皆さんこんにちは!ガクセイ基地のりこです。
突然ですが皆さん、Chat-GPTは普段から使いますか?
大学の授業で分からないところを聞いたり、日常のふとした疑問を聞いてみたり、時には話し相手になってもらったり…。何かと便利なAIですよね。
現在世界中で大注目されているAIですが、日本でも今、AI研究がどんどん進化しているんです。ということは今後の大学生活や就職活動において、AIについてどれだけ多角的な視点を持っているかは必ず武器になってくるはず。
今回はAI研究をしながら、学生や企業など社会を巻き込んで発展をされている、東京大学 松尾・岩澤研究室(略称:松尾研)を取材してきました!
松尾・岩澤研究室とは
東京大学の工学系研究科 松尾・岩澤研究室の研究成果を社会に循環させることを目的に設立された研究室。大学で研究された最新の技術を大学内で終わらせるのではなく、学生、企業へと循環させる仕組みを作っている。具体的には、全国の学生に向けたAIに関する無料オンライン講座や、スタートアップ企業を中心に積極的に支援する取り組みをしている。
今回インタビューにお答えいただくのは、松尾研の職員・佐藤祥さんです。佐藤さんは教育プラットフォームチームで、基礎研究から生まれた最先端の知見をもとに作られた「AI講座」を全国の学生に届ける仕組みづくりを担当されています。
AIについて研究している東大の研究室って!?まずは松尾研が何をしているのか分かりやすく説明してもらいましょう!
まず、松尾・岩澤研究室ってどんな研究室なんでしょうか?
松尾・岩澤研究室は、「知能を創る」ことをビジョンに掲げてAIの研究を推進しています。具体的には、大規模言語モデル(LLM)や脳×AI、AI×ロボットなどに関する研究を進めています。さらに、基礎研究の成果を社会に実装したり、講義、企業との共同研究、学生起業家の育成支援なども行っており、研究の知見を学生や企業に還元していくエコシステムを持っています。組織としては大きく4つのチームに分かれていて、基礎研究を担うチームを軸に、講義、共同研究、起業家支援といった形で社会に広げているんです。
なるほど!研究だけではなく、学生や企業にまでつなげていくんですね。4つのチームというのは具体的にどんな役割なんですか?
まず一つ目が「基礎研究」。AIの最先端研究を進めています。二つ目が「講義」で、全国の学生に向けて無料かつオンラインでAI講座を提供しており、累計のべ受講者数は7.5万人以上と多くの方々に受講いただいております(2025/6時点)。三つ目は「共同研究」で、様々な企業と一緒に研究や開発を進めています。そして最後が「起業家支援」。講義や共同研究チームでの経験を元に起業したい学生をサポートしています。
めちゃくちゃ幅広いですね!“研究を土台に教育・産業・起業へと展開している”っていう流れがイメージできました。でも肝心の「基礎研究」って、具体的にはどんなことをしているんですか?
「知能を創る」というミッションのもと、大きく6つの分野があります。1つ目はChat-GPTやGeminiなどの生成AIの基盤となっている「大規模言語モデル(LLM)」。2つ目は人間の脳と同じような構造を人工的に再現しようとする「次世代型のニューラルネットワーク(学習アルゴリズム)」。そして、人間が頭の中に持っている、現実世界の構造などをシミュレーションしたり予測する方法を探る「世界モデル」、AIの技術をロボットと融合させる「ロボティクス」、「脳×AI」の研究、さらに実社会へ基礎技術を適用し、基礎研究に還元する「社会実証」です。
普段、触れることがない言葉たちですよね(笑)。どの研究分野も「知能を創る」というミッションに対してはとても重要なテーマになっています。そして、この6つの基礎研究テーマで得られた最先端の知見をもとに、わかりやすい形で講義にしたものが先ほどご説明したAI講座になります。学生の皆さんには無料かつオンラインで届けることで、誰でも望めばチャレンジできる環境を作っていますので、ぜひ受講いただければと思っています。
取材メモ
・松尾研はただのAIの研究室ではなく、成果を社会に還元する仕組みを持っている
・6つのAI関連の研究分野を取り扱っており、最先端の研究をしている
・AI研究の内容をわかりやすい形にしたものがAI講義で学生は誰でも無料で受けられる
松尾研が研究成果を社会に還元する理由
なぜ研究室なのに「社会への実装」までをそこまで重要視するんでしょう?松尾研の方たちの思いを知るためにさらに深掘りしていきます!
そもそも、大学での研究成果を“社会に循環させる仕組み”をつくっているのはなぜなのでしょうか?
