今回はアメリカの大学シリーズ第1弾の記事で触れた、大学出願エッセイについての専門記事です。出願エッセイの指導経験豊富な鈴木菜海子先生へのインタビュー記事を掲載します。 単にエッセイについて語るというよりは、いかに自分で自分を肯定できるようになるか・自分を客観的に分析できるようになるかというところにフォーカスしました。きっと鈴木先生の言葉には皆さんの心を動かすものがあるはずです。お楽しみください!
カレッジエッセイとは
アメリカの大学の学部入学審査において多くの場合必要とされる作文(小論文)。自分について語らせたり、大学・学問分野への志望動機を書かせたりすることが一般的。 今回カレッジエッセイと呼んでいるのは主として自分について書くタイプの方です。
鈴木菜海子(Namiko Suzuki)
コロンビア大学出身。哲学・社会学を二重専攻し、優等で卒業。海外大学・大学院留学専門塾アゴスジャパンにて、TOEFL・IELTSのいずれにも対応できる総合英語および大学学部留学生へのエッセイ指導を担当。これまでアイビー・リーグをはじめ多数の米国のトップスクールに生徒を送り出す。
−本日はよろしくお願いいたします。本当にいいカレッジエッセイとはどのようなものだと思いますか?また、どのような人がそれを書くことができるのでしょうか?
入学審査で評価されるエッセイというのは国境を超えて、人間の普遍的な感性に訴えかけ、揺さぶることができるようなものだと思います。そういうのは苦労している人が書いてくることが多いですね。家族の問題、自分の病気や障害の問題、そういうネガティブなものが題材になると自覚しないとそういうエッセイは書けません。でも、そういうものを書くことができる人は提出が遅いことも一つの特徴なんですよね。自分が抱えているものを言語化するのに時間がかかるんだと思います。
−その言語化の壁はどう乗り越えていくものなのですか?
自分で乗り越えるのも必要なことですが、私から促す部分もあります。でも、あなたにはこんな問題がありますとは言いません。「こんなセオリーがあるんだけど 、どう思う?」というように問いかけるんです。自分をセオリーに当てはめて客観視できるように導くのが私の役目だと思っています。
−自分を客観視できるように導くスキルはどのように身についたのですか?
社会学と哲学の二重専攻によって身についた部分が大きいですね。私はそもそも社会学専攻のつもりで大学に入ったんです。 社会学というのは人間の言動を全て社会が与える作用との因果関係で説明する学問です。 でも、その社会が原因、個人の言動が結果という視点だけだと個人の自由意志などが考えられないと思いました。そこで哲学も学んで見た結果、個々と社会の間の相互作用を学ぶことができて、結果として自分と社会・周囲の間にもお互いにどう影響し合っているのかが見えてきたわけです。 そうすると自分の行動やその意味が客観的に見られるようになりました。そのプロセスを応用する形で現在生徒を指導しています。
−自分をセオリーに当てはめる形で分析するとのことのようですが、自己分析というと日本でも就職などでよく聞くワードです。カレッジエッセイで要求されるものと就活で行うものとは似ているのですか?
確かに自己分析という言葉はよく聞きますが、それが指しているのが本当の自己分析なのかというと、私には違って見えます。自分の強み・弱みは自己の人格の本当に表層的な部分で、それを他者が自分を見るときにどう見せるのか考えるのは「分析」ではなく「マーケティング」というべきだと思うんです。 人間は誰でも本当に邪悪な部分がある一方で、誰からも評価されない親切を働いたりもすると思います。そこで、自分の親切さをアピールするのではなく、「自分には親切な部分があるんだなあ」と事実として見る のが本当の自己分析だというのが私の考えです。
−アメリカの大学に出願しなくてもエッセイを書く人はいるのでしょうか?
エッセイとは言いませんが、日記やブログはエッセイにかなり似ているのではないでしょうか。もちろん多くの人に見られる可能性のもとで書くブログは異質な部分もありますけどね。
−そのような行動にはどのような意味があるのでしょうか?
何かを書くと自分を見つめ直すことができますよね。それに書いていくプロセスそれ自体が自己肯定感を育んでくれます。だから大切なのは誰からも評価されなくても自分が書きたいのかどうかなのだと思います。後になって、誰からも評価されなくても、自分の中でやって良かったと思えそうな人は自己分析をするべきでしょう。そうして自分に絶対的な価値を見出せるようになるのが理想だと思いませんか?そうすれば自分を無条件に、いい意味で愛せる人になるんじゃないでしょうか。だからこそ、機会があるならエッセイを自分の信念に基づいて書いてみるのはとてもいいことだと思います 。
−なるほど。自分を肯定するというのは本当に難しいことで、しかし、それをやるためには一度現在の自分をありのままに 見つめ直すことが必要なのだと分かりました。 本日は本当にありがとうございました。
まとめ
本当に自分を知るとはどういうことなのか。それらの定義は人によって違うでしょう。しかし、それらを問い、自らを見つめ直すことで自分の価値観を多少なりとも客観視できるようになり、本当の意味で自分を支えてくれるインテリジェンスが手に入るとしたら、自己分析・文章化 には極めて大きな価値があると言えるでしょう。ここまでお送りしてきた一連の対談で皆さんが何を考えましたか?それをまずは深く深く問うてみてください。
付録 衝撃的なエッセイのお題コレクション
いくつか衝撃的なカレッジエッセイのお題を紹介します。これは自己分析に役立ててほしいというよりは、考えさせられるなあと思いつつ味わってほしいものです。
2019年
イェール大学
What inspires you? (200 characters)
注意:200字のアルファベットです。200語ではありませんからね!
シカゴ大学
You’re on a voyage in the thirteenth century, sailing across the tempestuous seas. What if, suddenly, you fell off the edge of the Earth?
字数制限はなしです。なかなかぶっ飛んだ問題ですね笑
最後に…
僕が大好きな、自分の価値観を見直す時に勇気を与えてくれるフレーズでこの記事を終えたいと思います!
“You have learned something. That always feels at first as if you have lost something.”
訳:何かを学んだんだね。そうするといつも、最初は何かを失ったような気になるよね。
(ジョージ・バーナード・ショウ 英 劇作家・批評家・政治家)
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