「天空の城ラピュタ」「火垂るの墓」「もののけ姫」「時をかける少女」などのアニメーション映画で美術監督・背景画家を担当された、山本二三さん。私達は数々のアニメーションに親しんできました。しかし、それを創り上げるという仕事はどういったものなのでしょうか。ここでしか読めない特別インタビューです!
■山本二三(にぞう)プロフィール・1953年、長崎県の五島列島生まれる。高校で建築を学び、
目次
アニメーションの道を志した時期はいつ頃ですか?
もともとはカメラマンや絵描きに興味があったのですが、中学生の頃に高畑勲さんが演出補佐を務めた「わんぱく王子の大蛇退治」というアニメーションを見て、「絵でもこういう世界があるのか」と衝撃を受けました。高校は夜学の建築科で、昼間は働いていました。それからアニメーション全般を勉強してみようと思い、やはり働きながら夜間のアニメーション専門学校に入りました。
背景画はどのようにして作られるのですか?
アニメーション美術の制作手順は、いろんなやり方があります。例えば、美術監督が監督やプロデューサーから作品の世界観や作品のイメージを聞いて、細かな設定を相談しながら取材写真等を用いて、各シーンの基本となる設定画を描きます。それをもとに監督が*絵コンテを描き(先に絵コンテの場合もあり)、アニメーターがレイアウトを起こします。それから背景を担当する何人かが美術監督の指示のもと、**イメージボードや本番の背景画を描いていきます。そこにキャラクターやコンピューターグラフィックスを重ね、撮影・編集をすることでアニメーションができあがります。関係者で映像を確認するときには、身震いがするほど感動します。
*絵コンテ・・・イラストによるシナリオ。映像の設計図といえるもの。どのような物語か・どんなセリフがはいるのかということをスタッフで共有するためのもの。
**イメージボード・・・本番制作前、準備のために描く絵。各シーンの重要なショットを絵にして、舞台や色の方向性を監督と打ち合わせるためのもの。スタッフ間でイメージを共有するためにも重要な働きをする。
印象に残っている作品・場面を教えてください
「火垂るの墓」です。現在の神戸市立御影小学校の鉄棒のシーン(清太が節子に母の死を告げられず、校庭の鉄棒で大車輪をするシーン)の煙の量や空襲後の雰囲気が描けずに悩みました。そのとき、*高畑勲さんに「描けないときは詩を読め」と言われました。そのときに紹介されたのが黒田三郎さんの『小さなユリと』という作品でした。ぽかあんとした白昼夢のような詩で、イメージが「スッ」と入ってきたんです。空襲後の雰囲気を出すためにたくさん落ちていたであろう瓦礫などを描くことをやめて、鉄棒の周りを象徴的にするために校庭を白く光らせました。
水戸部:目に見えているものばかりを描こうとしてはだめなのですね。文学からインスピレーションを受けることもあるというのは驚きました。
火垂るの家 『火垂るの墓』(1988年)劇場(C)野坂昭如・新潮社
現実からはどのようにしてインスピレーションを受けるのでしょうか
作品が決まったら、シナリオに沿ってピクチャーハンティングに出かけることが多いです。現地に行って自分で写真を撮ってきます。
写真を見て描くためというより、現地で体感したものを自分自身に焼き付ける感覚で撮影しています。
シシ神の森 『もののけ姫』(1997年)劇場(C)1997二馬力・GND
荒廃したラピュタ 『天空の城ラピュタ』(1986年)劇場(C)1986二馬力・GND
山本さんの背景からは湿度や質感などが感じられますが、どのような工夫をされていますか
描くものにもよりますが、雲だったら少しグレーを足したりします。緑を描くときには対極の補色関係を生かすという技を使います。腐葉土の上にグリーンの草を描く、グリーンの上に太陽の光を入れて、光が当たっているところは青く、影はグリーンにする。苔の中にも茶色を入れたりして、絵が豊かになるようにしています。空気、水、雲など手に持てないものを描けるようになれば人も石も描けるようになります。 補色について、学生は単純に反対色では?と言いますが、補う色ですから印象派などの美術作品を勉強しなければいけないと思います。黒や白を使わずに、絵の具のどれとどれを使えばどんな光になるか。といったように色のイメージを沸かせます。独学で身につけてやるくらいの勢いがないといけないですね。しかし、意欲がある学生に対して『多くの技術を身につけてほしい』という想いから、テクニックを紹介した「風景を描く」という本を執筆しました。美術学校を卒業して即戦力になるためには学校以外での本人の努力も必要だと思います。
お休みの期間は何をされていますか?
やっぱり絵を書いています。でも風景画とかではなくて、抽象画が好きでよく描いています。 水戸部:お仕事の絵と日常的に描く絵は違うんですね。 描いている時に、オーラが出るというか、後光が差すというか、8割くらい描いた絵が一番凄いパワーを感じることがあります。でも、仕事の絵だと細部まで描きあげなければなりませんね。
学生に向けて一言、お願いします。
美術学校卒といって、すぐに仕事が回ってくるという職業ではありません。経済的にも肉体的にも厳しい業界です。ですからせっかくの才能が育たないということもざらにあります。しかし、自分で実力を伸ばすことはいくらでもできます。私もたくさん勉強してきました。 学校で教わらない技術を、実際の現場では当たり前に要求されます。それに対応していくには、やはり独学も必要だと思いますね。 その他にも子供たちへの絵画指導や展覧会(現在実施中!)など積極的に活動していらっしゃる山本さん。展覧会では絵を見て涙する方もいるとか! 私たちがアニメーションにすっと感情移入できるのは、このような努力が集約されているからなのですね。山本二三さん、絵映舎のみなさん、本当にありがとうございました!
【 information 】
○アニメーション映画 『希望の木』
○日本のアニメーション美術の創造者「山本二三展」 ~天空の城ラピュタ、火垂るの墓、時をかける少女~
○書籍 「山本二三 風景を描く」(美術出版社)
「山本二三 背景画集」(廣済堂出版) http://www.kosaido-pub.co.jp/
○iPhone、iPad用アプリ ・風景画鑑賞アプリ『菩提樹の春夏秋冬』
AppStore https://itunes.apple.com/jp/
・絵本アプリ 『歩き屋フリルとチョコレートきしだん』 公式サイト:http://www.cucuri.co.jp/
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