松尾教授がスタンフォード大学に留学した際に、シリコンバレーのエコシステムに衝撃を受け、このままでは日本は勝てない、と強く感じたことが原点です。アカデミアの研究内容が、研究それ自体に閉じることなく、スタートアップやサービスという形で世の中に広がり、その経済活動の中で成長した人材や得られた知見や課題、そして未来のための資金が大学に還流され一層研究が進んでいく。
このようなエコシステムを東大・本郷で実現したいと考えて、日々活動しています。
例えば、私が関わっている講義ですと、先程も少し触れましたが全国の学生に向けた完全無料&オンラインのAI講座があります。理系も文系も問わず、中高生を含むすべての学生が受講することができ、場所や経済事情などの制約を受けることなく学びの機会を得ることができます。また、企業との共同研究や関連するスタートアップでのインターンシップ機会を提供し、学んだ知識を机上の空論で終わらせず、社会に活かす実践の機会を提供しています。AI講座で体系的な知識を学んだ後、実際のビジネスの現場でトライ&エラーを繰り返すことで、即戦力となるデジタル人材の育成を目指しています。その他にも、起業を目指す学生を支援するプログラムも行なっており、基礎研究を“種”にして、教育・産業・起業へと循環させることで、新しい挑戦や価値を社会に広げていこうとしているんです。
研究で終わらせず、未来につなげるための循環なんですね。
取材メモ
・松尾豊教授のシリコンバレーでの体験を通じ、日本にも研究・教育・起業・産業が循環するエコシステムを本郷で実現したいと考え、日々活動している
・全国の学生に向けた無料オンラインAI講座や共同研究・起業支援を通じて、学び、実践するための機会を提供している
佐藤さんについて
松尾研がどんなところなのかわかったところで、次はどんな人が松尾研にいるのか気になってきた質問者。今回インタビューに答えてくださっている佐藤さんのこれまでについても聞いてみました!
せっかく佐藤さんにインタビューさせていただいているので、佐藤さんご自身のことも伺いたいのですが、松尾研に入られる前はどんなお仕事をされていたんですか?
新卒でキャノンに入り、営業をしていました。その後ソフトバンクに転職し、マーケティングやPRの仕事に携わっていました。ですが、データやファクトを中心とした左脳的な仕事だけでは物足りなくなって、「せっかく人間に生まれてきたんだし、もっとクリエイティブなこともしたい」と思ったんです。そこで関わったのが妖怪ウォッチの立ち上げでした。感覚や直感も大事にしながら右脳と左脳をフルに使う仕事で、とても刺激的でしたね。
ええっ、妖怪ウォッチの立ち上げに!?私も小さい頃にめちゃくちゃ観てました。まさか今日そんなお話が聞けるとは…!
ありがとうございます(笑)。その後は起業して会社を立ち上げたり、中高生・大学生・社会人向けにデジタル教育を広める「Life is Tech!」という会社にいたりしました。Life is Tech!ではプログラミング未経験者に対して、自分が創りたいアプリやゲーム、映像、デジタル音楽など様々なジャンルで「デジタルものづくり」ができる機会と環境を提供していたのですが、「楽しくて夢中になり、気づいたらいつの間にかプログラミングができるようになっていた」という体験を届けることを大切にしていました。
そうですね。今につながる原体験でもあります。「どうすれば学生が“楽しく学びながら創造できる環境”を作れるか」という問いは、ずっと自分の中にあるテーマなんです。
AIの可能性とこれからの社会
AIの未来をどのように考えているんでしょうか?佐藤さんご自身の意見を聞いてきました!
ここまでのお話で、松尾研が教育や研究を通じてAIを社会に循環させていることがよくわかりました。佐藤さんご自身は、AIの未来についてどのように考えていらっしゃいますか?
僕はAIを「人間の創造性や能力を拡張する存在」だと思っています。例えば音楽は大好きだけどピアノは弾けない、という人でも、AIを使えば自分の頭の中のメロディを作品にできる日が来るかもしれない。映画やデザインもそうです。これまで一握りの才能ある人しか挑戦できなかった領域に、誰でも参加できる未来をAIは切り開いてくれると考えています。
はい。同時に、AI人材の不足は大きな課題です。今のままだと2040年には約326万人のデジタル人材が不足すると言われています。現状、情報工学を専門に学んでいる大学生は全国で12万人ほど。圧倒的に足りていないんです。
ええ。松尾研ではその大きな課題を解決するためにも、誰でも受講できる完全無料・完全オンラインのAI講座を全国の学生に提供しているということなんです。2025年6月時点の累計受講者数では、すでに約7万5千人(のべ)となっており、全国の大学からたくさんの方々に受講いただいております。多くの文系学生にも受講いただいており、起業や就活にも役立つスキルを習得することができます。AIを学ぶハードルを下げることで、未来の人材不足を少しでも解消したいと考えています。
AIを「特別な才能を持った人のもの」ではなく「誰でも使える道具」にしていくことが大事なんですね。
まさにそうです。海外ではAIを使って次々とスタートアップが生まれていますが、日本ではまだまだ動きが鈍く、大企業におけるAIの活用率も他国に比べるとまだまだ低い状況です。せっかくAIという道具があっても使わないのはもったいない。AIを使えば、もしかすると同じ仕事を少ない人数でこなせるようになり、余った時間で新しい挑戦もできるかもしれません。そんな好循環を日本でも広げていきたいと思っています。
最後に
ここまでありがとうございました!松尾研がそもそも何をしているところなのか、また実際に佐藤さんの持つAIへの考え方を聞くことができて、とても理解が深まりました。最初はAIって遠くて難しいものだと思っていたけれど、こうして研究と教育、社会実装がつながっていることを知ると、ぐっと身近に感じられました。
インタビュー後半戦では、松尾研が行う学生向けのAI教育について更に掘り下げてお話をお聞きしたいと思います!