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テレビに冷めた視聴者の熱量を高める「演出」とは?/TBSテレビ 中島啓介さん

長きにわたりエンターテインメントの世界をリードしてきたテレビ。しかし、インターネットの登場によってエンターテインメントに対する視聴者のニーズが大きく変化しました。この「新たな時代」にテレビ業界の方は何を考え、どう働いているのでしょうか。TBSテレビ次世代ビジネス企画室プロデューサーの中島啓介さんにお話を伺いました。

 

―中島さんの部署「次世代ビジネス企画室」とは、具体的に何をする部署なのですか?

制作の部署は、「おもしろい番組を作ること」が中心の部署で、プロデューサー以外は予算に関してはほとんど考えません。対して、次世代ビジネス企画室は、番組を作りながら「今後テレビ業界が広告収入(テレビコマーシャル)以外でどう稼ぐのか」といったような新しい収益モデルを考えていく部署です。

テレビの演出家というのは、制作において俳優さんや芸人さんと同じような恐怖や不安を抱えながら仕事をしていると思います。ヒットし続ける番組を企画し続けることが難しい。ランニングの仕事をやっている方が精神的に安定すると思いますね。世の中に自分の名前で仕事が伝わっていくということはとても魅力的である一方で、「誰も自分の話を聞いてくれなくなったらどうしよう」という不安と戦い続けなければなりません。ここは「面白いものを作りたい」という心で仕事をする部分と、「スポンサーに対してどのような価値を提供し、稼ぐか」という頭を働かせる、2つのバランスを取らなければいけない部署だと思います。心だけでは制作費が稼げなくなるし、頭だけでは面白いものは作れない・そもそも企画を聞いてもらえないという状況に陥ります。

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―企画を聞いてもらえない、なんて状況もあるんですね

そこで生きてくるのが、『3年間の地獄のAD時代』です(笑)社内で一番過酷だと言われていた部署に3年間所属していたのですが、ありとあらゆる雑用をやりました。そのときに構築してきた信頼関係で仕事ができています。ただ、明日そっぽを向かれるかもしれないという不安との間を行ったり来たりしながら働いています。

 

―では中島さんが仕掛けてきた、リアルタイム視聴に引き込む取り組みには、具体的にどのような事例がありますか?

ネット上で見られる番組が増え、テレビコマーシャルがカットされたものを見る視聴者が増えたということはつまり、スポンサーが番組にお金を出す価値を感じなくなってきているということなんです。ビジネスにおいてそれは防がなければいけません。テレビの視聴率は人口の割合からいって高齢者が多く占めるわけですが、若者向けのプロダクトを提供している企業がスポンサーである場合、視聴率の高さは必ずしも有効な数字ではないんです。そうなるとスポンサー側の要望としては「視聴率が必ずしも高くなくていいから、若い世代が確実に視聴する番組を作って欲しい」となるわけです。

それを受けて、私たちが提供するものは「若い世代がどれだけ視聴しているか、確実に数字としてわかる番組」でなければならないと考えました。そのときに作られた番組が『リアル脱出ゲームTV』という番組です。

TBS

「リアル脱出ゲームTV」とは?

ドラマの中で出題される「謎」に対し、ドラマ内のヒントをもとに、主人公と同じタイミングで視聴者がインターネットの特設サイトで解答できる新感覚ドラマショー。(リアル脱出ゲームTV公式サイトより引用)

番組を放送しながら、Webで参加している人数を把握できる仕組みになっています。分布が10代~20代であるとわかると、確実にそこにメッセージが送れていることがわかります。その部分が結果としてスポンサーに提供できると、スポンサー側も見せかけの視聴率よりも価値を感じることになります。

その次に企画したものが『マッチング・ラブ』という視聴者参加型恋愛マッチング番組です。

TBS➁

番組中に流れる「恋愛ドラマ」を見ながら、スマホや PC から恋愛に関する簡単な質問に答えます。主人公がドラマ上で質問に答えるタイミングと同じタイミングで質問に答えていき、最後まで同じ答えを選び続けた異性がいたら、「恋愛価値観のピッタリ合う運命の人」として、めでたくマッチング成立。という仕組みになっています。

この際に企画のキモとなるのは、質問に答える際の個人登録情報です。普段もWebサービス等で個人登録をする機会があるとは思いますが、この「マッチング」というゲームにおいてはその面倒な「登録」というステップを演出として包括しているんです。途中でスポンサーの商品に付随した質問を盛り込んめば、何十万人の回答と顧客情報を得ることができます。この部分が価値となって、企業に提供できるようになります。

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―TV業界もマーケティングの手法をとるようになってきているんですね。

従来は、TVにCMを出したくても出せないくらいに価値がありました。しかし、今のテレビ業界は、企業のニーズに応えるサービスを提供しなければいけない。企業に対しての新しいおもてなしを考える番組や仕組みを企画していかなければならないんです。

 

―では「動画配信」はTV業界のビジネスに成りうるのでしょうか?

