナーシップ、アイデアから事業を実現するために他者がサポートする仕組みについて学びました。また、このスタディーツアーは様々な学部・学年の学生が参加するもので、これをきっかけに学内外にたくさんの友人ができ、友達の輪がどんどん広がりました。彼らを通して自分の専門分野外の研究について知ることができたり、新しいことに挑戦するきっかけを得たりすることができました。
ーー勉強だけではなくて学外の活動も大事だとよく聞きますが、学生時代にそういった活動を通して出会った人との繋がりが将来の可能性につながっているということは本当なのですね。再生医療の現場で人との繋がりという面では患者さんとの繋がりもやはり大切なのでしょうね。
ーー現在のお仕事で最もやりがいを感じる時を教えてください。
秋枝さん:やはり自分たちの製造した再生医療製品(細胞)が患者さまに移植された時に最もやりがいを感じます。製造期間中は、細胞のスケジュールに合わせて働いていますので毎日緊張しています。なので無事に出荷でき、移植を終えて快方に向かっているとお伺いできると、安堵感と充実感を味わうことができ、また次の仕事に向かうことができます。
松林さん:担当している製品の開発段階が一歩前進した瞬間にやりがいを感じます。例えば、細胞製人工血管を実際に患者さんに移植する臨床研究を始めた時です。プロジェクトに参加したときはまだ人工血管の作り方を模索しており、ラットなどの小さな動物に移植するのがやっとという段階でした。実用化まで程遠い段階だったのがとうとうヒトに移植するところまできた!まるで、赤子だった我が子が大学に入学したかのような感慨深さがありました。
ーーそのような素晴らしい瞬間の陰には困難も多かったかと思いますが、それらをどのように克服されましたか?
秋枝さん:毎日山あり谷あり、たまにジェットコースター並みの出来事も起こりますが、ベースは「仕事が楽しい」ので「何とか解決策があるはずだ」と思い周りの人と一緒に乗り越えることができています。社内のスタッフはもちろんのこと、社外も含め周りの皆さんにお支え頂いているお陰で、ここまで活動することが出来ていますので、本当に感謝してもしきれません。ともかくも「人」に助けられています。
ーーたくさんの困難を乗り越えてこられたお二人のこれからのさらなるご活躍が期待されますが今後の展望をお聞かせください。
松林さん:まず細胞製人工血管を実用化すること。そして、現在ターゲットとしている疾患以外の病気の患者さんにも使っていただけるように用途を広げていきたいです。また、血管以外の組織や臓器の開発にも着手していきたいです。個人的な目標としては、ジェネラルな知識と2つの専門分野を持った「π型」人材になりたいです。そのために、業界全体の市場研究や関連する法律、規制の勉強や研究分野の知識を深めるとともに、特許などの知的財産を管理する業務について勉強をしています。
秋枝さん:今の目標は「新しい道をつくる」ことです。今は道をつくるために土を耕しながら活動をしているような状況ですが、本当に様々な業界の人に支えられて、沢山の人のお力をお借りすることができて、ようやく道を舗装できそうなところまで来ています。今後たくさんの人がこの道を歩いていけるように、そして遠くまで進んでいけるように活動していきたいと考えています。みんなが幸せになるような社会・世界を創って行ければと思います。
(取材後記)
取材中に松林さんが教えてくださった「迷ったらGo!」と「過去の自分を肯定するために今がんばる」というお話が心に響きました。何か選択に直面しどちらに進もうか?進むか退くか?と迷った時は、挑戦する方の道に飛び込んでみること。そしてその選択を後悔しないために、そこでできる努力をして最大限の学びや経験を得ること。このメッセージをこれから新しい挑戦と選択をしていく者としてしっかりと受け取り、また全国の学生と共有したいと心から思いました。
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