ネットで落ちている動画を完全に撲滅して、配信事業ができたら可能性はありますが、実際は難しいと思います。*ネットフリックスがTSUTAYA DISCASのような立ち位置でアメリカにおいて市場規模を広げています。地上波のテレビ番組よりもお金をかけて、そこでしか見られない豪華キャスティングを組み、面白い番組をつくりはじめました。日本ではネットでの動画配信事業の財政力がなく、コンテンツにキャスティング費がかけられないのでなかなかメジャーなものがつくりにくい構造になっています。この部分がアメリカのように変わってくると可能性はあるかもしれませんね。

*アメリカ合衆国のオンラインDVDレンタル及び映像ストリーミング配信事業会社。

―ネット配信事業がお金を持ちはじめて、付加価値がついて環境が変わり始めたら可能性がある、ということですね

そうですね。さらに言うとネットフリックスの会員数が増えると、その個人情報がマーケティングに活用できますよね。これを分析すると、住んでいる地域や世代、監督や作品の趣味嗜好がわかるわけです。それをもとにキャスティングやストーリーを企画するとヒットする、という仕組みができます。

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―なるほど・・・日本のTV業界の構造もどんどん形を変えていくことになるかもしれませんね。

 

 

―では中島さんの学生時代について教えてください!

なんとなく将来に対してモヤモヤしていて、「なにかしなくちゃ!」なんて思っていた僕は、親にお金を借りて「広告批評」の運営する「広告学校」なる専門学校に、大学と並行して通いました。当時、大学で勉強できることは限られていると思っていて、「何かを作り出したい」と考える自分にとっては、アイディアをアウトプットできる場を求めていたんです。

就活の際は、その経験もあったため代理店志望でいたのですが、選考には全て落ちてしまったんです。でも不思議なもので今は当時受けていた授業の講師の方や、専門学校時代の同期と仕事をしていたりしますね。もちろん当時勉強していた広告の知識や考え方が仕事に生きています。

 

―そのまま代理店に入っていたら、どうなっていたんでしょうかね・・・(笑)

たぶん営業として働いていると思いますけど・・・コピーライターのような言葉のセンスは自分にはないと思っています。テレビコマーシャルも30秒の中に企業の意向を押し込まなければいけないので、実はエンタテイメント性に富んだものを作れなかったりします。中にはエンタテイメント性に富んだものもありますが限られたもので、そういうものがすべてとは言えないと思います。カンヌ等のコンペティションも、クライアントの器量が大きく、自由度の高い要求であるためにエンタテイメント性の高いものを作り出せるんですよね。実はそういうクライアントってそう多くはない、珍しい案件なんですね。「人を泣かせたい、笑わせたい」と本気で思う人は、合わない側面もあるかもしれないですね。

 

―中島さん自身、この先どのような存在になっていきたいですか?

制作の枠やビジネスの枠ににとらわれないように仕事をしたいです。例えばWeb制作の人に企画説明をする時にプログラミングの知識があれば、企画が伝わりやすかったりすることがあります。また、ぱっと思いついた企画を自分でデモをつくって説明できるようになることもあります。制作だから、経営だからといって決まった仕事だけをするということは、可能性を潰しているのかもしれませんね。地上波で番組を作りたくても作れないという人が多くいる中で、番組の中に自分の演出を組み込み、人に対して「どうですか?」と提案できるこの仕事は、やはり楽しいです。

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―エンタテインメント業界に興味がある学生に一言、お願いします!

とにかく好きな人にはシャワーを浴びる時間が惜しいくらいに楽しくて仕方がない仕事だと思います。好きなことをやっている間はどんな困難も耐えられますよね。困難よりも、ものを世に出した時の嬉しさと興奮がそのつらさに勝るんです。ただ中途半端に好きな人にとっては仕事の大半が辛いと思います。いくら優秀な学生でも僕のAD時代のような辛い時期が絶対にありますから。

―その辛い時期から早く抜け出すために、なにかしていましたか?

何か聞かれた時や、何かするときには想像以上のクオリティで返すことは意識していました。言われたことだけをする人はランニングディレクターになればいいと思います。世の中に何か仕掛けたいという前のめりな姿勢があるのであれば、厳しい環境に自ら身を置きに行くべきですね。

ありがとうございました!

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